【話題】

[閑話ノート-60] 重箱の隅をつつくような研究

[閑話ノート-59] スモール・ハンドレッド

[閑話ノート-58] 一つの解があればいくつもの別解がある

[閑話ノート-57]  今日の一匹

[閑話ノート-56]  若き技術者諸氏へ_その9 「通説」

[閑話ノート-55] クリーンエネルギ

[閑話ノート-5] 指揮官

[閑話ノート-53] 若き技術者諸氏へ_その8 「つまらない仕事」

[閑話ノート-52] 若き技術者諸氏へ_その7 「報告書」

[閑話ノート-51] 個性を活かす

[閑話ノート-50] 五十

[閑話ノート-49] マッターホルン登頂ルート

[閑話ノート-48] 才気

[閑話ノート-47] 車の両輪

[閑話ノート-46] 尊い教え

[閑話ノート-45] JOKEをかます

[閑話ノート-44] 若き技術者諸氏へ_その6 「師は近きにあり」

[閑話ノート-43] 若き技術者諸氏へ_その5 「創る」

[閑話ノート-42] 若き技術者諸氏へ_その4 「伝説の出願」

[閑話ノート-41] 若き技術者諸氏へ_その3 「崖に咲く花」

[閑話ノート-40] 天然理心流

[閑話ノート-39] プロフェッショナル

[閑話ノート-38] 若き技術者諸氏へ_その2 「できるのにやりたくないこと」

[閑話ノート-37] キャッチャー前にヒットを打てる打者

[閑話ノート-36] 若き技術者諸氏へ_その1 「理屈と答え」

[閑話ノート-35]   知るは喜びなり

[閑話ノート-34]   格言

[閑話ノート-33]   仕事を楽しむ

[閑話ノート-32]   作り手目線

[閑話ノート-31]   測る

[閑話ノート-30]   つい足を止める和歌

[閑話ノート-29]   Engineer

[閑話ノート-28]   戦闘機と洗濯機

[閑話ノート-27]   内燃機関に革新をもたらした画期的アイデア

[閑話ノート-26]   何屋?

[閑話ノート-25]   どうしても1番でないといけないのでしょうか?

[閑話ノート-24]   漁師と釣り人の違い

[閑話ノート-23]   異床同夢

[閑話ノート-22]   念頭に置くべきこと

[閑話ノート-21]   細行を矜まずんば、終に大徳を累わす

[閑話ノート-20]   身をもって知ったこと

[閑話ノート-19]   未熟者

[閑話ノート-18]   運も実力のうち

[閑話ノート-17]   逆説?

[閑話ノート-16]   普通

[閑話ノート-15]  学びて思わざれば則ち罔く、思いて学ばざれば則ち殆うし

[閑話ノート-14]   Minority

[閑話ノート-13]   フィート・ポンド法

[閑話ノート-12]   お国柄

[閑話ノート-11]   躾

[閑話ノート-10]   九仞の功を一簣に虧く

[閑話ノート-9]   Be a Good Listener

[閑話ノート-8]   技術者と研究テーマ

[閑話ノート-7]   TechnologyEngineering

[閑話ノート-6]   力学

[閑話ノート-5]   閃き(ひらめき)

[閑話ノート-4]   要約の大切さ

[閑話ノート-3]   釘と金槌

[閑話ノート-2]   創造

[閑話ノート-1]   成熟分野の技術開発


[閑話ノート-60]重箱の隅をつつくような研究

 

若い人に対し「あいつは重箱の隅をつつくような研究ばかりしている」と批判する年配者がいるが、重箱の真ん中にあるおいしそうな御馳走だけ摘まみ食いしてきた人ほどその類のことを云うこと、

 

重箱の隅をつつくのには気力と体力が必要であり、若くないとできないということ、重箱の隅にはまだまだ御馳走が残されていることが最近分かってきた。

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[閑話ノート-59]スモール・ハンドレッド

 EVはエンジン(内燃機関)車と比較して構造が簡単なので従来の自動車メーカを頂点とするピラミッド体制に代り100社にもおよぶベンチャー企業や異業種からの参入企業の集まりを組織化して

 

大量生産を可能とし自動車業界に変革をもたらすという構想を米国の自動車メーカ「ビッグスリー」に対比させて「スモール・ハンドレッド」という。実現の可能性に関しては様々な見解、意見があるが

 

間違いなく言えることは公道を走行できるEVの製造を数十年にわたり持続可能な産業まで育てるのはスモール・ハンドレッドのままでは難しいということ。

 

 

映画作りに例えると世界一流の映画スタッフ−カメラ、照明、音声、等々のエキスパートを集めても映画監督がいないと「作品」として残せる映画は作れない。 以前大林宜彦監督がインタビューで

 

映画監督とは何かという問いに対し監督は映画のことは知る必要はないが、映画以外のことは何でも知っておく必要があると答えていたのが印象的である。映画監督に求められるパフォーマンスと

 

それを身に着けるための知識やキャリアはスタッフのそれとは異質のものであるというのだ。

 

 

車を安全に走らせ、方向を変え、止めるという単純な操作がいかに難しいかは数年前米国市場でのハイブリッド車のABSやオートクルーズに関するユーザ訴訟問題を見れば明らかであり

 

例えば乗用車の制御ソフトのソースコードの行数は最先端のテクノロジーを結集したジェット戦闘機や旅客機の数十倍にも達し、その中身は長年の実験、解析により得た知見、ノウハウの塊となっている。

 

自動車メーカと部品メーカの所有する情報データの違いはその「幅」であり、自動車業界の構造をピラミッド体制の支配−被支配という構図で捉えるのは的確ではなく、むしろ車全体は自動車メーカに委ね、

 

部品メーカは固有技術を自動車メーカから委ねられるというパートナーシップが成立していると捉えるのが正しいと思う。

 

 

日本のオートバイ産業には戦後、今風にいうとスモール・ツーハンドレッド(200)から始まり、これがホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキというビッグ・フォーに集約されていった歴史がある。

 

スモール・ハンドレッド構想の推進が新たなEV製造自動車会社1社とその系列グループを誕生させただけという結果に終わらせないための戦略が必要と思う。

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[閑話ノート-58] 一つの解があればいくつもの別解がある

 1972年、本田技研は当時世界一厳しい排気規制といわれた米国のマスキー法規制値をクリアする最初のエンジン「CVCC」の開発に成功した。

当時は3元触媒や電子燃料噴射技術が未だ実用化されておらず研究者間ではNOxHCを同時に低減するための最も有力な手段はリーン燃焼であるという認識で

ほぼ一致していたが混合気をリーンにすると点火プラグによる着火が困難であるという問題に直面していた。ホンダは副室を有する成層燃焼方式を採用することでこの問題をクリアした。

                          

            図−1   CVCCエンジン1                                                                 図−2ジェット(トーチ)点火エンジン2)                                       

CVCCはエンジンヘッドに主室と連通する小さな副室を持ち、これにリッチな混合気を、主室にはリーンな混合気を供給し、副室に設けた点火プラグで混合気に着火すると

高温の半燃えガスが高速ジェットとなって主室へ噴出し、主室内のリーン混合気にも着火できるというものである。(図−1)

副室からのジェットで主室の混合気に着火するというジェット点火のコンセプトは「Russian Jet」という名称で既にロシアの軍用車両の多種燃料エンジンにおいて研究が進んでおり*

*広大な国土を持つ当時のソ連では軍用車両の燃料補給が断たれても代替燃料で動くエンジンが必要であり、国土の何処でも調達できる飲用のウオッカ酒で走ることができることが開発の目標であった。

本田技研のWebサイト「語り継ぎたいこと 〜チャレンジの50年〜」の「CVCCエンジン発表」の中でもソ連の研究をヒントにした旨の記述がある。ホンダの功績は副室エンジンを

排気対策用として研究し、乗用車のように使用回転数、負荷が広範囲に及ぶエンジン向けに実用化したことである。またもう一つの功績は米国メーカBig Threeが議会公聴会で

展開したマスキー法レベルの排ガス達成は不可能であり同法は米国自動車産業を潰してしまう悪法であるという主張を覆したことである。CVCCの成功をきっかけに本格的な

排気対策技術の開発競争が始まり、筆者がオートバイ会社に入社した1974年当時はCVCCに勝るエンジンの開発を目指して国内の自動車メーカの技術陣は鎬を削っていた。

   

   図−3 トヨタTGPエンジン3)                                                                                     図−4   三菱自 MCA-JETエンジン4)

トヨタは国内51年排気規制に対応するトヨタTGPシステムを開発した。シリンダヘッドにTGP(Turbulence Generating Pod:乱流生成壺)と称する副室を設け圧縮中に副室に流入する

フレッシュな混合気に2極プラグを用いて点火すると副室内で発生する強い乱流により急速燃焼が起こり副室から主室へ強い噴流火炎が噴出して主室内の希薄混合気に着火するというものであり

エンジン構造上は副室(Sub-Chamber)の一形態に見える頭部空洞を敢えて壺(Pod)と呼んでいる。(図−3)

 

 また1978年三菱自は国内53年規制に適合させたMCA-JETを実用化した。シリンダヘッドに設けた第3のバルブ(JET VALVE)から吸入した空気または希薄混合気による強い筒内流(スワール)を

生成して希薄混合気の燃焼を促進するものである。(図−4) 同社が米国SAE学会に発表した論文はMCA-JETの開発ストーリーともいえる構成になっており興味深い。4)

それによると研究の第1ステージのコンセプトは完成されたMCA-JETとは異なるもので頭部の副室に超リッチな混合気(空燃比3:1)をピストンで圧送し吸気バルブから吸入した希薄混合気と混合させて

プラグ付近に適正混合比の混合気を集め点火しようとする構造(図−5)の成層燃焼エンジンであった。したがってリッチ混合気に代り空気を送ったら当然ミスファイアが起きると思い試みたらリッチ混合気を

送った時のデータと何ら相違がなく、また窒素100%ガスでも同様の効果が得られた。(図−6) このことから当初の狙いの成層化ではなくピストンで送ったガスが作るスワール流が燃焼促進に寄与していることに

気が付きピストンを小径バルブに変え、リッチ混合気をリーン混合気に変えたMCA-JETが生まれたという。 MCA-JETの開発に際し同社が行った筒内流動対燃焼に関する研究がその後のリーンバーンMVV

直噴ガソリンGDIの開発に継承されていったものと思われる。またこのほかにもスバルはSEEC-T、日産はNAPS-Zなど独自の排気対策技術を開発している。 

    

       図−5  MCA-JETに先立つ三菱自試作エンジン4)           図−6 試作エンジンの排ガス、燃費性能4)        図−7 完成したMCA-JETエンジン4)

 

最近は’70年代の排気マスキー法に匹敵するような厳しい燃費規制が施行され、欧州ではダウンサイジングターボ技術が主流となっている。欧州市場では元々ターボディーゼル乗用車の

比率が高くターボ過給ガソリンエンジンは自然のトレンドである。最近は国内でも一部このトレンドが見られるが誰かが見つけた一つの解に皆が向かうと技術は収斂してしまい進歩も止まる。

NA(自然吸気)ベースの別解を求める国内メーカから次世代エンジン技術が誕生するのを期待する。

1) CVCC特許出願願書

2)長尾不二夫著 内燃機関講義   

3) エンジンの事典 朝倉書店

4) SAE 780007 Development of a New Combustion System(MCA-JET) in Gasoline Engine

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[閑話ノート-57] 今日の一匹

 

家族に今夜のおかずに釣りたての魚を約束し勇んで防波堤に出かけた釣り人が一匹の釣果もないまま夕暮れが迫り家族への言い訳を考えていた。

 

そこに通りかかったA氏が何を狙っているか尋ね、ならばその魚は○○目、△△科で岩礁地帯に生息しており春になって海水温が何度より高くなり

 

潮汐が大潮の上げ潮7分の時に活発にえさを追うと教えてくれた。釣り人は今日の季節は冬でしかも今は小潮の引き潮だがこんな時はどうすれば釣れるか

 

尋ねたがA氏は地元の釣り師に聞くように言った。

 

