少々古い話に なるが、06年3月6日の衆院予算委 員会で民主党・新緑風会の蓮舫
氏と少子 化担当相の猪口氏との少子化対策を
めぐるやり取りをテレビでたま たま目にした。
猪口氏は今 年1月中旬の記者会見で出産無 料化に前向きな姿勢を示しながら、
トーンダウンさせている前科があ る。そこまでは財源の面倒は見れ
ないという理由で、内閣の支持を 得られなかったからだろう。蓮舫氏がその発言の事実確認を求めたのに対して、猪口氏は蒸し返されることが面白くなかったからか、イエス・ノーを直接答えずに、
「私の発言に関しては、記者会見の議事録がある。それを読めば分かります」と、聞きようによっては開き直りと取れる答弁を行った。それに対して、蓮舫氏が
売り言葉に買い言葉といった調子で、「私が帰ってから、議事録を読めということですか」とやり返すと、小泉首相にすぐ背後から、「落ち着いて、ゆっくりと」と励まされながら、
猪口氏は「どう発言したか、正確を期してもらうためにそう言った」と弁解してから、発言を認めた。蓮舫氏が「分かるんでしたら、最初からおっしゃってください」と一本取った形で、女同士の鞘当は一応収まりがついた。
但し、その後の展開では、猪口氏が一旦口にした出産無料化案をその後の安倍官房長官との面会後に修正した経緯に関して蓮舫氏が質したのに対して、猪口氏は「私に寄せられた要望の一つとして出産無料化がある」と、自分自身の発案とは関係のない、他者からの単なる要望レベルに貶め、安倍晋三は、「出産無料化だけで解決することではなく、従来の施策と組み合わせて総合的に進めたい」と、具体性は何もないが、さも有効と思わせる「総合的」という便利な言葉を使って、出産無料化問題をかわした。
最初は蓮舫なる女、なかなかやるなと思っていたが、終わってみたら、どうとでも言いつくろえるだけの質問をしたに過ぎない。いわば、言いつくろいを引き出したに過ぎない。蓮舫氏
が、小泉首相や猪口少子化担当相の答弁を判断する限り、平成18年度予算案には少子化対策に取り組もうとする強い姿勢や指導力が見えない、予算配分を大きく見直して少子化・人口問題に取り組んでいくという意欲を示すべきであるにも関わらず、その意欲が感じられないと
強く迫ったものの、猪口や安倍晋三、さらに小泉純一郎の言いつくろいの前に空説得としか映らなかった。打てば響くという言葉があるが、相手に全然響かなかったのである。いつものことだと言えば、それまでだが。
他人が意欲云々をどうあげつらおうが、既に決定した予算案を進めていくだけだろう。
少子化対策は緊急を要する政策のはず。合計特殊出生率が1970年半ば以降、人口を維持するのに必要とされる
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を割り続けて以来、このまま推移すれば人口の自然減を迎えると分かっていた
というが、何ら有効な政策を打ち出せずに、多分「総合的」にはアレコレ手を打っていたのだろうが、30年という年月を無駄に過ごし、人口の自然減を現実の問題として迎えることとなったのである。
蓮舫氏が猪口氏の一旦口にした後後退させた出産無料化案を質したのは、出産無料化が少子化対策の一つとして有効と考えているからだろう。進行形ならまだしも、過去形となった単に相手の一貫しなかった態度を突つくための質問だったなら、時間と歳費の無駄というものである。
少なくとも中低所得者を対象に限定して無料化することは有効でないはずはない。併せて2万人を超えるといわれる保育所待機児童問題を早急に解決しなければならないが、有効と考えるなら、「無料化」を民主党の政策にすべきではないだろうか。民主党の発案を自民党の政策に取り込まれて、オウンゴールの形で得点を相手に与えたことがこれまでもあったはずである。その逆を狙って、どこに
問題があるだろうか。
財源は、勿論消費税のアップ以外の選択肢はあろうはずがない。日本は06年見通しで、対GDP比60・5%という、アメリカをはるかに上回る借金を抱えている上に、財務省見通しで、名目成長率がゼロなら、06年度の国債依存度が50%に上昇するとされている。こういった現実を前にしたら、社会保障給付費の抑制だとか、公務員削減だとかは、必要であるとしても、根本から外れた歳出抑制に過ぎなくなる。
自民党の中川政調会長は、消費税増税よりも、財政再建が先だ、景気が回復すれば、税収が増え、財政再建ができて、予算配分に余裕ができるといったようなことを言っていたが、景気回復に連動して金利が上昇すれば、国債の利払いの増大を招くだけではなく、国債そのものの値下りを招いて、国債を大量保有している金融機関のj経営を圧迫するということだから、果たして消費税増税といった選択肢なしで、中川氏の思惑通りに動くかである。
安倍氏ふうの「総合的」な形でその場誤魔化しでいくなら、不人気となる、最悪の場合、政権を放棄することにつながりかねない消費税増税を回避した方が懸命ではあるが、高齢化に一刻も早くブレーキをかけ、国家存立の土台を成す適正な人口構成を構築・維持していくための少子化問題を含めた対策が緊要である今の日本の状況から言ったら、
財政事情から言っても、消費税増税は待ったなしではないだろうか。
小泉首相は任期中の消費税増税を否定している。しかしごく近い将来の消費税増税は確実に既定路線となっている。この矛盾は、<任期中>に限定した増税なしで、任期終了後は増税ありという待ったなしの先送りから生じている矛盾であろう。
ここに小泉構造改革の誤魔化しがある。下手に消費税をいじくって、構造改革を失敗させたくない、失敗したら、有終の美を飾ることもできない。有能な総理大臣としての後世の評価も危うくなる。いわば、消費税を避けて、安全パイに頼った構造改革だったのである。だから、小泉首相になってからも、国の借金が増え続け、その手当てのために、社会的弱者にのみ、しわ寄せが偏ることとなった。
量的緩和の早期撤廃に反対
だったのも、そのことで回復しかけている景気に悪影響を及ぼし、退任にケチをつけられることを恐れているからに違いない。退任後なら、消費税増税と同様に自分には関係ないということなのだろう。
民主党はそこを突いて、財政再建も、少子化対策も、もはや待ったなしの状況にあり、退任を予定表に組み込んで政策を選択する余裕はないのだと、消費税増税と増税分を財源とした「出産無料化」案を自党の政策として打ち出すべきではないだろうか。
「出産無料化」によって、出生率を高くすることも大事だが、外国人の受入れ(移民の受入れ)も、人口構成の適正化政策として、選択肢の一つとすべきではないだろうか。
消費税増税に当って、注意しなければならないことは、社会の格差を現在以上に広げてはならないと言うことだろう。小泉首相は、「どの時代も、どのような社会も、どの国にも格差はあったし、現在もある」として、日本の社会の格差を許容範囲内であるかのように言っているが、自殺者の増加や生活保護費受給者の増加、地方の衰退、定率減税の見直しや医療費負担増等による低所得者や高齢者の生活の質の低下
傾向が格差拡大を決定的な事実として存在させているとして、消費税増税も、食料品に関しては従来どおりの5%ととし、それ以外を15%とするというふうに、格差拡大の歯止めに対する配慮は欠かせない。
中低所得者を限定とした出産無料化と食料品を除く消費税増税は出生率の増加と所得格差の是正に一石を投じないだろうか。