はやし浩司

子どもの見方
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子どもの見方
はやし浩司

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恐怖症

【A】ものごとに強い恐れをもつことを恐怖症といいます。以前「学校の花子さん」という映画が
はやったとき、「小学校へ行きたくない」と言う幼稚園児が続出しましたが、それもその一つで
す。この恐怖症は何に対して恐怖心をいだくかによって分けて考えます。
・対人(集団)恐怖症
 幼児の場合、新しい人の出会いや新しい環境に対して、ある程度の警戒心をもつことは、む
しろ正常な反応とみます。これに対して思考力に欠ける子どもほど、周囲に対して無警戒、無
頓着で、初めて行ったような場所でも、わがもの顔に騒いだりします。
 が、その警戒心が一定の限度をこえ、精神的、身体的な影響を与えることを、対人恐怖症と
いいます。人前に出ると体が緊張状態になり、声が出なくなる(失語症)、顔が赤くなる(赤面
症)、冷や汗をかく、幼稚園や学校が恐くて行けない(不登校)などがあります。
・場面恐怖症
 その場面になると極度の緊張状態になることをいいますが、エレベーターに乗れない(閉所
恐怖症)、鉄棒にのぼれない(高所恐怖症)などがあります。筆者も子どものころ、暗いトイレで
用をたすことができませんでした。今でも、そのころの原体験がもとになっているのか、暗いト
イレに入ると、ゾッとした恐怖感に襲われることがあります。
・そのほかの恐怖症
 動物や虫をこわがる動物恐怖症、手の汚れやにおいを気にする疑惑症など。ペットの死をき
っかけに、死を極端にこわがるようになった子どももいます。
【C】子ども自身ではコントロールできないとき恐怖症といいますが、そのため叱ったり無理をし
ても意味がありません。子どもの視点で、また子どもの立場で、ものを考えるようにします。強
引な誘導や強引な押しつけはタブーです。
 神経症との区別がつきにくく、神経症
と同じレベルで対処します。



神経症

【A】心理的な要因が原因で、精神的、身体的な面で起こる機能的障害を神経症といいます。
子どもの神経症は、精神面、身体面、行動面の三つの分野に分けて考えます。
・精神面の神経症
 精神面で起こる神経症には、恐怖症(ものごとに恐れる)、強迫症状(ささいなことを気にし
て、こわがる)、不安症状(理由もなく何かに悩む)、抑うつ感(ふさぎこみ)など。ヒステリーもそ
の一つですが、混乱してわけのわからないことを言って、グズグズと泣くタイプと、大声をあげ
て暴力行為を繰り返すタイプに分けて考えます。
・身体面の神経症
 夜驚症、夜尿症、頻尿症(頻繁に尿意をもよおす)、睡眠障害(なかなか寝ない、早朝起
床)、嘔吐、下痢、便秘、発熱、喘息、頭痛、腹痛、チック、遺尿(その意識がないまま尿をもら
す)など。一般的には精神面での神経症に先だって、身体面での神経症が起こることが多く、
身体面での神経症を黄信号ととらえて警戒します。
・行動面の神経症
 神経症が行動面におよぶようになると、さまざまな不適応症状となって現れます。不登校もそ
の一つですが、その前の段階として、無気力、怠学、無関心、無感動、食欲不振、引きこもり、
拒食などが断続的に起こるようになります。パンツ一枚で出歩くなど、生活習慣がだらしなくな
ることもあります。
【C】こうした神経症が現れたら、親は子どもを包む家庭環境を猛省します。たいてい親はその
原因を外の世界に求め、「いじめが原因だ」とか「先生の指導が悪い」などと言ったりします
が、反省すべきはまず親自身です。子どもの側から見て、神経質な家庭環境になっていない
か、あるいは気が抜けない家庭環境になっていなかを反省します。子どもが一人静かにぼん
やりできる家庭環境を大切にします。



分離不安

【A】親の姿が見えなくなると、混乱して泣き叫ぶタイプ(分離不安症)と、一人で行動ができない
タイプ(孤立恐怖症)に分けて考えます。さらに大声をあげて泣き叫ぶタイプ(プラス型)と、思
考そのものが混乱状態になり、オドオドとするタイプ(マイナス型)に分けて考えます。
 ただ症状が、いつも同じように出るかというと、そういうことはなく、子ども自身が絶対的な安
心感を覚えているようなときには、出ません。
【C】分離不安症の子どもをみていくと、必ずといってよいほど、そのきっかけとなった事件が過
去にあるのがわかります。はげしい家庭内騒動、離婚騒動など。母親が病気で入院したことが
きっかけで分離不安になった子どももいましたし、置き去りや迷子を経験して、分離不安症に
なった子どももいます。育児拒否、虐待、下の子どもの出産などがきっかけとなることもありま
す。
 原因は「捨てられるのではないか」という被害妄想です。あるいはすべてを悪いほうに考えて
しまい、その妄想の中で混乱状態になるためです。子ども自身の無意識下で起こる現象です
から、そのため叱っても意味がありません。かえって症状をこじらせます。中に、「うちの子ども
は集団生活に慣れていないためだ」とか、「どうせ子どものことではないか」と安易に考えて、無
理をする人がいますが、こうした無理は一時的に症状を抑えることはできても、心の傷を大きく
してしまいます。このタイプの子どもを、冷たく突き放すのは、タブー中のタブーです。
 子どもの心を慎重に見きわめながら、とにかく無理をしないようにその時期を過ごします。四
〜五歳をピークとして、以後症状は急速に収まってきます。ただ分離不安だけは一生続くこと
が多く、ある母親は、「今でも主人の帰宅が遅くなるだけで、言いようのない不安感に襲わ
れる」と話してくれました。



