はやし浩司

疑わしきは罰する(ファミリス)
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はやし浩司

疑わしきは罰する!
この原稿は、静岡県教育委員会発行の「ファミリス」に
2005年度後半、5回連載されたものです。

【疑わしきは、罰する!】
(第1回・ゲーム脳)


 法律の世界では、「疑わしきは、罰せず」という。しかし教育の世界では、「疑わしきは、罰する」。疑わしいものは、まず遠ざける。子どもに渡すものは、しっかりと安全が確認されてからでよい。そういう姿勢が、子どもの世界を守る。

●ゲーム脳
このところ、「ゲーム脳」という言葉が、よく話題になる。ゲームづけになった脳ミソを「ゲーム脳」という。このタイプの脳ミソには、特異的な特徴がみられるという。しかし、「ゲーム脳」とは、何か。
『脳の中に、前頭前野という、さまざまな命令を身体全体に出す司令塔がある。記憶、感情、集団でのコミュニケーション、創造性、学習、そして感情の制御や、犯罪の抑制をも司る部分である。
この司令塔が、ゲームや携帯メール、過激な映画やビデオ、テレビなどに熱中しすぎると働かなくなり、いわゆる「ゲーム脳」と呼ばれる状態になる』(日大大学院・森教授)と。
 つまりゲームばかりしていると、管理能力全般にわたって、影響が出てくるというわけである。このゲーム脳については、賛否両論があり、「ゲームをやっても脳が壊れてしまうことはない」と主張する学者(東北大学・川島教授)もいる。
 が、私がここで書きたいのは、そのことではない。
●なぜ、抗議の嵐が?
 この日本では、ゲームを批判したり、批評したりすると、ものすごい抗議が殺到する。実は、私自身も経験している。6年前に、『ポケモンカルト』という本を出版したときである。上記の森教授らのもとにも、「多くのいやがらせが、殺到している」(報道)という。
 考えてみれば、これは、おかしなことではないか。ゲームにもいろいろあるが、どうしてそのゲームのもつ問題性を指摘しただけで、抗議の嵐が、わき起こるのか? 
 森教授らは、「ゲームばかりしていると、脳に悪い影響を与える危険性がありますよ」と、むしろ親切心から、そう警告している。それに対して、いやがらせとは!
●動き出した文科省
そこで文部科学省は、ゲームやテレビなどを含む生活環境要因が子どもの脳にどう影響を与えるかを研究するために、2005年度から1万人の乳幼児について、10年間長期追跡調査することを決めた。この中で、ゲームの影響も調べられるという(「脳科学と教育」研究に関する検討会の答申)。
 近く中間報告が、公表されるだろう。が、しかしここで誤解してはいけないのは、「ゲームは危険でないから、子どもにやらせろ」ということではない。「ゲームは、危険かもしれないから、やらせないほうがよい」と、考えるのが正しい。とくに動きのはげしい、反射運動型のゲームは、避けたほうがよい。

【疑わしきは、罰する!】
(第2回・右脳教育)


●右脳教育ブームの中で
左脳は言語をつかさどり、右脳はイメージをつかさどる(スペリー)。その右脳をきたえると、たとえば次のようなことができるようになるという(七田氏)。
ひらめき、直感が鋭くなる(波動共振)、受け取った情報を映像に変えたり、思いどおりの映像を心に描くことができる(直観像化)、見たものを映像的に、しかも瞬時に記憶することができる(フォトコピー化)、計算力が速くなり、高度な計算を瞬時にできる(高速自動処理)など。
 しかしこういう説に対して、疑問を投げかける学者も少なくない。目白大学の渋谷氏もその1人で、著書「心理学」の中で、こう書いている。
 『なにやら、右脳のほうが、多彩な機能をもっていて、右脳が発達している人のほうが、すぐれているといわんばかりです。一時巻き起こった、(現在でも信者は多いようですが)、「右脳ブーム」は、こういった理論から生まれたのではないでしょうか。これらの説の中には、まったくウソとはいえないものもありますが、大半は科学的な根拠のあるものとは言えません』と。
●だから、どうなの?
 ときどき、右脳教育の成果(?)として、神業的な能力を示す子どもが紹介される。まさに神業。しかし「だからどうなの?」という部分がないまま、子どもにそういう訓練をほどこしてよいものか。はたしてそれが能力と言えるのか?
 昔、「一晩で百人一首を覚えたら、5000円あげる」と母親に言われ、本当に、一晩で暗記してしまった子どもがいた。その子どもというのは、あの忌まわしい殺人事件を起こした、「少年A」である。彼は専門家の鑑定により、「直観像素質者」という診断名がくだされた。
 イメージの世界ばかりが、極端にふくらんでしまい、空想と現実の世界の区別がつかなくなってしまった子どもと考えるとわかりやすい。
●大切なのは、静かに考える子ども
右脳が創造性やイメージの世界を支配するとしても、右脳型人間が、あるべき人間の理想像ということにはならない。むしろゆっくりと言葉を積み重ねながら(=論理)、他人の心を静かに思いやること(=分析)ができる子どものほうが、望ましい子どもということになる。その論理や分析をつかさどるのは、右脳ではなく、左脳である。
 で、今、その静かに考えることができる子どもが、むしろ減っているのではないか。私は、個人的には、これだけ映像文化が発達しているのだから、あえて右脳を刺激しなくても、よいのではと考えている。
 要はバランスの問題。右脳教育にせよ、左脳教育にせよ、いつもバランスを考えながらする。

