はやし浩司

キレる子ども
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はやし浩司

緊急提言

子どもがキレるとき2001−10−31改訂版


●ふえるキレる子ども

 二〇〇〇年、全国の教育委員会から報告された校内での暴力行為は、前年度より11.4%
ふえて、34595件に達したことがわかった(文部科学省)。「対外的に問題の見られなかった
子どもが、突発的に暴力をふるうケースが目立つ」と指摘。同省・児童生徒課は、キレる子ども
への対応の必要性を強調した(中日新聞)。

 暴力行為が報告された学校の割合は、小学校が全体の2・2%だったが、中学校が35・
8%、高校が47・3%にのぼった。また学校外の暴力行為は、小中高校で、計5779件だっ
た。私が住む静岡県でも、前年度より210件ふえて、1132件だった。マスコミで騒がれること
は少なくなったが、この問題は、まだ未解決のままと考えてよい。

 こうしたキレる子どもの原因について、各方面からさまざまな角度から議論されている。教育
的な分野からの考察については言うまでもないが、それ以外の分野として、たとえば@精神医
学、A栄養学の分野がある。さらに最近ではB環境ホルモンの分野からも問題が提起されて
いる。これは、内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)が、子どもの脳に影響を与え、それが子
どもがキレる原因の一つになっているという説である。以下、これらの問題点について、考えて
みる。

@精神医学の分野からの考察

●躁状態における錯乱状態 
 キレる状態は、心理学の世界では、「躁(そう)状態における精神錯乱」と位置づけられてい
る。躁うつ病を定型化したのはクレペリン(ドイツの医学者・1856〜1926)だが、一般的には
躁状態とうつ状態はペアで考えられている。周期性をもって交互に、あるいはケースによって
は、重複して起こることが多いからである。それはそれとして、このキレた状態になると、子ども
は突発的に攻撃的になったり、大声でわめいたりする。(これに対して若い人の間では、ただ
単に、激怒した状態、あるいは怒りをコントロールできなくなった状態を、「キレる」と言うことが
多い。ここでは区別して考える。)私にもこんな経験がある。

●恐ろしく冷たい目
 子どもたち(小三児)を並べて、順に答案に丸をつけていたときのこと。それまでF君は、まっ
たく目立たないほど、静かだった。が、あと一人でF君というそのとき、F君が突然、暴れ出し
た。突然というより、激変に近いものだった。ギャーという声を出したかと思うと、周囲にあった
机とイスを足げりにしてひっくり返した。瞬間私は彼の目を見たが、その目は恐ろしいほど冷た
く、すごんでいた……。

●心の緊張状態が原因
 よく子どもの情緒が不安定になると、その不安定な状態そのものを問題にする人がいる。し
かしそれはあくまでも表面的な症状に過ぎない。情緒が不安定な子どもは、その根底に心の
緊張状態があるとみる。その緊張状態の中に不安が入りこむと、その不安を解消しようと、一
挙に緊張感が高まり、情緒が不安定になる。先のF君のばあいも、「問題が解けなかった」とい
う思いが、彼を緊張させた。そういう緊張状態のところに、「先生に何かを言われるのではない
か」という不安が入りこんで、一挙に情緒が不安定になった。言いかえると、このタイプの子ど
もは、いつも心が緊張状態にある。気を抜かない。気を許さない。周囲に気をつかうなど。表情
にだまされてはいけない。柔和でおだやかな表情をしながら、その裏で心をゆがめる子どもは
少なくない。これを心理学の世界では、「遊離」という。「遊離現象」というときもある。心(情意)
と表情がミスマッチを起こした状態をいう。一度こういう状態になると、教える側からすると、「何
を考えているかわからない子ども」といった感じになる。
 その引き金となる原因はいくつかあるが、その第一に考えるのが、欲求不満である。欲求不
満が日常的に続くと、それがストレッサー(ストレスの原因)となり、心をふさぐ。その閉塞感が、
子どもの心を緊張させる。子どもの心について、こんな調査結果がある(98年・文部省調査)。

 「いらいら、むしゃくしゃすることがあるか」という質問に対して、小学六年生の18.6%が、
「日常的によくある」と答え、59.8%が、「ときどきある」と答えている。その理由としては、
(1)友だちとの人間関係がうまくいかないとき……51.8%
(2)人に叱られたとき……45.7%
(3)家族関係がうまくいかないとき……35.5%
(4)授業がわからないとき……34.1%
(5)意味もなくむしゃくしゃするときがある……18.5%