育児拒否

【A】母親だから子どもを愛しているはずだと考えるのは、正しくありません。今、夫にも言え
ず、子どもを愛することができず悩んでいる母親はいくらでもいます。一〇人に一人ぐらいはい
るでしょうか。「妊娠したのでいやいや結婚したが、そのためどうしても息子を好きになれない」
「大嫌いな義父そっくりな顔をしているので好きになれない」など。愛していないことに気づかな
いまま、子育てをしている人もいます。子どもを虐待したり、暴力を振るったりする親は、たいて
いこのタイプの人と考えます。
 この状態がさらに進んだのが、育児拒否です。こうした環境で育てられた子どもは、心に大き
な傷を負うことが知られています。カナーという学者は、育児拒否を次のように定義していま
す。
・過度の敵意と冷淡
・完璧主義
・代償的過保護
 ここでいう代償的過保護というのは、愛情に根ざした本来の過保護ではなく、子どもを自分の
支配化において、自分の思いどおりにしたいという、親のエゴに基づいた過保護のことをいい
ます。その結果子どもは、・愛情飢餓(愛情に飢えた状態)、・強迫傾向(いつも何かに強迫さ
れているかのようにおびえる)、情緒的未成熟(感情をコントロールできない)などを引き起こ
し、さまざまな問題行動を起こすことがわかっています。
【C】親が育児拒否をする原因として、さらにホルネイという学者は、次の四点をあげています。
・親自身が障害をもっている。
・子どもが親の重荷になっている。
・子どもが親にとって失望の種になっている。
・親が情緒的に未成熟で、子どもが問題を解決するための手段になっている。
 子どもを虐待する人は、こうした事実を冷静に判断し、自分自身の中に潜む問題点を知りま
す。それがわかるだけでも
問題の半分は解決したとみます。



内弁慶

【A】家の中ではいばっていても、外の世界では借りてきた猫の子のようにおとなしいことを、昔
から「内弁慶、外幽霊」と言います。次のような特徴があります。
・社会性の欠落
 乳幼児期から社会的訓練が不足し、社会性が身につかなかったためと考えられます。親の
過保護、過庇護、過関心が原因で、一般社会から隔離された家庭環境で育つなど。ブランコを
横取りされても、それに抗議するということができません。
・対人仮面症
 人前では別人のようによい子ぶるなど、仮面をかぶります。参観日などでの様子を見て判断
します。このタイプの子どもは外の世界では、神経疲れを起こしやすく、その分、家の中で暴言
をはいたり、暴れたりします。
・対人恐怖症
 人前では不必要に緊張してしまうなど。人前ではオドオドしたり、冷や汗をかいたりします。
・集団不適応
 園児でも、遠足のような集団行動を楽しみにする子どもと、それを嫌う子どもと、二つのグル
ープにはっきりと分けることができます。「子どもだから遠足が好きなはずだ」と、安易に決めて
かかるのは正しくありません。あるいは「集団行動が嫌いなのは、慣れていないため」と決めて
かかるのも正しくありません。
あくまでも子どもを見て判断します。
【C】子どもは風船玉のようなものです。どこかで圧力を加えると、そのひずみは別のところで現
れてきます。このタイプの子どもは外の世界で、大きなストレスを受けやすいので、その分、家
の中でそれを発散させるようにします。内弁慶ではあっても、「ああ、うちの子は外の世界でが
んばっているからだ」と思いなおし、それを別の心で許すようにします。家の中でも抑えると、子
どもの心はゆがみますから、注意します。



チック

【A】チックをクセと誤解する人がいますが、チックはクセではありません。習慣性れん縮ともい
い、一群の筋肉の無目的な運動をいいます。次のような特徴があります。
・主に首から上に出る
 首をギクッギクッと不規則にひねる、のどをつまらせる、目をまばたきさせるというのが、よく
ある症状ですが、ほかにつばを吐く、体をけいれんさせるというのもあります。
・時と場所を選ばず起こる
 親が子どもを注意したようなときには、一時的に症状は消えますが、子どもが気を抜いたよう
なとき、また始まります。時と場所を選ばないのが特徴で、これをチックの不随意性といいま
す。
・快感をともなわない
 クセにはそれをすることによる快感をともないますが、チックには、それがありません。「どう
してそんなことをするのかわからない」というのであれば、チックを疑ってみます。
・幼児期に始まり、数年続く
 チックの多くは、幼児期から七〜八歳前後をピークとして発症し、一度チックが出ると、数
年、あるいはそれ以上の間続くのがふつうです。
・神経症の併発
 チックにあわせて、ほかの神経症を併発することが多く、たとえ分離不安、慢性的な腹痛、下
痢など。稀に複数のチックを併発したり、呼吸困難をともなう全身的なチックに発展することも
あります。
【C】チックの最大の原因は、家庭環境にあります。一般的には一人っ子に多いとされますが、
それは一人っ子であるため、それだけ親の鋭い視線が子どもに注がれるためと考えられま
す。もし子どもがチックによる症状を見せたら、その背後に、親の拘束的かつ権威主義的な過
干渉がないかを疑ってみます。こまごまとした神経質なしつけや、完璧主義があれ
ば、それを改めます。



排尿障害

【A】夜尿症、頻尿症のほか、最近では次のような排尿障害が見られます。幼稚園や保育園な
どで、オムツがないと排尿できない。三歳を過ぎてもオムツがはずせないなど。原因は排尿、
排便のしつけの失敗ですが、さらにその原因は何かというと、近年、飛躍的に使い勝手がよく
なった使い捨てオムツ(紙オムツ)が疑われます。
 乳幼児は排尿、排便後の不快感を通して、排尿、排便感覚を養いますが、高性能(?)の紙
オムツでは、それを感じないため、ここでいう排尿、排便障害を引き起こすと考えられます。ほ
かに排尿拒否(幼稚園や保育園などの外の世界では排尿ができず、最後の最後までがんば
る。紙オムツをあててあげると、排尿できる)、遺尿、遺糞(その意識がないまま、尿や便をもら
してしまう)などもあります。
 子どもが排尿障害を起こすと、「どうして言えないの」とか、「どうしてトイレに行かなかったの」
と、子どもを叱ったりしがちですが、問題の根はもっと深いところにあると知るべきです。
【C】こと夜尿症に関して言うなら、それをなおそうと思えば思うほど、逆効果で、子どもはますま
す神経質になってしまいます。もともと睡眠中というのは、尿の生産が抑制されるようになって
いるのですが、日中のストレスなどが原因で、そのしくみが乱れたとき、夜尿症になると考えま
す。脳の機能的障害の一つと位置づける学者もいます。そんなわけで、子どもが夜尿症になっ
たら、一にあきらめ、二に「ほめてなおす」という方法をとります。これはおねしょをした朝は、そ
れを無視。おねしょをしなかった朝は、それをほめるという方法です。
 なお四、五歳を過ぎてから、おねしょの防止にと、紙オムツをあてる人がいますが、あまりお
勧めしません。子ども自身が、おねしょをしたことによる不快感を身をもって体験しないと、お
ねしょは治らないということです。