【疑わしきは、罰する!】
(第3回・過剰行動児)


●セロトニン悪玉説
「キレる子ども」については、諸説が飛び交っている。環境ホルモン説(シシリ−宣言、95年)に始まって、最近では、脳の微細障害説(上智大・福島教授)まである。
そのキレる子どもについて、昔から一因として指摘されているのが、「セロトニン悪玉説」である。つまり脳間伝達物質であるセロトニンが異常に分泌され、それが毒性をもって、脳の抑制命令を狂わすという(アメリカ生化学者・ミラー博士ほか)。
アメリカでは、「過剰行動児」として、もう25年以上も前から指摘されていることだが、もう少し具体的に言うとこうだ。
たとえば白砂糖を多く含む甘い食品を、一時的に過剰に摂取すると、インスリンが多量に分泌され、それがセロトニンの過剰分泌を促す。そしてそれがキレる原因となるという(岩手大学・大沢名誉教授、大分大学・飯野教授ほか)。
「脳内の血糖値の変動がはげしいと、神経機能が乱れ、情緒不安になり、ホルモン機能にも影響し、ひいては子どもの健康、学習、行動に障害があらわれる」(アメリカ小児栄養学・ヒュー・パワーズ博士)。
 特徴としては、脳の抑制命令が変調するため、行動がカミソリでものを切るように、スパスパと鋭くなる。小学生でいうと、突発的にキーキー声を出して、泣いたり、暴れたりする。興奮したとき、体を小刻みに震わせることもある。言動が、過剰になりやすいことから、「過剰行動児」(アメリカ)という。
●食生活の改善
そこでもしこういう症状が見られたら、まず食生活を改善してみる。甘い食品を控え、カルシウム分やマグネシウム分の多い食生活に心がける。リン酸食品も控える。リン酸は日もちをよくしたり、鮮度を保つために多くの食品に使われている。リン酸をとると、せっかく摂取したカルシウムを、リン酸カルシウムとして、体外へ排出してしまう。
一方、昔からイギリスでは、『カルシウムは紳士をつくる』という。日本でも戦前までは、カルシウムは精神安定剤として使われていた。それはともかくも、子どもから静かな落ち着きが消えたら、まずこのカルシウム不足を疑ってみる。ふつう子どものばあい、カルシウムが不足してくると、集中力がなくなり、筋肉の緊張感が持続できず、座っていても体をクニャクニャとくねらせたりする。
効果がなくても、ダメもと。「うちの子は、どうもキレやすい」と感じたら、海産物を中心とした献立に切りかえてみる。その海産物(魚介類、海草類など)には、カルシウム、マグネシウム、カリウムなどの94種類もの天然のミネラルが豊富に含まれている。「肉よりは魚、チーズよりはワカメの入った味噌汁、菓子よりは干した小魚やコンブ」(マザーリング)を食べさせるとよい。子どもによっては、たった1週間で、劇的に変化することもある。

疑わしきは、罰する!】
(第4回・高層住宅の盲点)