がっかりしていると地元の釣り師B氏が通りかかり、こんな時は餌を○○に変え仕掛けを△△にして餌を底まで落としたあと30cmほど上げて上下にしゃくれば

 

時々食いついてくるとアドバイスしてくれたので釣り人は喜んでさっそく餌と仕掛けを変えようとしていた。

 

そこへ肩からクーラーを下げて通りかかったC氏が狙いの魚で一杯になったクーラーを開けて見せ、さっきまでテトラの隙間に糸を垂らしていたら入れ食いだった、

 

餌も仕掛けもそのままで構わないからそこへ行くようアドバイスした。釣り人は迷わずC氏のアドバイスにしたがい無事家族との約束を果たすことができた。

 

釣り人に今日の一匹を釣らせるだけならC氏のアドバイスが最高かつ十分である。釣り人が今日の釣果に味をしめて来週も釣りに来るようならB氏のアドバイスが役に立つ。

 

さらに釣りの面白さに目覚め釣り師を目指すようなことになればA氏から学んだ知識も役に立つ。

 

ただ今日の一匹を釣らせるアドバイスができないことには何も始まらない。

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[閑話ノート-56] 若き技術者諸氏へ_その9「通説」

 

最近、自動車の燃費、排ガス規制が厳しくなり直噴ガソリンエンジンを搭載する車種が増えています。

 

自動車やエンジンに関する読本やインターネットWebサイトでは直噴エンジンは敢えて筒内混合比に濃薄分布をつくらない均一混合気運転(ストイキ直噴)を行ったとしても

 

バルブやシリンダ内壁に燃料の液滴が付着しないように燃料を筒内に噴射し燃料が気化する際に空気から直接気化熱を吸収するので気化終了時の混合気の温度が

 

吸気管噴射の場合より低くなり

 

@圧縮比を高くしてもノッキング(自己着火)が生じにくく結果として燃費が向上し、A混合気の密度が大きいのでシリンダに充填できる混合気質量が増し、

 

結果として出力が向上するなどのメリットが得られると解説されています。

 

以前、直噴エンジン技術に関わる何人かの若いエンジン技術者にストイキ直噴のメリットについて尋ねたことがありますが一様にこの「通説」が答えとして返ってきました。

 

自分の考えはこうだという答えを期待していただけにとても残念です。

 

上記の説は直噴化によるエンジン燃費、出力向上のメカニズムの一部を説明しているに過ぎません。

 

たとえば定容容器に液体燃料と空気を入れ時間をかけて燃料を気化させるような静的条件では高温壁に燃料滴が付着しないようにして燃料を気化させれば

 

確かに生成された混合気の温度は低くなるでしょう。 ただエンジンシリンダ内のように圧縮によって容積、圧力、温度が変化していく動的条件では混合気温度変化は

 

気化速度パターン(いつどれだけの量の燃料が気化するか)によって影響されます。簡単なシミュレーションにより同じ量の燃料を圧縮開始後早期に気化させた場合

 

(吸気管噴射想定)と、燃焼開始直前に一気に気化させた場合(直噴想定)を比較するとTDCにおける混合気温度は前者の方が低くなることがわかります。

 

 

このようにエンジン内現象は1つのメカニズム、1つのパラメータで説明できるものではありません。例えば

 

@のノッキング耐性については未燃混合気が生成されながら燃焼による圧力上昇により強く圧縮される過程、履歴の違いが大きく影響しており、

 

Aに至ってはそもそも吸気管を通って空気と燃料がシリンダに吸い込まれるところから出発して考えないと本当の原因は見えないと思います。

 

通説とはいくつかの仮説のうち単に多数が支持しているに過ぎないものをいいます。通説を鵜呑みにして知識量を増やしても既存の技術を覆すような

 

新しいアイデアに辿りつくことはありません。

 

「書悉(ことごと)く信ずるは書なきにしかず」 「学びて思わざれば則ち罔(くら)し」という言葉があります。

 

若い人には自分でとことん考え追及する習慣を身に着けてほしいと思います。

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[閑話ノート-55] クリーンエネルギ

 

筆者の住む静岡県西部では中部電力浜岡原子力発電所の近くの遠州灘海岸に御前崎風力発電所が建設され発電性能2MW(0.2kW)の風車発電機による営業運転が行われている。

 

同発電所の公表データによると風車は高さ80mの支柱と長さ40mの回転翼3枚(回転直径80m)をもつ建造設備であり、1基で1500世帯の電力需要をまかなえるという。 

 

 一方下の写真はデンマークの海上風力発電ファームで発生した無数の雲を撮影した映像である。 回転する風車の後ろにはWake(ウェイク;後流)とよばれる空気の流れが発生するが当日の

 

気象条件により航跡雲が発生しその姿を浮かび上がらせたものと思われる。 この写真は風力発電システムが大規模になると自然への影響を無視できなくなることを想像させる一枚となっている。 

 

   

      米国 NOO(National Oceanic and Atmospheric Administration) Web サイトより

                     

 

1)   風車(Wind Turbine)の簡単な物理学

 

風車の前方(風上)から風車に向かって風が吹いている場合風車前方の流域では風車に近づくにつれ圧力(静圧)が高くなり風は弱くなる。これは風車が風を受け止めて回転するからであり例えば風車が最大

 

効率で仕事をしている時に発生する空気抵抗は風車直径の0.9倍の円盤を風に向かって立たせたときの抵抗に等しくなる。 こうして風車の前面で堰き止められ、圧力を高められた空気は風車を通過するとき

 

その圧力エネルギを翼に与え翼はその反動により回転する。風車背面の圧力は前面に比べて大きく低下し周りの大気圧より低くなる。一方風速は風車の前面、背面で余り差はない。

 

更に後流域の中で圧力(静圧)は大気圧に向けて回復していき風車から或る程度離れた後流域の圧力は大気圧となり、風速は風車の風上の自然風速に比べると小さくなる。 後流内の風のエネルギは風上

 

より風速が落ちた分小さくなるがこのエネルギ損失が風車の回転エネルギに与えられたことになる。風車の理論によると後流の風速が風上の風速の1/3の時風車の効率は最大となることが分かっておりこのとき

 

風車へ導かれる自然風はその運動エネルギの8/9を失う。 また風車から十分に離れた位置では後流も次第に自然風の中に拡散し消滅するが、その過程でも後流内で弱まった風を自然風と同じ速度まで加速

 

するために風車を通過しなかった自然風がエネルギを与えることになる。 

 

  

                   <風車の簡単な物理モデル>

 

      <風車が回転している時、風車は風を止める目に見えない衝立となる>

            

2)自然エネルギの利用とは

 

 東京電力の最大発電電力量は約5,000kW(2015.夏期データ)であり、そのうち東京都内での最大消費電力は1,450kW2013年度データ)というデータがある。

 

その10%に相当する145kWを風力発電で供給しようとすると、例えば定格発電電力2MW(0.2kW)/定格風速10mの風力発電機なら725基が必要である。 

 

風車の後流の干渉をさけるために風車間の間隔を直径の5倍にすると間隔は80mx5=400mとなり横一列に並べたら400mx725=290kmとなる。これを縦5列に並べても58kmになる。

 

将来もしもエネルギ地産地消の原則に則り東京都が海上風力発電ファームを建設しようとすると東京湾の海岸線に58kmに亘り風車を縦5列、横125列に並べることになる。したがって

 

もし夏の昼間東京湾に風力発電機が最も効率良く発電できる風速10mの風が吹いており風車が全て稼働していたとすると東京湾沿岸に直径72mの巨大な衝立が725枚立っていることになる。

 

海面付近の海上風は表面に波を立て海水の流れを引き起こすことで海の生態系を維持する役割を持っているが風車による影響はないか、また現在首都のヒートアイランド化が問題となっているが

 

昼間海から陸に向かって吹く海風を風車群がさえぎるとしたらヒートアイランド化に拍車をかけることにならないかなど、様々な環境アセスメントが必要と思われる。これは風力発電に限った話ではなく

 

水力発電、潮汐発電、波力発電、太陽光発電等々自然エネルギの大規模利用計画全般に対して言える。

 

人間が自然からエネルギをもらうという行為は本来の自然エネルギ循環を強制的に変えるという行為である。 自然エネルギは化石燃料のような有害排気物質を出さないという意味ではクリーン

 

であるが、人間が利用することで自然の循環システムに直接影響を及ぼすことを忘れてはならない。しかしどのような影響を及ぼすかは大規模シミュレーションによっても予測できないかも知れない。

 

なぜなら人間は自然のことを知らなさすぎるため正しいシミュレーションモデルを作ることさえ困難であると推測されるからである。

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[閑話ノート-54]  指揮官

研究や技術開発部門の技術者は経験を積んでいく中でスペシャリストに成長する者もいれば組織の指揮官として頭角を表すものもいる。

元々がスペシャリスト志向の者に学校時代の研究テーマをそのまま企業でも継続させるのは好ましくない。いくつか異なる分野の仕事を経験させると、自然に一つの分野が得意になり

それが本人にとってのスペシャル分野になる。各分野の指導者となるスペシャリストはNo.1としての自覚と責任を持ち組織内の若い人から尊敬され目標とされる人が相応しく、

自分の価値観を押し付け実は組織の蓋となっていることに気づかず、若い人から陰で老害を訴えられるような人であって欲しくない。

 

 将来、組織の指揮を担う技術者はどこかで1回は研究や開発の苦しみを経験した方が良い。そうしないと組織のトップとして技術開発を指揮するようになった時、

開発現場の声に耳を貨さず、成果を計数評価で厳しく管理し、失敗には懲罰をもって報いる暴君のような指揮官になる恐れがある。技術開発部門の指揮官に求められるのは

組織が用意した枠に入りきれない技術者や開発テーマをマネージメントできる能力であり、この能力をもつ人材が育っていないと組織から画期的技術や成果は生まれない。

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[閑話ノート-53] 若き技術者諸氏へ_その8 つまらない仕事」

仕事がつまらない、職場で孤独感を感じると悩んでいる人へ。私はいろいろな機会に若い技術者と接しますが、私から見ても「つまらない仕事」をさせられている人をお見かけしたことは

一度もありませんし、第一どこの会社も若い人にそんな仕事をさせる余裕はないと思います。

 私事になりますが、私はオートバイ会社に入社後1年半ほど低公害エンジンプロジェクトの仕事に従事したのですがプロジェクトが終了、解散となりチームのメンバが次々に別部署に

移籍していく姿を見送ったあと一人だけ取り残されて与えられた仕事は過去社内に存在した多くの低公害エンジンプロジェクトのプレゼ用ポスターを写真撮影してアルバムに残す仕事と、

エンジン吸気系に関係する過去の社内実験報告書を調査し資料にまとめるという仕事の2つでした。それまでの仕事とのギャップとチームから一人取り残された孤独感から「つまらない仕事」

という思いを抱いたまま半年ほど過ごしました。この間、実験部の報告書ファイルの閲覧許可を得ようと責任者のところに行へば「過去をほじくり返して何になるんだ なにか新しいことをやったらどうだ」

と散々嫌味をいわれ、それでもコツコツと資料を集めて報告書にまとめ終わった頃上司へ直接報告する機会が巡ってきました。

久々に自分の話を聞いてもらえるという嬉しさと緊張感の中説明を始めるとすぐに「ちょっと待て、お前。これはただ調べて整理しただけじゃないか。」という前置きに始まりあとは報告書全体から

細部に至るまで怒涛の指摘が続いた挙句報告は打ち切りとなりました。しかしこの間じっと上司の指摘を聞いているうちに自分がこの仕事の持つ意味を誤解していたことに気づきました。

そしてもう一度計画を立て直して始めたテーマがその後に続く自分のキャリアの出発点になりました。

面白い仕事、つまらない仕事というのは本人の感情を表しているものであり事実を表すものではありません。私の体験談があなたが自分の仕事を見つめ直すきっかけになったら嬉しく思います。

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[閑話ノート-52] 若き技術者諸氏へ_その7 報告書」

