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 −充填効率と掃気効率の入力値が熱発生率計算結果に与える影響−

燃焼圧解析では計測された筒内圧力とエンジン諸元から熱発生率を求めることで燃焼診断を行います. したがって圧力計測値、エンジン諸元ともに正しい値が入力されていないと

正しい燃焼診断はできません. 解析事例(3)ではエンジン圧縮比の入力誤差の影響を調べました. 今回は充填効率と掃気効率の入力誤差の影響を調べてみます。

充填効率と掃気効率は実機運転時に計測した値が基本となります.

▼充填効率

1サイクル当りに筒内に吸入された空気のうち排気管へ吹きぬけた分を除きシリンダ内に留まった(充填された)空気量を排気量で除した値であり、一般的に4ストロークエンジンの場合

吹き抜けは僅かですから1サイクル当りに筒内に吸入された空気=シリンダ内に留まった空気と考えることができ、したがって充填効率は体積効率で代替することができます.

レーサーエンジンのように排気脈動効果を利かせて体積効率を上げるチューニングをしている場合数%の吹き抜けが生じることがありますのでそのようなエンジンでは別途排気管内のO2

濃度計測により給気効率(1-吹き抜け率)を求め体積効率と給気効率から充填効率を求める必要があります.

 <充填効率の求め方>

@      空気流量計による

吸入空気量を直接計測する方法であり最も高い精度が得られます.時間あたりの空気流量を計測し時間あたりの吸入回数で除して1回の吸入行程でエンジンに吸入される空気量を求め排気量で

さらに除します. 計測されるのは体積効率ですが一般に4ストロークの場合はそのまま充填効率として入力しても構いません.

○ 層流流量計

 吸気系入り口に層流流量計を取り付けて計測します. 計測自体は最も簡単で誤差も少ない計測法ですが、流量計の取り付けにより吸気系の等価長が変わり元のエンジンと吸入空気量が

若干変化するのが問題です.

○マスフローメータ

 マスフローメータの燃料噴射システムを採用しているエンジンではマスフローメータで直接空気質量流量が計測できます. 吸気系を改造する必要がなく元のエンジンそのままの仕様の

吸入空気量が計測できます.

○給気効率計測

もし吹き抜けが予測される場合は排気管にO2センサを取り付けO2濃度[O2%]を計測し、給気効率を求めます.  給気効率は簡易的には(1-[O2%]/21)で求めることができます.

(O2濃度計測時の注意点:この方法を用いるには燃焼ガス中にはO2が存在せず、排気中のO2は吹き抜け成分のみであるのが必要条件であり空燃比はストイキよりリッチになっていなくてはなりません.)

A燃料流量と空燃比による

 質量燃料流量と空燃比から間接的に体積効率を計測することができます. 燃料の質量流量は流量計で精度良く計測できますが空燃比にはいくつかの計測法があります.

1) 排ガス成分からの計算

CO2, CO, THCなどの排ガス値と燃料のC:H比率からカーボンバランス式を用いて空気と燃料の割合を演算し空燃比を求めます. 排ガス計測誤差やC:Hの比率誤差などの

影響により空気量の直接計測による方法に比べ数%の誤差が生じます.

3) 空燃比センサ

  所謂UEGOセンサとよばれるセンサを用いて空燃比を計測します. H社のカタログによると同社の空燃比計では通常の使用空燃比域で±0.3以内の誤差を保証しています.

▼掃気効率

圧縮行程において筒内に存在するガスの中残留ガスの割合が筒内EGR率であり掃気効率は(1-筒内EGR)で求まります.筒内EGR率は所謂外部EGR率(排ガスの吸気側への還流率)とは

異なりますので注意が必要です. 一般にガソリンエンジンではスロットルを絞った部分開度では吸排気バルブが開いている期間(オーバラップ)の筒内圧が排気管内より低く排気ガスが筒内に逆流したり、

吸気管側に逆流した筒内ガスが再度吸入されるので掃気効率は低下します. 掃気効率はスロットル開度が小さいほど、バルブオーバラップが大きいほど、さらにスロットルから吸気弁までの吸気管容積

が大きいほど低くなる傾向にあります. 掃気効率を計測するには筒内ガスサンプリングや筒内の光学計測などの方法による必要があり燃焼圧解析に比べはるかに手間を要します.

実際に掃気効率を予測する最も実用的手段は1次元のエンジンシミュレーションを用いる方法です.(別途EGSIMによる筒内EGR率予測事例を紹介する予定です)

以上計測方法について説明しましたが、次に充填効率と掃気効率の誤差が熱発生率計算結果に及ぼす影響を調べます.

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【解析条件】

<エンジン>

  4サイクル ガソリン吸気管噴射エンジン

<運転条件>

  1000rpm スロットル部分開度 点火時期30degBTDC   空燃比14:1

充填効率と掃気効率の入力値は以下

仕様

充填効率

掃気効率

筒内ガス量(充填効率/掃気効率)

A

0.41

0.8

0.5125

B

0.45

0.8

0.5625

C

0.45

0.88

0.5113

<筒内圧力データ>

筒内圧のソースデータ(計測された生データ)は連続109サイクル、クランク角間隔 1deg

<筒内圧の補正と熱発生率計算>

A,B,Cとも熱発生率計算より前にTDC位置、圧力零点の自動補正機能を用いて補正を行い、補正後の圧力を元に熱発生率計算を行う

【解析結果】

1)       筒内圧補正結果

仕様

TDC補正量deg

圧力零点補正(kPa)

A

1

-27.87

B

1

-29.66

C

2

-30.38

2)     充填効率、掃気効率の入力値と熱発生量、温度

1.燃焼効率

仕様

燃焼効率

A

0.826

B

0.739

C

0.717

Aに対し充填効率が大きいB,Cは燃焼効率が低くなっています. 因みに空燃比14:1における燃焼効率を実験経験式で求めると0.868となり

B,Cはこれよりかなり低い値となっており、これらの結果から真の充填効率はA0.41に近い値であると推測されます.

2. 熱発生量比較

 熱発生量は数%の相対誤差内に入っています. Aの充填効率はB,Cに比べ9%ほど少ないので燃料の低位発熱量から計算した発熱量は9%ほど少ないわけですが

その代わりAの燃焼効率はB,Cに比べて10%以上大きくなっており、総発熱量は逆に大きくなっています. その結果A,B,Cの熱発生量の差は小さくなっていることがわかります.

2. 筒内ガス温度比較

BA,Cより低い値で推移しています. その理由はBの筒内ガス量がA,Cより大きく、したがって状態方程式(PV=GRT)による圧縮開始時の温度T(=PV/GR)

Gが大きい分小さくなるためです.言い方を変えると初期筒内温度が燃焼温度に影響しています. 一方、ACの筒内ガス量が殆ど同じですが発熱量が大きい分だけ

Aの温度が高くなっています.

以上の結果から

・充填効率の信憑性は燃焼効率の値から推測することができることがわかりました.

・充填効率、掃気効率の誤差があっても熱発生量の誤差は小さい、ただしガス温度の誤差は大きくなることがわかりました.

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