DRIVESIM 解析事例     [ホームへ]

EV(電気自動車)の航続距離-


 EVが普及しつつあります。現在EVで最も大きな問題は航続距離がエンジン車に比べて短いとうことです。報道では「メーカーの発表によると走行条件により異なりますが航続距離○○km程度です」という表現がされますが

このときの航続距離は多くの場合10.15モードで走行した際の走行可能距離のことを意味しています。10.15モードとは平均時速23km/h程度の比較的低速な走行パターンでありしかもエアコンなど電力を消費する補機類を

使用せずに走行します。そこで「走行条件により異なりますが」というコメントにしたがい例えば高速道路を巡航したりエアコンを稼動させながら走行した場合、EVの航続距離は10.15モード走行時に比べてどう変化するかを

DRIVESIMによりシミュレーションしてみます。


 [車両・駆動系諸元]

モデル

諸元

車両

慣性質量

1500kg

モータ/車軸減速比

4.2

転がり抵抗係数

0.01

空気抵抗係数

0.26

前面投影面積

2.2m2

タイヤ有効半径

0.28m

モータ

形式

ブラシレスDC

最大出力

73.5kW

最大トルク

275Nm

バッテリ

標準電圧

170V

容量

95Ah

電力エネルギ

16kWh

電気負荷

エアコン

1kW一定

注)エアコンは走行中消費電力が変化するが平均1kWとした。 夏場は概略この程度の電力を消費するものと推定。

 

[航続距離の求め方] *メーカ公表の航続距離とは定義や求め方が異なります。

バッテリのフル充電(SOC初期値100%)状態から計算を開始し各モードを無制限に繰り返し走行する。走行途中でバッテリSOCが下がり

バッテリ端子電圧が低下すると走行に必要な要求電力が供給できなくなり計算中に”要求電力が供給できなくなった.”というエラーメッセージが表示され

計算が終了したらその時点での走行時間と走行距離を出力する。この走行距離をもって航続距離とする。


[計算結果]

 

走行条件

走行時間

航続距離

*バッテリエネルギ消費率

10.15モード エアコン作動なし

31627 (8時間477)

199.4km

281kJ/km

10.15モード エアコン作動

19900秒(5時間3140秒)

125.1km

440kJ/km

**120km/h 巡航 エアコン作動なし

2402秒(0時間402秒)

80.1km

628kJ/km

120km/h   巡航 エアコン作動

2277(0時間3757)

75.9km

659kJ/km

*バッテリエネルギ消費率=Wc(バッテリ消費電力)dt / 走行距離   Wc:  放電+   充電-

**120km/h将来予測される新東名高速など新規格高速道路の制限速度

上表からエアコンを使用することで10.15モード走行での航続距離は60%近くまで短縮され更に120km/h巡航では航続距離は40%にまで短縮される。

 

[エンジン車との燃費、エネルギ消費率の比較]

エンジン車での高速での航続距離は市街地などでの低速走行の場合と余り差がないかむしろ高速の方が伸長される傾向にある。(例えば市街地で燃費が12km/Lの車の場合高速では12-15km/Lなど) 

これに対しEVではエンジン車の燃費に相当するバッテリエネルギ消費率は10.15モードでは281kJ/km120km/hの高速巡航では628kJ/km(双方ともエアコン作動なし)と高速巡航の方が著しく

大きくなり航続距離も短い。この原因は以下のように車の消費エネルギとエネルギ源の効率との関係から説明できる。

 

車が走行抵抗Rで走行距離Lを走る場合に車の消費エネルギWdvWdv=RxLであり高速になるほど走行抵抗R(主に空気抵抗)が増加するので高速ほどWdvは大きくなる。

一方車では燃料油の化学エネルギやバッテリの電気エネルギがエネルギ源でありそれらエネルギが動力源であるエンジンやモーターに供給され出力されるまでの効率をηとするとWdv=Wpsxη

Wps=Wdv/η したがってWdvが大きく、しかもηが小さいほどWpsは大きく燃費(エンジン車)やバッテリエネルギ消費率(EV)は悪くなる。

エンジン車は低速ではWdvは小さいがエンジンの効率が悪くηが小さい。これに対し高速ではWdvは大きいがηも大きい。したがって低速と高速とで燃費に大きな差はない。

一方EVではモータ効率が車速や負荷に余り関係なく効率が80-90%以上と高く、したがってバッテリエネルギ消費率はWdvに比例する形となり高速では著しく悪化する。

 

自動車の最大の特徴、魅力はドライバが何時でも何処へでも自由にかつ快適に移動できる利便性にある。EVを本格普及させるためには充電スタンドが整備された市街地での移動手段としてのみならず遠距離間の

高速移動手段としても十分なパフォーマンスを有することが必要であり、そのためには高速巡航でエンジン車に匹敵する航続距離を確保しなければならない。現在例えば40Lの燃料タンクを持つガソリンの小型乗用車でも

燃料満タンでスタートすれば高速道路を300km以上は軽く走破できると思われる。EVでこのレベルに達するにはエネルギ源であるバッテリの大幅な性能向上が求められる。