また「不安を感ずることがあるか」という質問に対しては、やはり小学六年生の7.8%が、「日
常的によくある」と答え、47.7%が、「ときどきある」と答えている。その理由としては、
(1)友だちとの関係がうまくいかないとき……51.0%
(2)授業がわからないとき……47.7%
(3)時間的なゆとりがないとき……29.3%
(4)落ち着ける居場所がないとき……22.4%
(5)進路、進学について……20.4%
 
 この調査結果から、現代の子どもたちは、およそ20人に一人が日常的に、いらいらしたり、
むしゃくしゃし、10人に一人が日常的にある種の不安を感じていることがわかる。

●子どもの欲求不満

 子どもの欲求不満については、その原因となるストレスの大小はもちろんのこと、それを受け
取る子ども側の、リセプターとしての問題もある。同じストレスを与えても、それをストレスと感じ
ない子どももいれば、それに敏感に反応する子どももいる。そんなわけで、子どものストレスを
考えるときは、対個人ではどうなのかというレベルで考える必要がある。それはさておき、子ど
もは自分の欲求が満たされないと、欲求不満になる。この欲求不満に対する反応は、ふつう、
次の三つに分けて考える。

@攻撃・暴力タイプ
 欲求不満やストレスが、日常的にたまると、子どもは攻撃的になる。心はいつも緊張状態あ
り、ささいなことでカッとなって、暴れたり叫んだりする。母親が、「ピアノのレッスンをしようね」と
話しかけただけで、包丁を投げつけた女の子(年長児)がいた。私が「今日は元気?」と声をか
けて、肩をたたいた瞬間、「このヘンタイ野郎!」と私を足げりにした女の子(小五)もいた。こう
した攻撃性は、表に出るタイプ(喧嘩する、暴力を振るう、暴言を吐く)と、裏に隠れてするタイ
プ(弱い者をいじめる、動物を虐待する)に分けて考えることができる。
A退行・依存タイプ

 ぐずったり、赤ちゃんぽくなったりする(退行性)。あるいは誰かに依存しようとする(依存
性)。このタイプの子どもは、理由もなくグズグズしたり、甘えたりする。母親がそれを叱れば叱
るほど、症状が悪化するのが特徴で、そのため親が子どもをもてあますケースが多い。

B固着・執着タイプ
 ある特定の「物」にこだわったりする(固着性)。あるいはささいなことを気にして、悶々と悩ん
だりする(執着性)。ある男の子(年長児)は、毛布の切れ端をいつも大切に持ち歩いていた。
最近多く見られるのが、おとなになりたがらない子どもたち。赤ちゃんがえりならぬ、幼児がえ
りを起こす。ある男の子(小五)は、幼児期に読んでいたマンガの本をボロボロになっても、ま
だ大切そうにカバンの中に入れていた。そこで私が、「これは何?」と声をかけると、その子ど
もはこう言った。「どうチェ、読んでは、ダメだというんでチョ。読んでは、ダメだというんでチョ」
と。

 ものに依存するのは、心にたまった欲求不満をまぎらわすための代償行為と考えるとわかり
やすい。よく知られているのに、指しゃぶりや、爪かみ、髪いじりなどがある。別のところで指の
快感を覚えることで、自分の欲求不満を解消しようとする。
 キレる子どもは、このうち、@攻撃・暴力タイプということになるが、しかし同時に退行性や依
存性、さらには固着性や執着性をみせることが多い。 

●すなおな子ども論
 補足だが、従順で、おとなしい子どもを、すなおな子どもと考えている人は多い。しかしそれ
は誤解。教育、なかんずく幼児教育の世界では、心(情意)と表情が一致している子どもを、す
なおな子どもという。うれしいときにはうれしそうな表情をする。悲しいときには悲しそうな表情
をする。しかし心と表情が遊離すると、ここに書いたようにそれがチグハグになる。ブランコを
横取りされても、ニコニコ笑ってみせたり、いやなことがあっても、黙ってそれに従ったりするな
ど。中に従順な子どもを、「よくできた子ども」と考える人もいるが、それも誤解。この時期、よく
できた子どもというのは、いない。つまり「いい子」ぶっているだけ。このタイプの子どもは大き
なストレスを心の中でため、そのためた分だけ、別のところで「心のひずみ」となって現われる。
よく知られた例として、家庭内暴力を起こす子どもがいる。このタイプの子どもは、外の世界で
は借りてきたネコのようにおとなしい。

