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富士高物理部天文班冊子1998年
第14回山崎賞受賞論文:
研究者:
望月誠子・加藤智美・畔柳友美子・三宅涼子・渡辺理沙
顧問:
峰村学先生・飯島芳夫先生
これから述べるのは、第14回山崎賞に応募し、受賞した論文の要約です。
リスン法と眼視観測の関係
流星観測というと眼視観測が一般的だが、これは晴れている夜にしかできないという欠点がある。私達は文献を読んでいたところ、眼視観測の欠点を埋めることのできる流星観測方法があることを知った。それが「リスン法」である。
リスン法ではFM電波を利用するため、流星を直接見なくても観測ができる。つまり、天候などに影響されない。しかし、実際に目で見ているわけではないので、眼視観測とどのように一致するのかはわからない。私達はリスン法に非常に興味を持ち、リスン法と眼視観測の関係について研究を始めた。
地球をとりまく大気の中にはイオンが密集している「電離層」がある。電離層はD・E・F1・F2層がある。リスン法では、高度100〜130KmのE層を利用する。
E層に流星が入ってくると、その流れた軌跡は円柱状に電離し、電子の密度の高い部分ができる。これを「電離柱」という。
FM電波は超短波(30〜300MHz)に分類され、通常はE層を通り抜ける。しかし、電離柱がある場合、電子密度が高いためにFM電波は電離柱の中まで入れず、反射する。この現象を利用し、普段は聞こえないはずの遠くの放送局(200〜2000Km)を聞き続け、突然入ってくる音楽や声を記録して観測を行うのがリスン法である。
1)観測方法
私達が観測に使用した機材は、次の物である。
チューナー、アンプ、スピーカー(もしくはヘッドホン)、
アンテナ、同軸ケーブル。
これらは、普段ラジオを聞く時に使うものと同じである。
観測に使用した電波はFM京都(89.4MHz)である。これは、放送局が受信地(学校)から200〜2000Kmの範囲内にあり、送信局と受信地との間に、同じ周波数の局がなく、24時間放送しているためである。
記録方法:ラジオをFM京都に合わせて雑音を聞き、音楽・声が入る、音が大きくなるなどの変化があったときに、その時の時刻・音の様子・音の大きさなどを詳しく記録する。
2)年周変化
流星の一年を通じての変化を年周変化という。年周変化を調べると、流麗群の到来や季節ごとの流星数の変化を見ることができる。私達は年周変化を調べ、流星数の変化の様子をつかもうと試みた。
観測期間:1996年10月1日〜1997年7月31日
午後4時から5時までの1時間
観測場所:八木アンテナを本校(4階建て)屋上に設置し、2階物理室で観測する。
このような観測の結果、私たちの聞き取ったエコー数には増減の変化がみられることがわかった。そこで、それが確かなものであるか調べるため、文献1に掲載されていた年周変化のグラフを用いて比較した。理想値は文献1、実測値は私達の観測データを示している。
縦軸は、右が理想値、左が実測値である。この年周変化のグラフを見ても特徴はわかりにくいので、月ごとに理想値と実測値を比較した。すると、エコー数の違いはあるが、どの月も二つのグラフの増減の傾向はほぼ一致した。次のグラフは、その中でも特に形が似ているものである。
このように私達の観測は、流星数の増減の傾向をつかんでいるといえる。
3)日周変化
流星は明け方が多いと言われているように、一日の中でも時刻によって流星数は変化する。このような一日の流星数の変化を日周変化という。
2)の日周変化によって、私達の観測が妥当であったことはほぼ確かめられた。そこで今度は、日周変化も調べることにした。
観測日時:1997年5月23日午後4時
〜5月24日午後4時
観測場所:年周変化の時と同じ
観測方法:24時間継続してリスン法を行う。
今回も年周変化と同じく、文献1の日周変化のグラフと比較してみる。縦軸は右が理想値、左が実測値である。次のグラフを見ると、数には大きな差があるが、全体の増減の傾向がほぼ一致したことがわかる。
17時〜20時は理想値とは一致していないが、この時間は交通量が多いため、車によるノイズが影響しているのではないかと考えられる。(調査中)。
また、明け方に流星が多くなるということが、リスン法でも確かめられた。
4)エコーの違い