過敏児

【A】心理反応が過剰な子どもを敏感児といいますが、その程度がさらに越えた子どもを、過敏
児といいます。敏感児、過敏児をあわせると、全体の約三〇%の子どもがそうであるとみま
す。
 一般的には精神的過敏児と身体的過敏児に分けて考えますが、ここでは精神的過敏児につ
いて考えます。次のような特徴があります。
・刺激に対して、感受性と反応性が強く、デリケートな印象を与える。教える側から見ると、指示
に対してピリッピリッと反応するため、痛々しく感じたりする。・耐久性にもろく、ちょっとしたこと
で、泣き出したり、傷ついたりしやすい。・過敏のために不適応を起こしやすい。集団や社会生
活になじめないなど。そのため体質的疾患(自家中毒、喘息、じんましん)や精神身体症、神経
症を起こしやすい。・症状は一過性、反復性(その時々に過敏になったり、そうでなかったりす
る)、あとで症状が出る(可逆的)とされます(高木俊一郎氏)。
 悪いことばかりではありません。このタイプの子どもは、その繊細な感覚ゆえに、芸術やある
特殊な分野で、並はずれた才能を見せることが多く、ほかの子どもなら見落としてしまうような
ことでも、しっかりと見ることができます。
【C】敏感児であるにせよ、過敏児であるにせよ、それがその子どもの気質だと思い、それをそ
のまま受け入れます。子どもの気質をいじることはタブー中のタブーです。
 ただ精神的疲労に弱く、ほんの少しの時間でも神経をつかったりすると、神経疲れ(腹痛、頭
痛、下痢、吐く息が臭くなる)を起こしやすいので、その点についてのケアを大切にします。また
集団行動や社会行動が苦手な傾向を示しますので、苦手だからといって無理をしてはいけま
せん。要はその子どもの特性を認めたうえで、繊細な感覚を生かした特技、方向性を伸ばすよ
うにします。



かん黙児

【A】家の中などではふつうに話したり騒いだりすることはできても、場面が変わると貝殻を閉ざ
したかのように、かん黙してしまう子どもを、かん黙児といいます。通常の学習環境での指導が
困難なかん黙児は、小学生で一〇〇〇人中、四人(0・38%)、中学生で一〇〇〇人中、三人
(0・29%)と言われていますが、実際にはその傾向のある子どもまで含めると、二〇人に一人
以上は経験します。
・場面かん黙と全かん黙
 ある特定の場面になるとかん黙するタイプ(場面かん黙)と、場面に関係なくかん黙する、全
かん黙に分けて考えますが、ほかにある特定の条件が重なるとかん黙してしまうタイプの子ど
もや、気分的な要素に左右されてかん黙してしまう子どももいます。順に子どもを当てて意見を
述べさせるようなとき、ふとしたきっかけでかん黙してしまうなど。
・原因
 一般的には無言を守り対人関係を避けることにより、自分の保身をはかるために子どもは
かん黙すると考えられています。これを防衛機制といいますが、幼稚園や保育園へ入園したと
きをきっかけとして発症することが多く、過度の身体的緊張がその背景にあるものと思われま
す。
 かん黙状態になると、体をこわばらせる、視線をそらす(あるいはじっと相手をみつめる)、口
をキッと結ぶ。あるいは反対に柔和な笑みを浮かべたままかん黙する子どももいます。心と感
情表現が遊離したために起こる現象です。
【C】かん黙児の指導でむずかしいのは、親にその理解がないことです。幼稚園などでかん黙
症状が出たりすると、「先生の指導が悪い」とか、あるいは子どもに向かって「話しなさい」と叱
るケースが目立ちます。しかし子どものかん黙は、脳の機能的障害によるもので、子どもの力
ではどうにもならないものです。それを理解した上で、子どもを指導します。



自閉傾向

【A】情緒面に何らかの問題がある子どもには、多かれ少なかれここでいう自閉傾向が生まれ
ます。心に膜がかかったような状態になり、何を考えているかわかりにくくなります。自閉傾向と
いうのは次のような症状をいいます。
・表情と心の遊離
 考えていることと、表情(動作)が別々になります。ニコニコ笑いながら、はげしく嫉妬したり、
穏やかな表情をしたまま、その裏で大きなストレスをためるなど。
・周囲に無関心になる
 そばで親が大けがをしても、自分はそのままブロック遊びを続けるなど。飼っていた犬が死ん
だときも、「ああ、そう」とだけ言ってすました子ども(小二男児)がいました。母親は「あれほど
かわいがっていたのに……」と。
・無感動になる
 皆で誕生日パーティを用意しても、それを喜んだりするということがありません。表情も無表
情になり、ブスッとしたまま席につき、またブスッとしたまま、席を離れるなど。
・奇異な言動が目立つ
 言うことや行動がどこか常識はずれになり、突飛もないことを言ったり、したりするようになり
ます。子どもならこういうとき、こう言ったり、あるいはこうするだろうなという自然さが消えま
す。・情意(心) がつかみにくくなる
 こちらからの働きかけにも応じなくなり、自分勝手な行動を繰り返すようになります。
【C】こうした症状が出てきたら、叱っても意味がないばかりか、叱れば叱るほど逆効果です。ま
たなおそうとしてあせっても、簡単にはなおりません。六ヶ月単位、あるいは一年単位でものを
考えるようにします。子どもの側からみて、安心できる家庭づくり、のんびりとくつろげる雰囲気
を大切にします。ピリピリとした神経質な子育てになっていないかを反省します。



