子育ての方向性を考えるとき
子育てには四つの方向性がある。
@未来に向かう……子どもに子ども(あなたからみれば孫)の育て方を教えるのが、子育
て。「あなたが親になったら、こういうふうに子どもを育てるのですよ」「こういうふうに子どもを
叱るのですよ」と。もっと言えば、子育ての見本を見せるのが子育て。「親子というのはこうい
うものですよ」「夫婦というのは、こういうものですよ」「幸せな家庭というのはこういうものです
よ」と。あなたの子どもは親になったとき、あなたがした子育てを繰り返す。それを想像しなが
ら、子育てをする。
A過去に向かう……あなたは今、自分が受けた子育てを繰り返しているにすぎない。そこで
あなたの過去をさぐってみる。あなたは心豊かで、愛情深い家庭環境で育っただろうか。もし
そうならそれでよし。が、そうでなければ、あなたの子育ては、どこかがゆがんでいるとみる。
その「ゆがみ」に気づくこと。あなたはひょっとしたら、そのゆがみに気づかないまま、今の子
育てをしているかもしれない。そしてさらにそのゆがみを、あなたから、今度はあなたの子ども
へ伝えているかもしれない。……と、言っても難しいことではない。この問題だけは、気づくだ
けでよい。しばらく時間はかかるが、それでなおる。
B外に向かう……自分の子育てを「外」から見る。自分の子育てを、他人の子育てと比較す
る。兄弟や友人、さらには近所の人たちの子育てと比較する。もしできれば、世界の子育てと
比較してみるのもよい。子育てでこわいのは、独善と独断。「子どものことは私が一番よく知っ
ている」「私が子どもにすることには、まちがいはない」と豪語する親ほど、子育てで失敗しや
すい。要は風通しをよくするということ。そのために視野を高くもつ。
C内に向かう……子育てはただの子育てではない。よく「育自」という言葉を使って、「子育て
とは自分を育てることだ」と言う人がいる。まちがってはいないが、しかし子育ては、そんな甘
いものではない。親は子どもを育てながら、幾多の山を越え、谷を越え、いやおうなしに育て
られる。親が子どもを育てるのではない。子どもが親を育てる。子どもが親に、人間がどうい
うものかを教える。
ある母親は長男を交通事故でなくした。それから数年後、道で会うと、その母親は神々しい
ほどまでの人になっていた。こうした不幸は決してあってはならないものだが、しかしその母親
は、長男をなくしたという苦しみや悲しみを乗り越えることによって、自分を育てることができ
た。「お元気ですか?」と声をかけると、うれしそうにニッコリと笑ったが、私はそれ以上、話し
かけることができなかった。近寄りがたくすら感じた。
以上、子育てに、未来、過去、外、内の四つの方向性があることを、私は「子育て四次元
論」と呼んでいる。
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