リスン法で利用するのは、普段なら聞こえないはずの遠くのFM電波である。つまり、ほとんど雑音を聞いているようなものである。雑音の中で話声が聞こえたり、音が大きくなったりするのをエコーとして記録しているのだが、観測を続けるうちに、私達は様々なエコーがあることに気がついた。そこで、エコーを4種類に分類した。
そして、これまでの記録をこの分類法によって分類し、それぞれのエコーの割合と、一ヶ月ごとに一時間の平均エコー数をもとめた。
このように、1の占める割合は高く、残りの3つはかなり少ない。私たちは2・3・4のエコーに注目した。
2・3・4のエコー数を詳しく見てみると、1時間にほぼ5〜6個となった。
一般に、流星群が来ていないときの流星数は、目で見た場合、一晩で10個程度である。それを考えると、2・3・4のエコーは流星が流れたときのエコー、すなわち「流星エコー」である確率が高い。そこで私達は2・3・4のエコーを「特徴のあるエコー」としてまとめ、次のような仮説をたてた。
私達はこの仮説を確かめるため、眼視・リスン法同時観測を行った。
5)同時観測
眼視・リスン法同時観測は96年8月にも行っている。しかし、この時はFM放送局の選び方が不適当なのに加えて、それぞれの観測で用いる時計の時刻がまちまちだったことから、満足な結果は得られなかった。その反省から、放送局選びと時計には特に注意した。
今回の同時観測では、1時間あたりの流星数が多く、流星群の期間が夏休みにあたるペルセウス座流星群を利用することにした。
観測日時:1997年8月11日午後11時〜12日午前4時
観測場所:富士山麓山の村(富士山一合目)
<結果>
仮説が正しかったかどうかを調べるために、次のような作業を行った。
次の表は、その結果である。
ここでいう時間差とは、リスン法でエコーが入った時刻と、眼視観測で流星を発見した時刻との差(絶対値)である。このように出てきた時間差は何を表しているのだろうか。そこで、時間差について調べることにする。
6)時間差
時間差について調べるためには、
<流星が光る場所>
流星は実際に星が流れるのではなく、宇宙にある塵が地球に向かって落ちて来るときに、大気との摩擦によって発光する、ということはよく知られている。しかし、大気のどの層で光るのかは見落としがちである。
文献1によると、流星が大気の摩擦によって最初に光るのは、高度130Km地点(電離層E層)である。なお、高度80Km地点に到達するまでにほとんどの流星が燃え尽きてしまうことがわかっている。(燃え尽きないものが隕石である)
<電波>
私達が利用している周波数は89.4MHzのFM京都であり、観測場所から京都までは直線距離で264Kmである。また、電離柱はE層にできる。E層は高度100〜130Kmのところである。
これらを図示すると図1のようになる。
図1のようにA・B・C・Dをおくと、流星の最初の光がこちらに届くまでの距離は線分AD,電波が電離柱に反射してこちらに届くまでの距離は線分BDでもとめることができ、計算すると、
AD=2.1×105(m)、 BD=2.4×105(m) である。
また、光速=電波の速さ=秒速 3.0×108(m)であるから、流星の光と電波が地上に届くのにかかるそれぞれの時間は次のようになる。
光……… 2.1×105 ÷ 3.0×108 = 7.0×10-4(秒)
電波…… 2.4×105 ÷ 3.0×108 = 8.0×10-4(秒)
時間差… 8.0×10-4 − 7.0×10-4 = 1.0×10-4(秒)
以上により、流星を発見した時刻とエコーの入る時刻との時間差は、1.0×10-4(秒)となり、ほとんど無視できる。ここでは一つの例しか確かめていないが、光速・電波の速さは非常に速いため、電離柱の角度等で多少距離が変わっても時間差はほとんど無いと考えられる。したがって、
「流星を発見した時刻=エコーの入る時刻」
ということができる。
しかし、特徴のあるものどうしを対応させたところ、ほとんどのところで時間差が大きくなっていた。私達の仮説は間違っていたのだろうか。
FM電波は電離柱にあたると、あたった場所で鏡面反射する。このときの角度は、流星によってつくられた電離柱の角度とも関係している。そこで、電離柱の角度について考えてみた。
3. 6)の図1のように、電離柱が比較的横である場合は、FM電波が電離柱で鏡面反射してもエコーをとらえることができる。
次に、別の例を考えてみる。
図2のように電離柱が地面に対して垂直になってくると、電離柱で鏡面反射したFM電波は、図の矢印のように飛んでいくため、エコーをとらえることはできない。
