静岡ホビーショー

 僕は中学校入学に合せて静岡に引っ越して来た。模型好きの友人Hにその年、初めて静岡プラスチックモデル見本市に連れていってもらった。ホビーショーも昔はこんな名前だった。現在では巨大なイベントホールで開催されているけど、そのころは駿府城(すんぷじょう=むかしのお城の跡地)の中に立てられた体育館のような狭い建物で開催されていた。土曜日の午後4時、部活を終えて電車で静岡市まで行き、静岡駅からはものすごいダッシュでその会場まで走るのだった。(子供なので特に苦にならなかったのだね...)

 会場に到着したのが閉館15分前だった。友人Hは手際を心得ていて、「色んなカタログなんかただでもらえるから、かたっぱしから袋に詰めるんだぜ」と指南してくれた。狭い会場は人ごみで溢れ、どこを向いても模型だらけで、模型好きの子供にとっては夢のような世界だった。静岡、模型、見本市。なんてすばらしい土地に引っ越してきたのだろうと、僕はつくづく思った。ぼくらは、はしゃぎながらメーカーのブースを片っ端からまわってチラシやリーフレットを集めまくった。持っている袋の口を開けるとメーカーのおじさんが、もってけと言わんばかりにカタログやらを詰め込んでくれた。その年はスーパーカーブームの絶頂期で、どこのメーカーもカーモデルばかり展示していた。やがて、閉館時間がやってきてぼくらは体育館の外へでて、ベンチでコーラを飲みながらもらったカタログを袋から出して、わくわくしながらやっと確認するのだった。「サーキットの狼のカタログだぜ!」とか、「タミヤからFー16が出る!」と分厚いチラシの山を握り締めながら叫んだりしていた。

 数年前、なじみの模型店に集まる人々と模型クラブを作った。現在のホビーショーでは模型クラブの合同展示会が同時開催されていて、僕が所属するクラブも毎年出展している。展示されている模型を覗き込む少年の手にはやはりカタログをいっぱい詰め込んだ袋が、握られていた。

01/5/25

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