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<2001年9月の読了本>


『R.P.G.』宮部みゆき/『わたしは虚夢を月に聴く』上遠野浩平/『スケアクロウ−自動鳥獣撃退装置・狂騒記−』姫野由宇
『呪禁官』牧野修/『ゲッベルズの贈り物』藤岡真


『R.P.G.』 宮部みゆき 集英社文庫 ★★★★☆

R.P.G.

建築中の建て売り住宅で刺殺された男とその3日前に渋谷のカラオケボックスで絞殺された女。共通の遺留品が見つかったことから合同捜査本部が設けられた。捜査が進むうち、二人が不倫関係にあったらしいこと、殺された女を恨む同級生がいたこと、そして殺された男がネット上で「お父さん」というハンドルネームを使い、「お母さん」「カズミ」「ミノル」の4人で家族ごっこのようなことをしていたことなどが明らかになる。捜査本部の目はほぼ女の同級生に向けられていたが、一部の刑事たちは全く違う可能性について考え、ある計画を実行に移そうとする。

あとがきに「単行本にするには少々枚数が短く、中短編集に入れるには独立性が強すぎて収まりが悪い」とあるように、これはそんなに長い物語ではありません。(そうはいってもほぼ300頁はあるのですが、宮部さんの長編は本当に長いのでやっぱり短いのでしょう) でも、面白かったです。面白さでいうなら長い作品に負けてないと思います。
『模倣犯』の武上刑事と『クロスファイア』の石津刑事が登場しますが、この2作を読んでいなくても大丈夫。読んだ人には物語と直接関係はないおまけの楽しみみたいな記述がいくつかありますが。
舞台は警察署。もっと言ってしまえばその取調室とそこをマジックミラー越しに見ることの出来る部屋で、物語は進んでいきます。この構成はかなり緊張感がありますね。私はある登場人物の反応に神経を集中して読んでいたのでかなり肩に力が入りました。その人物に目をつけたことについて、私としては「我ながらなかなかいいところに目をつけて読んでるんじゃないか」と思ったりもしていたのですが、読み終えてみると、それすらも作者の計算のうちだったのではないかと感じます。だってそこに神経がいっていたおかげで全然・・・おっと、これ以上は自粛。
ネット上での疑似家族というものがあまり私の中でピンとこなかったこともあって、今回はそんなに登場人物と感情を同調させることはなかったのですが(そうなのかー、とか、なるほど、と思いはしても)、終盤ある登場人物がつい言ってしまった言葉(あれはついぽろっと本音が出ちゃったんだろうなあ)にどきりとしました。物語とは直接関係ないんですけどね。
とにかくよくできたミステリだと思います。出来れば細切れに読まず、時間があるときに一気にいきましょう。


『わたしは虚夢を月に聴く』 上遠野浩平 徳間デュアル文庫 ★★★★

彼女がの言葉なら覚えている。細やかな息づかいやまっすぐな微笑みははっきりと思い出せるのに、名前はおろか顔も声も思い出せない。消えてしまったその人は、つい最近まで確かにいたはずなのに、まわりの誰も覚えていないし存在していたという証拠もないのだ・・・。

あんまり急いで読むと、物語の中で自分が今いる位置(時間とか、空間とか)がわからなくなってしまいそうだったので、文章を読み飛ばさないように、わりとゆっくり読みました。気をつけて読んでいたから余計になのかもしれないけど、ラストはぽーんと放り出されたような感覚を味わいました。こういうのって何のひっかかりもなくすんなり終わるよりも後を引くんですよね。
この作品世界をもう少し把握したくて、でもってそれぞれの作品の位置関係も確認したくて、『ぼくらは虚空に夜を視る』と『少年の時間』に収録されている「鉄仮面をめぐる論議」を再読。直接関わっているわけではないけれど、やっぱり「これを読んでないとここはわかりづらいよなあ」というところはありますね。
全体的に、非常にメッセージ性の強い作品だなあという印象です。もっと肩の力を抜いてもいいんだよ、と言われているように感じるところがいくつかあって。それとは裏腹に、人の想いなんていうものはなんて頼りなくてはかないものなんだろうなんて思ったりもするんですけどね。やっぱり「我思う故に我有り」ということなのかなあとか、ぐるぐると考えてしまいました。
感動した、とか、面白かった、とかいうのとは少し違うところで私にとっては意味のある物語だったと思います。

あと、138頁のシーマスの絵がものすごく好き。壁紙にしたいなあ・・・。


『スケアクロウ −自動鳥獣撃退装置・狂騒記−』 姫野由宇 宝島社 ★★★★

スケアクロウ―自動鳥獣撃退装置・狂騒記

K町では近頃スズメやヒヨドリなどの鳥獣が異常繁殖、水田への被害は深刻なものとなり、各区画ごとに最新型の自動鳥獣撃退装置が設置された。この装置について販売員はこう説明する。装置は点火プラグをスパークさせてガス爆発を起こすものであって、「ちょっとした音が出ます。鳥獣をたまげさせるんです」と。
早朝がらドカンドカンと鳴り響きはじめたこの”ちょっとした音”、確かに鳥は逃げるかもしれないが人間だってたまったもんじゃない!住宅地の人間と土地のモンの対立に、日和見な公務員、様々な思惑が入り乱れ町は大騒ぎに・・・。