私達は、明るい流星のときには強い電離柱ができるため、エコーをより明瞭にとらえることができると考えていた。しかし、強い電離柱ができたとしても、その角度によってエコーをとらえられない、つまり、眼視観測では記録されるがリスン法観測では記録されない流星があることがわかった。
したがって、今回の観測だけでは仮説が成り立つと言えるとは限らない。しかし、「エコーをとらえた」ということはFM電波が電離柱に反射したわけだから、エコーに対応する流星があるはずである。また、「流星を発見した時刻=エコーの入る時刻」であるから、エコーをとらえたときには流星を発見しているはずである。
そこで記録を調べ、眼視観測とリスン法観測の記録で時刻が一致したところを探し、両方の観測で時刻が一致したところのエコーを流星エコーとした。ただし、観測上の誤差として時間差10秒まで「時刻が一致」とみなす。そして、それらの同定率をだすことにした。
「この流星のエコーはこのエコーである」と決定することを「同定」という。4.での考えにしたがって記録を調べたところ、今回の同時観測では、同定された流星エコーは全体で15個だった。眼視観測とリスン法観測で記録がどれくらい一致したのかを示すものに、同定率がある。同定率は、次の式でもとめられる。
同定された流星数
同定率 = ━━━━━━━━━━ × 100 (%)
総眼視流星数
文献によると、同定率は通常10〜30%である。この数字は少なくみえる。しかし、4.でも述べたように、流星エコーをとらえられるかどうかは電離柱の角度に影響されるため、このような数字になると考えられる。
今回の観測では、次の表のような結果になった。尚、「時刻」の最初が0:17になっているのは、天候が悪くて開始時刻を遅らせたためである。
今回の観測の同定率は、平均で7.5%になった。これは文献の数値よりも低い。この理由として、
<富士山>
電波には、水に吸収されるという性質がある。観測場所の近くには木が多く、また、途中まで雨が降っていたので、木々に蓄えられた水によってとらえられるエコーの数が減少した可能性がある。
<輻射点の高度>
流星群の時、流星はある一点から四方八方へと飛んでいく。この中心となる点が輻射点である。
図3のように輻射点の高度が低いときは、電離柱で鏡面反射した電波をエコーとしてとらえることができる。しかし、図4のように高度が上がりすぎると、エコーをとらえることはできない。つまり、リスン法でとらえられるエコーの数は減少する。
しかし、眼視流星数は、輻射点の高度があがるにつれて増加する。同定率を出すとき、眼視流星数は分母に、(同定された)エコー数は分子になる。つまり、輻射点の高度が高いときは、大きな分母と小さな分子が組み合わされることになる。その結果、同定率は低くなる。
ゆえに、輻射点の高度があがり過ぎると同定率は低くなる。
特に輻射点については、2:00頃は45°、3:30頃は60°にもなっており、前頁の表を見ても、2:00〜3:30の同定率は特に低くなっているため、かなり影響を与えていると考えれれる。
ただし、3:30〜4:00では同定率18.9%と、今回最高の数値を出している。まだ詳しくは調査していないが、散在流星は明け方に増えるので、ペルセウス座流星群の輻射点とは無関係の散在流星がつくった電離柱に電波が反射したとかんがえられる。
私達は1年間観測を続けてくるなかで、流星エコー決定の重要さを知り、流星エコー決定を目指して研究を続けてきた。今回、特徴のあるエコーを流星エコーと仮定して同時観測を行ったが、今回の観測だけでは仮説の検証をすることはできなかった。しかし、流星エコーの決定は非常に重要なことである。今回の反省点をふまえた同時観測を重ね、流星エコーを決定していきたい。
今回の研究では、リスン法の基本「自分たちの耳で聞く」という方法で観測を続けてきた。これは少数での観測が望ましいため、観測者1人1人にかかる負担は大きくなる。ペンレコーダーの利用をすれば個人の負担は少なく、精度も高くなるが、非常に高価で入手困難なため、何か方法の改善ができないか考えている。
ここには載せきれなかったが、追観測の結果、エコー3の「長く続く音」は電車が通るときに多いことがわかった。また、トラックが通るときや電気のスイッチをいれるときにも、エコー1の音が入ることがわかった。他にも色々なものを試してみて、「流星エコーではないもの」を削っていくつもりである。
八ヶ岳南麓天文台のFM電波を利用した地震予知(KT法)等、リスン法は多くの可能性をもっている。今後は様々な角度から、リスン法の観測をしていきたい。