赤ちゃんがえり
北海道在住のESさんからの相談
北海道在住のESさんから、こんな相談が届いた。
「二年ほど前にはやし先生にご著書をお贈りいただいた北海道K郡のESと申します。
その節は有難うございました。あれ以来、先生のホームページとEマガジンを楽しく読ませていただき、子育ての参考にさせていただいております。
日々、子育ての奥の深さを実感すると同時に、子供を冷静に見る、距離をおいて見ることの大切さも知ったように思います。とはいえ、ご相談があり、メールをさせていただきました。
現在、七歳の女の子(長女)、四歳の男の子(長男)、一歳の男の子(二男)がおります。
七歳の子は年少、年長と幼稚園に馴染みにくく、表情も硬く、じっと人をみすえるようなところもあり、子供というよりは大人を相手にしているような気持ちになったものですが
年長になった頃から友達も増え、表情が生き生きと見違えるようになりました。弟に対しても以前とは違いとてもやさしくお姉さんらしくなりました。
これも先生の子育て論がとても参考になっていたことも大きいと、嬉しく思っています。
四歳の男の子ですが、最近、しつこいほどに@「お兄ちゃんになりたくない」、「大人になりたくない」、まだ学校は先のことにもかかわらず「学校に行きたくない」、「勉強したくない」と言い困っています。A弟が生まれ赤ちゃんがえりしたのかなあとは思うものの、あまりにしつこさに閉口してしまいます。
三人いると、確かにその子に充分手をかけてやれないのは事実ですが、Bわたしとしては不安にさせるような言動はないつもりです。
「〜したくない」といえば、「いいよ」と理解は示しているつもりなのですが……
性格は幼稚園では、明るく、友達ともよく遊び、活発なようです。Cが、ここ二〜三か月あまり元気がないようで、先生にも甘えているようです。今日も園に用事でいった時も恥ずかしそうなさびしそうな表情で笑いかけてきて、少し胸が痛みました。
D家では、明るく元気なものの神経質なところがあります。例えば、手足などの少しの汚れを気にしたり、傷ともいえないような傷を気にしたりです。そして冗談が通じにくいのか笑わそうとしていったことにいじけたり、腹をたてたりです。同じことを姉にいった場合、笑ってくれます。
長男の否定的なところを、もっと明るいほうへ向くようにしてやりたいと思うのですが、親として、どう接してやればよいでしょうか?
やまに登ったり、木の実を拾ったり、と外へ出ることがもともと好きですので、E主人とは、そのようなところへ連れ出してやるのが長男の気持ちを解消させるのかなあとは話しています。
どうぞアドバイスをよろしくお願いいたします。」
【はやし浩司よりESさんへ】
ご無沙汰しています。メール、ありがとうございました。少し、考えてみます。
@「お兄ちゃんになりたくない」、「大人になりたくない」、まだ学校は先のことにもかかわらず「学校に行きたくない」、「勉強したくない」と言い困っています。
ここで一番需要なポイントは、四歳の子どもが、「お兄ちゃんになりたくない」と言っている点です。この言葉は「お兄ちゃんでいるのは、いやだ」とも解釈できます。どこかで「兄」としてのプレッシャーを感じているのかもしれません。赤ちゃんがえりを起こした子どもに、ときどき観察される発言です。
赤ちゃんがえりというのは、一種の恐怖反応と理解されています。「捨てられた」「捨てられるのでは」という妄想性が、子どもの心をゆがめます。小児うつ病(依存型うつ病)のひとつと考える学者もいます。どちらにせよ、下の子が生まれたことが原因による嫉妬がからむため、叱ったり、説教したりしても、意味はありません。少し極端な考え方ですが、もしあなたの夫がある日突然、愛人を家に連れてきて、「今日からいっしょに住む」と言ったら、あなたはどうするでしょうか。子どもの置かれた立場は、それに似た立場と考えてよいでしょう。赤ちゃんがえりを、決して、安易に考えてはいけません。
A弟が生まれ赤ちゃんがえりしたのかなあとは思うものの、あまりにしつこさに閉口してしまいます。
嫉妬がからむと、おとなでも、本態的に狂うということは、よくあります。「本態的」というのは、人間性そのものまで影響を受けるということです。乳幼児のばあい、嫉妬心をいじるのは、タブー中のタブーです。で、ESさんの子どものように、赤ちゃんげりの症状が、「親が閉口するほど、症状がしつこくなる」ことは、珍しくありません。子どもによっては、下の子を殺す寸前のことまでします。この点においても、赤ちゃんがえりを、安易に考えてはいけません。
