DRIVESIM 解析事例     [ホームへ]

−最新鋭EVの航続距離-


先日SIM-Drive社のEV試作車SIM-LEIが発表された。同社の発表によると1回の充電の後JC08モードを走行したときの航続距離は333kmでエネルギ消費は77Wh/km高速100km/hの定速での

航続距離は305kmでエネルギ消費は84Wh/kmで車重は1650kgという。

<公表データから見える設計コンセプト>

100km/hの定速走行におけるエネルギ消費から車の走行抵抗が推測できる。

公表されているエネルギ消費はおそらくバッテリから放電される電力をベースにしているものと考えられるがバッテリから駆動輪に至る伝達経路においてインバータやモータ内部のロスがありインバータの効率を0.95、モータの効率を0.9とすると

伝達効率ηtはηt=0.950.9=0.85。 したがって駆動輪でのエネルギ消費は84Wh/km0.85=71.4Wh/km

つまり駆動輪では1時間に100km100,000m)の距離を走ってエネルギ7140Whを消費するので駆動力Fd(単位:N)はFd=7,1403,600/100,000=257N

定速で走っているのであるから駆動力Fdは走行抵抗Frとバランスしているはずであり

Fr=Fd=257N

走行抵抗Frは空気抵抗Fairと転がり抵抗Frotの和であり車速をV(m/s)空気抵抗係数Cd、転がり抵抗係数をμ、車の前面投影面積をA(m2), 車の質量をM(kg)、空気密度をρ(kg/m3)、重力加速度をg(m/s2)とすると

Fr=Fair+Frot=1/2Cd・ρ・AV2+μ・Mg

公表資料によるとタイヤは超低転がり抵抗仕様となっておりタイヤメーカカタログ等ではノーマルなラジアルタイヤでμ=0.01、超低転がり抵抗タイヤでμ=0.005程度となっている。仮にμ=0.005とし、車両寸法諸元から前面投影面積

A=2m2)とすると車速100km/hにおける走行抵抗Frは以下の式で表される。

Fr=257=1/2Cd1.22・(100000/3600^2+0.00516509.8=926Cd+81

これよりCdを求めるとSIM-LEICd=0.19となる。

量産車の中で最もCd値の低い車種であるトヨタプリウスCd=0.26であることからすると空気抵抗を下げるための特別な車体設計がされていることがうかがえる。

一般論としてEVは高速では航続距離が短くなる問題を抱えている。最も大きな要因は高速では走行抵抗が増加すること、また車両駆動に使われるブラシレスDCモータ(永久磁石式同期モータ)の効率が高速、高負荷域で

低下することも要因の1つとなっている。SIM-LEIではJC08100km/hとで航続距離に余り差がないがこれは車の走行抵抗を下げることで高速の航続距離が伸長した結果であるといえる。

もし量産車並みの設計でCd=0.26、タイヤもノーマルな転がり抵抗タイヤμ=0.01とすると100km/hにおける走行抵抗Fr

Fr=1/20.261.22・(100000/3600^2+0.0116509.8=401N

したがってエネルギ消費はSIM-LEI401/257=1.56倍となり、もしバッテリから駆動輪までのエネルギ伝達効率が同じだとすると100km/hでの航続距離D100

D100=305/1.56=195kmとなる。SIM-LEIでは走行抵抗を下げる車体設計により航続距離を100km以上伸長させておりこれはEV設計の1つの方向性を示している。

高速走行での航続距離

<実用の航続距離は?>

公表された航続距離はJC08モード走行、100km/h定速走行ともに走行中にエアコンやライトなどの補機類を作動させない条件での測定データであると思われる。実際の走行では快適かつ安全に走るために

補機類の使用は避けられない。そこで補機類を使用した場合の実用的な航続距離の概略値を求める。なお概略値であればDRIVESIMなどのシミュレーションを用いずとも簡単な計算で求めることができる。

JC08モードは走行時間1204s、走行距離は8.172kmであるがJC08モードを1回走行するためにバッテリから供給された全電力をE(kJ)、平均供給電力(電力の時間平均)をPrun(kW)とすると

E=7736008.172/1000=2265.278(kJ) これが1204sで供給されたのであるから平均電力Prun

Prun=E/1204=2265.278/1204=1.881(kW)

これに対し車室内の暖房または冷房のためのエアコンを含む補機類の平均消費電力Pac1kW程度またはそれ以上に達する場合もあると考えられる。Pac1kWと仮定すると車の全消費電力Pvcl

Pvcl=Prun+Pac=1.881+1=2.881(kW) 

したがって補機類を使用して走行したときの航続距離D(km)と公表されたJC08走行航続距離をD0(km)の比率は車の全消費電力Pvclと走行のための消費電力Prunの比の逆数となるはずで

D/D0=Prun/Pvcl=Prun/(Prun+Pac) 

これよりD=D0Prun/Pvcl=3331.881/2.881=217(km)

 同様にJC08モードと同じ手順で補機類を使用しながら100km/h定速で走行する場合の航続距離を求めると272kmとなる。

100km/hの高速走行の方がJC08モード走行に比べ補機類使用による航続距離の減少幅が小さい理由は元々高速走行の方が走行のための消費電力が多いからである。

100km/h時:8.4kW JC08モード時:1.881kW

別の表現をすればEVJC08モードに代表される市街地走行での消費電力が少ないため補機の消費電力が航続距離に大きく影響する。補機の消費電力を1kWと仮定した今回のケースではJC08での

補機消費電力は走行のみで消費される電力の50%を超えている。EVの市街地走行での航続距離を伸ばすためには車両全体でみた補機類の消費電力を減らす必要がある。

          平均消費電力1kWのエアコンを使って走行した場合の航続距離の概略推算値