自閉症

【A】【C】初期症状の最大の特徴は、感情の鈍化です。親や周囲の者が喜ばせようと働きかけ
ても、反応が少なくなり、「ぼくには関係ない」と冷めた目つきで、それを無視したりします。ほか
に次のような症状が見られたら、できるだけ初期の段階で専門医に相談します。
・自分勝手な行動をする
 皆とは別の行動をするようになり、その行動に予測ができなくなります。一人でポツンと虫を
見つめているなど。
・抱かれない
 抱いても体をこわばらせたままにして、肌をすりよせてこないなど。一般的に情緒の安定して
いる子どもは、抱くと、体をこちらの体にすりよせてきます。
・情意(心)の疎通ができない
 心に膜がかかったような状態になり、何を考えているか、また何を求めているか、それがわ
かりにくくなります。ワーワーと勝手に騒いで、こちらを無視することもあります。
・独特の会話をする
 独り言が多くなったり、一人二役の独り言を言ったりします。あるいはこちらが「今日は何を
食べたいの」と聞くと、「今日は何を食べたいの」と、そのままオーム返しにしゃべったりします。
・特殊なことに興味をもつ
 数表、カレンダー、列車の時刻表、数式などの分野。あるいは音感、音符などの特殊な分野
にふつうでない興味と関心を示すようになります。その分野では天才的な能力を発揮するた
め、初期の段階では親自身が天才児と誤解するケースが目立ちます。
・反復作業を好む
 ふつうの子どもなら嫌うと思われるようなこまかい反復作業を続けたりします。紙をちぎって
並べて遊んだり、小さな丸だけを並べて絵を描くなど。
・衝動的な行動が目立つようになる
 外部の者からは理解できないような不安や恐怖感に衝動的におののくなど。突然暴れること
もあります。



過保護

【A】過保護といっても内容は、さまざまです。食事面の過保護、運動面の過保護、環境面の過
保護など。ある子どもは生後、大きな病気を繰り返しました。だから母親は、その子どもを食事
面で過保護にし、食べるものに細心の注意をはらっていました。また別の母親は、長男を交通
事故でなくしたため、下の子どもを一切、外で遊ばせませんでした。それぞれの思いがあって、
親は子どもを過保護にしますが、何が悪いかといって、精神面で過保護にすることぐらい悪い
ことはありません。たとえば近所のわからず屋と遊ばせるのはよくないと考えて、家の中だけ
で、子どもを育てるなど。子どもは俗に言う、温室育ちになり、社会性の欠落した子どもになり
ます。
 保護と依存はちょうど対称関係にあります。「上」の者が「下」の者を保護し、下の者は上の
者に依存するという関係です。つまり保護が強ければ強いほど、下の者は相手に依存するよう
になり、この依存性が、人格の核形成を遅らせます。ここでいう「核」というのは、子どものつか
みどころのことをいいます。その年齢になると、子どもにはその年齢にふさわしいつかみどころ
ができてきますが、過保護に育った子どもにはそれがありません。全体に年齢に比して、幼稚
っぽい様子を示すようになります。
【C】子どもを過保護にする背景に、親子の上下意識がないかをまず疑ってみます。そして次に
過保護になっている原因をさがします。たいていはその原因がわかるだけでも、問題の半分は
解決したとみます。ふつうは(手をかける)⇒ (ひ弱になる)⇒(ますます手をかける)の悪循環
の中で、子どもはますますひ弱になっていきます。が、それでも過保護状態から抜け出られな
いということであれば、親自身が子育てを忘れることができるような環境を、周囲に用意しま
す。趣味でも社会活動でも、何でもいいのです。それを通して、結果として子育てを忘
れることができるようにします。



溺愛児

【A】「子どもがかわいい」という母性本能に溺れることによって、親は子どもを溺愛するようにな
りますが、その背景には親自身の精神的な未熟さや、情緒的な欠陥があるとみます。その欠
陥が基本にあり、夫婦仲が悪いとか、生活苦に追われる、やっとのことで子どもに恵まれたな
どという事実が引き金となって、親は溺愛に走るようになります。「子どもの汗臭いシャツを手
にもつと、ほおずりしたくなる」「子どもさえいれば夫などいてもいなくても、どちらでもいいような
気がする」「子どもどうしのけんかを見ていると、その中に飛び込んでいって、相手の子どもを
殴り飛ばしたくなる」などと訴えた親がいました。
 こうした溺愛について親自身にはその自覚がないのも、特徴の一つです。中には「私は親の
鏡だ」などと、自分の溺愛ぶりを学校のPTAの会合の席などで誇示する人もいます。
 溺愛児には、次のような独特の症状が現れます。
・幼児性の持続
 年齢に比して、幼い印象を与えるようになります。
・退行的になりやすい
 目標や規則が守れず、自己中心的なものの考え方をしやすくなります。自分のほしいものに
コントロールができなくなるなど。生活はだらしなくなり、わがまま、無礼、無作法な様子を見せ
ることもあります。
・服従的になりやすい
 いつまでも依存心が強く、わがままな反面、優柔不断で、自分で結論を出すことができませ
ん。
【C】子どもへの溺愛を感じたら、子育てとは別の、人生の新しい目標を定めるようにします。そ
して結果として子育てから遠ざかるようにします。そして子どもを育てるということは、子どもを
よき家庭人として、自立させることだという、その原点に立ち返って、子育てのワク
組みを考えなおすようにします。



不登校

【A】うつ型児童の不登園児(以下、不登校児)には、いくつかの前兆症状があります。たいてい
の親はそういう前兆症状があったことを、あとから気づきます。「ああ、そう言えばそうだった」
と。あるいはそのときは「わがまま」と決めつけたり、「まさか……」という思いの中で見過ごして
しまいます。その前兆症状には次のようなものがあります。
・睡眠障害
 床につく時刻や起床時刻が大きく乱れ始めます。異常な早朝起床、悪夢が続くこともありま
す。
・情緒が不安定になる
 気むずかしくなったり、ふさぎこんだりします。それを不定期に繰り返すうち、「何を考えている
かわからない子」といった状態になります。
・ストレスをためやすい
 外の世界で見せる姿と、家の中で見せる姿に大きな落差が出るようになります。外の世界で
はよい子を演ずるようになり、近所の人や先生にはほめられたりします。その分、大きなストレ
スをためやすく、家の中で暴れたり、神経疲れを起こしやすくなります。
・うつ型の妄想がふえる
 友だちのいじめをことさら気にしたり、おおげさに考えたりするようになります。ターゲットが移
動するのが特徴で、たとえば「A君がいじめる」と言うから、A君を排除すると、今度は「B君が
いじめる」と言い出したりします。
【C】こういう前兆症状が出たら警戒しますが、初期段階での親の不手際が症状を悪化させる
ので注意が必要です。子どもが幼稚園へ行かないなどと言ったりすると、親は言いようのない
不安感に襲われ、その段階で無理をします。泣きわめいて抵抗する子どもを無理やり車に押
しこんで、学校へ連れていくなど。しかしたった一度でも、こういうはげしい無理があると、子ど
もの心は大きく傷つき、それ以後の症状を重くしてしまいます。



