はやし浩司

発語障害
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子どもの発語障害

はやし浩司

幼児の発語障害(中日新聞コラムより、転載)

 世界広しといえども、幼児期に発音教育をしないのは、日本ぐらいなものではないか。私が
生まれ育った岐阜県の美濃地方では、「鮎(あゆ)」を、「エエ」と発音する。「よい味」を、「エエ
味」と発音する。だから、「この鮎は、よい味だ」と言うときは、「このエエうァ、エエ味やナモ」と
言う。方言が悪いというのではないが、こういう発音を日常的にしていて、それを正しい文に書
けと言われても、できるものではない。そんなわけで私は小学生のころ、作文が大の苦手だっ
た。子どもながらに苦労したのを、記憶のどこかで覚えている。まだある。この日本では幼児の
発音に甘く、子どもが「デンチャ(電車)」と発音しても、それをかえって、「かわいい言い方」と、
許してしまう。

 「発語障害」というときは、構音障害(発音、発語障害)、吃音障害(どもる)、音声障害(ダミ
声、鼻声、かすれ声)、それに発音器官に器質的な障害がある場合(口蓋裂)などを総称して
いう。しかし現場で「発語障害」というときは、この中の構音障害をいう。たとえば「机」を「チュク
エ」、「学校」を「ガッコ」、「バッタ」を「バタ」と言うなど。言葉の一部の音を変えたり、ぬかしたり
する。口唇、歯列、舌などの器官を総称して、構音器官という。この構音器官に機能的な障害
があると、子どもはここにあげたように独特の発音をするようになる。幼児は、サ行(猿→シャ
ル)、ザ行(ぞうり→ジョーリ)、ラ行(ロケット→ドケット)が苦手だが、これらが正しく発音できれ
ば、よしとする。さらに発音するとき、舌の位置がずれると、サ行がシャ音化(魚→シャカナ)し
たり、同じくサ行がチャ音化(魚→チャカナ)したりする。ほかにラ行がダ音化することもある。
「ラジオ」を「ダジオ」と言うのがそれである。満五歳を一つの目安として、それまでに正しい発
音ができるようにする。

 以上は比較的なおしやすい構音障害だが、なおしにくいのもある。カ行をタ音化するカ行障
害(五個→ドト)などは、指導がむずかしく、なおすのに数年かかることもある。五、六歳児につ
いていえば、全体の五%前後にその傾向がみられる。しかしあまり神経質に指導すると、子ど
もが自信をなくしたり、さらに失語症になったりするから注意する。少し古い資料だが、アメリカ
言語聴覚学会の報告によれば、指導が必要な構音障害児の出現率は、三%とされる(一九五
一年)。症状にも軽重があり、ふつう児との区別がむずかしいケースもあるが、その傾向のあ
る子どもまで含めると、「つ」を「チュ」と発音するケースが、約二〇%。何らかの指導が必要と
思われる幼児は、全体の約五−一〇%というのが、私の実感である。

 こういう発語障害をふせぐためには、子どもが言葉を話すようになったら、息を子どもの顔に
吹きかけながら、口の動きを正確にしてみせるとよい。幼児語(自動車→ブーブー、電車→ゴ
ーゴー)などは、かえって発語の発達を遅らせることになるので、注意する。言葉の発達そのも
のを遅らせることもある。ある男の子(年長児)は、「三輪車」を「シャーシャー」、「押す」を「ドウ
ドウ」と言っていた。だから、「三輪車を押す」は、「シャーシャー、ドウドウ」と。が、それでも発語
障害が残ってしまったら…。各市町村の保健センター、もしくは教育委員会に相談窓口がある
ので、そちらへ問い合わせてみるとよい。

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(診断)


○この診断シートによって、幼児の発語(発音)の発達程度が診断できます。

【診断方法】

(1)おうちの方が、※1の言葉を、ゆっくりと発音してみせ、続いて、子どもに、それを復唱させ
て診断します。
(2)このとき、子どもがどんな発音をしても、それについてとやかく言ってはいけません。子ども
の発音を聞き、その評価にあてはまる個所(欄)に○をつけてください。

※1…テストする言葉

もとの言葉(※1) よく見られる症状 そのほか
カ行障害 「かき(柿)」を「かき」と発
音できる。
「タチ」と発音する。 「ダヂ」
「かぎ(鍵)が、五個」と言
える
「タヂダ、ドト」
サ行障害 「すし(寿司)」「すし」  「ツチ」「チュチ」
「ソーセージ」 「チョーチェーヂ」 「トーテージ」
「せんせい(先生)」 「シェンシェー」 「チェンチェー」
ザ行障害 「ぞう(象)」 「ジョー」
タ行障害 「つくえ(机)」 「チュクエ」
ダ行障害 「でんわ(電話)」 「レンワ」
「ラジオ」 「ダジオ」 「ナジオ」
ラ行障害 「ロケット」 「ノケット」 「ドケット」



よく観察される発音障害

カ行障害 カキクケコ⇒タチチュテト、ダヂヂュデド
サ行障害 サシスセソ⇒タチツテト、チャチチュチェチョ、シャシシュシェショ
ザ行障害 ザジズゼゾ⇒ジャジジュジェジョ
タ行障害 タチツテト⇒タチチュテト
ダ行障害 ダヂヅデド⇒ラリルレロ
ラ行障害 ラリルレロ⇒ダディデゥデェド
ナニヌネノ、(アイウエオ)……「R」の子音そのものが抜ける。



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