はやし浩司
幼児教育家 はやし浩司(ひろし) ●日ごろの、子どもの何でもないような行為の中に、 Q項目を読んで、続いて本文を読む前に、少し頭のなかで、「私はどうかな?」「うちの子 はどうかな?」と、自問してみてください。そしてある程度、答が出たら、本文を読んでみ てください。 もの横にいるか、子どものうしろにいて、子どもの背中を見ながら歩いていれば、それでよし。 もしあなたが子どもの手を引きながら、子どもの前を歩いているようなら、要注意。あなたは子 どものリズムで子育てをしていないことになります。このリズムの乱れは、今は小さなものです が、一事が万事。あらゆる面で、あなたの子育てに影響してきます。へたをすれば、やがて、 親子の間に亀裂……そして断絶ということにもなりかねません。子育てじょうずなママは、子ど もの心をつかむのがじょうず。子どものリズムで歩くことができるママをいいます。 Q 園や学校から、明るい表情で帰ってきますか? 不登校ばかりが問題になりますが、同じように深刻なのが、帰宅拒否。ある男の子(年長児) は、帰りの時刻になるたびに、どこかへ隠れてしまいます。そこで先生たちがさがすのですが、 おかげでいつもバスの発車時刻が遅れてしまいます。「どうしてでしょう」とお母さんから相談が ありましたが、様子から私は「帰宅拒否」と判断しました。「家へ帰りたくない」という思いが、回 りまわって、子どもにそういう行動をさせるのですね。もしあなたのお子さんが、「いつも寄り道 をする」「帰りの時刻が遅い」ということであれば、この帰宅拒否を疑ってみてください。 Q おうちの方のいる前で、体や心を休めますか? あなたのお子さんが、園や学校から帰ってきたとき、どこで体や心を休めるか、観察してみて ください。あなたのいる前で、休めるようであればよし。しかし好んであなたのいないところや、 あるいはあなたの姿が見えると、逃げていくようであれば、要注意。あなたとお子さんの間に は、すでに小さな亀裂ができ始めているとみます。やがてそれが大きくなり、「断絶!」というこ とにもなりかねません。そうならないためにも、子育ての仕方そのものを反省してください。子ど もにとっては、家庭はやすらぎの場所。あれこれとこまかいことを言えば、あなたがいるところ では休めなくなりますね。 Q いやなことがあると、どこへ逃げて行きますか? どんな動物にも最後の逃げ場というものがあります。その逃げ場は、神聖な場所と心得て、 子どもがその逃げ場に入ったら、そこを踏み荒らすようなことはしてはいけません。子どもはそ の逃げ場で、反省したり、心を調整したりします。子どもがそこから出てくるまで、静かに待ちま す。ふつう子どもの逃げ場は、自分の部屋などですが、そこを荒らすと、別の場所に逃げ場を 求めるようになります。トイレの中や、押し入れの中など。近所の公園の電話ボックスの中に逃 げた子ども(小二男児)や、犬小屋に逃げた子ども(小四女児)もいました。 Q おうちの方の絵を、楽しんで描きますか? 紙と鉛筆(クーピーなど)を用意して、「皆で、食事をしているところを描いてね」と指示してみ てください。そのとき子どもが、楽しそうな表情で絵を書き始めれば、それでよし。もしそのとた ん、暗い表情になったり、拒否するようであれば、家庭のあり方をかなり反省しなければなりま せん。外からはわからなくても、お子さんの心の中に、大きなわだかまりができつつあるとみま す。園児の場合、お父さんとお母さんの顔を描かせると、ふつうお母さんを先に、しかも大きく 描く傾向があります。それだけお母さんのほうの印象が強いからです。 Q ハングリーな状態になっていますか? 同じように、こんな指示をして絵を描かせてみてください。「不思議な木があります。あなたの ほしいものが何でもできる不思議な木です。木を描いて、あなたのほしいものをいっぱい描い てね」と。そのとき次々といろいろなものを描ければよし。そうでなくて、「何もいらない」「ほしい ものがない」というのであれば、かなりの飽食を疑ってみます。子どもを伸ばすコツは、いつも ややハングリーな状態に置くことです。「あれをしたい」「これがほしい」という思いが、子どもを 前向きに引っ張っていきます。与えすぎ、手のかけすぎは、禁物です。 Q 台所の生ゴミを、手で始末できますか? ドラ息子症候群の大きな特徴は、「いやなことはしない」です。そこでテスト。あなたの子ども に、「台所の生ゴミを始末して」と頼んでみてください。あるいはお風呂の排水口にたまった毛 玉でもいいです。