●おだやかな生活を旨とする
 キレるタイプの子どもは、不安状態の中に子どもを追いこまないように、穏やかな生活を何よ
りも大切にする。乱暴な指導になじまない。あとは情緒が不安定な子どもに準じて、@濃厚な
スキンシップをふやし、A食生活の面で、子どもの心を落ち着かせる。カルシウム、マグネシウ
ム分の多い食生活にこころがけ、リン酸食品をひかえる。リン酸は、せっかく摂取したカルシウ
ムをリン酸カルシウムとして、体外へ排出してしまう。もちろんストレスの原因(ストレッサー)が
あれば、それを除去し、心の負担を軽くすることも忘れてはならない。

●子どもの感情障害
 ほかに自閉症やかん黙児、さらには小児うつ病など、脳に機能的な障害をもつ子ども、さら
に近年問題になっている集中力欠如型多動性児(ADHD)は、感情のコントロールができない
ことがよく知られている。これらのタイプの子どもは、ささいなことがきっかけで、突発的に@激
怒する、A興奮、混乱状態になる、B暴言を吐いたり、暴力行為に及ぶ。攻撃的に外に向って
暴力行為を及ぶタイプを、プラス型、内にこもり混乱状態になるのをマイナス型と私は分けてい
る。どちらにせよその行動は予想がつきにくく、たいていは子どもの「ギャーッ」という動物的な
叫び声でそれに気づくことが多い。こちらが「どうしたの?」と声をかけるときには、すでに手が
つけられない状態になっている。

A栄養学の分野からの考察

●過剰行動性のある子ども
 もう二〇年以上も前だが、アメリカで「過剰行動性のある子ども」(ヒュー・パワーズ・小児栄養
学)が、話題になったことがある。ささいなことがきっかけで、突発的に過剰な行動に出るタイプ
の子どもである。日本では、このタイプの子どもはほとんど話題にならなかったが、中学生によ
るナイフの殺傷事件が続いたとき、その原因の一つとして、マスコミでこの過剰行動性が取り
あげられたことがある(九八年)。日本でも岩手大学の大沢博名誉教授や大分大学の飯野節
夫教授らが、この分野の研究者として知られている。

●砂糖づけのH君(年中児)
 私の印象に残っている男児にH君(年中児)という子どもがいた。最初、Hさん(母親)は私に
こう相談してきた。「(息子の)部屋の中がクモの巣のようです。どうしたらいいでしょうか」と。話
を聞くと、息子のH君の部屋がごちゃごちゃというより、足の踏み場もないほど散乱していて、
その様子がふつうではないというのだ。が、それだけならまだしも、それを母親が注意すると、
H君は突発的に暴れたり、泣き叫んだりするという。始終、こきざみに動き回るという多動性も
気になると母親は言った。私の教室でも突発的に、耳をつんざくような金切り声をあげ、興奮
状態になることも珍しくなかった。そして一度そういう状態になると、手がつけられなくなった。
私はその異常な興奮性から、H君は過剰行動児と判断した。
 ただ申し添えるなら、教育の現場では、それが学校であろうが塾であろうが、子どもを診断し
たり、診断名をくだすことはありえない。第一に診断基準が確立していないし、治療や治療方
法を用意しないまま診断したり、診断名をくだしたりすることは許されない。仮にその子どもが
過剰行動児をわかったところで、それは教える側の内心の問題であり、親から質問されてもそ
れを口にすることは許されない。診断については、診断基準や治療方法、あるいは指導施設
が確立しているケース(たとえば自閉症児やかん黙児)では、専門のドクターを紹介することは
あっても、その段階で止める。この過剰行動児についてもそうで、内心では過剰行動児を疑っ
ても、親に向かって、「あなたの子どもは過剰行動児です」と告げることは、実際にはありえな
い。教師としてすべきことは、知っていても知らぬフリをしながら、その次の段階の「指導」を開
始することである。
 

