旅ネタ雑記帳 イラン

イラン 旅先での再開


旅をしていると、偶然旅で出会った人に再会することがある。

同時期に旅をしているなら向かう方向が同じであれば、隣国で再会するなどはめずらしくないが、何年か後に全く違う国で再会となると、その偶然にワクワクするものである。

シリアのパルミラ遺跡で日本人夫婦に会った。やさしいご主人と明るくておしゃれな奥様。
彼らは結婚以来、盆と正月の年2回の旅行を楽しみにしている。
そのご夫婦に2年後、イランで再会した。

私が世界で一番好きな場所、イスファハンの王のモスク。ここの回廊を通って中庭に入ってくる日本人を見た。軽い会釈。

「・・・・あ!」

スカーフをかぶっている女性が目を丸くする。

「あの・・・以前お会いしましたよね。 シリアで。」

女性を見てもわからなかったが、ご主人を見たらすぐにわかった。美女と野獣といったら失礼なのだが、そんな感じのインパクトのあるカップルなのだ。

「きゃ〜! なんで?すごい!お久しぶりです〜」

「こんな所で再会するなんて。」

「やっぱり、興味のある国が似通ってるんですね、私たち。」 

喜び合う私たち。

「今回、アバシのスイートに泊まっているんですよ。よかったら見に来ませんか?すばらしいですよ!」とご主人。

「二部屋なんですけど、リビングのほうの屋根がこんなかんじ(モスクのドームの内側を指差して)なんです。ほんとにキレイなの。ぜひ見てほしいです〜!」と奥様。

アバシといったら、昔の隊商宿をそのままホテルとして使っている、ホテル自体が観光地ともいえる美しさの超有名な宿である。
中庭を囲む構造になっており、特に4つしかない角部屋はドームがついた、すばらしいイスラム建築を楽しめるスイートルーム。一年前に予約したそうだ。この夫婦、旅先こそマニアックなのだが、奥様の希望でその国で一番豪華なホテルに泊まるのを楽しみとしている。

「行きます行きます!」 と約束をし、夜にホテルを訪ねる。

「うっわ〜☆」

ステキ!壁にはイスラム建築特有の鍾乳飾り。上品且つ鮮やかに彩色された天井ドームの内側。照明も家具もアラビアンナイトの夢の世界。
しばし、歓談。

このご夫婦とは今も年賀状のやりとりをしている。去年はエチオピア、今年はマリに行ってきたそうだ。
今だに行きたい国が私とかぶっているのが面白い。

やっぱり旅はやめられない。


イラン 使い捨てカイロの話 (その1)


学生最後の卒業旅行での話である。

時は2月。テヘランは雪景色だったくらい寒い時期。

私たちはイランのテヘランから一気にトルコへ向かっていた。
ペルセポリスに近いシーラーズの街で思いがけずホームステイなどをしてしまったため、時間がなくなって一気に抜けようと思ったのだ。

テヘランから国境の町までは直行バスは無いので途中、じゅうたんで有名なイラン北西部の街タブリーズで乗り換えとなった。
タブリーズに着いたのは夜10時くらいだっただろうか。本来ならどこかに宿を取ればいいのだが、私たちはそのままバスターミナルの中で夜を明かし、始発バスを待つことにした。

私たちは使える金を持っていなかったのだ。
当時イランではトラベラーズチェックが両替できず、ほんの少ししかもっていなかったアメリカドキャッシュもそこで両替してしまうと物価の安いイランでは大量にあまってしまうような額のドル紙幣しかもちあわせていなかったので両替をせずにぎりぎりのお金で国境を超えようと思ったのだ。

だが、もちろん国境までのバス代くらいはもっているつもりだった。

つもりだった。

ということは・・・実は足りなかったのである!
ほんの少しだけバス代が足りなかったのだ。

困った。

時は夜中。灯りも消え、暗く小さなバスターミナルの待合室は売店も閉まり、街中でも難しい両替など、こんなところでできようはずもない。

困りながらもなんとかして金を作るしかない。

のこのこ 「また笛でも吹いて歌う?」

K子   「夜中でうるさいと思う。」

のこのこ 「・・・だよね。」

K子   「何か売りますか。」
 
のこのこ 「売るって言っても、何を?」

K子   「使い捨てカイロは?私何個か持ってるけど。」

のこのこ 「へ?!? カイロ?」

K子   「こっちだとめずらしいんだって。」

のこのこ 「使い方わかるかな。」

K子   「説明するしかないでしょう。」

のこのこ 「っていっても言葉通じないよ。」

K子   「・・・・。」

この人の沈黙に私は弱いのだ。

K子   (ごそごそとカイロを荷物から出して)
     「はい。これ。」

手渡されてしまった。

のこのこ 「はい。じゃ、とりあえず・・・」

意を決して立ち上がる。 
持ってるカイロは5つ!

そして足りない金額は18リアル!!!


イラン 使い捨てカイロの話 (その2)
(つづき)

時刻は夜中の3時。イラン北東部、タブリーズの薄暗いバスターミナルにて。

立ち上がってカイロをもみ始め、ちょっとあったかくなってきたらそこらへんのおじさんたちに声をかける。

のこのこ 「あの・・・・」

おじさん 「はぁ?なんだね?」

のこのこ 「これ。あったかいよ。」

どうしたらいいかわからないので手渡してみる。

おじさん 「ほう。なんだね、これは?」

なんとなくバラバラと人が集まってくる。

のこのこ 「あったかいの。ほらほら。みんなも見て。」 

カイロをおじさんの手から取って他の人にも触らせる。
どうせ言葉は通じないので日本語とジェスチャーのみである。

おじさん達 「ほほう〜。」
       「すげぇ。」 
       「なんだなんだ?」 
       「なんだあんたたちは?」
       「話のネタになるかも。」 

K子   「こうやってやるの。」
     (グーにした手を擦り合わせて、何度もモミモミする仕草。)

     「そうするとね、暖かくなるの。」
     (ほっぺにつけて、あったかい〜という仕草。)

のこのこ 「ほらほら。あったかいでしょ?」 
      (みんなにこれみよがしに目線。)

K子   「10リアル!」

客その1 「買った!」(10リアル札をさっとくれる)

のこのこ 「はい!」

他の客達 「ほほう〜!」(羨望のまなざしを<客その1>に向ける。)

客その2 「5リアル!」

のこのこ 「8!」

客その2  5リアルをこちらに渡し、カイロを奪い取る。

客その3 「俺も!」

のこのこ 「はい!」

その他の客の手も一斉に伸びだした時、警察の親父が登場、皆を蹴散らした。
散る客。取り残される私達。


「あんたたちはこんな夜中に何を騒いでいる?」

「・・・・・。」

「まぁ、いいからこちらに座りなさい。危ないからおとなしくしていなさい!」

「はい。」


かくしてカイロの実演販売は終了。

目標の18リアルは達成、見事に翌朝バスに乗ることができたのだった。

そして余った2リアルで国境の路上で焼いていたたまらなくおいしそうなシシカバブを買って食べたのであった。

空は快晴。 

このときの香ばしいシシカバブの味を忘れられない。



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