ドラ息子

【A】自己中心性が強くなり、わがままで自分勝手。ものの考え方が消費的(今を楽しめばよい
というものの考え方)になり、退行的(目標や規則が守れない。ほしいものにブレーキをかける
ことができない。生活習慣がだらしなくなる。無礼、無作法になる)になるなどの特徴がある子
どもをドラ息子といいます。さらに依存心が強い割に、無責任になるなどの、溺愛児特有の症
状をあわせもつこともあります。
 原因は複合的なもので、極端な甘やかしと、同じように極端なきびしい家庭環境が同居した
とき、子どもの心からバランス感覚が消え、子どもはドラ息子化します。バランス感覚というの
は、そのつど自分がすべきことと、してはならないことを、静かに正しく判断する感覚のことをい
います。その感覚のない子どもは、かたよったものの考え方をするようになり、たとえば「人間
の半分は核兵器か何かで死ねばいい。そうすれば地球はもっと住みやすくなる」などと、平気
で言ったりするようになります。
【C】子どもをドラ息子にしないためには、次のような点に注意します。
・飽食とぜいたくを避け、子ども中心の家庭生活を改める。・忍耐力をつけさせる。・生活感を
大切にする。・生活のルールを守らせる。
 ここでいう忍耐力というのは、「いやなことをがまんしてする力」のことをいいます。たとえば台
所の生ゴミを手で始末できるかどうか。また生活感というのは、たとえば母親がスーパーから
重い荷物をもって帰ってきたようなとき、サッと助けに走ってくるかどうかなどを見て判断しま
す。
 家庭環境を観察すると、結局は子どもの言いなりになっている生活が基本になっていること
がわかります。親自身が約束ごとを平気で破ってしまうなど。また子どもに楽をさせるのが親の
愛だと誤解している人もいますが、もしそうであれ
ば子育て観そのものを改めます。



我の強い子

【A】わがままと自我、さらにがんこと自我は区別して考えます。「あれがほしい、これがほしい」
と泣き叫ぶのはわがままですが、「ぼくは将来、サッカー選手になる」と主張するのは自我の現
れとみて、歓迎します。また「今日は青いシャツでないと、幼稚園へ行かない」と、かたくなな態
度をとるのは、自我とはいいません。
 自我の強い子どもは、一見扱いにくく、指導に手こずりますが、あとあとすばらしい子どもにな
ると思い、一応は、たしなめながらも、その自我をつぶさないようにします。
 たとえば自我の強い子どもは、ものごとに攻撃的かつ積極的になり、何か新しいことを見せ
たりすると「やる、やる!」と、それに飛びついてきたりします。反対に自我の弱い子どもは、も
のごとに防衛的になり、「いやだ」とか言って、逃げ腰になります。
 ほかに自我の強い子どもはものの考え方が現実的、創造的(目的意識が強くなり、その目的
に向かって努力する)になり、自制心が働くのに対して、自我の弱い子どもは、非現実的(空想
や神秘的なものにあこがれる)、非生産的になり、衝動性(一時的な快楽を求める)が強くなり
ます(フロイト学説)。
【C】本来子どもには、皆、平等に自我がそなわっているとみます。だから自我は、伸ばす・伸
ばさないという視点ではなく、引き出す・引き出さないという視点でとらえるようにします。あるが
ままに子どもを信じて育てれば、子どもは自我の強い子どもになりますし、反対に強圧(何かに
つけて無理をする)、威圧(親意識が強く、権威主義的な子育てをする)、過干渉、溺愛、過保
護が日常化すると、子どもは自我の軟弱な子どもになります。
 この自我の強さは、生後まもなくから一、二歳前後までに決定され、この時期の子育てのあ
り方が、大きな影響を与え
ると考えられています。



ツッパル子ども

【A】家族を含めて誰かと一本の「糸」で結ばれている子どもは、ツッパル一歩手前で、自分を
自制することができます。が、その糸が切れたとき、あるいは子ども自身が切れたと感じたと
き、子どもの心は荒れ、ここでいうツッパリ症状を示します。
・拒否的態度
 「ジュースを飲む?」と声をかけても、「うっせえ〜」と言い返すなど。よく観察すると、意識的
に拒否しているというよりは、条件反射的に拒否しているのがわかります。
・破滅的態度
 ものの考え方が、あらゆる面で投げやりになり、他人に対する思いやりや他人の迷惑に対し
て、無関心になります。
・自閉的態度
 「家族が迷惑すれば結局はあなたが損をするんだよ」と話しても、このタイプの子どもにはそ
れが理解できません。また理解しようともしません。外部からの働きかけに鈍感になり、皆が
「すごい!」と感動しているようなときでも、一人、「くだらねえ」と吐き捨てるなど。横視現象とい
って、叱られたようなときでも、視線を相手に合わせないという特徴もあります。
・野獣的態度
 行動が動物的になり、考え方も直情的かつ短絡的になります。動作も肩で風を切って歩く、
いからせて歩くなど、独特の動作になります。
【C】子どもの中にこうしたツッパリ症状が見られたら、糸を切らないように細心の注意をはらい
ます。糸を切れば切ったで、糸の切れた凧のように、あとは収拾がつかなくなってしまいます。
子どもの側から見て、あなた自身が、子どもの心の最後の砦になるようにします。ちなみに子
どもというのは、自分を信じてくれる人の前では、自分のよい面を見せようとします。そういう子
どもの特性を利用して、子どもを伸ばし、かつツッパリ症状に対処します。