●原因は食生活?
 ヒュー・パワーズは、「脳内の血糖値の変動がはげしいと、神経機能が乱れ、情緒不安にな
り、ホルモン機能にも影響し、ひいては子どもの健康、学習、行動に障害があらわれる」とい
う。メカニズムは、こうだ。ゆっくりと血糖値があがる場合には、それに応じてインスリンが徐々
に分泌される。しかし一時的に多量の砂糖(特に精製された白砂糖)をとると、多量の、つまり
必要とされる量以上の量のインスリンが分泌され、結果として、子どもを低血糖児の状態にし
てしまうという(大沢)。そして@イライラする。機嫌がいいかと思うと、突然怒りだす、A無気
力、B疲れやすい、C(体が)震える、D頭痛など低血糖児特有の症状が出てくるという(朝日
新聞九八年2・12)。これらの症状は、たとえば小児糖尿病で砂糖断ちをしている子どもにも
共通してみられる症状でもある。私も一度、ある子ども(小児糖尿病患者)を病院に見舞ったと
き、看護婦からそういう報告を受けたことがある。
 こうした突発的な行動については、次のように説明されている。つまり脳からは常に相反する
二つの命令が出ている。行動命令と抑制命令である。たとえば手でものをつかむとき、「つか
め」という行動命令と、「つかむな」という抑制命令が同時に出る。この二つの命令がバランス
よく調和して、人間はスムーズな動きをすることができる。しかし低血糖になると、このうちの抑
制命令のほうが阻害され、動きがカミソリでスパスパとものを切るような動きになる。先のH君
の場合は、こまかい作業をさせると、震えるというよりは、手が勝手に小刻みに動いてしまい、
それができなかった。また抑制命令が阻害されると、感情のコントロールもできなくなり、一度
激怒すると、際限なく怒りが増幅される。そして結果として、それがキレる状態になる。

●恐ろしいカルシウム不足
 砂糖のとり過ぎは、子どもの心と体に深刻な影響を与えるが、それだけではない。砂糖をとり
過ぎると、カルシウム不足を引き起こす。
糖分の摂取が、体内のカルシウムを奪い、虫歯の原因になることはよく知られている。体内の
ブドウ糖は炭酸ガスと水に分解され、その炭酸ガスが、血液に酸性にする。その酸性化した血
液を中和しようと、骨の中のカルシウムが、溶け出るためと考えるとわかりやすい。体内のカ
ルシウムの98%は、骨に蓄積されている。そのカルシウムが不足すると、「@脳の発育が不
良になったり、A脳神経細胞の興奮性を亢進したり、B精神疲労をしやすくまた回復が遅くな
るなどの症状が現われる」(片瀬淡氏「カルシウムの医学」)という。わかりやすく言えば、カル
シウムが不足すると、知恵の発達が遅れ、興奮しやすく、また精神疲労を起こしやすいという
だ。甘い食品を大量に摂取していると、このカルシウム不足を引き起こす。

●生化学者ミラー博士らの実験
 精製されてない白砂糖を、日常的に多量に摂取すると、インスリンの分泌が、脳間伝達物質
であるセロトニンの分泌をうながし、それが子どもの異常行動を引き起こすという。アメリカの
生化学者のミラーは、次のように説召している。
 「脳内のセロトニンという(脳間伝達)ニューロンから脳細胞に情報を伝達するという、神経中
枢に重要な役割をはたしているが、セロトニンが多すぎると、逆に毒性をもつ」(「マザーリン
グ」八一年F号)と。日本でも、自閉症や子どもの暴力、無気力などさまざまな子どもによる問
題行動が、食物と関係しているという研究がなされている。ちなみに、食品に含まれている白
砂糖の量は、次のようになっている。

製品名             一個分の量    糖分の量         
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー        
 ヨーグルト    【森永乳業】     90ml  9・6g         
 伊達巻き       【紀文】     39g  11・8g         
 ミートボール   【石井食品】 1パック120g  9・0g         
 いちごジャム   【雪印食品】  大さじ30g  19・7g         
 オレンジエード【キリンビール】    250ml  9・2g         
 コカコーラ              250ml 24・1g         
 ショートケーキ    【市販】  一個100g  28・6g         
 アイス      【雪印乳業】  一個170ml  7・2g         
 オレンジムース  【カルピス】     38g   8・7g         
 プリン      【協同乳業】  一個100g  14・2g         
 グリコキャラメル【江崎グリコ】   4粒20g   8・1g         
 どら焼き       【市販】   一個70g  25g          
 クリームソーダ    【外食】  一杯      26g           
 ホットケーキ     【外食】  一個      27g          
 フルーツヨーグルト【協同乳業】    100g  10・9g         
 みかんの缶詰   【雪印食品】    118g  15・3g         
 お好み焼き   【永谷園食品】  一箱240g  15・0g         
 セルシーチョコ 【江崎グリコ】   3粒14g   5・5g         
 練りようかん     【市販】  一切れ56g  30・8g         
 チョコパフェ     【市販】  一杯      24・0g       

