I HATE BAMBI (that's why I'm sitting here and eating this juicy chocolate.)

電話が暴れていると聞いたのは、晴れた水曜日の午後のことだ。それは彼の乾いた胸ポケットのなかから聞こえていた。手のひらに乗るくらいのミニチュアで完璧なドラムセットがあるとしたら、こんな音を出すだろうというような音。なんていったらいいんだろう?とてもちいさな癇癪玉がいっぺんに爆発しているような。沢山だし、癇癪玉なんだけどちいさいからなんだかかわいらしいような。そんな音の炸裂を想像してほしい。暴れている電話って意外にかわいいもんだ、とその時はおもった。

「水を一杯くれない?」わたしは彼に聞いた。外はものすごい暑さで、もうもうとしていた。この砂漠のなかで、彼はわたしの唯一の話し相手だった。だからわたしは彼のことがすきだった。ダカラ。炎天下の日射しは容赦なくすべてをはだかにする。暗い部屋から見える白昼夢みたいな砂埃。乾いた空のしたにカットグラスがぽつんとあって、その中にはちいさなサボテンが入っていた。どうやら自分から入っていったらしい、と彼がいうのだがそんなことあるはずがない。わたしはサボテンを見つめた。根っこのないサボテンは、けれど干涸びてはいなかった。青々として汁気たっぷり、まるでアメリカ映画でみたペニス型のおもちゃを緑色に塗ってトゲトゲを植え付けたみたいに見えた。いや、つまり全然エロじゃないってとこで。

わかる?彼のサイケデリックな脳みそ、その極彩色のニューロンたちがホックを留めるようにぴっちりと次々に結ばれて、うつくしい形に収縮していく。左右対称。わたしたちは半分ずつ。おかしいほど半分ずつ。口の中にぬるいコークを溜めてすこしずつ味わった。そのコークでガラガラうがいをすると虫歯が疼く。腐りかけたやわらかな骨の合間には最悪の妄想が巣食っている。

憎んでいるってことは、つまりはその、なんだろう?

ああ、いいや。もう来なくても。あなたが来なくても。夕方の絶望にやるせない願いを垂れ流しながら、それでもわたしはなにかを待っている。すみれ色の空。星がすべての熱気を奪うころ、わたしは初めて涙を流した。あなたが青空の犯した領域からはみだすようにひろい、ひろい道を空気を裂いてやってくる。そうだよ。西部劇のガンマンみたいに、顔が翳って表情はわからないんだけどもさ。肘をついて、そんな想像をしてみる。

雨の朝を歩きながら、傘をなくしてしまったことにようやく気がついた。蛍光灯のしたがわたしたちのステージで、あなたの濡れた額にはうす緑の羽虫がぺっとりと貼付いていた。「たぶん、それ死んでるよ」わたしがいうと、あなたはおもむろに頷いてその長い指でそいつをつまむとまるめた。ゴミほどにも満たない、そんな容量の死体。そんな価値の死体。死んだカラダ。死んでしまったカラダ。悪い予感というのはそういうことの連続すら怖くなくなってゆくことから始まる。悪寒。布団のあいだにすべりこんでくるどうしようもない脱落感。眠る時ベッドの柵につかまっているのは、垂直なベッドにしか眠ったことがないからだ。「イエスといってよ」イエスイエスイエスイエス?神さまはここには来ないだろう。あたしの神さまは。
 

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