多動児

【A】集中力が欠如しているという意味で、正確には集中力欠如型多動性児(ADHD)と言う人
もいます。主な特徴は、無遠慮(隣の家の冷蔵庫をあけてものを食べる)、無警戒(犬に手を出
してかまれる)、無頓着(屋根から下へ飛び降りる)、無関心(葬式の日でもゲームをする)な
ど。全体として多動児特有の常識をはずれた行動(遊戯会の席で一人だけ、アッカンベーをし
て動き回る)が目立ちますが、最大の特徴は、抑えがきかないという点にあります。強く制止す
れば、その瞬間だけは静かになりますが、その直後にはもとの状態にもどってしまいます。言
動がまさに天衣無縫なため、その初期の段階で周囲の者が、天才児と誤解するケースが目立
ちます。
 出現率はたいへん高く、問題となる多動児は二〇〜三〇人に一人。その傾向のある子ども
まで含めると、一五〜二〇人に一人ぐらいの割合で経験します。静かな秩序になじまないた
め、近年、教育現場でも大きな問題になりつつあります。脳の機能的障害によるというのが、
最近の定説です。
【C】その症状が目立ってくると、親は暴力や威圧で、子どもを抑えようとしますが、それがかえ
って子どもの中に免疫性をつくってしまい、幼稚園や保育園に入るころには、手がつけられな
い状態になってしまいます。できるだけ初期の段階でそれに気づき、根気よく指導するのが好
ましいことは言うまでもありません。時期がきて、子ども自身がセルフコントロールできるように
なれば、症状は表面的には落ち着いてきます。ただふつうでない騒々しさは、おとなになってか
らも残ることはあります。
 よく似た症状に、意味のないことをペラペラと話し続ける子どもがいます。このタイプの子ども
も抑えがきかないのが特徴で、こうした多弁性がみられたら、できるだけ初期の段階で、「な
ぜ・どうして」の会話をふやしながら、それを抑えるようにします。



過剰行動

【A】キレる子どもの原因の一つとして、最近クローズアップされてきたのが、セロトニン悪玉説
です(アメリカ・ミラー博士)。
 これはインシュリンの分泌過多が、セロトニン(脳間伝達物質)の分泌過多を促し、それが原
因となって脳の機能が変調する(ヒュー・パワーズ博士)という説です。つまり一時的に甘い、白
砂糖の多い食品を大量に摂取したりすると、それに合わせてインシュリンが大量に分泌され、
それがセロトニンの分泌過多を促すというわけです。このセロトニンが大量に分泌されると、毒
性をもち、行動の抑制命令※を阻害することがわかっています。
 特徴としては、動作からなめらかさが消え、ちょうどカミソリで何かものをスパッスパッと切る
ようになります。しかも行動が突発的かつ衝動的に変化し、突然キーッと耳もつんざかんばか
りの声をはりあげて、泣き叫んだり暴れたりするようになります。
【C】精製された白砂糖は、「白い麻薬」と心得て、子どもに与えるにしても、その量に注意しま
す。もし異常な興奮性や、情緒不安症状がみられたら、まずこの砂糖を疑ってみます。そして
甘い食品を減らしながら、一方で、カルシュウム分(マグネシュウム分)の多い食生活に心がけ
ます。
 なおカルシュウムが不足すると、・脳の発育が不良になる、・先天性脳水腫を起こす、・脳神
経細胞の興奮性を亢進する、・痴呆、低脳を起こしやすい、・精神疲労をしやすく、回復が遅い
(片瀬淡氏)などということがわかっています。※抑制命令……精神や動作を抑制する命令の
こと。一つの行動をするとき、脳からは同時に二つの命令が発信されます。(動け)という命令
と、(動くな)という命令の二つです。この抑制命令が変調すると、感情の起伏がはげしくなった
り、突発的に暴れたりするようになります。



かんしゃく発作

【A】乳幼児の抵抗的な行動(突発的なはげしい怒り)を、かんしゃく発作といいます。たいてい
はささいな刺激が引き金となって爆発的に起きますが、原因の第一は、家庭教育の失敗とみ
ます。年齢別に次のような特徴があります。
・満一歳児前後
 ダダをこねる、沈黙する、ぐずる、手足をバタバタさせる、泣く。
・満一歳半前後
 ムッとふくれる、大声で泣き叫ぶ、より長時間発作が続く。
・満二歳前後
 言葉による抵抗、拒絶が目立つようになる、ものにあたる、地だんだ踏む、ところかまわず寝
ころんで暴れる、自分の頭や体をぶったり傷つけたりする、暴力を繰り返す、けいれんさせる
など。
・満四〜五歳前後
 次第に症状が収まってくる。
【C】かんしゃく発作の原因は家庭教育の失敗とみますが、それだけにそれを「わがまま」と決
めつけて叱ったり、強圧的な方法でそれを抑え込むことは、たいへん危険です。かんしゃく発
作が起こせるような環境はまだよいほうだとみますが、それすら許されないような環境にする
と、子どもの心は確実にゆがみます。将来の情緒不安、精神障害の遠因となることもありま
す。
 子どもがかんしゃく発作を起こしたら、子どもの言い分にていねいに耳を傾ける一方、権威主
義的な子育てになっていないかどうか、強圧的な無理をしていないかどうかなどを反省します。
 かんしゃく発作に合わせて、はげしい情緒不安症状が見られたら、カルシュウム・マグネシュ
ウム分の多い食生活に心がけ、心安らかな家庭環境を大切にします。「あんたなんか捨ててし
まいますからね」式の、意味のない脅しは、かえって子どもの心を不安定にしますので、注意し
ます。


左利き

【A】世界的には人類の約五%前後が、左利きだと言われています。これに対して日本人につ
いては、三〜四%というのが通説です。
 原因については、どちらか一方の大脳が優位にたっているという大脳半球優位説。親からの
遺伝によるものだという遺伝説。生活習慣によって決まるという生活習慣説などがあります
が、定説はありません。
 一般的には乳幼児には左利きが多く、成長とともに減少し、左利きであるかどうかは、三〜
四歳までに決まるとされています。利き手を調べるには、子どものほしがりそうなものを手渡し
て調べます。そのとき子どもがサッと出したほうの手が、利き手です。
 また日本では女子より男子のほうが左利きが多いとされるのは、男子のそれはよいが、女子
のそれはよくないという偏見が、その背景にあるからだと思われます。
【C】利き手の問題は、よく話題にはなりますが、結局はどうでもよい部類の問題です。ある程
度は指導しながらも、あとは子どもに任せます。少なくとも五〜六歳になったら、利き手を特定
し、なおそうと無理をしないことが賢明です。無理をしても、親のいないところでは左手を使った
りしますので、文字が混乱したり、書き順がめちゃめちゃになったりします。先生によっては、
左利きを嫌う人もいますが、もしそうであれば、前もってしっかりと方針を伝えておきます。さら
に冷蔵庫でもドアでも、右利き用にできているから、左利きは不便だと言う人もいますが、慣れ
れば何でもないことです。
 本来左利きにしないためには、子どもがまだ赤ちゃんのときから、何でもものを右手に握ら
せるようにします。右手をいつもマッサージしてあげるのも効果的です。