 日頃から報告書を書く機会が多いと思います。報告書には定期的に書く日報、週報、月報等と業務の節目や報告すべき事が生じた時に書く技術報告書などがあります。

たとえA4一枚の報告書でもその種類が多いと作成が煩わしいものですが、普段から仕事の目標を明確にし、日程計画をしっかり立てておけば今日、今週の状況(STATUS)は

口頭でも文章でも手短かにまとめて説明できると思います。ここからは主に技術報告書(研究、設計、実験、解析等)についての話をしますが報告書には会社で定められた定型書式があり

「報告書はこう書け」というガイドラインがあると思いますので、今回は「こんな報告書は書くな」という内容を列挙したいと思います。

@作成日付や作成者名が間違っている

 PCで作成したファイルをコピーし一部分だけ修正して保存する場合にうっかり日付の修正を忘れることがあります。

 名前を間違うというのは業務を遂行した人と報告書を書いた人が違っていたり、業務に関わっていない人の名前が連名で記載されていることを意味しています。

 ごく稀にですが報告書が外部へ提出する証拠書類となることもありますので最後に必ず確認してください。

A誤字脱字がある

 最近はPCの漢字変換時のうっかりミスがあります。重要な部分での「てにをは」の間違いが大きな誤解を与えることもあるので注意が必要です。

B余計なことが書いてある

 報告書の目的、主旨と関係ないことや他の人が行った業務を代行して書いてあるもの。失敗報告書とされるものの多くがこれです。

C避けた方がよい表現・記述がある

 ◆事実確認がされていない内容が書かれている

  「・・・といわれている」「・・・とされている」とだけあり誰がそういったか、誰がそうしたかの引用情報がないものは、それが事実と違った時の責任逃れに見えます。

  またこのような記述は報告者が自分で考えたり調べたりする習慣のない人であると思われる可能性があります。

 ◆投げやりな心情が書かれている

  「・・・・という結果になってしまった。」「・・・・という結果に終わった。」という記述には得られた結果が最終結果でありこれ以上やりようがない、やりたくないという心情が露呈しています。

   自分の期待通りの結果となっても期待外れの結果となっても「という結果が得られた(を得た)。」と事実をそのまま書きましょう。また意に沿わない結果となった時はその原因を考え

   今後の対策案も挙げましょう。

   以上2つは報告書のテクニカルな問題ではなく業務への取り組み姿勢の問題ですが。

 ◆結論に決定(デシジョン)めいたことが書かれている  

  「当面実用化は難しいと判断し、研究・開発を終了とする。」またはこれに類する報告者自身のデシジョンが書かれているもの。デシジョンは報告書に書くべき内容ではなく 当該テーマに関し

責任ある立場の人があなたの報告書を判断材料の一つとして別の報告書の中で書くべき内容です。もしかしたら自分なら実用化できると名乗り出る人が周りにいるかも知れないし、またあなたが

このように書いた報告書が回覧されて間もなく他社が 実用化に成功したら言い訳に回らなければならなくなります。 「結論」には成果と未解決の問題や課題だけを簡潔にまとめて列挙しましょう。

 

 以上どれも当たり前の話ばかりですが。

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[閑話ノート-51] 個性を活かす

 美術館展示会場の片隅でよく見かける不思議な置物

写真: http://www.printing-museum.org/blog/?p=2656

 先日或る美術館で開催されていた海外の有名画家の絵画作品を集めた展覧会を見に行き、展覧会の主役作品の前に進もうとした時、後ろから母親と一緒にやってきた少年が

私の横を小走りで通り抜けていったがその子が向った先は当の作品ではなく会場の湿度を記録する打点湿度計の前で、彼はその場にしゃがみ込んでチャート紙の上に黒点が打刻される様子を

食い入るように見ていた。それを見た母親が驚いて一言「えっ そっち? こっちなんだけど」 母親は子供には本物を見せなさいという教育評論家の言葉にしたがい世界一流の作品を見せようと

やってきたものと思うが子供にとっては会場の片隅においてある不思議な置物が作品だったのだ。子供の好奇心は大人が書いたストーリーなどはるかに超えて行く。

 

 米国のベンチャー企業に十年来社長の両腕として活躍してきた二人の男がいた。社長によると一人はMathematicianで同社が開発する全てのソフトウェアの計算アルゴリズムの構築を担当し

要求通りに動くプロトタイプを驚異的なスピードで作成できる。もう一人はComputer Scientistで全てのソフトウェアのコーディングに関わっており全てのプログラム言語をマスターしている。

また一人は使いながら学ぶタイプで新しく学んだことをすぐに使ってみる。もう一人は学んだ後納得してから使うタイプで'それ'が何たるかを完全に理解するまで絶対に使おうとしない。だから一人にまず

要求通りに動作するプロトタイプのプログラムを作らせ、もう一人にソフトウェア製品に仕上げさせるという。最初に書かれたプログラムは自由奔放にコーディングされているが製品になるときは完璧なコーディング

ルールに則ったものに変わる。二人の関係はうまくいっているのかと尋ねたらお互いに相手をリスペクトしているので問題ないそうだ。ちなみに社長自身は化学、情報工学、および社会科学の3つの学科を卒業している。

興味を持った順に学んだと云っていた。

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[閑話ノート-50] 五十

  20062月から始めた[閑話ノート]がいつの間にか50話になった。そこで今回は五十に纏わる話としたい。

五十歳は何かと人生の節目の歳とされる。昔は人間五十年といわれていたことや中国の論語にある五十にして天命を知るという有名な一節も少なからず影響しているのではなかろうか。

論語によると孔子は自分の人生を振り返り、我十五にして学を志し、三十にして立ち、四十にして惑わず、五十にして天命を知り、六十にして耳順い、七十にして心の欲するところに

従えども矩を越えなかったと語ったという。つまり若い頃に志を立て一途に努力したおかげで五十歳にして天が自分に与えた使命を知り、それ以降は自然体で生きても困ることはなかったというのだ。

五十歳までの生き方がその後の人生を決めるということを教える話であるが、その歳を超えて久しい者にとってはただ胸が痛くなるだけである。

一方他の中国故事には『遽白玉、行年五十にして四十九年の非を知り、六十にして六十化す。』(思想書 淮南子(えなんじ) 遽白玉は孔子と同時代の人 )とある。

「遽白玉という人は五十歳の時にそれまでの自分の四十九年間が全て誤りであったことに気づき、その日から心と行動を改めたところ六十歳になった時には六十歳にふさわしい人間になることができた」

せめてこの逸話にある遽白玉の生き方を手本にと思っては見たのだが、疾に六十歳も超えてしまった。

 

技術屋の総合能力(知力x体力x気力x経験力)のピークは五十歳という説がある。そこで四十代の方はピークに向けて日々邁進していただきたい。既に五十代の方で過去を顧みて改心したほうが

よいと感じたら迷わず改心し六十歳に向けて邁進されることをお薦めする。技術屋を乗せた車は一旦ギアをニュートラルに入れて惰行運転に入るとその後ギアが入らずアクセルを踏んでも空吹かしに終わることを

お伝えしたい。

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[閑話ノート-49] マッターホルン登頂ルート

   

  

マッターホルン北東ヘルンリ尾根1)                            マッターホルン南壁2)

 

1) http://www.snow-reports.net/essay-matterhorn-392-XL.jpg              

2) https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/40/Cervino_versante_sud.JPG

 

 

スイスとイタリアの国境に聳える標高4500mの独立峰マッターホルンは昔から霊峰と崇められ19世紀半ばまで処女峰であった

初登頂に成功する前、登山家達は岩が多く登山ルートが多く選べる南壁面から登頂を目指したものの落石に遭い尽く失敗していた。

一方北東スイス側のヘルンリ尾根は麓から見るとまるで切り立った刃物のような様相を呈しておりこれを登るのは不可能という先入観があり挑戦する登山家はいなかった。

英国人E.ウィンパーは南壁ルートで失敗を繰り返した後、山全体を観測しなおしヘルンリ尾根の斜度は見掛けほど大きくなくしかも落石の危険も少ないことに気付き1865年常識を

覆して尾根ルートに挑み初登頂に成功した。

現在世界中のメーカが進める自動車燃費技術は欧州主導の壁面ルートに見えるが果たして皆が登頂に成功できるのか。尾根ルートはないのだろうか?

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[閑話ノート-48] 才気

才気あふれる人のことを例えて「一を聞いて十を知る人」という。

正解があることが保証されており、制限時間がある問題を出されたら一を聞いて十を知る人には誰も敵わない。

しかし正解があるという保証がなく、制限時間もない問題ではどうか。この種の問題は新技術の研究開発において現れる。

これに取り組もうとする時、むしろ才気が邪魔をすることさえある。才気が邪魔をする人は得体の知れないものを一度見ただけで

そこに潜む十の危険を察知し、体裁の良い言い訳を思いつきその場を離脱する。得体の知れないものはいつも危険に満ちて見えるが、

危険を承知で足を踏み入れないとその正体は暴けない。

あふれる才気の持ち主はそれを仕舞っておかずに、縦横無尽に使われるよう望むものである。

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[閑話ノート-47] 車の両輪

 技術開発を車に例えると実験計測と解析はその両輪にあたると云われる。それだけに両者の結果は常に相互検証される必要があるが、従来は計測データの方が真値と見做され

解析計算精度はそれとの誤差で評価されてきた。しかし最近ツールの進歩により解析精度が向上するにつれ、計測技術にもより高い精度が求められるようになってきた。

先般、新たに開発された計測法により計測した圧力データがそれまでずっと合わないとされてきた解析結果と非常によく一致したことから、実はそれまでの計測データの方に誤差があった

ということが判明したとの報告があった。計測技術も解析技術も合わせて進歩しないと車はまっすぐ走れず行先を誤ることになる。

 

 計測技術分野ではレーザ等の光学技術やコンピュータ画像処理技術の進歩により新しい光学計測法が登場し現象解明に応用されるようになってきたが従来から行われている圧力、温度や流量などの

計測においては計測自動化やデータ統計処理の進歩以外にセンサ自体の精度向上などは見られない。 したがって精度を上げるには計測過程で生じる2次的誤差(計測の負荷効果その他の人為的誤差)を

極力小さくするなどの対策が必要となり計測技術者には計測の対象である物理現象自体を含めたより深い知見が必要となる。

 

 一方解析技術者は少なくとも解析対象が何物かをよく理解しないといけない。そのためには実験室に足を運び実物が動いている現場を目にするのがよい。また計測技術者とのコミュニケーションが取れない

といけない。コミュニケーションには共通言語が必要であり、会話に使われる技術用語や計測方法や誤差に関する基本知識が要る。そうしないといつも聞き役に回るだけで双方向コミュニケーションが成立しない。

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[閑話ノート-46] 尊い教え

 「少年老い易く学成り難し。一寸の光陰軽んずべからず。」小学生の頃、当時既に60歳を越えておられたであろう師からこの詩を教わり、大きくなっても忘れぬよう生徒皆で

何度も唱和させられた。 ところが教えはいつのまにか忘却の彼方に去っていき、師と同じ年代となって再び詩を目にした時、いかに尊い教えであったかを知らされることに相成った。

 学んだことが定着するかどうかはその時本人がおかれた状況・精神状態が大きく影響し、感動した時など気持ちが高揚している時は学習能力も高まると聞く。しかし身の回りで

感動するようなことは滅多に起きるものではない。一方、想定外のことが起きたり云われたりして衝撃を受けた時にも学習能力は高まる。若い頃に自分や友人が先達に直言

された教えは忘れられない言葉として長く残っている。

 

