出会い 運命との邂逅



季節は初夏。
空はきれいな青空だった。
遠くに見える山々もきれいな緑をしている。
すぐ近くに見える海も澄んだ青色。
打ち寄せる波の音が聞こえてくる。
セミの鳴き声も聞こえてくる。
私はそんな景色を窓際の席で眺めていた。
「よぉし、それじゃ成績書を配るぞ〜」
教壇に立っている先生の声がした。
はぁ。
先生の声に私はため息1つ。
「これでやっと夏休みだね〜」
「ね〜。どっか遊びにいこうね」
あちこちから楽しげな声が聞こえてくる。
「あー、わかってはいると思うが夏休みには赤点補習があるからな。該当者はちゃんとこいよ」
「え〜」
一斉に不満の声やブーイングがあがる。
「えー、じゃない。赤点を取った自分が悪いんだ。
 せっかくの夏休みだがな、諦めてちゃんとこいよ」
みんなのブーイングにもかかわらず、先生は笑顔できりかえしてくる。
私は諦めきった顔で苦笑を浮かべているだけ。
赤点補習はいつものことだ。普段から遅刻が多いんだし。
「よし、それじゃあ配るぞ。赤池」
「はぁい」
先生が1人1人名前を呼びながら成績書を配りはじめた。
私は窓の外をぼぉっとながめながら、自分の名前が呼ばれるのを待っていた。

夏。
今年の夏はいつもとは違う夏になりそう。
そんな予感がしていた。


「にはは〜、赤点補習いっぱいだよ」
配られた成績書を見て、私は苦笑を浮かべた。
成績書には数個の赤点がつけられていた。
国語、数学、英語、世界史。
全部で4科目。
夏休みとはいえ、基本的に毎日学校にいくことになりそうだ。
とはいえ、覚悟していた結果だったからそんなにショックではない。
さすがに両手をあげて歓迎できる事態でもないけれど。
「う〜ん、観鈴ちんはおばかさん」
にはは、と笑って、私は成績書をカバンの中にしまいこんだ。
放課後。
学校も終わり、私は堤防の上に腰かけていた。
お昼にもうすぐなろうかという時間だ。
他のみんなは友達と連れ立って下校している。
私は1人、堤防の上で海をながめている。
砂浜では男の子と女の子が遊んでいた。楽しそうな笑い声がかすかに聞こえてくる。
「楽しそう。いいなぁ」
素直な気持ちが言葉となって口からでる。
実際、私には友達と呼べる人がほとんどいない。まったくいない、といっても過言ではない。
「観鈴ちんは独りぼっちだからね〜。仕方ないんだよね。にはは」
強がりかもしれない。精一杯の虚勢なのかもしれない。
わかっているけど、それはどうしようもないことだと思っていた。
私はおかしな子だから。
別にはじめから独りぼっちだったわけじゃない。
はじめのうちは声をかけてくれる子、遊びにいこうと誘ってくれる子もいた。
でも、仲良くなっていくと私はいつもどこかで癇癪をおこしてしまった。
なぜかはわからない。理由はわからないけれど、必ずそうなってしまった。
次第に私のそばからは人がいなくなっていった。
『神尾さんはおかしなところがあるから』
いつか、誰かがいっていた言葉だった。
確かにそうかもしれない。急に癇癪をおこしてしまうような子をそう思うのは無理もない。
私もそれは自分でもわかっていたから、別段抗議するわけでもなかった。
でも、とても辛かった。辛かったけれど耐えるしかなかった。
「ん〜……と」
立ち上がって伸びを1つ。
そろそろ家に戻ろう。おなかもすいてきたし。
「今度は私もいっしょに遊びたいな」
砂浜でおいかけっこをしている2人の子供をみつめながら、私は1人つぶやいた。
そして、家への帰路についた。

