素直になれない



「な、なにを…!」
いきなりの行動に戸惑いつつ自分の状況を見た。
ダグリスに全体を抱えられている。
「降ろせ!今すぐ!」
痛む足は動かせず上半身だけでバタバタ暴れてみてもしっかり抱えられ、体勢を崩させる事は出来なかった。
「足、相当痛いんだろう?無理をしたら駄目だ」
気づかう目がアリューシャの目と交錯するが、嘘をついてるのがばれそうで慌てて目を反らした。
「い…痛くなんか無い、お前の勘違いだ!」
「そうか…」
片手で抱きなおすと、空いた手でいきなり患部をぐっと押した。
「…っ」
声にならないぐらいの痛みがアリューシャを襲った。
「勘違いじゃないみたいだね」
そんなやり取りの間に、だんだんと痛みが増してくる。
「ふらふらしていて、歩きもおぼつかなくて、目の焦点も定まってない…俺には今にでも気絶しそうに見えるけど」
正論をついているので、アリューシャは反論の余地もなかった。
「そんな状態で召還した所で制御できなくなり暴走するだけだ」
召還は触媒からモノを呼び出すが、精神力に左右され集中が乱れると 召還した物が暴走する。
アリューシャが今の今まで無事なのは精神力が他の人以上に優れているに過ぎない。
故に、先生からは体調不良な者の模擬戦闘は禁じられている。
「わかった、医務室行くから離してくれ…」
クラスメートも気がついたのか、今後の動向を見守られている。
男が女を姫抱きするならわかるが、自分は男だ… 恥ずかしくて穴に入りたい心境だった。
「ここで無理に歩いたら酷くなるよ、たどり着く前に倒れるかもしれないし」
「模擬戦のが大事だろう、いいから授業受けてろ」
「そんなのはどうだっていい、無くてもどうにでもなる」
召喚したモンスターを手順を追って返還すると、アリューシャの持ってるカードを奪い取り、それも追って返還させた。
「優秀だな生徒会長サマは…」
他人の召喚したモンスターを消すにはそれなりの能力と資質がないとできない
「憎まれ口叩けるなら大丈夫だな、まだ居るなんて言おうものなら気絶させてでも連れてくつもりだけど」
「どう気絶させるつもりだ……悪趣味だな…」
諦めて力を抜いて身体をダグリスに預けた。
「アナベラ先生、アリューシャを医務室連れてきます、代わりにコッペリアとディアラ入れてください」 そう言うと、テレポートで塔を後にした。



「後は自分で行くから戻れ…今なら未だ間に合う」
ダグリスの腕の中で再度もがくも、更に強く抱き締められた。
「ダグリス!」
「誰も見てないから大人しくしてて、大声張り上げている方が余計に目立つよ」
と、とりつくしまもない。
結局、そのまま医務室まで運ばれてしまった。
挨拶をして入ったものの医務室は誰もいない、左手にある予定表に出張と書いてある。
「先生が不在ならしかたない、ちょっと固定のときに痛むかもだけど、我慢してくれ」
アリューシャをベッドに座らせ、湿布を貼り丁寧に包帯を巻いた。
回復が少し早く進むようアリューシャの踝に手を当て治癒魔法をかける。

「…………すまない」

聞こえないくらい小さい声で呟くと、ダグリスが顔を上げた。
「何?」
「…いや、なんでもない、ちょっと痛んだだけだ」
お礼ぐらいは素直に言いたいのだが、ダグリス相手だとどうも言い難い。
「ん、これで良しと…ちょっと歩いて」
固定し終わった足を地面につけると、少しじんじんするものの、先ほどの痛みよりは幾分とマシになっていた。
「時間を取らせたな…戻ろう」
立ち上がり授業に戻ろうと踵を返すと、ふいに肩を捕まれそしてそのまま、ベッドに押し倒された。
「な!いきなり何をする!?」
起き上がろうとするアリューシャを更に強い力で押さえつける。
「まだ、戻る気なのか?熱もあるのに」
アリューシャの額にダグリスの手が乗る。
熱があるので彼の手冷たくて心地よい。
「熱なんか…無い…」
「……そんな潤んだ目で睨んでも駄目だ」
「う…潤んでなんかいない!」
「そう、それならばここには2人っきりだし誘ってくれるのかな?喜んでお言葉に甘えるけど」
さっきとは真逆の底意地の悪い笑顔で言われたら、もう大人しく寝るしかなかった。
「薬…痛み止め…置いとくからちゃんと飲むんだよ」
「………」
「……もしかして、口移しで飲ましてもらいたいとか?」
「馬鹿!もう帰れ目障りだ!」
赤くなった顔を見られない為にベッドに潜りこんだ。
そんなアリューシャを見届けて。髪を一撫ですると、医務室から出て行った。
潜りこみながら、アリューシャはどうしてこんな意地の悪いヤツの事好きなのだろうと悩むのだった。

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