発語障害

【A】ふつう言語障害というときは、構音障害(発音・発語障害)、吃音障害(どもり)、音声障害
(ダミ声、鼻声、かすれ声)、発音器官に器質的な障害がある場合(口蓋裂)などを総称してい
いますが、ここでは構音障害、つまり幼児の発音障害(発語障害)についてのみ考えます。
・構音障害
 口唇、歯列、口蓋、舌などの器官を総称して構音器官といいますが、この器官に機能的な障
害があると、子どもは独特の発音をするようになります。「鍵」を「タチ」、「学校」を「ガッコ」、
「バッタ」を「バータ」と発音するなど。言葉の一部の音を変えたり、ぬかしたりします。幼児はサ
行(猿⇒シャル)、ザ行(ぞうり⇒ジョーリ)、ラ行(ロケット⇒ドケット)が苦手で、これらの発音が
正しくできればよしとします。
 さらに発音するとき舌の位置がずれると、サ行がシャ音化する(魚⇒シャカナ
)ことがわかっています。ほかに同じく
、サ行がチャ音化する例(魚⇒チャカナ)
、ラ行がダ音化する例(ラジオ⇒ダジオ)などもよくみられます。満五歳を一つの目安として、そ
れまでに正しい発音ができるように指導します。
【C】比較的なおりやすい発音障害もありますが、カ行をタ音化するカ行障害(五個⇒ドト)など
は、指導がむずかしく、なおすのに手こずります。五、六歳児でも全体の五%前後の子どもに
その傾向がみられますが、あまり注意すると、本人が自信をなくしたり、それを見ていた周囲
の子どもが、その子どもをからかうようになりますから、注意します。
 なおアメリカ言語聴覚学会の報告(一九五一年)によると、指導が必要な構音障害児の出現
率は三%とされています。が、症状にも軽重があり、ふつう児との区別がむずかしく、その傾向
のある子どもまで含めると、「つ」を「チュ」と発音するケースが、約二〇%。全体で、約五〜一
〇%というのが筆者の実感です。



自慰

【A】自慰に限らず、子どもがふつうでない行為を、執拗かつ繰り返しするときには、まず心の
中に抑圧感(ストレス)がたまっていないかどうかを疑ってみます。子どもはストレスを解消する
ために、代償行為を習慣的に繰り返すという習性があります。指しゃぶり、爪かみ、体ゆすり、
手洗いぐせ、髪いじりなど。自慰もその一つと考えます。
 フロイトは、幼児の性欲について次の三段階に分けて考えています。・口唇期(口の中にいろ
いろなものを入れて快感を覚える)、・肛門期(排便、排尿の快感がきっかけとなって、肛門に
興味を示したり、そこをいじったりするようになる)、・男根期(満四歳ぐらいから、性器に特別
の関心をもつようになる)。
【C】子どもの自慰について、次のような点に注意します。
・禁止命令は意味がない
 こうした行為の背景には、それをしなければならない心理的な理由があるとみます。頭ごなし
に「ダメ!」と叱っても意味がないばかりか、かえって状態を悪くしますから、注意します。
・男児は父親に任す
 男児のことは父親に任すようにします。子どもが異性だと、親側にどうしてもとまどいが生ま
れ、それがゆがんだ異性感、あるいはゆがんだ性意識の原因となることがあります。
・接触願望としての自慰
 幼児は親と肌をすり合わせること(スキンシップ)により、自分の心を調整します。反対にこの
スキンシップが不足すると、子どもの情緒は不安定になり、情緒障害や精神不安の原因となる
ことがあります。子どもの自慰は、その満たされない接触願望への代償行為であることが多
く、もしそうであるならスキンシップをふやします。
 子どもが自慰をしても、罪悪感をもたせないようにして、明るくサラッと受け流すのがコツで
す。



虚言癖

【A】幼児教育の世界では、嘘を嘘と自覚しながら言う虚言と、空想性虚言(妄想)は区別して
考えます。子どものつく嘘には次のようなものがあります。
・虚言
 自己防衛や自己正当化のためにつく嘘です。自分でも嘘をついているという自覚があり、そ
の様子からそれがわかります。また自己中心性の強い子どもは、思いこみにより、嘘をつきま
す。
・空想性虚言
 現実と空想の世界の間に垣根がなく、現実の中に空想を混入したり、反対に空想の世界に
限りないリアリティ(現実感)をもちこんだりします。そして一度自分の頭の中に、虚構の世界を
つくりあげると、それがあたかも現実のできごとであるかのように、嘘を嘘と自覚しないまま、嘘
を言い続けます。こまかいところまで辻つま合わせをするのが特徴で、まさに「ああ言えばこう
言う」式の嘘を、シャーシャーと言います。以前、「私はイタリアの女王様」と、すっかりイタリア
の女王様になりすましていた女の子(年長女児、オーストラリア)がいました。
【C】子どもの嘘は静かに問いつめながらつぶすようにします。威圧や暴力で叱っても、意味が
ありません。ますます嘘がうまくなります。コツは自分で考えさせるようにしむけながら、叱るこ
とです。
 問題は妄想ですが、このタイプの子どもは、親や外の世界では柔和な笑みを浮かべて、むし
ろできのよい子という印象を与えるのが特徴です。教える側から見ると、心に膜がかかってい
るようで、いわゆる何を考えているかわからない子どもということになります。
 この種の妄想を感じたら、子どもの心を開放させることを第一に考え、一方で強圧的な子育
てになっていないかを反省します。頭から叱れば叱るほど、心は遊離し、妄想の世界に子ども
を追いやることになりますから警戒します。