・講釈師のような、まるで見てきたようなウソをつくな。

・教科書にないことをやらせているつもりだったのに、お前はさっきから教科書に書いてあることばかり言っている。

・自分がいないとこの仕事はできないと思いあがっている奴は給料泥棒だ。自分がいなくなっても代わりのできる奴を用意しておくのがお前達の仕事だ。

・お前の説明は難解だ。解っていない奴ほど難しい専門用語を使って逃げようとする。解っている奴の説明は素人が聞いてもわかる。

・夏炉冬扇、大鑑巨砲の意味を調べて教えてくれ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

短く具体的な教えに勝るものはないと思うが、最近はそれを咀嚼できない人がいて思わぬ事態になったりするので注意が必要とのことである。大変な時代になったものだ。

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[閑話ノート-45] JOKEをかます

先般、英国の国民投票でEU離脱が決まったニュースは世界を驚かせたが一番驚いたのは英国国民自身であったようだ。

英国にはパニックに陥っていることを悟られるのを恥としピンチの時こそJOKEをかませる余裕を見せる人が尊敬される風土があると聞く。

離脱が決まった翌日、報道が前日の英国内のインターネット検索キーワードランキング一位は'EU'であったと伝えていたが、この行動は彼らが他のEU諸国に

向けてかませた一流のJOKEだと思う。「えっ、EUなんて知らないけど何? これは一度調べてみなくてはいかんな」という具合に。

 

 以前英国人を助手席に乗せて車を運転している時に、自分が貴国に行ったときヨーロッパ大陸では車は皆右側通行左ハンドルなのに貴国だけ

左側通行右ハンドルなのはなぜかと聞いたら奴らは100年以上たっても自分たちの間違いに気づいていないだけだという答えが返ってきたという話を仕向けると

彼が真面目な顔をして言うには

『20世紀初めまではヨーロッパやアメリカでも車は皆左側通行だった。騎士が道ですれ違う時に左腰に下げた剣同士が当たるのを避けるため左側を通行していたことや

馬車の御者は運転席右側に座っていたので馬車は自然に左側通行ルールになっていたことの名残だった。ところがT型フォードが設計された時、操舵系設計担当者

が左右間違えて設計してしまいそのまま車が生産されたのがきっかけでアメリカ中が左ハンドル、右側通行になっていき大陸の連中もそれに従った。』

結局英国人に云わせると左ハンドル右側通行は合理的理由からでななく何らかの勘違いに由来したものだと云いたいことだけは確かなようである。

 

それにしても感心するのは『左ハンドル』という話のきっかけをもらっただけでこれだけの真実味のあるものから真偽の程が怪しいものまで話を広げることのできる

雑学の豊富さと疑わしい話でも本当らしく語ることのできる術である。最も相手がJOKEの部分は聞き流してくれるものと信じて語っているものとは思うが。。。。

JOKEは大人の社交術の一つと考えられるが、それを創作するには広く雑学が必要で、それを咄嗟にかますには柔軟な頭と精神的余裕が必要であり

機知に富んだJOKEを言える人が尊敬される理由がわかるような気がする。

ただ誰にでもJOKEがうけるとは限らないようで、先の英国人が『ロシア人相手にJOKEを言うのは気を付けろ。』と教えてくれた。 これもJOKEかどうかは定かでない。

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[閑話ノート-44] 若き技術者諸氏へ_その6 「師は近きにあり」

身の回りに多くの師がいるにも拘わらず、師をいつも遠くに求める人がいます、その人の中には「人・物の価値は自分からの距離に比例して高くなる」という法則があり、したがって

師と仰ぐNo.1は海外の学者や有名研究者、No.2は国内のライバル他社、No.3は社内他部門、そして最下位のNo.4が職場の上司・先輩・同僚ということになります。

隣の庭の芝生はいつも浅い角度でしか見ないのでいつも青々と見えますが上から直に見ると実はあちこち枯れていたり草が伸びていたりします。自分の庭の足元を手にした道具で

掘っていると自分の周りには色々な教えを請うことができる熟練の庭師がいることに気付きます。そして掘り続けると・・・・

「師は近きにあり、然るにこれを遠きに求む」、「宝は自庭深きにあり、然るにこれを隣庭浅きに求む」では師には巡り合えず宝も掘り当てられません。

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[閑話ノート-43] 若き技術者諸氏へ_その5 「創る」

元ヤマハ発動機(株)の社長、長谷川武彦氏がその著書で以下のように書かれています。

『創造の「創」という字の「倉」には傷という意味があるそうです。確かに創傷、槍などと、「創」には傷関係のある言葉や字が多い。創は砥石に刀を当てている様子を描いたもので、

傷口が盛り上がって元に戻る生命力を示しています。こんなことからも、傷を恐れずチャレンジすることこそ創造の源だと解釈しています。』 またある新聞への寄稿文で

『技術者が傷を負いながらも作り上げたものでないと人を感動させることはできない』とも書かれています。

筆者の父は14歳から89歳で亡くなる直前まで生涯現役を貫き、数多くの機械・プラントの発明・設計に携わった技術者でしたが、子供の頃父がよく不眠に悩まされていたことを覚えています。

筆者が同じ技術者の道を歩み始めた頃、『新しい機械を考えている時は夜アイデアが浮かんでは消えて眠れず、機械の完成が近づくと不安と焦りで眠れなくなる。眠れないのは技術屋の職業病だ。』

と語ったことがありました。

 

産みの苦しみは技術者が受容れなければならない一種の宿命だと思いますが、勿論毎日苦しみ、傷を負っていては体がもちません。 毎日の仕事において必要なのはむしろ楽観主義です。

新しい事に挑戦する時に確固たる自信のある人はいません。この時僅かな自信の助けとなるのが楽観主義です。何回トライしても良い結果が出ない時にこれ以上やってもダメだろうと思うと

先に進むことができません。次のトライでは絶対良い結果が出る、もしダメなら違う方法があるという根拠のない予測のできる楽観主義が粘り強く逆境に屈しない技術屋に共通の素質だと思います。

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[閑話ノート-42] 若き技術者諸氏へ_その4 「伝説の出願」

ノーベル物理学賞を受賞された中村修二さんの青色ダイオードの発明に関する特許として有名な2628404号(通称404号)特許の出願願書は僅か6頁、請求項は1項のみ

であり特許審査に関わる方々の間では伝説の出願になっていると聞きます。 これが何故伝説になるのかは発明者として特許願書の作成に関われば自ずとわかります。

またわずか2頁の論文でノーベル賞を受賞した研究者もいます。科学技術における結論は簡潔に要点を全て表現し尽くしたものほど優れており、補足は結論の不完全さの言い訳といえます。

簡潔な表現ができるためには普段から複雑な問題を簡素化して考える習慣を身に着けて置く必要があります。結論は簡潔にと言っておきながらこれ以上長々と補足することは本意でないので今回の話は

これで終了としますが、最後に著名な経営者の方の言葉を紹介させてもらいます。

「馬鹿な奴は簡単なことを難しく考える。賢い奴は難しいことを簡単に考える。」 これからの長い技術者人生で何かの参考にしてもらえれば幸いです。

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[閑話ノート-41] 若き技術者諸氏へ_その3 「崖に咲く花」

新種の花はいつも崖の途中に咲いています。崖の上の平地の方が土壌もよく日照条件も優れているはずなのになぜか。平地に咲いた花は羊が草と一緒に食べてしまうからです。

好奇心のある人は崖っ淵まで行ってそっと下を覗き込み花を見つけますが手を伸ばして花を摘むには勇気がいります。勇気があっても無鉄砲な人は崖っ淵に腹這いになり手を伸ばして

花を摘もうとして崖下に転落します。花を摘める人はロープを準備しそれを伝って崖に降りていく、好奇心と勇気と用意周到さを備えた人です。

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[閑話ノート-40] 天然理心流

最近、元新選組隊士斉藤一(はじめ)の明治30年頃の肖像写真が見つかったというネット情報や新聞記事を見かけた。撮影当時の年齢は五十を越えておりその表情は穏やか

であるが死線をくぐり抜けた武士の鋭い眼光が印象的である。

新選組といえば近藤勇以下隊士の多くが現在の東京多摩地方の農民や下級武士の出身であったことが知られている。筆者は学生時代東京小金井市に住んでいたことが

あるが近くの公園に近藤の生家跡がありその傍に近藤神社という小さな社があった。神社には近藤が天然理心流道場の稽古で愛用したという木刀が祭られており、その異様に太く無骨な

木刀が発する迫力と威圧感は近藤勇という武士の凄味を今に伝えるとともに天然理心流が明らかに他とは一線を画す流派であることを物語っていた。

天然理心流は多摩地域の農民向けの護身術として普及した剣術、居合、小太刀や柔術などからなる総合武術でその演武からは武士同士の堂々の果し合いを想定したもの

ではなく不意打ちに会った時などの不利な状況を想定して「負けない」ことに重点を置いた実戦的、合理的な武術であることがわかる。 歴史家によると剣道の防具を付けて竹刀で

立ち合ったら江戸市中にある諸流派に敵わないものの、生死を賭けた真剣勝負では無類に強かったとのことである。

 

さて時代は江戸から現代にワープする。 最近自動車産業界では製品開発にCAEが普及し、欧州のエンジン研究機関などは委託されたエンジン開発においてその80%CAEを使って

進めることができると自慢する。しかし実際にはその80%の中身はCAEの答えを実験・設計データベースに照らして答え合わせができるものに限られておりCAEの答えを何の裏付けもなしに

設計に採用することはない。 彼らの真の強味はCAEを駆使することではなく日本や欧州、さらに最近では中国のメーカからの潤沢な委託研究費を使って構築された膨大なデータベースを

有することなのである。

CAEはいわば真剣勝負に先立ち防具を付けて相手と竹刀で立ち合う剣術であって、その役割は相手の力量や太刀筋を見極めることであり、たとえ撃ち損じて先に技を決められても

怪我することはなくその後見事な1本を決めて逆転勝ちをすることもできる。 現代は竹刀での立ち合いを専門とする手練れの剣士を大勢輩出しているが、本来それは実戦に備える修練のためのもの。

真剣勝負に強い剣士をいかに育てるかがこれからの課題である。

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[閑話ノート-39] プロフェッショナル

プロフェッショナルと呼ばれるのにふさわしい人に共通するのは物知りであること。

しかし何でも知ってはいるが理解まではしていない人は知識を披露するだけの博識な人に止まる。

プロフェッショナルは何でも知っていてしかも理解しており知識を使って新しいものを創り出せる。

百科事典のようにアイウエオ順に整理された知識を持つ人は与えられたキーワードを元に答えを素早く引き出せるが事典に載っていない

問題の答えを出すのは得意ではない。

プロフェッショナルは一種のデータベース型の知識を持っておりキーワードを与えられれば必要な情報を引き出し組み合わせて

問題の答えを求めることができる。

博識家は人を感心させるがプロフェッショナルは人を感動させる。

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[閑話ノート-38] 若き技術者諸氏へ_その2 「できるのにやりたくないこと」

どの職業のどの職場でもおよそ2種類の仕事しかなく、それはやりたいのにできないか、できるのにやりたくないかのどちらかです。

やりたいことができるようになるために何をしたらいいかは敢えて言うまでもないと思います。

一方、できるのにやりたくない仕事をいざやってみると細部ができなかったり、自分では得意と思っていたことがそうでもなかったことに気づいたりします。

スポーツには『勝利の女神は細部に宿る』という言葉があり細かいプレーや動作の精度が重視されますが、何事も細部の出来が全体の出来を決めます。

やりたくない仕事でも細部まできちんとできない人は、やりたいことをやっても優れた仕事はできません。

『好きなこと・やりたいことしかやらない人はその分野で一流の人にはなれない。』ということを心に刻んでおいて欲しいと思います。

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[閑話ノート-37] キャッチャー前にヒットを打てる打者

つい最近MLBのイチロー選手がピートローズ選手の安打記録を抜いたという話題が駆け巡っている。

彼の記録は日米記録を合計したものでありMLB記録としては認められないという声や、彼は内野安打が多く、

クリーンヒットの数ならもっと多い選手がいるという声もある。マリナーズ時代にシーズン最多安打を記録した時も周りから

内野安打の多さを指摘されることがあったが、これに対し同僚選手が「奴はキャッチャー前にヒットを打てる」とコメントしていた。

 

USA TODAY 電子版ではイチローがピートローズと並んだ4256本目のキャッチャー前内野安打を

「その歴史的安打がこちら いささか拍子抜け」という皮肉たっぷりのタイトルの動画を紹介していた。動画はキャッチャー前に転がったゴロを安打に

するために彼が全力で1塁ベースを駆け抜け、しかも最後の1歩は千分の一秒でも早くベースに届くよう脚を思い切り伸ばしている姿をとらえている。

陸上選手なら何千回もこんな走り方をして今まで一度もケガをしていないことが信じられないと思う。事実、MLBには普通に1塁に駆け込んだだけで

脚の肉離れや捻挫をして長期戦線離脱というプロ失格の選手が多くいるではないか。

 

彼が春季キャンプでレギュラー組から離れ本拠地の練習グラウンドで独りランニングに励む姿を見た米国記者が

「彼は試合中考えられるすべてのシチュエーションを想定したランニング練習をしていた。単打、2塁打、3塁打、さらに驚くべきは

ランニング本塁打まで。。。。 その姿に感動して彼のファンになった。」と書いている。最高のパフォーマンスを見せるためには万全の準備が

必要なのは誰でもわかるが誰もできない。

最後にピートローズを超えた4257本目の安打は目の覚めるような当たりの右翼線の2塁打であった。

万全の準備をして最高のパフォーマンスを見せ、人々に感動を与えるのが最高のプロというものである。

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[閑話ノート-36] 若き技術者諸氏へ_その1 「理屈と答え」

技術者は理屈がわかった上で正しい答えを見つけるのが大切です。

技術者にはいろいろなタイプがあります。

1) 理屈がわかり正しい答えを導きだせる

  このタイプになるには基礎学問、実戦知識および好奇心が必要で、このうち企業で身につけられるのは

  実戦知識のみですが基礎学問が不足していると実戦知識が深くなりません。基礎学問が不足している

  と自覚したらもう一度勉強しなおす必要があります。今度は学んだことをどう使うかが具体的にわかっているので

  学生時代よりむしろ学習能力が上がると思います.