●流産率が39%
 よく高層住宅の子どもに与える心理について、話題になる。その影響はあるのか。ないのか。
それについては、こんなショッキングな調査結果がある。妊婦の流産率について調べたものだが、10階以上の高層住宅に住む妊婦の流産率が、何と、39%もあるというのだ(東海大学医学部・逢坂氏、「保健の科学」第36巻1994別冊)。
6階以上では、24%、1〜5階は5〜7%。10階以上では、39%。流・死産率でも6階以上では、21%(一戸建ても含めて、全体では8%)、と。
マンションなど集合住宅に住む妊婦で、マタニティブルー(うつ病)になる妊婦は、一戸建ての居住者の4倍(国立精神神経センター・北村氏)という調査結果もある。母親ですら、これだけの影響を受ける。いわんや子どもをや、と考えるのが妥当ではないのか。
●多い神経症的傾向
逢坂氏は、「(高層階に住む妊婦ほど)、妊婦の運動不足に伴い、出生体重値の増加がみられ、その結果が異常分娩に関与するものと推察される」と述べている(同論文)。つまりこの問題は、妊婦の運動不足と関係があるというわけである。
 が、問題はつづく。高層住宅の高層部に住む母親ほど、神経症的傾向を示す割合が、多いという。
 集合住宅の1〜2階で、10・2%であるのに対して、6階以上になると、13・2%にふえる。(一戸建てで、5・3%。)
 さらに逢坂氏は、喫煙率も同じような割合で、高層階ほどふえていることを指摘している。たとえば集合住宅の1〜2階で、11・4%。3〜5階で、10・9%、6階以上になると、17・6%。(一戸建てで、9・0%。)
●運動と心のケア
 高層住宅というのは、高層になればなるほど、視野が広がり、開放感があると考えられがちである。しかし実際には、ガラス1枚をへだてて、その向こうは、大絶壁。そのため長く住んでいると、閉塞感が蓄積するのではないかと考えられる。
 そこで高層階に住む人ほど、外出の機会をふやし、のぼりおりの回数をふやすなどの運動が必要ということになる。子どもについて言えば、戸外活動を、より頻繁に行うということも大切かもしれない。
 で、これは私のあくまでも個人的な実感だが、高層住宅だからといって、子どもに心の問題が起きるわけではない。しかしひとたび何か問題が起きると、高層住宅に住む子どもほど、症状は急速に悪化し、また立ちなおるのに、より時間がかかるように思う。
母親も、子どもも、決して、部屋の中に、とじこもってしまってはいけない。

【疑わしきは、罰する!】
(第5回・紫外線の恐怖)


●紫外線対策を早急に
今どき野外活動か何かで、まっ赤に日焼けするなどということは、自殺的行為と言ってもよい。中には、皮膚が赤むけになるほど、日焼けする子どももいる。無頓着といえば、無頓着。無頓着すぎる。国立がんセンターの山本医師も、『海外旅行に行って、肌を焼いているのは、日本人の若者ぐらいです。海外の皮膚がん研究者からは、「いったい日本は、どうなっているのだ?」と質問されることさえあります。専門家にしてみれば、日本の若者がこぞって肌を焼く行為は、自ら命を縮めているに等しい行為なのです』(日経BP)と述べている。
紫外線で皮膚が傷つくわけだが、オゾンが10%の割合で減りつづけると、皮膚がんは、26%ふえ、紫外線が2%ふえると、皮膚がんは、3%ふえるとういう(UNEP99年)。
実際、オーストラリアでは、1992年までの7年間だけをみても、皮膚がんによる死亡件数が、毎年10%ずつふえている。日光性角皮症や白内障も急増している。しかも深刻なことに、20代、30代の若者たちの皮膚がんが、急増しているということ。
そこでオーストラリアでは、その季節になると、紫外線情報を流し、子どもたちに紫外線防止用の帽子とサングラスの着用を義務づけている。が、この日本では野放し。オーストラリアの友人は、こう言った。「何も対策を講じていない? 信じられない」と。ちなみに北極についても、1997年には、すでに30%も減少している。
●破壊される環境
日本の気象庁の調査によると、南極大陸のオゾンホールは、1980年には、面積がほとんど0だったものが、1985年から90年にかけて南極大陸とほぼ同じ大きさになり、2000年には、それが南極大陸の面積のほぼ2倍にまで拡大しているという。
北極についても、1997年には、すでに30%も減少している。
 さらに2000年に入ってからは、地球温暖化の影響で、成層圏の水分や温度が変化。極地方には、不気味なピンク色の雲が出現し、02年には、オゾンホールは、とうとうオーストラリアのタスマニアまで拡大。「上空オゾン層はさらに破壊、急拡大している」(NASA)という。
●疑わしきは罰する
 法律の世界では、「疑わしきは、罰せず」という。しかし教育の世界では、「疑わしきは、罰する」。子どもの世界は、先手、先手で守ってこそ、はじめて守ることができる。害が具体的に出るようになってからでは、遅い。たとえばここに書いた紫外線の問題にしても、警報が出たら、外出をひかえる。過度な日焼けはさせない。紫外線防止用の帽子、サングラス、長そでのシャツ、長ズボン着用させる。サンスクリーンクリームを皮膚に塗るなど、あなたが親としてすべきことは多い。