ユーモアが効いていてテンポがよくて、それでいて言っていることはかなりブラック。皮肉たっぷりな(でもあたりはやわらかいんですよ)文章が読んでいてとても心地いい。例えば”回文”と”怪文”をかけてあったり(だよね?)、うっかりすると読み飛ばされてしまいそうなところにまで凝っている、そんな感じがします。好き好き、こういうの。
物語の筋立ても面白いのですが、それよりも、個性溢れる町の人たちの描写や、立場が違う人同士のまったく噛み合っていない会話などにとても魅力を感じます。結構たくさんの住民が出てくるのですが、どいつもこいつもくせのある人間ばっかりで、いい意味でマンガチック。それぞれの物語上の役割をきっちり果たしています。でもって舞台は「おいおい、それって普通に考えたら通らないよねえ」と思うようなへんてこりんな理屈が平気でまかり通ってしまうイナカ。これってほんと、ちょっと怖くてやたらと面白いです。
自動鳥獣撃退装置をめぐる騒ぎは、社会風刺たっぷりでうっかりすると説教くさくなってしまいそうなのに、終盤まではあくまで洒落たドタバタ劇に仕上げていて、いい感じです。強いて言うなら新聞記者の熱血くんぶりがちょっと気になったけど、こういう人がひとりくらいいないと話に収拾がつかなくなっちゃうもんね。
ラストはそれまでの小粋な雰囲気とはちょっと変わって、どかんと派手。その光景を思い浮かべると結構怖いです。
読んでいて思わず笑ってしまうようなストレートな面白さよりも読みながら唇の端でニヤリと笑うような面白さが好きな方にはおすすめです。


『呪禁官』 牧野修 祥伝社ノン・ノベルス ★★★★

呪禁官

始まりは35年前に起こった<呪殺>。以降、それまでは不可能とされていた呪的な手段による犯罪が続発、それを取り締まる法律が国会を通過した。いつしか人々は呪術・魔術というものの持つ力を受け容れ、オカルトが生活の一部になった。
そんな現在の花形職業は、内務省所属、呪禁局特別捜査官。略称”呪禁官”だ。
この職業に就き命を落とした父の遺志を継ぎ、養成学校に入学したギア。彼の行く手には様々な難関が待ち受けていた。

これ、見返しの東氏の言葉にあるとおり、「オカルト青春アクション」という言葉がぴったり。読み始める前に想像していたよりもずっとずっとアクション寄りで、呪禁官養成学校での訓練の様子は、呪術師というよりは傭兵養成所みたい。呪詛の授業とかもあるみたいなんだけど、何故かそっちはほとんど書かれていないんですよねー。「オカルト」と「アクション」だったら断然「オカルト」の方に比重がある私としては、それがちょっと残念。
ギア、ソーメー、貢、哲也の4人組のチームワークがよくて、いい感じ。お互いの足りないところをカバーし合ってみんなで成長していくあたりは「王道」ですね。私としてはこの中に入れ込めるキャタクターがいるとなお盛り上がったと思うのですが、4人ともそういう対象には残念ながらならず。で、そういう方面の期待は彼らの敵となる魔術結社<月の花嫁>の首領で不死者と噂される蓮見にかかったわけですが、こちらも何故だか盛り上がらず。キャラに入れ込んで読む小説じゃないってことかな。
終盤はこれでもかこれでもかと描かれるアクションシーンにグロテスクな描写が苦手な私はかなりびびりました(笑)。あんなにぼこぼこにされて、普通生きてないよー。間違いなくアクション度バイオレンス度共に私の守備範囲ギリギリでしたね。
読む前に期待していた程にはハマりませんでしたが、楽しく読みました。これ、一応この一冊で区切りになってますけど、まだまだ先がありそうな感じです。シリーズになるのかな?続編が出たら読みたいです。


『ゲッベルズの贈り物』 藤岡真 創元推理文庫 ★★★★

ゲッベルスの贈り物

正体不明のアイドル<ドミノ>を探す「おれ」と、作家、ニュースキャスターなどの著名人を次々と手にかけていく殺し屋の「わたし」。それぞれの視点で交互に語られる物語。

私は
1.今は別々の話がいつどういう形でつながるのか、ということについての手がかりを探しながら読む。
2.名前と職業がはじめにあきらかになる「おれ」に対してなかなかその素顔が見えてこない「わたし」が一体誰なのかを想像しながら読む。
大きくわけて上の2つのことに関する記述を見逃さないよう、楽しみながらも慎重に読んだつもりだったのですが・・・。
あとがきの千街氏の言葉を借りて、この本を読むことを「作者との勝負」だとするなら、勝負はほぼ完全に私の負け。すっかりだまされました。途中「わかった!」と思ったところも、作者の意図にまんまとはまっただけでしたし・・・。

でも、たくさん負けたけど1勝はできたんですよ!そう、ひとつだけ、文章の裏を読むことができたのだ!えへん。といっても、ただそんな気がしただけ、なんですけどね・・・。
自分の負けの内容を確認するため、続けて再読。これがまた楽しい!あそこにもここにも、わかって読むと「ああそういう意味だったのかっ!」と膝をたたいてしまう記述がいっぱいです。

ストーリーも、広げた風呂敷を細かいつっこみははねとばしてがんがんたたんでいくような感じが気に入ってます。