好奇心とは疑問を探求しようとする心です。何事も表面を撫でただけで分かったつもりにならずにより深く掘り下げるよう心掛けてください。

 

2) 理屈は所々わからないがそこは経験則でカバーし正しい答えは導きだせる

  不確かな理屈より経験則の方がより正解に近い答えを導けることがあります。

ただ経験則に頼りすぎると新しい課題に取り組む勇気が持てません。

  また自らの意志で目指さない限り、長年経てばいつの間にか1)になるようなことはありません。

 

3) 理屈がわかっているのに正しい答えが導けだせない

この場合理屈がわかったつもりというのが正しい。『浅く広い知識は何も知らないのと同じ』という言葉があります。このタイプにだけはならないでください。

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[閑話ノート-35] 知るは喜びなり

 

「知るは喜びなり。」しかるに「解かるは苦しみなり。」

 

知るのは簡単であるが解るまでの道程は長い。

 

解っているかどうかを知るための最もよい方法は使ってみることであり、使ってみると解るまでに何が足りないかがよく解る。

 

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[閑話ノート-34] 格言

「玩人喪徳、玩物喪志」 (中国の古典『書経』) 

読みは「人を玩(もてあそ)べば、徳を喪(うしな)い、物を玩べば、志を喪う。」

権力を握った人間が横暴になり人にひどい仕打ちをしていると人望を失い最後は失脚する。

物を持つことばかりに執着していると人間としての志や人生の意味を見失う。

 

"Higher to go, harder to hear."

<技術文章としての翻訳>

高度が上がる程空気が薄くなり音波が伝わりにくいので音が聞こえにくくなる。

<格言としての翻訳>

人間は偉くなると傲慢になり人の云うことに耳を貸さなくなる。または偉い人には下々からの情報が上がらなくなる。

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[閑話ノート-33] 仕事を楽しむ

 企業の技術トップがうちは○○好きな連中が集まって○○を作って楽しんでいるからいいものができないと語っていた。

好きこそものの上手なれとか仕事を楽しむことが大切とかいわれるが、本当に仕事を楽しまれたら企業は困る。現場では好きな仕事でなくても

間違いなく遂行できる人間が必要とされる。

 技術者にとって開発の仕事は製品を相手の戦いであり、しかも敵はいつも手強い。ただたとえ苦戦を強いられていてもその中で楽しみを見いだす

ことはできる。それが仕事を楽しむということの意味である。

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[閑話ノート-32] 作り手目線

 パリの地下鉄駅に行くと通路で音楽パフォーマンスを演じる音楽家を多く見かける。一時音楽家の数が増え通行の妨げとなったり一部のパフォーマと

見物人とのトラブルが増えたため地下鉄当局がオーディションを行い合格者だけにパフォーマンスを許可することになった。

 ある時パリの音楽院で将来を嘱望される2人の現役女子学生が先生の勧めにより朝の通勤ラッシュ時にあわせ地下鉄通路でバイオリン演奏の

オーディションを受けたが足を止めて彼女らの演奏を聴く通行人はほとんどいなかった。そこで場所を移動してみると他の演奏家の周りには大勢の人垣が

できていた。彼女達は衝撃を受け、自分達の演奏はコンサート会場に足を運ぶ客からは喝采を浴びても、忙しく歩いている通行人の足を止めるほどの

ものではないことを知ったと涙ながらに語っていた。

 作り手は自らの作品に対し主観的、感情的な見方をする。同業者はライバル関係にある作者の粗探しに走る。専門家による評価は客観的であることが

期待されるが実は偏見に満ちていることが多い。 これに対し消費者は中立であり作品を客観的に見て選び不満があれば率直に物を云う。

 技術者は市場に送り出した製品がヒットし技術的にも高く評価されれば大きな達成感を得ることができる。しかし自尊心が強くなり過ぎていつのまにか

作り手目線に陥り消費者からの不満を消費者側の問題に転嫁するようなことがあってはならない。

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[閑話ノート-31] 測る

ずいぶん昔のことであるが企業でエンジン実験を担当していた頃初めて自動車技術会の講演会を聴講する機会を得た。聴講したセッションで

自動車メーカから排気有害成分低減に関する研究発表がありその中で排気管に熱電対温度計を挿入して測定した温度が「排気ガス平均温度」と

表現されていた。プレゼンテーション終了後の質疑応答で会場から出た「排気ガスの温度と流量は時間により大きく変動しているはずであるが平均温度

とはガス温度の時間平均なのかそれともガスの熱量を熱容量で除した値と考えて良いのか?」という質問をきっかけに排ガス中に挿入された熱電対温度計は

何を測っているのかという問題に関し座長も巻き込んだ大論争に発展した。

 ガスと熱電対との伝熱を考えるとガス温度が熱電対より高い場合は熱はガスから熱電対に伝わり、逆の場合は熱電対からガスに伝わるのでガス中に

置かれた熱電対の温度はガスと熱電対との間の伝熱収支がゼロとなる温度で平衡に達するはずであり熱電対温度計はその平衡温度を指示している。

一方ガスと熱電対間の熱伝達率はガス流量に対しリニアではないのでこの平衡温度はガス温度の時間平均でもガスの熱量を熱容量で除した値でもないと

いうのが正解と考えられる。平たくいうとガスに挿入された熱電対温度計自体の温度(熱接点温度)を測っているのである。当時エンジン実験データの中で

熱電対温度計を排気管に挿入して測った温度を「排ガス温度」と称し先の発表者のように「排ガス平均(的?)温度」の意味で用いることは一般的であったが、

この議論は正しい計測を行うためにはまず何を測ろうとし何を測っているのかを正しく理解することが大切であることを示唆するものであった。

  例えば電気式圧力計は容器や管内の変動圧力を計測できるがその原理は圧力センサの受圧面が圧力に比例して歪みその歪み量を電圧信号に変換、増幅して

出力するというものである。受圧面は高々直径10mm程度であり圧力計は圧力センサ付近の圧力を計測しているに過ぎないことを知っておかなければならない。

特に内部で激しい旋回流や乱れが生じている場合圧力分布はどうか、静圧と全圧のどちらを測っているかなど十分な実験検証または理論的推察が必要である。

 電気式圧力計の一種であるシリンダ内圧力センサを用いてガソリンエンジンのノッキング時の圧力を計測すると燃焼圧が急激に上昇した後大きな振幅の高周波の

圧力振動が観察されるがこれは燃焼室圧力全体が急激に上下しているのではなくノッキングにより燃焼室の一部に生じた高圧波が衝撃波を伴って燃焼室内を

伝播しては内壁で反射するという動きを繰り返しておりセンサ受圧面に高圧波が周期的に到達するのを計測しているのである。 シリンダ内圧力計測は燃焼室の

容積が小さく燃焼室壁表面近くに設けたセンサで計測した圧力は燃焼室圧力を代表するという前提の下に行われているがノッキング発生時の燃焼室内圧力は

不均一となるのでこの前提がもはや成り立たない。 ただこの時もし熱力学が使えれば計測された圧力が燃焼室全体の圧力であると仮定するなら観測された

圧力変動が生じるために瞬時にどれだけ大きな熱発生や放熱を繰り返さなければいけないかが推算でき、その結果から計測値が燃焼室内全体の圧力を

代表していないという結論に達するであろう。

 圧力、温度、流速などの計測の目的は測定対象内部の物理現象に関する情報を得ることであるが、何を測っているのかを理解しないまま得られたデータは単なる

電気信号に過ぎない。

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[閑話ノート-30] つい足を止める和歌

 私の住む掛川市に地元農家が生産した農作物をNPOが販売する「とうもんの里」という施設があり、新鮮で美味しい野菜や果物を求めて

時々足を運ぶ。(「とうもん」とは漢字で「稲面」と書き地元農家が稲が実った田んぼを意味する言葉)

 その施設の販売コーナー入り口の壁に和歌が書かれた小さな額が掛けられている。

「この秋は 雨か嵐か 知らねども 今日の仕事に 田の草を取る」

作者名は入っていないので地元の農家の人の作なのか、または農業に従事する人々の間ではよく知られている歌なのか分からないが

和歌の前を通るたびについ足を止めて読んでいる。

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[閑話ノート-29] Engineer

「技術者」の英語訳はEngineerであるが欧米でのEngineerという職業は日本の「技術者」とは少し異なるようである。

例えば米国では'Computer Engineer'とはコンピュータのハード設計に携わる職業と解釈するのが一般的でIT技術を駆使してプログラム開発やシステム開発

の仕事に携わる職業は'Computer Scientist'と呼ぶらしい。ある米国のMechanical Engineerに訊いたら自然科学の法則を実践的問題に応用して製品を

作るのがEngineerの仕事だと答えた。 また英語版 WikipediaにはEngineerについて実に明快な定義が掲載されている。

"Engineers work to develop economical and safe solutions to practical problems, by applying mathematics and scientific knowledge

while considering technical constraints."