そのときしぶしぶでも、それができればよし。が、ああでもない、こうでもないと 勝手な理由をつけてそれをしないというのであれば、かなりドラ息子、ドラ娘化が進行している とみます。さらに進行すると、「自分でしたら」と、生意気なことを言うようになります。ドラ息子化 を防ぐためには、家事をどんどん手伝わせること。子どもは、使えば使うほどよい子になりま す。 Q 重い荷物をもったあなたを、手伝いにきますか? 子どもの前で重い荷物を、苦しそうに運んでみてください。そのとき子どものほうから、「もっ てあげる!」と言って、やってくればよし。そうでなく、知らぬふりをしたり、見て見ぬふりをして いるようであれば、かなりのドラ息子、ドラ娘とみます。さらにドラ息子化が進むと、頼んでもい やな顔をするばかりで、手伝おうともしません。人は自分で苦労して、はじめて他人の苦労の わかる人になります。子どもも同じ。よく「子どもに楽をさせることが、子どもを愛することだ」と 思っている人がいますが、これは誤解。苦労のわかる子どもにする……。それが子育ての基 本一つです。 Q お小遣いは、一〇〇倍にしていますか? 年長児から小学二年生ぐらいにかけて、子どもの金銭感覚は完成します。その金銭感覚 は、おとなのそれとほぼ同じになるとみてようでしょう。それと同時に、子どもは、お金で自分の 欲望を満足させる、そのさせ方まで覚えてしまいます。そこでコツ。子どもに買い与えるもの は、約一〇〇倍して考えます。たとえば一〇〇円のものは、おとなの一万円。一〇〇〇円のも のは、一〇万円と……。この時期に、一万円や二万円のものを、ホイホイと買い与えている と、やがてその子どもが高校生や大学生になったとき、一〇〇万円や二〇〇万円程度のもの を買い与えないと満足しなくなります。 Q 子どもの名前を、大切にしていますか? 子どもに「自分を大切にしようね」と言っても、あまり意味がありません。具体性がないからで す。そういうときは、「名前を大切にしようね」と教えます。そして子どもの名前の出ているもの は、新聞でも雑誌でも切り抜いて、高いところやアルバムに張ったりして、大切にします。その とき、「いい名前だ」「すばらしい名前だ」と言うようにします。子どもは自分の名前を大切にする ことで、自分を大切にすることを覚えます。自尊心もそこから生まれます。なお家庭や教育の 現場で、子どもの名前をからかったり、茶化したりするのは、タブーです。 Q ペットなど、動物の死を大切にしていますか? 命の大切さは、「死」を通して教えます。たとえばペットにせよ、どんな動物にせよ、それが死 んだら、その死をていねいに弔(とむら)います。そこであなたのお子さんはどうでしょうか。ペッ トなどが死んだとき、それを心から悲しみますか。もしそうなら、それでよし。そういう気持ちが、 命を大切にする気持ちにつながります。しかし反対に、生きものを平気で殺したり、もてあそん でいるようであれば、心のどこかにキズがないかを疑ってみてください。心にキズがある子ども は、たとえば昆虫の頭をもぎって遊ぶなど、ぞっとするようなことを平気でしたりします。 Q 園や学校の先生の話を、楽しそうにしますか? 人間の心は、鏡のようなものですね。こちらが相手をよい人だと思っていると、相手もまたあ なたのことをよい人だと思っているものです。お子さんと園や学校の先生との関係も、そうで す。「今日、先生は、どんな話をしたかな?」と問いかけてみてください。あなたのお子さんが、 先生の話を楽しそうにするなら、それでよし。しかし先生の話になると、突然顔を曇らせたり、 不愉快な表情をするようであれば、要注意。先生の悪口を並べるときもそうです。子どもの前 では、「あなたたちが悪いからでしょ」とたしなめながらも、一度、先生と話し合いの場をもって みてはどうでしょうか。 Q お子さんと、机の相性はあっていますか? 相性の悪い机だと、それが長い時間をかけて、子どもを勉強嫌いにしてしまうこともありま す。そこでこんなことを観察してみてください。あなたの子どもが学校から帰ってきたとき、どこ で体を休めるか、をです。子どもは(おとなも)、無意識のうちにも、一番居心地のよいところ で、体を休めます。そこを勉強部屋にすれば、勉強が好きになる……というわけです。あるい は反対に、子どもの机の上に、子どもの好きな食べ物を置いてみてください。そのとき子ども が机に座ってそれを食べればよし。別の場所にわざわざ移して食べるようであれば、その机は 子どもとの相性がよくないとみます。 