リチャード・ジェルダード著

『エマソン 魂の探求』

日本教文社

2400円

 

  原題は"The Esoteric Emerson"で、最初はややいかがわしい感じもある本なのかと思いましたが、実際には非常にまじめな本でした。エソテリックという言葉は、しばしばオカルトなどと似たような意味でも使われますし、この本のなかにも神秘主義について語った章もあるのですが、著者としては「秘められた」、「いままでに知られていなかった」という意味も含めてこの言葉を使っているのかもしれません。うがった見方をすれば、軽薄な「神秘」に流れやすい現代の世代に興味を持ってもらい、実際にはもっとまじめに人生のことを考えてもらおうじゃないか、みたいな著者の狙いもあったのかもしれません。いずれにしても、この本は今時の世代にもけっして堅苦しくないエマソンの入門書になっています。
  ラルフ・ウォルドー・エマソンは19世紀のアメリカの思想家で、「森の生活」でおなじみのヘンリー・デイビッド・ソーローの先生であり友人、と言ったらわかってもらえるでしょうか。政治的には独立したものの、思想的にはまだイギリスの強い影響下にあったアメリカに登場した、初めてのアメリカ人の思想家と言ってもいいでしょう。ホーソーンの『緋文字』などにも見られるように、当時のアメリカは厳格なピューリタニズムが支配的で、エマソン自身も代々ニューイングランド地方で牧師を務めた名門の出ででしたが、そういった宗教的な枠を超えた絶対的な存在として「大霊(Over-Soul)」という概念を提唱し、既成の教会組織からの脱却を図り、個人の魂に真の解放をもたらそうとしました。彼の思想はトランセンデンタリズム、すなわち超絶思想として、以後のアメリカに大きな影響を与えました。彼が活躍したのは日本では幕末から明治に当たり、江戸幕府の遣欧使節がホワイトハウスで当時のアメリカの著名人たちと会見し、そのなかにはエマソンも含まれていたということです。じつはこのときの使節の一行には福沢諭吉もいて、詳しく調べたわけではないのではっきりとはわかりませんが、彼はエマソンからかなり影響を受けた節もあります。福沢がよく書を請われて書いたという「独立自存」という言葉は、エマソンの"Self Reliance"に他ならないような気がします。いずれにせよ、エマソンが明治時代からわが国に紹介されていたことは確かです。
  ではエマソンはたんなる古典なのかというとそうでもないのです。以下で紹介する『クリスタル・ジャーニー』という、いわゆるクリスタル物の本のなかにも「世の中こそほんとうの学校なのです」という一節が出てきますますが、これはまさしくエマソンが言っていたことなのです。ですから、彼は現代のニューエイジにも深いところでは影響を与え、その精神的な拠り所になっているということも想像されます。最近では哲学がややブームになっていますけれども、エマソンの哲学は比較的若い人でもとっつきやすいので、よろしかったら目を通してみてください。また、言い忘れましたが、彼はアメリカのビート・ジェネレーションにもかなりの影響を与えているようです。ジャック・ケルアックが東洋の神秘思想に興味を示し、寒山と拾得の詩を愛した、ということの底流にはエマソンからの影響もあるように思われます。現代のアメリカ思想の一端を理解する上でも、一度はエマソンにチャレンジしてみてもいいのではないでしょうか。なんだか宣伝になってしまいましたが、これも自慢袋の内容なのかもしれませんが……。


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