Engineerは手法的制約を考慮しながら数学や科学の知識を応用して実践的問題に対し経済的かつ安全な解を導出するための仕事をする。」

ということは

経済性無視の設計をする設計者はEngineerと呼ばないらしい

経済性は考慮するものの設計計算をせず勘のみに頼る設計者はEngineerと呼ばないらしい

経済性を考慮し設計計算もするものの安全無視の設計をする設計者はEngineerと呼ばないらしい

設計上の制約を設けられるとすぐに「そんな制約があったら設計できません」という設計者はEngineerと呼ばないらしい

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[閑話ノート-28] 戦闘機と洗濯機

 ソ連が崩壊しロシア共和国が誕生して間もない頃、それまでの軍用航空機工場が次々と別の業種へ転換せざるを得なくなりエリート技術者であった

ジェット戦闘機の技術者たちも転職を迫られているというTV報道の中で戦闘機工場から家電製品製造工場として再生した会社の設計者が自分達は

戦闘機なら世界最高の機を設計できるが洗濯機の設計に関しては日本の技術者に勝てないと話していた。 

 一般に複雑なシステムに使われた技術をよりシンプルなシステムに展開するのは容易であると誤解されがちである。 日本の自動車エンジン技術は

世界的に優れており、いつでも二輪車(モーターサイクル)に応用できると思われているようだ。しかし実際には二輪車のシンプルなエンジンへの応用は

簡単ではない。エンジンの燃料噴射システムを例にとると自動車に最も多く見られる4気筒エンジンならクランク軸半回転毎にいずれかの気筒に噴射の

チャンスはやってくるため1つの気筒で噴射量を誤ったとしてもクランク軸半回転毎に他の3気筒の噴射でカバーできる。

 これに対し二輪車の単気筒エンジンでは噴射のチャンスはクランク軸2回転毎となり1回噴射量を誤るとクランクが2回転するまで挽回できないことになる。

二輪車の単気筒エンジンの燃料噴射システムでは1回毎の噴射量の要求精度はむしろ自動車より高く、しかもコストの制約から自動車エンジンのような

空気量センサや排ガスセンサーも使えないという問題をクリアしなければならないのだ。

 このように一見類似した製品であっても技術課題は個々に異なり1つのシステムでカバーできることはない。そしてそれら技術課題を最もシンプルな方法で

解決してみせるのが技術屋の腕である。

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[閑話ノート-27]  内燃機関に革新をもたらした画期的アイデア

 ドイツのオットー(Otto)がダイムラー(Daimler)と共に現在の4サイクルガソリンエンジンを実用化したことは知られており

ガソリン機関はオットーサイクルの応用例として多くの熱力学の教科書で解説されているため現在のガソリン機関はオットーの

発明と思っている諸氏もおられるが事実は異なる。内燃機関の研究の歴史は16世紀始めのレオナルドダビンチのスケッチにまで遡り

19世紀始めまでに欧州各地の発明家が火薬や水素その他のガス燃料を用いた熱機関の開発に取り組んでおり中には実際に水ポンプを

駆動した例もあるらしい。ただそれらは熱効率が低かったため広く実用化されることはなかった。熱効率が低い理由はいずれもガスを燃焼

させる前に予め圧縮する行程が含まれていない圧縮なし(Compression-less)機関であったからである。そして19世紀半ばに火をつける前に

ガスを予め圧縮することで熱効率を飛躍的に向上することができることが知られて以降、内燃機関は画期的に進歩した。

  作動ガス圧縮の概念は1824年フランスの科学者カルノー(Carnot)が確立した理想熱機関に登場する。この熱機関はカルノーサイクルと呼ばれ

ほとんどの熱力学の教科書に載っている。カルノーサイクルは断熱圧縮、等温膨張、断熱膨張、等温圧縮の4過程で1サイクルを構成する

熱サイクルであり熱力学理論によると最高の熱効率を得ることができる。しかしカルノーサイクルはスターリング機関と同様外燃機関の1種で、

またあくまでも理論上のサイクでありカルノー自身を含めこの熱サイクルを実用化しようと試みた人はいなかった。

  1838年イギリスの発明家ウィリアム バーネット(William Bernett)が圧縮行程を含む内燃機関に関する特許を取得しており公式には

バーネットがガスを圧縮してから燃焼させるというアイデアにたどり着いた最初の人物と見られる。1876年にオットーがガソリン機関を

実用化するより40年近く前のことである。なおオットーは1862年頃にはまだ旧来の圧縮なし機関の研究に従事していたという記録もある。

因みに発明家バーネットがカルノーサイクルを知っていたか、熱力学を学んでいたかどうかは定かでない。

  科学技術の世界では最初に科学者が理論を確立し技術者がそれを産業技術に応用するというのが望ましい姿かも知れないが実際には

技術者の試行錯誤が最初に画期的発見をもたらし、理論や解析がそれを解説するというケースは多々ある。また常識を打ち破るアイデアも

必ずしもオーソリティと呼ばれる専門家からではなく無名の技術者、研究者から生み出されることがある。

目の前の事象と向かい合い、「もっと深く知りたい」「何とか変えたい」という不断の想い、探究心が時として科学技術の扉を開くものである。

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[閑話ノート-26]  何屋?

大学時代に同じ内燃機関研究室で学んだ同級生が民間の自動車会社で長年エンジンの研究開発に従事したあと大学に戻り出身研究室の

教授に就任していたので久しぶりに訪ねたことがある。我々が学んだ内燃機関研究室は機械工学科の応用熱力学講座から制御工学科の

エネルギ変換工学講座に移籍しており彼は制御工学科の教授としてエンジンの研究に従事していることを知った。そこで悪友時代に戻り

「お前エンジン屋じゃなかったのか? いつから制御屋になったんだ?」と冷やかすと「俺はエンジン研究者だ。」と笑った。

 その日は二人で飲みながら夜遅くまでお互いに若かりし頃の企業でのエンジン開発逸話で盛り上がった。私が初めてディーゼルをやった時

どんな燃焼室形状にしてよいか分からなかったので内燃機関講義という大学で使った教科書に載っていたRicardo Comet V型という燃焼室を

フルコピーしてみたら一発でいい性能が出たがその後何十種類もの改良案を試したが上回る仕様がなかなか見つからなかったと話すと、彼は

自分の同僚はその燃焼室部品だけで2トントラック1台分をテストしたと私の話を一笑に伏した上で自分がRicardo Comet燃焼室と対で用いられる

ピストンの双か流型くぼみの効果に疑問をもちフラットピストンを試してみると低速ではくぼみありと差がなく「くぼみ不要論は正しかった」と合点しつつ

エンジンの速度を上げたところ全く性能がでないことが分かったという。コンピュータ解析も実験計画法もない時代の先人達の努力とエンジニアリング

センスに敬服したと語る彼は「エンジン屋」に戻っていた。

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[閑話ノート-25]  どうしても1番でないといけないのでしょうか?

 先般の行政刷新会議の事業仕分けにおいて「次世代スーパーコンピューティング技術の推進事業」が仕分け対象となりヒアリング会場で

民主党議員が「どうしても1番でないといけないのでしょうか?2番ではどうしていけないのでしょうか?」と事業推進側代表者に迫るシーンが

TVで繰り返し流されていたのが印象に残っている。代表者が何と回答したかはほとんど報道されていないが。。。

 この質問だけに答えるなら「1番を目指せば1番になれる可能性があるが、最初から2番を目指したら2番はおろか3番にも4番にもなれない。ましてや先端の

科学技術は1番でないと産業への波及効果は少なく中途半端な予算で2番手や3番手の技術を開発してもそれこそ予算の無駄使いになるというものだ。」

外国にも”Second Place is the first loser.”ということわざがある.

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[閑話ノート-24]  漁師と釣り人の違い

 渓流でヤマメや岩魚などの漁で生計を立てている「職漁師」と渓流釣りを趣味とする「釣り人」の違いを聞いたことがある。

釣り人は魚の居そうなポイントの上流にえさを落とし自然に流して魚が喰らいつくのを待ち、魚信がなければこれを何度か繰り返すのに対し

職漁師は魚がえさを待っている状態なら必ずここで食付くというポイントの真上にえさを落とし魚信がなければさっさと次のポイントへ移動する。

釣りのスピードが漁師と釣り人の違いであり同じ時間渓に入っても漁師は数を稼げる上に深淵をじっくり攻める時間を持てるので大物を上げることもできる。

 この例に限らずプロと呼ばれるような上級者と初級者の最も大きな違いはルーチンワークの手際とスピードにある。一定期間に達成しなければならない

目標や問題を抱えた時、問題の多くを定石にしたがいスピーディに解決できなければ途中で必ず出くわす難問に取り組む時間が持てず結果として大きな成果は得られない。

上級者になるにはまずは定石を多く知り応用できる力を磨くことが肝要である。

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[閑話ノート-23]  異床同夢

どんなすばらしいアイデアを思いついたとしても同時に似たことを考えている者が世界中に10人は居るという教えがあるが

特許出願を経験すれば教えが正しいことが理解できる。異なる環境にあっても同じ疑問をもち同じ目標があれば

人は同じ夢を見るのであろう。以前、初対面の技術者に筆者が以前から密かに抱いていた疑問と同じことを質問され

「実は私も同じ疑問を持っていますがそんなことを真面目に考えているのは私だけかと思っていたらあなたもそうだったんですね。

私は残念ながらいまだに答えを見つけられないでいます。」と答えたことがあった。彼も異床同夢を実感できたことと思う。

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[閑話ノート-22]   念頭に置くべきこと

あなたが昨日までやってきたことに誰も興味がない。

あなたが明日できるであろうことに誰も期待しない。

彼らが知りたいのは今日のあなたが何の役に立つかということだけである。

もし今日のあなたが役に立ったら昨日までのあなたは興味をもたれ明日のあなたも期待される。

職業人として自立するならこのことを念頭に置くべきである。

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[閑話ノート-21]   細行を矜まずんば、終に大徳を累わす

細行をつつしまずんば、終に大徳をわずらわすと読む。 「細行」とは、当たり前の些細な行動を意味し「細行」に慎重さを欠いていると

自ら築いてきた信頼や信用を失って「大徳を累わす」という意味である。 

 1995年に起きた高速増殖炉もんじゅの事故は冷却用金属ナトリウムの温度を測定するためナトリウム流の中に差し込まれた

熱電対温度計が折れてナトリウムが漏れ出し火災を生じたものであった。 一定流速であっても流体中に置かれた物体には動圧に加え

物体の下流に発生するカルマン渦により振動を発生させる力が作用するはずであるが測温体の設計の際に考慮されていたのであろうか?

 高速増殖炉というビッグプロジェクトがその核技術に関わる部分ではなく計測部という原子炉にとっては周辺部分の設計に慎重さを欠いた

ことで事故に至り、その後改修されたものの今も運転再開がされていない。

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[閑話ノート-20]   身をもって知ったこと

○実験に明け暮れていた頃

  '一つの実験データは百の議論より雄弁である. しかし百の議論なくしては実験データが何を語るかさえわからない'

○コンピュータシミュレーション解析ソフト開発に転じた頃

  '頭の中でシミュレーションできないようでは実験や解析ができても発明や発見はおぼつかないこと'

○その後

  '自分が2つの逆説の間を往復しながら生きていること'

○現在

  'ツールの進歩とともに若い技術者が何事も身をもって知る機会が少なくなっていること'

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[閑話ノート-19] 未熟者

 十年程前のことであるが大学時代の指導教官であった恩師が米国ウィスコンシン大学の教授とともに国内を

講演旅行中、講演の一つを聴講する機会を得た. 恩師は1924年の生まれで当時70歳を少し超えておられたが

年齢からもわかるとおり英語教育が禁止されていた時代に学生時代を過ごしたにもかかわらず米国教授の講演の

通訳を完璧に務められるので講演後「先生はいつ英語を勉強されたのですか、英会話教室に通われたのですか?」と

学生時代と同じく幼稚な質問をすると「君たちはまだ勉強は教わるものだと思っているな.

私達は戦後、翻訳業者を利用する金もない時代に外国の英文の論文を読み、英文の論文を書く事で英語の読み書き

を覚えた. 英会話なら今でも毎日BSの定時ニュースを録画し、字幕を隠して聴き取れる内容が字幕の日本語と同じ

になるまで繰り返して聴いて訓練している.(現在これと同じ方法のBS英語学習番組があるようだ.

さすがに70を過ぎると若干記憶力が衰えたかなと感じるが70歳までは若い頃とほとんど変わらずにいける.

最近記憶力が落ちましたという卒業生がいるが学生時代からやっぱり怠け者だった奴だな.」と卒業研究以来となる

指導を受け、我が身の未熟さを恥じることとなった.

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[閑話ノート-18] 運も実力のうち

1965年にアメリカ、ベル研究所の二人の科学者が、衛星との交信用アンテナのノイズを測定中に偶然、宇宙の

あらゆる方向からの黒体輻射による微弱な電磁波の存在を発見した. 二人はこのデータが何を意味するのか

わからなかったが2頁あまりの論文にまとめて発表したところそれまで物理学者によって予言されていた

ビッグバン宇宙説を裏付ける大発見であることが認められノーベル賞を受賞した. 宇宙論に全く関係ない科学者

であった彼らの受賞に対し物理学者たちが偶然ノーベル賞を手にしたと皮肉ると彼らは「自分達の作製した

測定装置の精度に絶対的な自信を持っていたのでデータをノイズとして見逃さなかった. 幸運の女神はよく準備

された実験装置を訪問したがる.」と返したという. 運も実力のうちとはこういうことであろう.

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[閑話ノート-17] 逆説?

きちっとできない政治家ほど「きちっと」を連発する.

興味のない人はしきりと感心し、興味のある人は質問する.