Q おとなになることを、楽しみにしていますか? 「おとなになったら、何になるかな?」と、問いかけてみてください。そのとき、目を輝かせて、 あれこれ夢や希望を話せばよし。そうでなく、顔を曇らせたり。「なりたいものがない」と言うよう であれば、注意。「明日は今日より、よい世界になる」という、前向きな姿勢が子どもを伸ばしま す。子どもの未来を脅したり、不安にさせるようなことを言ったりするのは、タブー。今、小学校 の高学年児で、「中学校に入りたくない」と言う子どもがふえています。兄や姉のはげしい受験 競争を見ている子どもほどそうで、赤ちゃんがえりならぬ、幼児がえりを起こしたりします。 Q 何か新しいことができるようになったとき、自慢しますか? 何か新しいことができるようになったとき、「見て、見て!」と言って、あなたにそれを自慢しま すか。もしそうなら、それでよし。あなたの子どもは、前向きにどんどんと伸びていきます。幼児 期から小学生の間は、むしろうぬぼれ気味にさせるのが、子どもを伸ばすコツです。「もう、そ んなことができるの!」「すごいわね!」と、子どもの成長を喜んでみせてください。が、反対 に、「まだできないの?」「いつになったらできるの?」は禁句。あなたの子どもは、(できない) →(逃げる)→(ますますできなくなる)の悪循環の中で、伸びることを止めてしまうかもしれませ ん。 Q あなたの子どもは、一芸をもっていますか? 「勉強一本!」という子どももいますが、このタイプの子どもは、一度勉強でつまづくと、あとは 坂をころげ落ちるように、成績がさがったりします。そういうときのため……、というだけではあ りませんが、子どもには一芸をもたせます。「これだけは誰にも負けない」というのが、その一 芸です。まわりの子どもたちからみて、「これだけは、あいつしかいない」という状態にします。 この一芸は、子どもを側面から支えるのみならず、その一芸が、やがて子どもの「柱」になるこ ともあります。ただしゲームがうまいとか、カードをたくさん集めているというのは、一芸ではあり ません。 Q あなたの子どもは、大声で笑いますか? 園や学校での様子を観察してみてください。あなたの子どもが、皆の中でも、大声でハハハと 笑っていれば、よし。しかし皆の中でも、大声で笑えず、クックッと小さい声で笑うとか、どこか 萎縮した様子があれば、子育てのあり方そのものを大きく反省してみてください。過干渉(子ど もの心や気持ちまで親が決めてしまう)、過関心(子どもの行動に神経質になる)になっていな いか、など。おうちの方の情緒不安(ときどきカッとなって、激しく叱る)は、百害あって一利な し。明るく、はつらつとしているのが、子どものあるべき姿です。そういう前提で、子育て全体を 見なおします。 Q 子どもに、正しい言葉で話しかけていますか? 乳幼児期の言葉環境が、その子どもの国語力の基礎となります。たとえば「かばん、カバン、 もって!」ではなく、「あなたはカバンをもちます」と、正しい言い方で話しかけてみてください。さ らに「すごい、すごい」ではなく、「すばらしい」「すてきですね」「きれいだね」など、一つのことを いろいろな言い方でしてみせます。さらに子どもが文字を覚え始めたら、「お・と・う・さ・ん」と、 音を一つずつ区切って発音してみせます。こうした積み重ねがあって、子どもは、作文が好き になり、さらには論理的にものを考えることができる子どもになります。 Q 誰かを喜ばすことを、教えていますか? やさしい子どもにするコツ、それは「誰かを喜ばす喜び」を、教えることです。たとえばお店で お菓子を買うときも、「これを妹の○○に分けてあげると、妹は喜ぶわね」「お父さんにこれをも っていってあげると、喜ぶわよ」と、です。そして「他人を喜ばすことは、結局は自分にとっても 楽しいことだ」とわからせます。言い換えると、人にやさしい人というのは、そういう行為が自然 にできる人のことを言います。やさしい人というのは、一見、損ばかりしているように見えます が、いつの間か、そのまわりに、たくさんの人が集まるようになります。それこそまさに本当の 財産、ですね。 Q あなたは、お子さんを愛していますか? たいていの人は、「愛している」と答えます。しかし……。子どもを自分の支配下において、思 い通りにしたいという愛もあります。これを代償的愛といいます。いわば「愛もどきの愛」という ことになります。親の見栄やメンツのために、子どもを「よい学校(?)」に入れたがるというの が、それです。