B私としては不安にさせるような言動はないつもりです。「〜したくない」といえば、「いいよ」と理解は示しているつもりなのですが……
これは赤ちゃんがえりとは、別の問題です。子どもは、いろいろわがままを言いながら、親の愛情を確認したり、確かめたりします。赤ちゃんがえりの症状は子どもの欲求不満に準じて、攻撃型(下の子いじめ)、内閉型(言動が赤ちゃんぽくなる)、固着型(ものにこだわる)に分けて考えます。子どもによっては、そのつど、いろいろな症状を示すこともあります。ときに下の子をいじめたり、あるいは親に甘えたりするなど。心の緊張感がとれないため、ささいなことで、キレたり、激怒したり、かんしゃく発作を起こしたりすることもあります。
赤ちゃんがえりと、わがままは区別して考えます。つまりそれがわがままによるものであれば、親は親として、き然とした態度でのぞみます。一般的には、わがままは無視します。わがままを言ってもムダという雰囲気をつくります。
ただし子どものほうから愛情を求めてきたようなときには、それには、こまめに、かつていねいに応じてあげてください。
Cが、ここ二〜三か月あまり元気がないようで、先生にも甘えているようです。今日も園に用事でいった時も恥ずかしそうなさびしそうな表情で笑いかけてきて、少し胸が痛みました。
基本的には愛情不足と考えてよいでしょう。親は「みな平等にかわいがっているから問題はないはず」と考えがちですが、子どもの側からすれば、「平等」ということが納得できないのです。先の例で、あなたの夫が、「おまえも愛人も平等にかわいがっている」と言っても、あなたはそれに納得するでしょうか。
D家では、明るく元気なものの神経質なところがあります。例えば、手足などの少しの汚れを気にしたり、傷ともいえないような傷を気にしたりです。そして冗談が通じにくいのか笑わそうとしていったことにいじけたり、腹をたてたりです。同じことを姉にいった場合、笑ってくれます。
いくつか神経症による症状も出ていると思われます。神経症の原稿は、ここに張りつけておきますので参考にしてください。
E主人とは、そのようなところへ連れ出してやるのが長男の気持ちを解消させるのかなあとは話しています。
最後に、この問題は、結局は、子どもに、いかにすれば安心感を与えることができるかという点に行きつきます。おとな的な発想で、「外へ連れ出せばよいのでは」と考えることはムダではありませんが、方向性が少し違うように思います。あくまでもお子さんの気持ちを大切に、お子さんの気持ちを確かめながら行動するのがよいかと思います。強引にあちこちへ連れまわすのは、かえって逆効果になるのではと心配しています。
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参考@(子どもの欲求不満)
子どもが欲求不満になるとき
●欲求不満の三タイプ
子どもは自分の欲求が満たされないと、欲求不満を起こす。この欲求不満に対する反応は、ふつう、次の三つに分けて考える。
@攻撃・暴力タイプ
欲求不満やストレスが、日常的にたまると、子どもは攻撃的になる。心はいつも緊張状態にあり、ささいなことでカッとなって、暴れたり叫んだりする。私が「このグラフは正確でないから、かきなおしてほしい」と話しかけただけで、ギャーと叫んで私に飛びかかってきた小学生(小四男児)がいた。あるいは私が、「今日は元気?」と声をかけて肩をたたいた瞬間、「このヘンタイ野郎!」と私を足げりにした女の子(小五)もいた。こうした攻撃性は、表に出るタイプ(喧嘩する、暴力を振るう、暴言を吐く)と、裏に隠れてするタイプ(弱い者をいじめる、動物を虐待する)に分けて考える。
A退行・依存タイプ
ぐずったり、赤ちゃんぽくなったり(退行性)、あるいは誰かに依存しようとする(依存性)。このタイプの子どもは、理由もなくグズグズしたり、甘えたりする。母親がそれを叱れば叱るほど、症状が悪化するのが特徴で、そのため親が子どもをもてあますケースが多い。
B固着・執着タイプ
ある特定の「物」にこだわったり(固着性)、あるいはささいなことを気にして、悶々と悩んだりする(執着性)。ある男の子(年長児)は、毛布の切れ端をいつも大切に持ち歩いていた。最近多く見られるのが、おとなになりたがらない子どもたち。赤ちゃんがえりならぬ、幼児がえりを起こす。ある男の子(小五)は、幼児期に読んでいたマンガの本をボロボロになっても、まだ大切そうにカバンの中に入れていた。そこで私が、「これは何?」と声をかけると、その子どもはこう言った。「どうチェ、読んでは、ダメだというんでチョ。読んでは、ダメだというんでチョ」と。子どもの未来を日常的におどしたり、上の兄や姉のはげしい受験勉強を見て育ったりすると、子どもは幼児がえりを起こしやすくなる。
