明日の清水港



清水港黒鯛釣りの推移と環境の変化の中で



清水港のクロダイ釣りはその歴史が長い。その歴史が全国のクロダイ釣り(関西のチヌ釣り)

に少なからぬ影響を与えている。いま全国的な広がりをもっている、クロダイのかかり釣り、   

イカダ釣りの原型は清水がその発生地だと行っても過言ではない。                  


もとはといえば江戸時代の旗本衆が、江戸前の導坑に船を舫って始めたクロダイ釣りに始まる。

旗本の大名釣りとは妙な話だが、清水のクロダイ釣りは「大名釣り」と呼ばれて久しい。維新後    

江戸を追われた旗本衆が、巴川の入る折戸湾の地形に目をつけて始めたものであろう。寄せた魚  

を手綱で掬うのも、針をはずして生けすに収め、餌をつけて差し出すのも全て船頭の仕事であっ   

たようだ。今に残る清水の大名釣りは、手拭きのタオル、座布団、テント、もえびの飯台桶、手    

綱、その他が用意され昼には弁当が届けられ白湯を飲みながら昼飯が食べられる。冬にはそれぞ 

れにコンロの用意もあるから熱々のお茶が飲めた。私のように道具一式を預けてあれば体一つで 

全てが足りた。                                                   


船を懸けたのは、私が知っているのは牡蛎の養殖棚である。昭和初期の写真には、既に原金釣り

の船店の看板が三保への渡船場にあった。当時折戸の牡蛎はなかなか好評であった。牡蛎が美味  

しいと汽水域はクロダイにとっても良き住家である。牡蛎棚にかかり釣りをしたことが、その後      

のクロダイ釣りにある種の制約をもたらした。それは此処の釣りが7月の盆を境にして始まり、      

翌年の小正月で終わったのもその現れである。、その休漁期は、はらみダイの乗っ込みと産卵期    

に当たる。或いは牡蛎の収穫、種付けの時期でもあった。殿様釣りの呼称があった程だからだ、    

釣り師のマナーは大変良かった。牡蛎棚の牡蛎も大変大事にした。                      


 9歳のときから此処に連れて来られた私は、船の中では貴公子でいなければならなかった。合わ

せタイミングを取るためには、船がすごく揺れる原因は極力排除しなければならないからである。  

幼い子供には大変な苦痛のはずであるが、よく耐えたものである。                    


 そうした中で培われた釣り師のこの釣りへの思いは、伝統として育まれていったのである。しか    

し戦後を境とし、経済の発展と共に港の機能が改革の一途をたどり、現在の富士見埠頭が建設され 

貯木場の拡充、木材運搬船の折戸湾への係留が決定して、牡蛎棚の全面撤去が行われて、釣り環境

は大きく変わり、その存亡の危機に直面したのである。                            


 と同時に世の中の変化は石油文明へと大きく転換した。その結果はみなさんのご存じの通り、物

そのものの循環サイクルは切断され、利潤性の追求と、それに輪をかけた使い捨て文明は、止まる

ことを知らぬ環境破壊へ直進するのである。私たちの釣り文化を育ててきた海も例外ではない。雨

の後の海は、目を覆いたくなるようなゴミに襲われる。カタカナで表現される、スチロール、ビニール

プラスチックは、様々に形を変えて漂う。これこそまさに世紀末的である。                


 そうした中で、十余年前から続けられた船宿の稚魚放流は、全国で唯一年間行われるようになっ

た清水のクロダイ釣り自らの保護対策である。そして釣り師自身も将来のこの釣りの保険料として 

放流基金に協力することになったのである。                                  


 ≪ゴミ≫に関しては2000年問題などとは根本的に質の違う問題である。生活する一人一人の   

意識の問題である。失われた道徳律の問題である。ゴミの問題の難しさが其処にある。         


 すべての生き物の原点である≪海≫は、目に見えない汚染にさらされているが、海を守る私たち   

は、まず目の前にある≪ゴミ≫を対象に活動を開始した。小さな火であっても、賛友会の仲間、清潮会 

の仲間、それぞれが仲間づくりの中で行っている、海を守る行動は、『海を守る会』への基金の拠出、  

各船宿への灰皿の整備、釣り場の清掃運動への参加の展開等々一つ一つの積み重ねの中に清水の 

クロダイ釣りの伝統文化を守るという、貴い意識に支えられていることに限りない愛着と、賛意を惜しま 

ないのである。                                                     




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