子どもへの愛の深さは、どこまで「許して忘れるか」、言い換えると、子どもをど こまで自分の中に受け入れるかで、決まります。もちろん子どもに好き勝手なことをさせろとい うことではありません。子どもにどんなに問題があっても、自分のこととして、受け入れてしまう ということです。 Q 幸福な家庭を見せていますか? 子どももいつかおとなになり、家庭をもちます。そのときのために、「幸福な家庭とはどういう ものか」「父親や母親は、どうあるべきか」を、しっかりと子どもに見せておきます。見せるだけ ではなく、子どもの体の中に染み込ませておきます。夫婦が仲よく生活する姿、助けあい、いた わりあう姿など。子育ての基本は、子どもを育てることではありません。子どもに、子ども(あな たから見れば孫)の育て方を教えるのが、子育てです。「あなたが親になったら、こういうふうに 子どもを育てるのですよ」「こういうふうに子どもを叱るのですよ」とです。 Q 新しいことに、積極的に取り組もうとしますか? 何か新しいことをさせてみてください。そのとき、「やる!」「やりたい!」と食いついてくればよ し。そういう前向きな姿勢が、子ども自らを伸ばします。好奇心の旺盛な子どもほど、行動力も あり、趣味も多芸多才。一人で遊ばせておいても、身の回りから次々と発明していきます。が、 反対に、「いやだ」「やりたくない」と逃げるようであれば、日ごろの子どもへの接し方を反省して みてください。「あなたはダメな子」式の、暗いイメージを与えるのは禁物。あなた自身が、「うち の子は何をしてもダメ」と思っているなら、あなた自身の心を作り変えます。子どもは親がもっ ているイメージどおりの子どもになります。 Q あなたは自分の子どもを信じていますか? あなたが子どもを連れて、通りを歩いていたとします。そのとき向こうから、学校時代の友人 がやってきました。久しぶりの対面です。そのときその友人が、あなたの子どもをしげしげと見 て、「いくつかな?」と聞いたとします。そのとき自分の子どもに自信のある親は、「まだ五歳で す」と、「まだ」という言葉を使います。しかし自信のない親は、顔をしかめながら、「もう五歳な んですがねえ」と言います。親に信じられている子どもは、表情も明るく、伸びやかです。親も 子育てを楽しんでいます。それが「良」循環となって、子どもはますます伸びていきます。 Q 会話を子どもに、任せていますか? 典型的な過干渉ママの会話。私、子どもに向かって、「この前の日曜日は、どこへ行きました か?」、母親、子どもの会話をさえぎりながら、「おばあちゃんの家へ行ったでしょ。だったら、 そう言いなさい。……どうしてはっきりと言えないの。言いなさい」と。子どもを信じられないとい う不信感が、母親をして、過干渉ママにします。一方子どもは子どもで、ますます表情が暗くな っていきます。あとはこの悪循環。子どものことは子どもに任す。そういう一歩退いた姿勢が、 子どもの自立をうながし、子どもをたくましい子どももにします。 Q 「あなたはいい子」を、口グセにしていますか? 子どもは、親の口グセ通りの子どもになります。「うちの子はいい子だ」と思っていると、その 通りに。反対に「うちの子はダメな子だ」と思っていると、やはりその通りになります。ですから 子どもに向かっては、「あなたはいい子」「あなたはすばらしい子」を口グセにします。子どもと いうのは、自分を認めてくれる人の前では、よい面だけを見せようとします。つまりそういう子ど もの性質をうまく利用して、子どもを伸ばします。ただしほめるのは、やさしさと努力。スタイル や顔は、ほめないようします。「頭」については、ほめてよい場合と、そうでない場合があります ので、慎重にします。 Q 子どもの気持を確かめながら、行動していますか? おけいこを始めるとき。おけいこをやめるとき。そのつどお子さんの気持を確かめながら、行 動していますか。親意識、つまり親子の間の上下意識の強い人ほど、「私が親だから」「子ども のことは、私が一番よく知っている」と、子どもの気持を確かめることなく、親が何でもかんでも 勝手に決めてしまいます。一方的に、です。しかしこういう姿勢は、親子の間に大きな亀裂を入 れることになります。しかもあなたが気づかないうちに、です。子どもは、自らに由(よ)らせま す。自分で考えさえ、行動させ、責任を取らせます。それが「自由」の本当の意味です。
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