アトピー性皮膚炎とは

実をいうと、アトピー性皮膚炎の診断はとても難しいのです。もちろん典型的なアトピー性皮膚炎の患者さんは、見ただけでそれとわかりますが、例えばアトピーとよく似た乳児湿疹や尋常性魚鱗癬などでは、一目見ただけでは診断がつけられないこともあります。このため、いろんな学者が苦労して診断基準を作っていますが、一つに統一されているわけではありません。代表的な診断基準の一つを下に示します。

アトピー性皮膚炎の診断の手引き(厚生省心身障害研究)

氈@アトピー性皮膚炎とは

 アトピー性皮膚炎とは、主としてアトピー素因のあるものに生じる、慢性に経過する皮膚の湿疹病変である。このため、本症の診断に当たっては、いまだ慢性経過の完成をみていない乳児の場合を考慮し、年齢に対する配慮が必要である。

(注=アトピー素因とは気管支喘息、アトピー性皮膚炎、
アレルギー性鼻炎の病歴または家族歴を持つものをいう。)

 アトピー性皮膚炎の主要病変

1)乳児について
a) 顔面皮膚または頭部皮膚を中心とした紅斑または丘疹がある。耳切れが見られることが多い。
b)患部皮膚にそうは痕がある。

(注=紅斑:赤い発疹、丘疹:盛り上がった発疹、そうは痕:掻き傷の痕)

2)幼児・学童について
a)頸部皮膚または腋窩、肘窩もしくは膝窩の皮膚を中心とした紅斑、丘疹または苔癬化病変がある。耳切れが見られることが多い。
b)乾燥性皮膚や粃糖様落屑を伴う毛孔一致性角化性丘疹がある。
c)患部皮膚にそうは痕がある。

(注=苔癬化:つまむと硬い、きめの粗い皮膚、
粃糖様落屑:米ぬか様の皮膚の断片)

 

。 アトピー性皮膚炎の診断基準

1)乳児について
II-1)に示す病変のうちa)、b)の双方を満たし、[別表]に示す皮膚疾患を単独に罹患した場合を除外したものをアトピー性皮膚炎とする。

2)乳児・学童について
II-2)に示す病変のうちa)あるいはb)、及びc)の双方、並びに下記のイ)、ロ)の条件を満たし、[別表]に示す皮膚疾患を単独に罹患した場合を除外したものをアトピー性皮膚炎とする。

イ)皮膚に痒みがある。   
ロ)慢性(発症後6か月以上)の経過をとっている。

  [別表]以下に示す皮膚疾患を単独に罹患した場合はアトピー性皮膚炎から除外する。

1)おむつかぶれ  2)あせも  3)伝染性膿痂疹(とびひ) 4)接触皮膚炎(かぶれ)  5)皮膚カンジダ症  6)乳児脂漏性皮膚炎  7)尋常性魚鱗癬(さめはだ)  8)疥癬   9)虫刺され  10)毛孔性苔癬

アトピー性皮膚炎を一般的な言葉で、わかりやすくいうと、「長い間続く、かゆい湿疹で、特徴的な部分に出てくるもので、本人や家族にアレルギーの病気を持つことが多い」ということです。つまり、最終的には湿疹の状態で判断するということです。

よくアレルギー検査といって、血液検査や皮膚テストをおこないますが、上の診断基準を見ておわかりのように、そのような検査はアトピー性皮膚炎を診断する上の条件には入っていません。単に、アトピー素因があるかどうかをみているに過ぎません。そして、アトピー素因はアトピー性皮膚炎であるための必要条件ではないのです。つまり、血液検査でアトピー性皮膚炎かどうかを診断できるわけではないのです。

アトピー性皮膚炎の写真:「目で見る病気」参照

 

アトピー性皮膚炎の原因

「この子はアトピーですね」というと、「原因は食事ですか?」と言うお母様方のなんと多いことか。日本では、いつの間にか「アトピー性皮膚炎=食物アレルギー」になってしまったようです。これは必ずしも正しくないことをご理解いただきたいと思います。アトピー性皮膚炎は、多数の原因が重なり合って出来上がっているものです。「たくさんの原因の中の一つとして、食物アレルギーも関わっている場合もある」ということです。アトピー性皮膚炎の原因の主なものを下に示します。

アトピー性皮膚炎の原因

1. 皮膚の弱さ
   乾燥しやすい(保湿能力が低い)
   バリア機能が弱い(外からの刺激に弱い)
2. 物理的刺激
   ひっかく、こすれるなど
3. 化学的刺激
   汗、ほこり、細菌など
4. アレルギー反応
   アレルゲン(ダニ、タマゴ、牛乳など)
5. ストレス
   身体的ストレス(疲労、病気など)
   精神的ストレス(欲求不満など)

なんといっても、アトピー性皮膚炎の患者さんに共通して存在するのは「皮膚の弱さ」です。アトピー性皮膚炎の患者さんを見たことのある方は御存知だと思いますが、患者さんの肌はガサガサと乾燥しています。これを乾燥肌(ドライスキン)と呼びます。よく見ると、一見健康そうに見える部分も乾燥しているのが分かります。皮膚炎をおこしている部分だけでなく、全身が乾燥肌なのです。これは、皮膚の表皮角質層に異常があり、水分蒸発調節能が低下しているのと、表皮の細胞と細胞の間がピチッと閉じておらず、すき間があり水分が逃げやすいためです。

健康な皮膚の表面は表皮脂質膜という薄い膜で被われていて、これがバリアとなって身体に細菌やほこりなどの異物が侵入しないようになっています。ところが、アトピー性皮膚炎の患者さんのような乾燥肌では、この脂質膜も破壊されていて、その防御能は破綻しているのです。このため、細菌の侵入や、ダニ、ハウスダストなどのアレルゲンの侵入が容易となり、汗やほこりなどの刺激による炎症もおこりやすくなっています。

アトピー性皮膚炎の患者さんに軟膏を塗るように指導するのは、軟膏を塗ることによって水分が逃げるのを防ぐ(保湿)のと、外からの侵入物を防ぐ(バリア)という二つの目的があるのです。アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚は、上述のように特殊なので、軟膏療法を初めとしたスキンケアは治療の基本になります。