●砂糖は白い麻薬
 H君の母親はこう言った。「祖母(父親の実母)の趣味が、ジャムづくりで、毎週ビンに入った
ジャムを届けてくれます。うちでは、それを食べなければもったいないということで、パンや紅茶
など、あらゆるものにつけて食べています」と。私はH君の食生活が、かなりゆがんだものと知
り、とりあえず「砂糖断ち」をするよう進言した。が、異変はその直後から起きた。幼稚園から帰
ったH君が、冷蔵庫を足げりにしながら、「ビスケットがほしい、ビスケットがほしい」と泣き叫ん
だというのだ。母親は「麻薬患者の禁断症状のようで、恐ろしかった」と話してくれた。が、それ
から数日後。今度はH君が一転、無気力状態になってしまったという。私がH君に会ったのは、
ちょうど一週間後のことだったが、H君はまるで別人のようになっていた。ボーッとして、反応が
まるでなかった。母親はそういうH君を横目で見ながら、「もう一度、ジャムを食べさせましょう
か」と言ったが、私はそれに反対した。

●カルシウムは紳士をつくる
 戦前までは、カルシウムは、精神安定剤として使われていた。こういう事実もあって、イギリス
では、「カルシウムは紳士をつくる」と言われている。子どもの落ち着きなさをどこかで感じた
ら、砂糖断ちをする一方、カルシウムやマグネシウムなど、ミネラル分の多い食生活にこころ
がける。私の経験では、幼児の場合、それだけで、しかも一週間という短期間で、ほとんどの
子どもが見違えるほど落ち着くのがわかっている。川島四郎氏(桜美林大学元教授)も、「ヒス
テリーやノイローゼ患者の場合、カルシウムを投与するだけでなおる」(「マザーリング」八一年
F号)と述べている。効果がなくても、ダメもと。そうでなくても、缶ジュース一本を子どもに買い
与えて、「うちの子は小食で困ります」は、ない。体重15キロ前後の子どもに、缶ジュースを一
本与えるということは、体重60キロの人が、4本飲む量に等しい。おとなでも缶ジュースを四本
は飲めないし、飲めば飲んだで、腹の中がガボガボになってしまう。
 なお問題となるのは、精製された白砂糖をいう。どうしても甘味料ということであれば、精製さ
れていない黒砂糖をすすめる。黒砂糖には、天然のミネラル分がほどよく配合されていて、こ
こでいう弊害はない。
 
●多動児(ADHD児)との違い
 この過剰行動性のある子どもと症状が似ている子どもに。多動児と呼ばれる子どもがいる。
前もって注意しなければならないのは、多動児(集中力欠如型多動性児、ADHD児)の診断基
準は、二〇〇一年の春、厚生労働省の研究班が国立精神神経センター上林靖子氏ら委託し
て、そのひな型が作成されたばかりで、いまだこの日本では、多動児の診断基準はないという
のが正しい。つまり正確には、この日本には多動児という子どもは存在しないということにな
る。一般に多動児というときは、落ち着きなく動き回るという多動性のある子どもをいうことにな
る。そういう意味では、活発型の自閉症児なども多動児ということになるが、ここでは区別して
考える。
 ちなみに厚生労働省がまとめた診断基準(親と教師向けの「子どもの行動チェックリスト」)
は、次のようになっている。

(チェック項目)
1行動が幼い
2注意が続かない
3落ち着きがない
4混乱する
5考えにふける
6衝動的
7神経質
8体がひきつる
9成績が悪い
10不器用
11一点をみつめる

たいへんまたはよくあてはまる……2点、
ややまたは時々あてはまる……1点、
当てはまらない……0点として、
男子で4〜15歳児のばあい、
12点以上は障害があることを意味する「臨床域」、
9〜11点が「境界域」、
8点以下なら「正常」

この診断基準で一番気になるところは、「抑え」について触れられていない点である。多動児が
多動児なのは、抑え、つまり指導による制止がきかない点である。教師による抑えがきけば、
多動児は多動児でないということになる。一方、過剰行動児は行動が突発的に過剰になるとい
うだけで、抑えがきく。その抑えがきくという点で、多動児と区別される。また活発型の自閉症
児について言えば、多動性はあくまでも随伴的な症状であって、主症状ではないという点で、こ
の多動児とは区別される。またチェック項目の中の(1)行動が幼い(退行性)は、過保護児、
溺愛児にも共通して見られる症状であり、(7)神経質は、敏感児、過敏児にも共通して見られ
る症状である。さらに(9)成績が悪い、および(10)不器用については、多動児の症状というよ
りは、それから派生する随伴症状であって、多動児の症状とするには、常識的に考えてもおか
しい。
ついでに私は私の経験から、次のような診断基準をつくってみた。