またある特定のものに依存するのは、心にたまった欲求不満をまぎらわすためにする行為と考えるとわかりやすい。これを代償行為というが、よく知られている代償行為に、指しゃぶり、爪かみ、髪いじりなどがある。別のところで何らかの快感を覚えることで、自分の欲求不満を解消しようとする。
●欲求不満は愛情不足
子どもがこうした欲求不満症状を示したら、まず親子の愛情問題を疑ってみる。子どもというのは、親や家族の絶対的な愛情の中で、心をはぐくむ。ここでいう「絶対的」というのは、「疑いをいだかない」という意味。その愛情に「ゆらぎ」を感じたとき、子どもの心は不安定になる。ある子ども(小一男児)はそれまでは両親の間で、川の字になって寝ていた。が、小学校に入ったということで、別の部屋で寝るようになった。とたん、ここでいう欲求不満症状を示した。その子どものケースでは、目つきが鋭くなるなどの、いわゆるツッパリ症状が出てきた。子どもなりに、親の愛がどこかでゆらいだのを感じたのかもしれない。母親は「そんなことで……」と言ったが、再び川の字になって寝るようになったら、症状はウソのように消えた。
●濃厚なスキンシップが有効
一般的には、子どもの欲求不満には、スキンシップが、たいへん効果的である。ぐずったり、わけのわからないことをネチネチと言いだしたら、思いきって子どもを抱いてみる。最初は抵抗するような様子を見せるかもしれないが、やがて静かに落ちつく。あとはカルシウム分、マグネシウム分の多い食生活に心がける。
なおスキンシップについてだが、日本人は、国際的な基準からしても、そのスキンシップそのものの量が、たいへん少ない。欧米人のばあいは、親子でも日常的にベタベタしている。よく「子どもを抱くと、子どもに抱きグセがつかないか?」と心配する人がいるが、日本人のばあい、その心配はまずない。そのスキンシップには、不思議な力がある。魔法の力といってもよい。子どもの欲求不満症状が見られたら、スキンシップを濃厚にしてみる。それでたいていの問題は解決する。
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参考A(幼児がえり)
おとななんかに、なりたくない
赤ちゃんがえりという、よく知られた現象が、幼児の世界にある。下の子どもが生まれたことにより、上の子どもが赤ちゃんぽくなる現象をいう。急におもらしを始めたり、ネチネチとしたものの言い方になる、哺乳ビンでミルクをほしがるなど。定期的に発熱症状を訴えることもある。原因は、本能的な嫉妬心による。つまり下の子どもに向けられた愛情や関心をもう一度とり戻そうと、子どもは、赤ちゃんらしいかわいさを演出するわけだが、「本能的」であるため、叱っても意味がない。
これとよく似た現象が、小学生の高学年にもよく見られる。赤ちゃんがえりならぬ、幼児がえり、である。先日も一人の男児(小五)が、ボロボロになったマンガを、大切そうにカバンの中から取り出して読んでいたので、「何だ?」と声をかけると、こう言った。「どうせダメだと言うんでチョ。ダメだと言うんでチョ」と。
原因は成長することに恐怖心をもっているためと考えるとわかりやすい。この男児のばあいも、日常的に父親にこう脅されていた。「中学校の受験勉強はきびしいぞ。毎日、五、六時間、勉強をしなければならないぞ」「中学校の先生は、こわいぞ。言うことを聞かないと、殴られるぞ」と。こうした脅しが、その子どもの心をゆがめた。
ふつう上の子どものはげしい受験勉強を見ていると、下の子どもは、その恐怖心からか、おとなになることを拒絶するようになる。実際、小学校の五、六年生児でみると、ほとんどの子どもは、「(勉強がきびしいから)中学生になりたくない」と答える。そしてそれがひどくなると、ここでいうような幼児がえりを起こすようになる。
話は少しそれるが、こんなこともあった。ある母親が私のところへやってきて、こう言った。「うちの息子(高二)が家業である歯科技工士の道を、どうしても継ぎたがらなくて、困っています」と。それで「どうしたらよいか」と。そこでその高校生に会って話を聞くと、その子どもはこう言った。「あんな歯医者にペコペコする仕事はいやだ。それにうちのおやじは、仕事が終わると、『疲れた、疲れた』と言う」と。そこで私はその母親に、こうアドバイスした。「子どもの前では、家業はすばらしい、楽しいと言いましょう」と。結果的に今、その子どもは歯科技工士をしているので、私のアドバイスは、それなりに効果があったということになる。さて本論。