活気のある組織の中にいる人達は自分達に活気があるとは云わないし気付いてもいない.

クリエイティブな人は単刀直入に語り評論家は起承転結を大切にする.

凄い人ほど普通にみえる.

技術屋は論理的に仕事を進めて情緒的な決断を下すが、営業マンは情緒的に仕事を進めて論理的な決断を下す. 

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[閑話ノート-16] 普通

<眠れなくて普通>

 数年前眠れない時期があった. そんな時私が体力・精神力ともにとてもタフだと思っている知人に

眠れないで困っていると打ち明けると、一言「眠れなくて普通だろう. 俺は長い間熟睡したことなんかない.

自分が普通だと思ったら気が楽になり眠れるようになった.

<出来て普通>

 与えられた仕事は100%完璧に「出来て普通」でありミスをすれば責められる. 今の仕事を100%できないうちに

その先のことを望まないほうがいい.

<わからなくて当たり前>

 先日ある学生に自動車会社ではコンピュータシミュレーションで実際にエンジン最適設計をする時代になっている

という話をしたら大学の先生はそんな話はしてくれないと感激していた.

 就職面接試験で技術系の学生に対し大学での専攻は何でうちの会社でどう活かすつもりか?という質問がある

らしいが大学で学んだことが会社で具体的にどう使われているかを教えてもらう機会がない学生には

「わからなくて当たり前」である. またたとえ大学で博士号を取得したとしても学んだことがそのまま通用する

ほど技術の仕事は甘くない. 「何ができるか楽しみです.」と答える学生を採用すれば将来役に立つかも.

<持っていて当たり前>

 建物強度偽装事件の裁判が行なわれている. 建築審査法など法律の改正が検討されているが日本人全体が国民として

「持っていて当たり前」の道徳心をなくしては結局法律は無力なものとなる. 中国の魏志倭人伝に倭人(日本人)の

社会風俗を記した部分があるので抜粋すると

「倭人の風俗は乱れてはいず、集会での座席や起居の順序には父子や男女の区別はない. 寿命はあるいは百年、

あるいは八、九十年の長寿である. 婦人は淫らでなく嫉妬もしない. 泥棒もいないし訴訟も少ない.

そこには仏教も儒教も伝来していない時代に今どこかの国で謳われている「美しい国」のモデルともなるべき

国がすでにあったことが記述されている.

[2006. 10.19 ] 頁TOP


[閑話ノート-15] 学びて思わざれば則ち罔く、思いて学ばざれば則ち殆うし

 ホモサピエンスの創造力はクロマニヨン人以降退化の一途を辿っているという学説を目にしたことがある.

その学説によると創造力=(創造物)/(知識)とした場合クロマニヨン人が持ちえた知識と彼らが残した洞窟壁画に

見られる遠近法を用いた描画技法、顔料の製造技術等を総合的に評価すると彼らの創造力は現代人のそれを

はるかに超えているらしい.

 「学びて思わざれば則ち罔く、思いて学ばざれば則ち殆うし」とは学ぶばかりで考えなければ知識は役に立たず、

一方勉強せずに我流で考えるばかりでは独善となり危ないことの例えである. しかし技術屋には

「学びて思うも為さざれば則ち罔く、思いて為すも学ばざれば則ち殆うし」のほうがふさわしい気がする.

技術の仕事とは知識を得たら実践に応用し、実践して失敗したら原因を考え解決のためにもっと知識が必要なら

勉強することの繰り返しである.

[2006. 10.19 ] 頁TOP


[閑話ノート-14] Minority

 青色ダイオードの発明者である中村修二氏が企業の技術者時代、欧州の某企業の研究所が発表した方式に多くの研究者が

傾倒して行った時にはその中身を知ると不安になるのである時期論文を全く読まないことにしたとか、共同研究者をもつと

競争相手の提唱する方式への転換を迫られるのが判っていたので一人で研究を続けたというエピソードを語っていた.

また砂漠での過酷なレースで知られるパリ・ダカールラリーのベテランドライバがレース中今まで最も怖いと感じたのは

いつかという質問に対し同じレースに参加しているはずの車の一団とすれ違った時だと答えていた.

 少数派(Minority)でいること、さらに多数派(Majority)に対し自己主張するためには勇気と信念が必要だ. しかし

「真実はいつもMinorityの中にある」という言葉のとおりMinorityの立場にあっても信念をもって行動した人が「真実」、

すなわち技術の世界でいえば新しい発明や技術開発の成功にたどり着けると思う.

 話しは変わるが、私は独立の技術コンサルタントという究極のMinorityになって以来10年近くになる. 自ら省みてこの間

Majorityに対し堂々と物を云ってきたかどうかは自信がないが、究極のMinorityになってみてそれまで見えなかったものが

多少見えるようになったと感じている.

 最近団塊の世代が話題となっているが私自身昭和24(1949)生まれでまさに団塊のど真ん中で生きてきた人間であり

日本人を構成する最大Majorityの一員でありながら究極のMinorityである. 報道で団塊世代の主張や行動を見ていると

相変わらずMajorityとしての自分達の都合で老後も乗り切ろうとしているようにしか見えず共感できるものがない.

 今子供のいじめが問題となっているがいじめる側の子供たちは常にMajorityを形成しその中にいないと不安なのでは

ないか、またそういう社会を自分たち大人が作ってきたのではないかと思う.

 小学生の頃先生に孟子の「自ら省みて縮なくんば千万人といえども吾行かん.」という言葉とその意味を教わった.

Minorityであることを恐れない勇気を子供にもわかるように教えてくれる言葉である.

[2006. 10.19 ] 頁TOP


[閑話ノート-13] フィート・ポンド法

 ドイツ、オランダからイギリスを訪ねた折、イギリス人に「ヨーロッパ大陸からイギリスに来て不思議なことが2つある.

まず一つは大陸ではどこへ行っても同じ時刻だったのにイギリスでは1時間ずれている. 困らないのか?」と問うと

「それよりもグリニッジ標準時がブレたら世界中が困るだろう.」という返事.

「もう一つは大陸ではどこへ行っても車は道路の右側を走っていたがイギリスでは左側を走っている. 何故だ?」という問い

に対しては「そうなんだ! 奴らは100年以上たっても自分達が間違った側を走っていることに気が付かない.ところで日本は

どっちなんだ?」と問い返されたので 「勿論ちゃんと正しい側を走っている.」と答えると"Good!".

彼らは頑固なのかジョークが得意なのかわからないが、それはともかく「フィート・ポンド」法がなくなる日は遠いと思う.

アメリカやイギリスで開発された技術計算ソフトは必ず入出力値の単位選択欄で「フィート・ポンド」が選択できるように

作られている. 先のイギリス人に「単位換算表を見ると1ft=0.3048m, 1lb=0.45359237kgとある.こんな半端な単位を使って

困らないのか?」と問うなら「表をよく見ろ. その横に1m=3.2808ft, 1kg=2.2046lbと書いてあるじゃないか.」という返事が

きっと返ってくる.

 1999年にNASAの火星探査機が火星に接近した際に軌道が計算から100kmもずれて交信が途絶えた事故の原因は

観測衛星を製造したロッキード社は推力・軌道計算にフィート・ポンド単位系を、NASAJPLSI単位系を使用しており

ロッキード社からの計算データをJPLSI単位に変換せずに制御システムに入力した初歩的ミスであったという話は

有名である. 実際に単位換算は大変な作業でありミスも犯しやすい. また実験式や経験式が記載されているのに式中の

変数の単位が明記されていない本やWebサイトに出会うと苦労する. 企業の合併や技術提携、世界の複数企業の

共同プロジェクトが増える時代「単位系」は一日も早く統一されるべきだと思う.

[2006. 10.19 ] 頁TOP


[閑話ノート-12] お国柄

 国内では仕事で知り合った人によく年齢を尋ねられるが結婚しているかどうかを訊かれたことは一度もない.

日本では私くらいの年配の男性だと結婚しているというのが常識となっているらしい.

 アメリカに出張した折に現地の違うスタッフに会う度に訊かれたのは"Are you married?"であり"How old are you?"

とは一度も訊かれなかった. 彼らにとっては年齢を問うのは失礼なのかも知れないが、そもそも一緒に仕事を

する上で年齢は何の関係もないしプライベートな話になった時に相手が結婚しているかによって話題を変えなくては

いけないという気配りからだと思う.

 後日彼らの一人が日本に来た時初対面の人に"How old are you?"と訊かれ驚いた様子であった. 

所変われば何気ない話題にも気を配らなければならないものである.

[2006. 10.17 ] 頁TOP


[閑話ノート-11] 躾

○見てきたようなウソをつくな.

○難しい説明をするな. 本当に解っている奴の説明は素人が聞いても解る.

○データを無駄使いするな. このデータで一体何を云いたいんだ.

○夏炉冬扇の意味を調べて教えてくれ

企業に入社して間もなくエンジン実験を担当していた当時上司に言われた言葉である.

最近多くの企業で様々な人材育成プログラムが実施されているがそれを教育と呼ぶならこれらの言葉は家庭での躾

にあたるものだと思っている. 人材育成の主目的は企業により貢献できる人材となるよう各人の知識、専門能力を

向上させることであるがその前に職業人としての躾作法を教えることはもっと大切でありその意味で職場の

上司や先輩の責任、果たすべき役割は大きい.

[2006. 10.17 ] 頁TOP


[閑話ノート-10] 九仞の功を一簣に虧く

 中国に「九仞の功を一簣に虧く」(きゅうじんのこうをいっきにかく)という諺がある。

九仞(22m)もの高さまで土を盛って山を築いておきながら最後の一簣(籠)の作業を怠れば山は未完成のままに終わり

それまで山を築いてきた努力も無に帰すという意味から、もう一歩というところで油断し失敗してしまうことを例えた

言葉である。

 一方この言葉は最後の一簣分の土の盛り方が下手だとそれまで築いてきた山が台無しになるとも読める。

技術、工芸、芸能などどの世界でも完成に近いものと完成品との間には大きなレベルの差がある。最後の仕上げで

技術者、職人、芸人の力量の差が表れる。

[2006. 10.16 ] 頁TOP


[閑話ノート-9] Be a Good Listener

 会社を経営する知人と「飛行機を造らせたら超一流の技術者は鍋を造らせても一流たりうるか?」という問題を

議論したことがある. それ自体の結論は出なかったが議論が行き着いた先はそれよりも鍋のトップセールスマンが

飛行機のトップセールスマンになる可能性の方が格段に高いというものであった.

 彼がいうには「科学、工学, マーケティング、経済学のどれをとっても学校で習うことができるし本で独学する

こともできるが "How to sell ?"(どうやって売るの?)だけは学校では教えないし、ましてや本で勉強などありえない.

営業の仕事は周りが考えているよりはるかに複雑でしかも実体験から学ぶしかない. しかし学んだことは応用が効く. 

また優秀な営業マンは話術よりむしろListening(傾聴)の能力に優れておりお客のニーズを持ち帰って正しく技術屋に

伝えることができる. 技術屋はこうした営業マンの話しに耳を傾けないといけない. Good Listenerになれない技術屋は

成功しない.

 技術屋の判断基準、製品価値尺度は多分に情緒的、主観的なのに対し営業マンのそれは論理的、客観的である. 

このことが原因で衝突を生むこともあるがお互いがGood Listenerになってタッグを組むと強いチームができる.

[2006. 10.14 ] 頁TOP


[閑話ノート-8] 技術者と研究テーマ

 技術革新の時代にあってどの企業でも研究技術者の研究テーマの策定やマネージメントには苦労されているようである.

テーマ策定会議や委員会により将来性や実現性などを評価し優先テーマを決めるというシステムも見受けられるがうまくいっているという話はあまり聞かない.

トップが技術開発の方向や領域を示し現場の技術者たちが自身のアンテナを使って具体的テーマを策定するのが理想ではないかと思うが各企業毎に

答えは違うものと思われる.

