はやし浩司
春物語 はない。実のところ、私は若いころは女性にはほとんど縁がなかった。女性で困ったということ はなかったが、モテた経験はほとんどない。しかしどういうわけか40歳を過ぎるころから、ちょ くちょくラブレターらしきものをもらうようになった。50歳を過ぎたら、もっと多くなった。しかし私 には、その勇気もないが、第一、時間がない。恋をしているヒマさえない。いや、私が浮気する といっても、女房は気にしないだろう。私の女房は、女というより、女の姿をした男だ。あいつは ……、ホント! 性と恋をして、結婚して、ああ、また子育てかあ……」と。そうすると、恋心がそのまましぼんで しまう。それに、私の仕事には、いつも「女性」の姿がついて回る。講演でも、99%が女性ばか り。私が書く本も、対象は女性。職場も、すべて女性ばかりだった。だからほかの男たちとは、 多分女性観が違うと思う。へんな言い方だが、私なら女湯に女性と一緒に入っても、平気で世 間話ができると思う。(入ったことはないが……。)オカマではないが、私はそういう特殊な人間 なのだ。 はときどき、「あんた、結構、ハンサムよ」とおだててくれるが、私は本気にしたことがない。恋 なんて、私には無縁なのだ。……となると、春とは何か。私にとって春とは何かということになっ てしまう。ああああ! どうもそのころが発情期ではないか。もっとも、その発情期も、年齢とともに弱くなったが……。 少し前までは、私はすごい花粉症で、春がくるのが何よりもゆううつだった。しかし6年前に、そ の花粉症がピタリとなおってしまった。体の免疫力が落ちたためか、それとも体があきらめた のか。今は、春が何よりも楽しみだ。春になって、ホトトギスが空を飛ぶころ、新緑が燃えるよう に一斉に芽をふきだす。私はあのころの山が大好きだ。
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