「お・・・おい、ちょっと待て!早まるな!!」

「こいつは、よく意味を解っちゃいないんだぜ?」

 

将臣と知盛の慌てた声が(へや)にこだました。

自分の置かれた状況を理解していない望美は、困惑の色を隠せない。

 

「もう決めたのだ!望美を后にする、これは、えーと、そう!勅命なのだ!!」

 

安徳帝の勅命宣言に、二人はしばしの間その意味を考えあぐねて、硬直する。

 

「「・・・・・・・・・!!!!?」」

 

声にならない叫びが響き渡った。

 

 

 

 

永久(とわ)憧憬(あこがれ)〜あなたに伝えたい想い

 

 

 

 

話は数刻前に遡る。

 

「遠乗り?」

「そう、天気もいいし、一緒に行かねぇか?」

 

庭先で安徳帝と遊んでいた望美に、将臣が声をかけた。

 

「うーん、そうだね。気持ちよさそうだし、行こうかな」

「私も行きたい!」

 

勢いよく手を挙げる安徳帝を、将臣は軽く小突く。

 

「お子様は留守番だ。そもそも、お前は馬に乗れねぇだろ?」

「嫌だぁぁ!!私も一緒に行くのだ!!」

「もぅ、将臣くん!こんなに行きたがってるんだから、一緒に乗ってあげればいいじゃないの!」

「いや、俺はだな・・・」

 

(お前と2人で行きたいんだよ)

 

そう言いたかったのだが、言葉は遮られてしまった。

 

「還内府殿、帝までいじめて、一人だけ抜け駆けとは・・・」

「っ!!?知盛!!」

 

振り向けば、知盛がやれやれというように大仰な溜息をつく。

 

「抜け駆けって、お前なぁ・・・」

「違うのか?」

 

真実、その通りなので、将臣には返す言葉が無かった。

 

「ところで、遠乗りに行くなら、俺に考えがある」

「何だよ、言ってみろ」

「俺とお前の2人で、望美と帝を一人ずつ乗せればいいじゃないか」

 

いつの間にか彼も行くことになっているようだが、確かにそれが効率がいいので将臣は黙って頷くことにした。

しかし、そうなると、出てくる問題が一つある。

 

「・・・問題は、どっちが誰を乗せるかってことだな」

「まぁ、そうなるな」

 

そう言い、二人はほぼ同時に望美の方に視線を向ける。

いきなり自分に矛先が向いたので、望美は狼狽の色を隠せなかった。

 

「望美、お前は俺と知盛、どっちと乗りたい?」

「もちろん俺だろう?」

「えっ?あの・・・私は・・・」

「何言ってんだ、付き合いの長い俺の方がいいに決まってるだろ」

「クッ・・・こういうものは、出逢ってからの長さじゃないんだぜ?」

 

互いに挑発しあう二人は、いつものごとく、不毛な言い争いへと発展していく。

そんな二人に、望美は小さく溜息を零す。

 

「まったく、いつもこうなんだから。ホントに、仲が良いんだか悪いんだか・・・」

 

(でも、やっぱり仲が良いから、喧嘩もするんだよね)

 

嫌いなら、話すこともないだろうから。

だから、見ていてどこか微笑ましいのだと思う。

 

「望美は、二人をどう思うのだ?」

 

縁側の縁に腰掛けた望美の隣で、不意に安徳帝がそう尋ねる。

 

「うーん、そうだなぁ・・・大切な仲間だよ。失いたくない、大事な仲間」

「違う。そうでは無くて・・・その・・・男としてどう思う?」

 

きょとんとしている望美に、彼は核心を衝く問いかけをする。

途端に彼女の頬に朱が差した。

 

「えぇっ!?急にそんなことを聞かれてもなぁ・・・」

 

どう答えたら良いのか、少しばかり逡巡した後、優しく微笑みかけた。

 

「ふふっ、こういうことは誰にも言わないものなの。ね?そうでしょ?」

「そうだな。私も誰かに言ったりはしないのだ」

 

そう言い、彼は彼女に微笑み返す。

 

 

いつだってそうだ。

 

彼女は自分を子供扱いしたりはしない。

 

いつだって、彼らと同じように接してくれる。

 

だから・・・

 

だから、彼女は特別な女性(ひと)なのだ。

 

 

彼はその小さな手を、ぎゅっと握ると、彼女の瞳を真っ直ぐにみつめた。

 

「望美」

「うん?どうしたの?」

「私の・・・私の后になってくれぬか?」

 

その言葉に、今まで不毛な言い争いを繰り広げていた二人の動きがぴたりと止まる。

 

「なっ・・・何だって!?」

 

将臣が慌てたような声をあげる。

知盛も、平静を装ってはいるが、内心慌てているのが見て取れた。

 

 

そして話は冒頭へと戻る。

 

 

勅命宣言の衝撃から立ち直った知盛が、言葉を紡ぐ。

 

「帝、そのような冗談は笑えませんよ」

「冗談ではない。私はいつだって本気だぞ!」

 

安徳帝は、頬を膨らませると、ぎゅっと望美に抱きつく。

 

「もう決めたのだ!」

「そんなこと言ったってな、望美がいいって言ったのか?」

「そ・・・それは・・・・・言ってないが」

「ほれ見ろ、相手の気持ちも考えずにそういうことは言っちゃダメなんだぜ」

「うぅ・・・」

 

子供相手に全く容赦ない、大人気ない21歳は、勝ち誇ったように笑う。

全くもって大人気ない。

 

「将臣くん!あんまりいじめないでよ!」

「んなこと言ったってなぁ・・・」

「私、つまらないことですぐ喧嘩する人たちよりは、よっぽど好きだもの」

「「なっ・・・!?」」

 

彼女の言葉に、何やらショックを受けている二人とは対照的に、安徳帝は嬉しそうに彼女に抱きつく。

 

「望美、今の言葉は真か?」

「そうね、后になるのは別にしても、あの人たちよりは好きだよ」

「それだけで、十分なのだ!」

 

望美は満面の笑みを向けてくれる彼に優しく微笑む。

 

「じゃあ、二人で遠乗りに行こうか?私が一緒に乗せてあげるから」

「うん!早く行こう!」

 

 

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

仲良く手を繋いで歩いていく二人の背を見送り、負け組みの二人はがっくりと地面に膝をついていた。

 

「そうだよな・・・望美はああいう奴だよ。一緒に馬に乗るんじゃなくて、自分から乗る奴だよ」

「還内府殿、これからはあいつの前では、仲良くやろうぜ」

 

無言で頷きあう二人。

 

「あっ、還内府殿!仕事放り出して何をなさってるんですか!!」

 

将臣を探しに来た経正が、二人を見て怪訝な顔をする。

 

「・・・・・ホントに何をされてるんですか。そんな地面に()(つくば)って」

「いや、何でもねぇさ。知盛とこれからは仲良くやってこうと話をしてただけだ」

「は?」

「望美は、強い女だからな」

「はぁ?今さら何を仰ってるんですか」

 

呆れ顔の経正に、二人は互いに頷きあっていた。

 

 

 

 

 

 

あとがき

なんだかよく解らない終わり方ですけど、とにかく1876Hitを踏まれたゆみ様のリクでコメディな話にしたつもりですが、ど・・・どうでしょうか?(おどおど)結局、自分、可愛い安徳帝を書くことに心血を注いでおります!!あんな弟が欲しいです!!可愛いvv後、(おとこ)らしい神子様が自分は好きです!ゆみ様、こんなつたない話ではありますが、よろしければもらってやってください!

 

 

 

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