子どもの未来を脅してはいけない。「小学校では宿題をしないと、廊下に立たされる」「小学校では一〇、数えるうちに服を着ないと、先生に叱られる」などと、子どもを脅すのはタブー。子どもが一度、未来に不安を感ずるようになると、それがその先、ずっと、子どものものの考え方の基本になる。そして最悪のばあいには、おとなになっても、社会人になることそのものを拒絶するようになる。事実、今、おとなになりきれない成人(?)が急増している。二〇歳をすぎても、幼児マンガをよみふけり、社会に同化できず、家の中に引きこもるなど。要は子どもが幼児のときから、未来を脅さない。この一語に尽きる。
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参考B(子どもの神経症)(中日新聞発表済み)
子どもの神経症
心理的な要因が原因で、精神的、身体的な面で起こる機能的障害を、神経症という。脳の機能が変調したために起こる症状と考えると、わかりやすい。ふつう子どもの神経症は、@精神面、A身体面、B行動面の三つの分野に分けて考える。そこであなたの子どもをチェック。次の症状の中で思い当たる症状(太字)があれば、丸(○)をつけてみてほしい。
精神面の神経症……精神面で起こる神経症には、恐怖症(ものごとを恐れる。高所恐怖症、赤面恐怖症、閉所恐怖症、対人恐怖症など)、強迫症状(ささいなことを気にして、こわがる)、不安症状(理由もなく思い悩む)、抑うつ症状(ふさぎ込んだり、落ち込んだりする)、不安発作(心配なことがあると過剰に反応する)など。混乱してわけのわからないことを言ったり、グズグズするタイプと、大声をあげて暴れるタイプに分けて考える。ほかに感情面での神経症として、赤ちゃんがえり、幼児退行(しぐさが幼稚っぽくなる)、かんしゃく、拒否症、嫌悪症(動物嫌悪、人物嫌悪など)、嫉妬、激怒などがある。
身体面の神経症……夜驚症(夜中に突然暴れ、混乱状態になる)、夢中遊行(ねぼけてフラフラとさまよい歩く)、夜尿症、頻尿症(頻繁にトイレへ行く)、遺尿(その意識がないまま尿もらす)、睡眠障害(寝つかない、早朝起床、寝言、悪夢)、嘔吐、下痢、原因不明の慢性的な疾患(発熱、ぜん息、頭痛、腹痛、便秘、ものもらい、眼病など)、貧乏ゆすり、口臭、脱毛症、じんましん、アレルギー、自家中毒(数日おきに嘔吐を繰り返す)、口乾、チックなど。指しゃぶり、爪かみ、髪いじり、歯ぎしり、唇をなめる、つば吐き、ものいじり、ものをなめる、手洗いグセ(潔癖症)、臭いかぎ(疑惑症)、緘黙、吃音(どもる)、あがり症、失語症、無表情、無感動、涙もろい、ため息なども、これに含まれる。一般的には精神面での神経症に先だって、身体面での神経症が現われることが多い。
行動面の神経症……神経症が行動面におよぶと、さまざまな不適応症状となって現われる。不登校もその一つだが、その前の段階として、無気力、怠学、無関心、無感動、食欲不振、過食、拒食、異食、小食、偏食、好き嫌い、引きこもり、拒食などが断続的に起こることが多い。生活習慣が極端にだらしなくなることもある。忘れ物をしたり、乱れた服装で出歩いたりするなど。ほかに反抗、盗み、破壊的行為、残虐性、帰宅拒否、虚言、収集クセ、かみつき、緩慢行動(のろい)、行動拒否、自慰、早熟、肛門刺激、異物挿入、火遊び、散らかし、いじわる、いじめなど。
こうして書き出したら、キリがない。要するに心と身体は、密接に関連しあっているということ。「うちの子どもは、どこかふつうでない」と感じたら、この神経症を疑ってみる。ただし一言。こうした症状が現われたからといって、子どもを叱ってはいけない。叱っても意味がないばかりか、叱れば叱るほど、逆効果。神経症は、ますますひどくなる。原因は、過関心、過干渉、過剰期待など、いろいろある。
さて診断。丸の数が、一〇個以上……あなたの子どもの心はボロボロ。家庭環境を猛省する必要がある。九〜五個……赤信号。子どもの心はかなりキズついている。四〜一個……注意信号。見た目の症状が軽いからといって、油断してはならない。
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参考C(子どもへの愛情)
愛情は落差の問題
下の子どもが生まれたりすると、よく下の子どもが赤ちゃんがえりを起こしたりする。(赤ちゃんがえりをマイナス型とするなら、下の子をいじめたり、下の子に乱暴するのをプラス型ということができる。)本能的な嫉妬心が原因だが、本能の部分で行動するため、叱ったり説教しても意味がない。叱れば叱るほど、子どもをますます悪い方向においやるので、注意する。
