「はぁ・・・どうするかな・・・」

 

将臣は誰もいない(へや)で、盛大な溜息をついた。

卓上に置かれた帳簿をちらりと見ると、もはや溜息しかでてこなかった。

 

どのページを見ても、赤い文字しか目に入らない。

 

「今月も赤字かよ・・・生活費、きびしいな・・・」

 

そもそも、自分は節約を心がけているほうだと思うのだ。

本当に必要な物しか買わないから。

 

ふと、盛大に金子(きんす)を使っていそうな数名の顔が脳裏をかすめたが、慌てて打ち消した。

 

「なんか上手い儲け話はねぇもんか・・・」

 

決して、金子(きんす)が無いわけではないのだ。

あるには、あるが、アレは戦のための軍資金だ。

無闇に手を出す訳にはいかない。

 

地道にバイトも考えたが、明らかに怠けそうな奴が、約2〜3名。

特にあいつ。

戦以外は、全く当てにならない戦馬鹿だからな。

 

いっそ、ギャンブルに手を出すか?

 

様々な考えが駆け巡り、ようやく一つだけ、まともな考えが思いついた。

 

「まぁ、何もしないよりはましか」

 

ぽつりと呟くと、彼は静かに立ち上がった。

 

 

 

 

晴れた日の市は

 

 

 

 

「「「「ばざー???」」」」

 

聴きなれぬ言葉に、望美を除く全員がきょとんとした表情になる。

 

「あー・・・やっぱ通じねぇか。簡単に言うと、自分は使わねぇけど、他のやつは欲しがるかもしれない物を売る、まぁ、市みたいなもんだな」

「あっ、なるほど。市ですか!」

「それならそうと、最初からそう言えばいいじゃないか」

 

将臣のつたない説明に、経正がなるほどと頷く。

ぼそりと呟いた知盛の言葉は、完全に黙殺されていた。

 

「しかし、何故急にそのような・・・その、ばざーとやらをやると仰るのですか?」

「時子の言う通りじゃ。重盛、我らは今、そのようなことをしておる場合では・・・」

 

首を傾げる清盛と尼御前に、将臣は至極真面目な表情で答える。

 

「それなんですがね・・・うちは今、生活費が苦しいんですよ

 

「「「「!!!!!!?」」」」

 

衝撃的な告白に、一同が驚く。

 

「そんなはずは無かろう!?確かまだ、余裕があったはず・・・!!」

「確かに金はあります。けど、あれは軍資金ですから、手は出せないでしょう」

「むぅ・・・それはそうですな・・・」

 

忠度が困ったというように口籠る。

なんだか雰囲気が一気に沈み込んだが、そんな中、望美の明るい声が響いた。

 

「そっか!だからバザーをやって、少しでもお金を稼ごうってことね!」

「そう!そうなんだよ!!だから、みんな協力頼むぜ?な?」

「ですが、何を売れば良いのか見当もつきませんよ」

 

経正の言葉に、一同が考え込む。

 

「バザーなんだから、自分の私物を売るのが一番なんだがな」

「わ・・・(わたくし)には、他の者に売るようなものなどありませんよ!」

 

そう言う惟盛を、じっと眺めると、将臣は思いついたというような表情になる。

 

「そうだ、惟盛。いっそのこと、その頭の花売っちまえよ!」

「なっ!!?なんて事を仰るのです!?これは(わたくし)とれーどまーくですよ!?」

「トレードマークってお前・・・どこからそんな言葉を・・・」

 

そう言って、ちらりと望美の方を見る。

その視線に気づいた惟盛が、ふふんと勝ち誇ったように笑う。

 

「もちろん、白龍の神子に聞いたのですよ」

「なっ・・・!?そうなのか?」

「うん、この間ね。一緒に出掛けた時に教えたの」

 

(((いつそんな事が!?)))

 

と、軽い衝撃を受ける者が数名いる中、望美はそんな事など気づかず、微笑んでいた。

 

「とにかく、これだけは売れません!!でも、そうですね・・・」

 

惟盛はちらりと清盛の方に視線を滑らせる。

 

「お祖父様が、その後ろの蝶の(はね)を売るというのなら考えてもいいですよ」

「ばっ・・・馬鹿を申せ!!これこそ、そなたの頭の花なんぞより大切な物だぞ!!!」

「まぁまぁ、抑えてください、父上」

「!そうだ、知盛。ならお前はその頭につけた・・・」

それだけは父上の頼みでも聞けません

 

なんだか、みんなの雰囲気がどんどん悪くなっていく中、望美は無駄に騒いでいる大人気ない人たちを置いて、隅のほうで、尼御前と安徳帝とバザーで売るものについて話していた。

 