(チェック項目)
1抑えがきかない
2言動に秩序感がない
3他人に無遠慮、無頓着
4雑然とした騒々しさがある
5注意力が散漫
6行動が突発的で衝動的
7視線が定まらない
8情報の吸収性がない
9鋭いひらめきと愚鈍性の同居
10論理的な思考ができない 
11思考力が弱い

 このADHD児については、脳の機能障害説が有力で、そのために指導にも限界がある……
という前提で、それぞれの市町村レベルの教育委員会が対処している。たとえば静岡県のK
市では、指導補助員を配置して、ADHD児の指導に当っている。ただしこの場合でも、あくまで
も「現場教師を補助する」(K市)という名目で配置されている。

B環境ホルモンの分野からの考察

●シシリー宣言
一九九五年一一月、イタリアのシシリー島のエリゼに集まった一八名の学者が、緊急宣言を
行った。これがシシリー宣言である。その内容は「衝撃的なもの」(グリーンピース・JAPAN)な
ものであった。いわく、「これら(環境の中に日常的に存在する)化学物質による影響は、生殖
系だけではなく、行動的、および身体的異常、さらには精神にも及ぶ。これは、知的能力およ
び社会的適応性の低下、環境の要求に対する反応性の障害となってあらわれる可能性があ
る」と。つまり環境ホルモンが、人間の行動にまで影響を与えるというのだ。が、これで驚いて
いてはいけない。シシリー宣言は、さらにこう続ける。「環境ホルモンは、脳の発達を阻害す
る。神経行動に異常を起こす。衝動的な暴力・自殺を引き起こす。奇妙な行動を引き起こす。
多動症を引き起こす。IQが低下する。人類は50年間の間に5ポイントIQが低下した。人類の
生殖能力と脳が侵されたら滅ぶしかない」と。ここでいう「社会性適応性の低下」というのは、具
体的には、「不登校やいじめ、校内暴力、非行、犯罪のことをさす」(「シシリー宣言」・グリーン
ピース・JAPAN)のだそうだ。
 この事実を裏づけるかのように、マウスによる実験だが、ビスワエノールAのように、環境ホ
ルモンの中には、母親の胎盤、さらに胎児の脳関門という二重の防御を突破して、胎児の脳
に侵入するものもあるという。つまりこれらの環境ホルモンが、「脳そのものの発達を損傷す
る」(船瀬俊介氏「環境ドラッグ」より)という。

C教育の分野からの考察

 前後が逆になったが、当然、教育の分野からも「キルる子ども」の考察がなされている。しか
しながら教育の分野では、キレる子どもの定義すらなされていない。なされないままキレる子ど
もの議論だけが先行している。ただその原因としては、@親の過剰期待、そしてそれに呼応す
る子どもの過負担。A学歴社会、そしてそれに呼応する受験競争から生まれる子ども側の過
負担などが、考えられる。こうした過負担がストレッサーとなって、子どもの心を圧迫する。ただ
この段階で問題になるのが、子ども側の耐性である。最近の子どもは、飽食とぜいたくの中
で、この耐性を急速に喪失しつつあると言える。わずかな負担だけで、それを過負担と感じ、
そしてそれに耐えることがないまま、怒りを爆発させてしまう。親の期待にせよ、学歴社会にせ
よ、それは子どもを取り巻く環境の中では、ある程度は容認されるべきのものであり、こうした
環境を子どもの世界から完全に取り除くことはできない。これらを整理すると、次のようにな
る。

(1)環境の問題
(2)子どもの耐性の問題。

 この二つについて、次に考える。

●環境の問題
●子どもの耐性の問題

 

終わりに……
以上のように、「キレる子ども」と言っても、その内容や原因はさまざまであり、その分野に応じ
て考える必要がある。またこうした考察をしてのみ、キレる子どもの問題を正面からとらえるこ
とができる。一番危険なのは、キレる子どもを、ただばくぜんと、もっと言えば感傷的にとらえ、
それを論ずることである。こうした問題のとらえ方は、問題の本質を見誤るばかりか、かえって
教育現場を混乱させることになりかねない。



参考文献