夏の日差しは容赦なく照りつけてくる。
「やっぱりこれだね〜」
帰り道。
途中にある武田商店の前にある自動販売機で私はジュースを1つ買った。
どろり濃厚ピーチ味。
以前、お母さんに飲ませてみたら、『こないなもん、飲めるかぁっ!』って怒られたっけ。
そんなことないのになぁ。
ぎゅっぎゅっ、と容器を軽く押しながら中身を喉に流し込む。ゼリーみたいでおいしい。
「あう〜、今月のおこづかい、そろそろやばいかも。観鈴ちん、ぴんち」
財布の中身をのぞきこんで苦笑を浮かべる。ジュースの買い置きは多少は家にある。
だから、どうにかなるといえばどうにかなるんだけど。
中身の軽い財布をポケットの中にしまい、残りのジュースをふたたび口にする。
ふとみると、前方になにかがいた。
「あ、からすさんだぁ」
とてとてとて〜、と、私は駆け寄る。
私が駆け寄ってくる気配を感じたのか、からすはばさばさばさ、と青空へ飛び立っていった。
「う〜、お友達になりたかったのになぁ」
そうつぶやいて、私はからすが飛び立っていった空をながめていた。
「残念。また今度あったら今度はさわらせてね〜」
青空にむかってとびたち、今はもう姿のみえないからすに私はそう叫んでいた。
ぐぅ。
おなかが鳴る音がした。
「にはは、観鈴ちんおなかすいちゃった」
おなかをさすり、辺りをみまわす。
誰も見当たらない。どうやらおなかの音は誰にも聞かれないですんだみたい。
「はぁ、よかった。さすがに恥ずかしいもんね」
誰にも聞かれなかったことを確認して、私は安堵のため息をついた。
何気なく後ろを振り向くと、堤防のさっきまで私がいた辺りに誰か、男の人がすわっているのがみえた。
なんか大きめの荷物を持っているみたい。
この辺の人じゃないみたいだけど、ここからじゃさすがによくわからない。
すごく気になったけれど、同時におなかがまた、ぐーとなった。
「にはは〜、さすがにこれじゃ人に会えないね」
男の人はまったく動かない。
寝てるのかな?
「お昼食べてから戻ってきても、まだそこにいたら、いっしょに遊んでほしいな」
そういって、私は堤防の上にいる男の人に背を向けた。
「それじゃ、早くお昼食べてこようっと」
さっきまでと違い、私は勢いよく走りだした。
「早く戻ってこないといなくなっちゃうよ〜」
たったったっ。
ずしゃっ!
「いたたたた。転んじゃった。でも、観鈴ちんは強い子。強い子は泣かない。えっへん」
膝をさすりながら、私はふたたび走りはじめた。
「急いで戻ってくるから、待っててくださいね〜」
振り返って、私は男の人に手をふって声をかけた。男の人はそれでも動くことはなかった。


「はぁはぁはぁ、到着〜」
いつもはのんびりと歩いて帰る通学路を、今日は全速力で走って帰ってきた。
それでも帰るのが遅かったから、家に着くのは少し遅めの時間だった。
「ん〜と、お昼はなにしようかな?」
家に着いて、荷物を2階にある部屋に運んで制服から私服に着替えると、台所へ向かう。
「なっにが入ってるかな〜♪」
鼻歌まじりに冷蔵庫をあけて中を確認する。十分な食材が入っている。
「ん〜、時間がないからね〜、簡単なのにしよっと。ラーメンに決定〜」
そういって、鍋に水をはって火にかける。水が沸騰したら麺を入れる。
水が沸騰するのも、麺が茹であがるのもそんなに時間がかかるわけではない。
でも、その時間ですらもどかしく感じてしまう。
「う〜ん、よし、できあがり〜♪」
少し早いような気もするけれど、だいたい茹であがってるみたいだしいいや。
固めの麺も好きだし。
麺をどんぶりに移し、冷蔵庫をふたたび開けて中をみる。
そして中から卵とネギ、ハムを取りだす。
次に戸棚を開けて海苔を取りだす。
「ちょっと豪勢にとっぴんぐ〜♪」
取りだした食材を適当に麺の上にのせていく。
「できあがり〜。観鈴ちんスペシャル〜」
できあがったラーメンをテーブルの上に移す。
「いただきま〜す♪」
できあがったばかりの麺を冷ましながら、それでも急いで食事をとる。
さっきの男の人はもう既にあの場所にはいないかもしれない。
それでも、私はきっとまだいると信じて疑わなかった。
いや、それは半ば確信でもあった。それゆえに、早くあの場所へ戻りたかった。
「う〜、やっぱりちょっと固い。早過ぎだぁ」
口に運んでいる麺が思ったよりも固く、私はにはは、と誰にでもなく苦笑を浮かべた。
できたての麺はいくら冷ましてもやはり熱く、そうそう食べ終わるものではない。
私はラーメンを昼食に選んだ自分の選択を少し後悔した。
「うみゅ〜、ラーメンは失敗だったかも。熱くて早く食べられない〜」
そうこうして、熱いラーメンとの激闘もどうにか終わり、片付けも早々に済ませて私は家をでた。
「よし、観鈴ちん、しゅっぱ〜つ」


