「富士山で迷う」・・・このことはすなわち死を意味する。しかし、私の知る「信さん」という男は、三ヶ月の歳月を経、生還した。一体その間信さんの身に何が起こっていたのか、そしてなぜ帰ってくることが出来たのか。
これから全てが明かされる・・・。

その男、信さんは山が好きだった。仕事を店員に押しつけては、山という山に入り、月のうち20日は帰ってこない、そんな信さんであった。おもちゃ店の店員であるKさんは、すでにそんな信さんを野放しにしていた。信さんにかまっていたら大好きなおもちゃ店の仕事が、とどこおってしまうからだ。

そんなある日、マイ・フェイバリット・マウンテン、富士山に登った信さん。急に発生した濃く、深ーい霧によって、「20日」どころではなく、本当に帰れなくなってしまったのだ。さあ大変!

富士山通(略して富士通・・・)の信さんは、この事がどんなに恐ろしいことかをよくわかっていた。
ヘタに動くこと=即、命を落とす結果につながる。とはいってもじっとしていられる男ではない信さんは、一昼夜歩き回ってみた(だから命を落とすっちゅーねん)。
そんな中、たまたま(たまたまか!)なんと洞くつを発見することができた(ちなみにその時の信さんの第一声、喜びの言葉は「マジで!?」)。そしてこの洞くつは3ヶ月間、信さんを富士山に閉じこめてしまうのだった。「マジで洞くつ〜!?」と洞くつ内チェックをしながらすっかりウカれてしまっている男、信さんは知るよしもなかった。


どれくらい眠ったのであろうか。目がさめるとあたりはまっくら。「まだ夜か…」と二度寝をしようとした信さんであったが、実は三ヶ月もの間眠り続けていたのだ(熊か)。よって二度寝はいくらおねぼうな信さんでもムリだった。あきらめて朝を待つことにした信さんだったが、いくら待っても夜は明けなかった。
それからさらに36時間後。「あれ〜?」信さんはやっと気づいた。3ヶ月の間に降った大雪によって、洞くつの入り口がすっかり埋まってしまったということに。
どうやって外に出たらいいのだ…信さんは考えた。考えたが「ってゆうかぁおなか空いたぁ?」なぜか語尾上げギャル口調でそう言い、自分がこの三ヶ月間何も口にしていないこと、空腹が限界領域に達していることにやっと気づいた。しかしここは出口を失った洞くつ。そう、信さんはもう二度と出られないのだ。「おなか、空いた…」。
ああ、さよなら、信さん。


ってそうじゃなくて。
なんとかここから脱出しなくては、しかし…考えてみても答えは出なかった。どうがんばっても自分一人の力でこの雪を切り崩すのは難しいことだった。
「どうしよ。」信さんは考えた。「ここには食べるものはないようだ。僕はこれからどうなるのでありましょか…。あっ。っていうかウンコしたいぃ?」信さんは何か考えはじめるとトイレに行きたくなってしまう男であった。学生時代、授業中に「先生、トイレに行って来ます」と言い残してはいつもトイレに走っていた信さん。あだ名はもちろん「うんこ信」。そんなことをなつかしく思い出しながら、信さんはもりもりとウンコをしたのであった。そして…そして信さんは危険なことを思いついてしまったのだ。
「ここには食べるものはなにもないけど、ここに僕のウンコがある。このウンコを食べればこのウンコはまた僕のウンコとなって出てくる、そしてそれをまた食べれば…ここで暮らしていけるじゃんか!」信さんはその「大発見」をしたうれしさのあまり、踊り始めた。3時間ほど踊り続けたのち(やっと)飽きてしまい、ふっと我に返った。これから長い時間を過ごすであろうこの場所には、彼の好きな「おもちゃ」はひとつもないのだ。ゲームもフィギュアも、なーんにも。退屈がきらいな信さんは(広末と一緒だ、と言ってきかない信さんであった)ちょっと悲しくなった…しかし!目の前のウンコを見ると、やっぱり踊り始めてしまうのであった。

信さんがそんなふうに踊り続けている間、富士山の七合目付近では、いつもの穏やかな町内会の会合とは打って変わって、白熱した論議が繰り広げられていた。木、草、花たち、そして富士山の神サマによる月イチの会合でのことであった。

「どーすんですか神サマ!あの男あんなこと言ってるじゃないですか。イヤですよアタシんとこの近所にあんなのが棲むなんてぇぇぇ!」花が泣きながら神サマに訴えた。たしかにそうである。近所にウンコ食べて暮らしているひとがいたら、誰だってイヤだ。「花さんの気持ち、わかりますよ…」木や草は気の毒そうに花を見るばかりであった。神サマは額に汗を浮かべながら、「今年はもう、雪溶かす!」と非常手段をとることを決定した。
神サマは「洞くつの雪よ、溶けなさいコノヤロー!」と青スジをたてながら念じた。

洞くつで今まさに自分のウンコを食そうとしていた信さん、急に射し込んできた外の白い光に驚き、そちらへ顔を向けた。すると、なんと雪がモーレツな勢いで溶けているではないか。
「え〜???マジでぇぇぇ!?」信さんはうれしさをあらわしつつも、どこか納得のいかない表情を浮かべながら、とりあえず「ウンコ食べ」を寸前のところでストップした。
そして信さんがまちがいなく、二度と迷わずさっさと家に帰れるように、という神サマの決定によって、その日よく晴れた空の下、信さんはおうちに帰ることが出来てしまったのだった。なんてこった。

無事、下山できた信さんは、おもちゃ屋を開業した。
洞くつで過ごした間、「食糧問題」は乗り越えることができたものの(…)大好きなおもちゃがそばにないということにはとても耐えることができなさそうだったこと、そして生命の危機を味わってみて「どうせなら大好きなおもちゃにまみれて生きていきたいじゃない?」(誰に言ってるんだろう)そう思うようになったのだった。

そして現在、ごてんば市にておもちゃ店「信さんの店」を開くにいたっている。
「ちょっと!もう、さぼってないでこれを棚に並べてくださいよ!」、そうどなっているのは店員のKさん。 信さんは「ハイハイ、ただいま〜。」と答えながら外で凧をあげている。
今日も信さんはみんなに怒られながら愛されながら、みんなのこころをなごませてくれる、そんなおもちゃを売り続けているのです。。。