ところで研究テーマやプロジェクトは始めることより止めることの方が難しい. 技術責任者が自ら止めたいといえば話は簡単であるがたとえどんな状況にあろうと

自分から「止める」という言葉は口が裂けてもいわないのが技術者(まっとうな)というものである. ある大手機械メーカの技術管理部署の部門長に技術管理の仕事とは

何かと尋ねたところ最大の仕事は今のテーマを止めさせることだという. 限られた人的資源・予算の中で新しいテーマを進めるには現在のテーマのうちのいずれかのテーマを

止めさせる必要があるがそれが一番難しい. 客観的評価基準を設け評価結果にしたがい判断することにしているが、結局最後は研究トップ、管理部門、研究者の

直接対話による説得ということになる. ただ最後に彼が興味深いことを云った. ―「今までに中止勧告に耳を貸さなかった研究者に限って大きな技術的成功をおさめています.

食らい付いたら離さないすっぽんのような人たちです」と.

[2006. 10.07 ] 頁TOP


[閑話ノート-7] TechnologyEngineering

 TechnologyEngineeringは英語の辞書ではどちらも工学や技術と訳されているが、どちらかというと

前者は体系化されたもので学問や科学により近く、Engineeringは実際の現場に応用される知識、経験

に近いという解説を目にしたことがある.

 事務所設立から間もない頃、依頼主に機器の動作シミュレーションプログラムの開発相談を受けた時の話である.

事前検討によると必要な機械、電気関係の入力データは実験式や実験データも含めて一通り依頼主の方で用意

してもらえそうであったがモデルを作成するのにさらに1,2の諸元かもしくは実験データが必要なことが

わかった. そこでこれこれの入力データがないとモデルが作れないと報告したところ依頼主の返答は

「そんなデータが揃うのであれば誰だって作れるし第一現在持っている計測器で測れるわけがない.

足りないならうちで持っているその他のデータや情報から何とか推測して欲しい. それを期待して相談した.

というものであった.

 数学では未知数の数と式の数が同じでないと解答は得られないということを教わる. 言い方を変えると

未知数と同じ数の数式が与えられているならば数学の知識があれば完全な解答が得られる. 技術問題でいえば

データも設備も十分にそろっている場合がそれに相当する. しかし現実に依頼主から持ち込まれる問題の多くは

「未知数に対し数式の数が足りない中で厳密解ではないがそれらしい近似解答を得よ」という問題に

例えることができる. Engineeringとはそんな問題に対し経験や周辺知識を総動員して不足分の数式を揃えて

解答を見つける仕事のことではないかと感じている. 

筆者の事業所名は英語でMatsuo Engineering Officeと表記する. Engineeringの意味を肝に銘じてコンサルティングに

あたるよう心がけている.

[2006. 10.04 ] 頁TOP


[閑話ノート-6] 力学

 機械工学には機械力学・熱力学・流体力学・材料力学といういわゆる四力(よんりき)というものがあり

機械技術者には様々な場面で四力を応用できる能力が必要となる. 4つの力学を使いこなすのは大変なようだが、

見た目は非常に異なる力学体系も煎じていくと実にシンプルな原理法則から成り立っていることが分かる. 

力学の基本は

1.運動方程式 ()=(質量)x(加速度)

これは中学の理科で学ぶニュートンの法則である. またその他に以下の3つの保存則を使う.

2.エネルギ保存則

3.運動量保存則

4.質量保存則(主に熱力学や流体力学のように対象に形のない系を扱う場合)

ただし実はエネルギ保存則は運動方程式を距離や変位で積分したもの、運動量保存則は運動方程式を時間で

積分したもので出所は同じ、ただ対象となる問題に応じて使い分けられるだけである. 

「力学体系はこれら4つの基本法則・公式で組み立てられている. 」いやもっと基本に立ち帰ると

「物の運動はこれらの法則に支配されている」というを理解しておけばカムやクランクなど直進運動と回転運動が

組み合わされた問題をはじめ機械力学、熱力学や流体力学に跨る問題にも柔軟に対処できる. 

―例えば筆者が弊Webサイト「機械の運動力学」の中で事例をいくつか紹介しているのでご参考いただきたい.

 

 さて最近はFA/OA機器,自動車,エンジンなどどれをとっても電子制御なくして動作し得ない時代となってきている.

制御工学は通信工学から発展してきた経緯があり「制御解析」とは一般に応答特性に関する計算を意味するが、

力学方程式を用いてモデル化でき、Excel VBAなど簡易プログラミングの心得があれば熱や流体が絡む複合問題

などさらに高度な問題がコンピュータシミュレーションによって解析可能となる. 

 本来機械の「力学系」と「制御系」は切り離せないものであり制御技術者もおおいに力学に通じて欲しいものである.

[2006. 10.02 ] 頁TOP


[閑話ノート-5] 閃き(ひらめき)

 「ひらめき思考」という本に学者が行なったチンパンジーの知能テストの話が載っている。

室の天井中央付近にバナナを吊るし、椅子に乗ってからジャンプすればバナナが取れることをチンパンジーがどれ位の時間で

学習するかというテストを行なった。最初に椅子を室の端に置きチンパンジーの様子を観察していたがじっとバナナを

見つめるだけで動かない。そこで椅子を取りに行こうと学者が吊るしたバナナの下を通りかかった瞬間、チンパンジーは

学者の肩に飛び乗りまんまとバナナを手にした。「バナナを取る最も確実な方法はバナナに最も近い場所に登ることである」

という簡単な原理がバナナを食べたい一心で状況を観察していたチンパンジーには見えたが学者には見えなかったというのが

いわばこのテストの結論であった。

 我々技術者は事象を見る時様々な先入観に支配されて複雑な解釈をしていることがあるが、専門知識や経験が豊かになる

ほどその傾向が強くなる。「孟子曰く、道は近きにあり、然るにこれを遠きに求む。 事は易きにあり、然るにこれを難きに求む。」

 難しい問題を解決するための「閃き」は複雑な思考を捨て事象を簡素化して見ようとした時に得られる。専門外の人の何気ない

一言にアッと思った経験を持つ人も少なくないのではなかろうか。

[2006. 2.15 ] 頁TOP


[閑話ノート-4] 要約の大切さ

 「釣魚大全」という釣りの本があるがその一節に「釣りとは何か」を説明する下りがある。

曰く「釣りとは魚の目の前に餌のついた針があり、針の向こうに糸があり、糸の向こうに竿があり、竿の向こうに馬鹿がいる

状態をいう。」簡潔にして完璧、かつユーモアに富んだ説明、要約である。

 要約(Summary, Abstract)は技術レポートや論文の先頭部分に書かれる技術文書の構成要素の中でも最も重要な一つであり

その出来次第で本文を読んでもらえるかどうかが決まるといっても過言ではない。 また要約する能力は一見脈絡のない情報

やデータから法則性や共通性を読み取ったり、枝葉末節な議論から本筋の結論を導く能力に通じるところがあり、それらに

共通するキーワードはSimplify(簡素化)である。技術者には普段から事象をSummarize(要約する)する訓練が大事である。

[2006. 2.15 ] 頁TOP


[閑話ノート-3] 釘と金槌

 ある技術者が「最近は計算データはあるが実験データがない。昔は実験データはあっても計算データがなかったのに。」

と笑っていた。"Reality is much more complex than virtual reality." とは解析ソフト開発責任者の言葉である。

試作、実験をシミュレーション解析で代替すると実験が不要になるのではなく実験の目的や内容がシフトするだけである。

装置の入力と出力は装置内で起こる物理現象によって関係付けられている。実際と計算の差は現象を近似する際の誤差の

集積結果であり、どのプロセスでどれだけの誤差があるのかを実験計測で捉え適切なキャリブレーション係数を決めること

により計算精度を上げることができる。またそのために新たな物理量の測定が必要になりより高度な実験技術が求められる。

 実験によらずにシミュレーション解析だけで実際にあわせようと様々な物理モデルを追加していくと解析ソフトはどんどん

肥大化していき、用意することさえ難しい入力データを要求され、その割りには精度ゲインが少ないという状況に陥る。

 仕事に過ぎたる道具を使うことを"Big hammer for small nail."(小さな釘を大きな金槌で叩き込む)と云う。

釘は打ち込まれるだろうが勢い余って板まで割ってしまうことになる。釘に合ったサイズの金槌を使ってどこをどう叩けば

良いかを知れば釘はうまく打ち込めるはずである。

[2006. 2.10 ] 頁TOP


[閑話ノート-2]  創造

 シミュレーション工学の分野では著名な先生が学会誌にシミュレーションが新しい技術を生み出したことはないと

書かれていた。シミュレーションの数学モデル、物理モデルの考案自体は創造行為であるが、解析は試作、実験に

代わり設計変数の最適値を効率良く探すのが目的であり新しい発明や発見が目的ではないという意味である。

 解析(Analyze)は分解作業であり、創造(Create)は組み立て作業である。分解した部品を元どおりに組み立てるだけ

では新しいものは生まれない。組み立ての際に今まで使ったことのない部品を使ってみたり、時には間違えて組んだ

ことが偉大な発明や発見のきっかけとなったことが多い。技術分野で新しい物を創造するための共通の方法は情報や

知識を含めて多くの「部品」を持ち、いろいろな組み合わせを試すことだと思う。私の知る限り創造的技術者は皆

「物知り」であり好奇心旺盛である。

 最近の脳の研究では創造性と記憶量には相関があり本来は歳を重ねる程創造性の潜在能力は向上するらしく、

むしろ問題は「気力」だそうである。またアメリカでいくつかのベンチャー企業を所有する社長が自社の研究者を評して

科学者(サイエンティスト)の能力のピークは30歳代であるのに対し、技術者(エンジニア)のピークは50歳代だと

云っていた。勿論業種にもよるだろうが興味深い話である。

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[閑話ノート-1]   成熟分野の技術開発

 最近の自動車技術は既に成熟し、画期的な研究開発テーマを探すのが難しいという話を聞く。

  私の住む静岡県を流れる天竜川は鮎の餌釣りが盛んな川である。餌釣りは早朝の「時合い」であれば初心者でも

 数十匹は釣果が上がる程誰もが楽しめる一方とても奥の深い釣りでもある。

  私が鮎釣りを始めた頃の話である。その日私は夜明けから大勢の釣り人と竿を並べていたが朝10時を回る

 頃にはほとんど魚信がなくなり気が付けば釣り人は自分一人になっていた。そこで釣れたての鮎を土産に帰り支度

 をはじめたその時、一人の男性が現れて釣れますか?と尋ねるので私は早朝は良かったがもう今からでは遅くてダメ

 だろうと答えた。やがて男性は竿を取り出し釣りを始めたのだが、何回か浮きを流しているうちに一匹の元気な

 若鮎が上がったと見るうちに次第に入れ食い状態となり何と1時間100匹の超ハイペース! これは帰り支度どころ

 ではないとばかりに私も男性の横に入り再び竿を出すものの、ただ寄せ餌を川にぶちまけるだけで一向に魚信がない。

 それどころか私の寄せ餌が効いたとみえて先方は益々絶好調に。たまらず私が声をかけると男性は自分はいつも

 この時間にしか来ないが朝から大勢の釣り人が鮎を寄せてくれているお陰で楽に釣れるし、こんなに鮎がいるのに

 何故皆が帰ってしまうのかが不思議だという。 コツは餌か?仕掛けか?と聞くと、それより鮎の習性を知ることが

 大事で、彼らは日が高くなると深みに移動するので川の流れからポイントを読み、食い気をなくした鮎が飛びつく

 ように食わせ餌を流せば釣れるという。

  釣り人の技量による釣果の差は「時合い」ではさほど出ないが釣れない時間帯になると顕著に現れる。

 皆が成熟技術と呼ぶ分野は一見もう画期的な開発テーマなどないように見えるものだ。しかし別の見方を

 すれば先人の業績は自分の研究開発に多くの情報やヒントを提供してくれるし、先人が持てなかった最新の計測設備

 や解析ツールが使える現在の技術者は最高の環境にいるともいえるのである。ただどんな環境にあっても技術者に

 とって最も必要なのは自分の携わる製品、技術へのあくなき探求心だと思う。

 餌や仕掛けではなく釣りの相手である鮎の習性を知ることだと言った釣り人の言葉の通り。

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