大手冷凍機メーカー、前川製作所の主力拠点守谷工場には、六十歳以上の技術者を集めた開発チームがある。新商品の試作やプラント設計などを担当、三十 ー 四十歳代が中心の部隊と、そん色のない成果をあげている。
同社は一九九一年、再雇用のための財団法人を設立、定年を超えた技術者を約百人採用する。加茂田信則常務理事は「長年働き続けた技術者の経験と勘は、新しい事業や製品開発に十分生かせる」と断言する。
前川製作所の試みを裏付ける研究や調査結果が、最近続々と出てきた。
新しい商品の開発に必要なひらめきは、七十歳を超えても二十歳代と変わらないーー。文京女子大学の下仲教授は四月、ある会議でこんな調査結果を発表した。脳研究の第一人者、伊藤正男東京大学名誉教授も「老化で神経細胞が減るのと、知能の関係を問い直す面白い成果」と関心を寄せる。
下仲教授らは、東京都三鷹市などに住む二十五 ー 八十四歳の四百十三人を対象に、あるテストを実施した。「新聞紙の用途を列挙しなさい」「理想のテレビはどんな機能をもつのか」などの問いに、思いつく限りの答えを列記してもらう。「新しい用途を考え出す」「既存のものを改良して使い勝手をよくする」という能力を測定すると、七十歳くらいまで保たれることが分かった。
新しい環境にすばやく適応する能力などは年齢とともに落ちたが、経験した中から新しい発想を生み出す能力は違った。下仲教授は「高齢者も二十歳代の人たちと同様に、いろんなアイデアを生み出せる」と強調する。
米心理学者のR・キャッテル博士は八十年代、積み重ねた経験や思索が生む知力を「結晶性知能」、無から何かを想像するような能力を「流動性知能」と名づけた。結晶性知能は三十歳くらいからゆっくりと培われ、流動性知能は四十歳くらいから落ち始めると提唱。
米アーカンソー大学のグループは五月、高度な判断や連想をつかさどる前頭葉や側頭葉という部分が、五十歳近くまで発達するとの結果を発表した。磁気共鳴画像装置(MRI)を使い、十九から七十六歳の七十人の脳を五年がかりで調べた結果、二十歳から五十歳までの間に、この部分の体積は平均して二十%増えていたという。
二十歳を過ぎると神経細胞は減り、脳の衰えが始まるというのが定説なだけに、意外な結果だ。
東大の久恒辰博助教授も、サルの脳を使った実験から、大人の大脳皮質で神経細胞が再生している可能性があるという成果を出している。年を重ねるとともに脳の機能も衰えるという単純な見方はもう成立しないようだ。
もっとも、脳には常に刺激を与えることが必要。継続して学習しないと、知能は衰える。新しい知識や技能を吸収し続ける努力が欠かせない。ただこれは、高齢者に限ったことではないかもしれない。
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