こういうケースで、よく親は「上の子どもも、下の子どもも同じようにかわいがっています。どうして上の子は不満なのでしょうか」と言う。親にしてみれば、フィフティフィフティ(50%50%)だから文句はないということになるが、上の子どもにしてみれば、その「五〇%」というのが不満なのだ。つまり下の子どもが生まれるまでは、一〇〇%だった親の愛情が、五〇%に減ったことが問題なのだ。もっとわかりやすく言えば、子どもにとって愛情の問題というのは、「量」ではなく「落差」。それがわからなければ、あなたの夫(妻)が愛人をつくったことを考えてみればよい。あなたの夫が愛人をつくり、あなたに「おまえも愛人も平等に愛している」とあなたに言ったとしたら、あなたはそれに納得するだろうか。
本来こういうことにならないために、下の子を妊娠したら、上の子どもを孤立させないように、上の子教育を始める。わかりやすく言えば、上の子どもに、下の子どもが生まれてくるのを楽しみにさせるような雰囲気づくりをする。「もうすぐあなたの弟(妹)が生まれてくるわね」「あなたの新しい友だちよ」「いっしょに遊べるからいいね」と。まずいのはいきなり下の子どもが生まれたというような印象を、上の子どもに与えること。そういう状態になると、子どもの心はゆがむ。ふつう、子ども(幼児)のばあい、嫉妬心と闘争心はいじらないほうがよい。
で、こうした赤ちゃんがえりや下の子いじめを始めたら、@様子があまりひどいようであれば、以前と同じように、もう一度一〇〇%近い愛情を与えつつ、少しずつ、愛情を減らしていく。A症状がそれほどひどくないよなら、フィフティフィフティ(五〇%五〇%)を貫き、そのつど、上の子どもに納得させるのどちらかの方法をとる。あとはカルシウム、マグネシウムの多い食生活にこころがける。
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参考D(赤ちゃんがえり)
赤ちゃんがえりを甘く見ない
幼児の世界には、「赤ちゃんがえり」というよく知られた現象がある。これは下の子ども(弟、妹)が生まれたことにより、上の子ども(兄、姉)が、赤ちゃんにもどる症状を示すことをいう。本能的な嫉妬心から、もう一度赤ちゃんを演出することにより、親の愛を取り戻そうとするために起きる現象と考えるとわかりやすい。本能的であるため、叱ったり説教しても意味はない。子どもの理性ではどうにもならない問題であるという前提で対処する。
症状は、おもらししたり、ぐずったり、ネチネチとわけのわからないことを言うタイプと、下の子どもに暴力を振るったりするタイプに分けて考える。前者をマイナス型、後者をプラス型と私は呼んでいるが、このほか情緒がきわめて不安定になり、神経症や恐怖症、さらには原因不明の体の不調を訴えたりすることもある。このタイプの子どもの症状はまさに千差万別で定型がない。月に数度、数日単位で発熱、腹痛、下痢症状を訴えた子ども(年中女児)がいた。あるいは神経が異常に過敏になり、恐怖症、潔癖症、不潔嫌悪症などの症状を一度に発症した子ども(年中男児)もいた。
こうした赤ちゃんがえりを子どもが示したら、症状の軽重に応じて、対処する。症状がひどいばあいには、もう一度上の子どもに全面的な愛情をもどした上、一からやりなおす。やりなおすというのは、一度そういう状態にもどしてから、一年単位で少しずつ愛情の割合を下の子どもに移していく。コツは、今の状態をより悪くしないことだけを考えて、根気よく子どもの症状に対処すること。年齢的には満四〜五歳にもっとも不安定になり、小学校入学を迎えるころには急速に症状が落ち着いてくる。(それ以後も母親のおっぱいを求めるなどの、残像が残ることはあるが……。)
多くの親は子どもが赤ちゃんがえりを起こすと、子どもを叱ったり、あるいは「平等だ」というが、上の子どもにしてみれば、「平等」ということ自体、納得できないのだ。また嫉妬は原始的な感情の一つであるため、扱い方をまちがえると、子どもの精神そのものにまで大きな影響を与えるので注意する。先に書いたプラス型の子どものばあい、下の子どもを「殺す」ところまでする。嫉妬がからむと、子どもでもそこまでする。
要するに赤ちゃんがえりは甘くみてはいけない。
(030213)
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