途中、見知った顔に出会った。
「あ、あれは………」
反対からこちらに向かって歩いてくるのは2人の女の子だった。
1人は私と同じクラスの子。もう1人は元気そうな、小さな女の子だった。
なにやら楽しそうに会話をしている。
「観鈴ちん、ちょっと寂しいかも」
2人を見ているとすごく寂しくなってきた。
すると、遠野さんがこっちに気がついて声をかけてきた。
「あ、神尾さん。おでかけですか?」
「う、うん、ちょっと。遠野さんも?」
「ええ、この子、みちるといっしょに駅の方へ」
「そうなんだ。楽しそうだね」
にはは、と笑顔を浮かべて私は答えた。
「今から美凪とね〜、シャボン玉で遊ぶんだぁ」
みちる、と呼ばれた少女は遠野さんの手を握ったまま、満面の笑みを浮かべてとてもうれしそうにそういった。
「そうなんだ。楽しそうだね、みちるちゃん」
「うん!美凪に教えてもらうのだ〜」
「神尾さんもよろしかったらごいっしょしませんか?」
「そうだ〜、お姉ちゃんもいっしょにいこうよ〜!」
「え?」
唐突に遠野さんがそういってきた。
みちるちゃんもすぐにそれに賛成して誘ってくれた。
だが、私はあまりの出来事に驚いてしまい、すぐに返事ができなかった。
すると遠野さんは左手を口元へ運び、うっすらと笑みを浮かべて答えた。
「そういえば、神尾さんもおでかけでしたね。すみません。無理をいってしまって」
そういって遠野さんは頭を下げた。
「あ、ううん。こっちこそごめんね。せっかく誘ってくれたのに」
「残念。それじゃ今度はいっしょに遊ぼうね〜」
「うん、また今度ね」
残念そうな顔をするみちるちゃんに私は笑顔で答えた。
「それではまた今度」
「うん、またね」
遠野さんは笑顔で会釈をすると、みちるちゃんといっしょに駅の方へ向かって歩いていった。
「また今度、かぁ」
遠野さんとみちるちゃんと交わした約束を私は1人繰り返した。
「にはは、また今度だって。約束約束♪うれしいな」
自然と笑みがこぼれてくる。
寂しいと感じた、さっきまでの気持ちは、今はどこかへいってしまった感じだった。
「さぁ、急いでいかなくちゃ。早く行かないといなくなっちゃうよ〜」
そして、私も堤防の方へ向かってふたたび走りだした。

武田商店の前までくると、堤防もみえてくる。
よくみると、さっきの場所に男の人はいた。
今もまったく動いているようにみえない。
「さっきからずぅっとあのままなのかなぁ?」
そんな疑問が頭をよぎったけれど、それもあの人と話をすれば教えてもらえるかもしれない。
なによりも男の人がいてくれたのがうれしかった。
ひょっとしたら、帰りがけに叫んだ私の声が聞こえて、私がくるのを待っていてくれたのかもしれない。
「にはは〜、そうだったらうれしいな♪」
そんなはずないと思っていても、笑顔がこぼれてしまう。
「そうだ、せっかくだからジュース買っていこうっと。
 おこづかい、ちょっとぴんちだけど、自分の分ともう1つ買っていこうっと」
そういって、私はさっき下校時にも買った自動販売機で、今度は2つジュースを買った。
どろり濃厚ピーチ味。
ゲルルンジュース。
どちらも私はおいしいと思う。
あの人も気にいってくれるかな?
少しだけ期待しながら、私はジュースを2つ持って堤防に登った。
さぁっと風が吹く。夏の日差しに暑くなっていた頬に涼しくて気持ちいい。
男の人は堤防に腰をおろして、海をながめているようだった。
私が近づいても振り向かなかった。
大きな荷物が1つ、その人の脇に置かれていた。
なんかいろいろ入っているみたいだ。雰囲気もなんとなくだけどこの街の人っぽくない。
「こんにちは」
後ろから声をかけてみた。だが、男の人はまったく反応しなかった。
思いきって、私はその人の隣に腰をおろした。
それでも男の人は振り向かなかった。
よくみると、その人は海をながめていたのではなく眠っていた。
「おやすみ中だったんですね」
にはは、と笑って私は、眠ったままの男の人に話しかけた。
もちろん、男の人は返事をしない。
「起きませんか〜。いっしょに遊びましょう」
頬や背中、わき腹などをつっついてみる。
しかし、男の人は目を覚まさない。
つっつくだけでなく、頬をつねってもみた。
だが、結果は同じだった。
「う〜ん、よっぽど疲れてるんですね〜」
私は起こすのを諦めて、隣に座ったままその人が起きるのを待っていた。
砂浜にはさっきもいた2人の子供が楽しげに遊んでいる姿があった。
「早く起きないかなぁ」
そんなことをつぶやきながら、私は隣で寝ている男の人の寝顔をみていた。
ちょっと目つきが怖そうな感じがした。
でも、とってもいい人のような気がする。
「今日、初めてあったんだよね〜」
当たり前のことを口にだしてみる。
だが、なぜかこの人から懐かしい感じがした。
初めて出会ったはずなのに、どこか懐かしい、久しぶりに出会ったような気がしていた。
「なんでだろうね。なんか変なの」
私はそばにぽてぽてと歩み寄ってきた1羽のからすに話しかけた。
そのからすは今までのからすとは違って、私が近づいても飛び立つこともなく、むしろ自分の方から近づいてきた。
「君もお友達になってほしいな」
にこっと笑うと、そのからすはひょい、と私の肩の上に飛び乗った。
「にはは、私とからすさん、お友達♪」
男の人はあいかわらず目を覚まさない。
「私ものんびりしようっと。隣で待ってますね」
笑顔を眠ったままの男の人に向け、私は肩の上のからすと話をしながら時間を過ごした。


