困った問題なんです・・・「薬剤耐性菌」 


 「耐性菌」あるいは「薬剤耐性菌」という言葉を、お聞きになったことはありませんか?

 これは、薬に対して抵抗力を持ってしまい、薬が効きにくくなった菌のことです。つまり、耐性菌にかかると、薬を使っても病気が治らなくなってしまうのです。

 有名な耐性菌としては、「MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)」があります。体が弱った人に、この菌が感染して血液中で増えてしまう(敗血症)と死に至ることもある、恐ろしい菌です。とにかく、薬(抗生物質)が効きにくいので、なかなか手に負えません。この菌は、すでに日本中に広がっています。身近なところでは「とびひ」。以前は、抗生物質を使うとすぐに治っていたとびひですが、最近は、抗生物質を使ってもなかなかとびひが治らない場合があります。調べてみると、その原因菌がMRSAのことがときどきあるのです。とびひからすぐに敗血症になってしまうことは、ほとんどありませんが、とびひが治らないのは、やはりつらい。

 その他には、「PRSP(ペニシリン耐性肺炎球菌)」というのもあります。これも、抗生物質が効きにくい。身近なところでは、中耳炎。この菌が中耳炎の原因になると、とても治りにくくなります。

 以上の他にも、たくさんの耐性菌がいます。では、このような耐性菌は、なぜ生まれたのでしょうか? その大きな原因は、抗生物質の乱用です。細菌感染症の治療の原則は、その菌に「有効な抗生物質」を、「適切な量」で「適切な期間」使用することです。これを守らず、「有効でない抗生物質」を使ったり、「量が少なかったり」、「投与期間が長すぎたり」すると、耐性菌発生の原因となります。

 「風邪には抗生物質は効かない」ということをご存じですか? 「風邪」のほとんどは「ウイルス」が原因です。抗生物質は「菌」はやっつけますが、「ウイルス」には効果がありません。ですから、「風邪」には抗生物質はほとんど効かないのです。「風邪」のうち、「菌」が原因のものは約5%といわれています。つまり、「風邪」の95%は抗生物質は効かないということです。

 ところが、日本外来小児科学会のワーキンググループの調査では、「37.5℃以上の発熱がある風邪の患者さんには必ず抗生物質を出す」医師が、157人中58人(37%)もいることがわかりました。これには、私も驚いてしまいました。不要な抗生物質を使い続けることによって、どんどん耐性菌が増えてゆくのです。高熱があって、細菌感染が疑われるようならまだしも、咳だけとか、鼻水だけで、抗生物質を使用するのはいかがなものでしょうか?

 ある研究では、その地域での抗生物質の使用を厳格に制限し、本当に必要な場合にのみ抗生物質を使用するようにした結果、その地域での耐性菌が減ったのです。つまり、無駄な抗生物質の使用を控えることによって、耐性菌が少なくなるのです。耐性菌が減れば、病気(細菌感染症)も治りやすくなります。

 「風邪薬」といって抗生物質を出す時代は終わったと思います。これからは、医師自身が耐性菌を意識した適切な抗生物質の使用方法を考えていかなければ、耐性菌が蔓延し、結局は自分の首を絞めることになりかねないと思います。