「私はやっぱり、手作りのお菓子とかを売るのがいいと思うんですよ。材料費もそんなにかからないだろうし」

「そうですね、手作りの物は味わいがありますものね」

「私は、望美の作った菓子を食べてみたいぞ!!」

「ふふっ、ありがと。でも私、あんまり料理って得意じゃないんだよね・・・」

「私もあまり、自分で作ることはなくて・・・」

「まぁ、なんとかなりますよね!さて・・・」

 

ちらりと視線を向けると、まだ花がどうした、翅がどうしたと騒いでいる人たちがいて、望美は小さく溜息をつく。

 

「もう、花とか翅とかどうでもいいじゃない!とにかく、今はみんな何を売るか、各自で考えること!!以上!何か反論は?」

「「「「ありません」」」」

「声が小さい!!」

「「「「ありません!!!」」」」

「よし!じゃ、みんなしっかりと考えてきてね」

 

望美はにっこりと微笑んだ。

 

「・・・・・・望美、格好いい!!」

 

男性陣が小さくなる中、安徳帝だけが憧れの眼差しを向けていた。

 

 

*************************

 

 

そして迎えたバザー当日。

会場は、予想よりも多くの人で賑わっていた。

 

「でも、女の人が多いのはどうしてなの、将臣くん?」

「ん?あぁ、たぶん宣伝が良かったんだろ?」

「何て言ったの?」

 

望美が尋ねると、将臣は少し複雑な表情になる。

 

「いや、まぁ、『平家の美形武将が、あなたのすぐ傍に!!憧れのあの人の私物を手に入れるチャンスかも!?』だったかな?」

「・・・・・・・・・・・・・」

「おいっ!そんな冷めた目で俺を見るな!!いいじゃねぇか、人もいっぱい来てくれたんだしよ」

「それはそうだけど、そんなどこかのヒーローショーみたいなノリはちょっと・・・」

「あっ、望美!!見てくれ、いっぱい売れたぞ!!」

 

声のする方を見れば、安徳帝が満面の笑顔で手を振っていた。

 

「ホントだ!こんなに売れるなら、もっと作れば良かったかな?」

 

昨日、3人で苦労して作ったお菓子は、既に半分以上が売れていた。

 

「みんな2〜3袋買っていってくれるから、すぐに無くなっちゃうのだ」

「あらあら、御二人とも、見回りですか?」

「えぇ、安全も配慮しておかないといけませんからね」

「ご苦労様です。そうだわ、望美さん、これ、作ったのだけど、良かったらどうぞ」

 

尼御前が差し出したのは、二人分のお弁当だった。

 

「うわぁ、ありがとうございます!休憩の時に頂きますね!」

「じゃ、俺たちは次の所に行くんで」

「望美、また後でな!!」

 

元気よく手を振る彼に微笑みかけると、2人は見回りを続けた。

 

結局、惟盛は自らが育てたという花々を売り、清盛は異国の品々を売っていた。

どちらも実によく売れているようで、遠くから見ても、上機嫌なのが見て取れた。

忠度は、数々の歌を達筆な筆で書き記した掛け軸やら何やらを売っていて、こちらも中々好評のようだ。

知盛はといえば・・・・・

何と言ってよいのか、いわゆるホスト状態だった。

 

そして・・・

 

「そっか、バザーって物じゃなくてもいいもんね」

「あぁ、そうだな。これは思いつかなかったぜ」

 

流れる調べは、琵琶と笛。

澄んだ旋律は狂い無く、調和していた。

 

この日、一番人を集めたのは、経正と敦盛、2人の合奏だった。

 

 

*************************

 

 

その夜、バザーも大盛況で、一同は大盛り上がりで宴を催していた。

思ったよりも楽しく、儲かったので、週一とは言わないまでも、月一くらいでバザーをしようという提案もなされたくらいだ。

 

しかし、望美は重大なことに気づいてしまった。

 

「なんで今まで、気づかなかったんだろう・・・平家が貧乏なはずだよ」

 

次から次へと運ばれてくる高い酒。

美味しい料理。

これにどれだけのお金が使われていることだろう。

 

「こんな毎回毎回、宴ばっかりしてるから貧乏なんじゃない!!」

 

翌日から、望美の節約生活実施が提案されたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

あとがき

はい、300Hitnori様からのリクエストで、平家の日常的なギャグっぽい話ということで、がんばってみましたが、どうですか?ギャグになってますかね?日常ってことで、もっとどたばたコメディみたいなのも考えたんですけど、結局バザーネタになりました。正直、こんな素敵なバザーがあったら絶対行きます!!バザーということで、チモリは絶対接客なんてできないだろう(失礼)ということで、自分を売ってもらいましたvv(なんかいかがわしい言い方だな・・・)後、楽しそうに物を売る惟盛を、遠くから見つめていたいですvvさて、nori様、こんなのでよろしければお持ち帰りくださいv

 

 

 

*ブラウザバック推奨