日も低くなった。
夕日が海に沈もうとしている。
「ん〜、と」
私は肩の上に乗ったままのからすを地面におろし、立ち上がって伸びを1つした。
「にはは〜、結局起きなかったね。残念」
砂浜で遊んでいた子供たちもそろそろ家に帰るようだった。
「私もおうちに帰ろうっと」
子供たちがこちらをみているのがみえた。
私は笑顔で手をふった。それをみて、子供たちも私に手を振り返してくれた。
「ねぇねぇ、からすさん。手、ふってくれたよ」
笑顔で話しかけると、からすは首をかしげるような格好をした。
「それじゃ、私おうちに帰りますね。
 今日は遊べなかったけれど、今度また会ったら、その時は遊んでくださいね。約束ですよ〜」
私は寝たままの男の人にそう声をかけた。
「からすさんもおうちに帰るのかな?」
私の方をみているからすに私は話しかけた。
からすはぽてぽてと近づいてくると、私の肩の上にふたたび飛び乗った。
「そっか。それじゃいっしょに帰ろうね」
私は肩の上にからすを乗せたまま、男の人に背を向けて歩きはじめた。
「また今度、明日も会えたらいいですね」
振り返って、私は男の人に向かっていった。
案の定、男の人は身動き1つとらなかった。
「いっぱい疲れてるんだね。きっと、遠くから旅をしてきたんだね〜。
 観鈴ちん、旅行なんてしたことないからしてみたいな」
昔から住んでいるこの街ももちろん好きだ。
でも、1度でいいから私は他の街にいってみたかった。
幼い頃からずっとこの街で過ごし、この街をでたこともない。
休みあけなど、他の子の楽しそうな旅行の話が聞こえてくると、その想いがよりいっそう強くなる。
「からすさんはどこからきたの?やっぱリずっと遠くからこの空を飛んできたのかな?」
肩の上のからすに話しかける。
すると、からすは空を見上げて小さな声で一声鳴いた
それにあわせて私も空を見上げると、からすの群れが山に向かって飛んでいくところだった。
「からすさんはいかないの?みんなといっしょに帰らないでいいの?」
「かぁ」
ふたたび一声鳴くと、からすは私の肩の上から飛び降りた。
そして私の方に振り返った。
「うん、楽しかったよ。また会おうね」
首をひねると、からすはその翼をはばたかせて空に帰っていった。
「さようならぁ、また会おうね〜」
飛び立ったからすに声をかけて、私も家への帰路についた。
この夏はいつもとは違う。
そんな想いがいっそう強くなっていった。

運命の歯車がゆっくりと廻り始めていた……。




あとがきだお。


ども、おひさしぶりの林原です。
長いこと更新していなかったオンラインシナリオですが、今回やっとアップです。
う〜ん、すごく久しぶりです。
7/23は観鈴ちんの誕生日ですからね〜っ!!
というわけで、誕生日記念というわけです。
なんか、ここまでくるのにいろんなキャラの誕生日を蹴っ飛ばしてきたような気が。
5月の牧やんとか。
佐祐理さんはなんだかんだでへっぽこなのをアップできたんですけどね。
今回の観鈴ちんはなにがなんでもアップしなくちゃいかんわけですよ、俺的に。
なんとかアップできて、とりあえずほっとしています。

次はどうなりますかね〜。
まったくもって未定です。
誕生日を待つとなると、次は美凪ですかね。
12/22だけど。
でも、12/23が愛する名雪の誕生日だから。
そっち最優先なわけで、美凪はすっぽかす可能性も(爆!)。
と、とりあえずがんばりますわ。

それではこの辺で失礼いたします。
ご意見・ご感想、いただけるととてもうれしいです。
メールなり、専用BBSへの書き込みなり、どちらでもどうぞ。
では、次回作もまたよろしくお願いします♪
それでは失礼いたします〜。
ではではっ!!






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