睡眠障害

【A】幼児にとっては、床についてから眠るまでの時間には特別の意味があります。幼児には毎
晩、眠る前に同じ行為を繰り返すという習性がありますが、このことから欧米では、この時間を
ベッドタイムゲームの時間と呼んでいます。そんなわけでもし、「うちの子は、毎晩なかなか寝
つかなくて困っている」ということであれば、このベッドタイムのしつけがうまくいっていないと判
断します。
 規則正しい生活の中で、じゅうぶんな睡眠時間を守るということは、幼児にとっては大切なこ
とです。この規則が破られ、睡眠時間が不足すると、子どもにはさまざまな症状が現れてきま
す。イライラしやすくなったり、あるいは反対にぐずりやすくなるなど。情緒障害や精神不安の
原因となることもあります。
 なお年中児(満五歳児)の平均熟睡時間は、一〇時間一五分。年長児(満六歳児)のそれは
一〇時間です。この睡眠時間は守るようにします。
【C】もし睡眠時間が乱れているようであれば、具体的には次のようにします。

・毎晩同じパターンを繰り返す
 毎晩同じパターンを繰り返させるようにします。同じ本を読んで聞かせる、軽く添い寝をしてあ
げるなど。規則正しい習慣を大切にします。
・興奮性のある遊びは避ける
 ベッドタイムゲームの時間はもちろん、床につくまでの間、興奮性のある強い刺激は禁物で
す。できれば夕食後は、子ども用のアニメ番組なども避けます。
・恐怖心をもたせない
 安らかで静かな時間を何よりも大切にします。一番よいのは、軽く添い寝をしてあげ、子ども
の体を軽く包んであげることです。まずいのは強引にベッドの中に子どもを押し込み、いきなり
電気をパッと消してしまうような行為です。子どもの情緒が不安定になって当然です。孤立不安
や分離不安などの症状がある子ど
もについては、特に慎重に対処します。



知的能力

【A】幼児の知的能力の発達の度合いは、次のような面を観察するとおおよそ知ることができま
す。特に教えたわけではないが、できるようになったということであれば、問題ありません。
・形の弁別ができるか
 三角と四角を組み合わせた「家」の形。あるいは三角を三枚組み合わせた「魚」の形を見
せ、それを描き写させてみてみてください。満四歳ぐらいから形の分解、合成ができるようにな
り、ほぼ正確に形を描き写すことができるようになります。
・数字に興味があるか
 満五歳をすぎるころから数字に興味をもつようになり、(多い・少ない)⇒(ふえた・減った)⇒
(合わせていくつ・いくつ足りない)という会話が目立つようになります。満五歳児で、三〇まで
のかずが理解でき、たどたどしいながらも数えたり、数字を書いたりできればよしとします。
・文字に興味をもつか
 満六歳児になると文字(ひらがな)を読んだり書いたりするようになります。年長児で、夏休み
前の段階で、七八%の子どもがほぼ自由にひらがなを読み書きできるようになることがわかっ
ています。
【C】子どもの知恵が遅れがちになると、親はあせって、その遅れを何とかしようとします。しか
しこのちょっとした無理が、子どもをますます勉強嫌いにしてしまい、その悪循環の中で、子ど
もはますます遅れていきます。
 子どもの遅れが目立ったら、遅れをどうしようかということよりも、それ以上遅れさせないこと
だけを考えながら、ふつうの子ども以上に、勉強は楽しいということをわからせるようにします。
本を読んであげるときも、親の温かい息をふきかけて読んであげるなど。遊びをどんどん取り
入れていきます。こうした動機づけをしっかりとしながら、あとは時期
をがまん強く待ちます。



学業不振

【A】知的能力に何らかの問題があると、その結果は学業成績となって現れてきますが、当然
のことながら、学業成績が悪いからといって、知的能力に問題があるということにはなりませ
ん。
 その学業成績についてですが、学業成績がはっきりと遅れ、学習指導上、特別の配慮が必
要な子どもを遅進児、あるいは遅滞児。さらに最近では学業不振児、学習障害児(LD)と呼ぶ
こともあります。
 発現率については、標準学力テストの相当学年が、一年程度以上遅れていると思われる子
どもは、小学校の高学年児で、三〇%前後とされています(橋本重治氏)。
【C】一般的には・知的能力そのものに遅れがみられる子ども(ぼんやり型)、身体的に問題の
ある子ども(発育不良型)、情緒が不安定な子どもに分けて考えられていますが、どのタイプの
子どもであるにせよ、基準はきわめてあいまいです。また日本の教育では、「皆が一〇〇点で
も困る。差がつかないから。しかし皆が〇点だともっと困る。差がわからないから」という選別
主義が基本になっています。こういう基準では必然的に勉強のできない子どもが生まれてきま
す。仮に平均点があがれば、テスト問題がもっとむずかしくなるだけです。
 こういうことも頭の中に入れながら、子どもの勉強を考えるようにします。もっと言えば、学業
成績が悪いからといって、それは人間としての価値には関係がないということです。学校での
勉強ができないからといって、落ちこぼれだとか、あるいは人生の落伍者だとおおげさに考え
る必要はありません。もともと学校で学ぶ勉強というのは、社会に入ってから役ににたたないも
のばかりです。数学にしても英語にしても、将来学者になるにはすぐれた内容ですが、その道
の学者になる子どもは一体、何%いるというのでしょうか。時にはそういう冷めたもの
の見方も必要だということです。



伸びる子ども

【A】伸びる子どもには次のような特徴があります。ここで「伸びる子」というのは、たくましく前向
きに自立していく子どもという意味です。勉強ができる・できないは、あくまでもその結果に過ぎ
ません。
・好奇心が旺盛
 次々と身の回りから、いろいろな遊びを自分で発見したり、創作したりします。趣味も広く、多
芸多才。好奇心の弱い子どもは、一人で遊ばせたりすると、「退屈だ」を連発します。
・忍耐力がある
 いやなことでも進んでします。寒い夜に隣へ回覧板を届けるなど。おばあさんの吐いた食べ
物を横でタオルでぬぐってあげていた子ども(年長女児)がいましたが、そういう子どもを忍耐
力のある子どもといいます。この忍耐力がないと、子どもは学習面でも、(しない)⇒(できない)
⇒(いやがる)⇒(しない)の悪循環の中で伸び悩みます。
・生活力がある
 ある男の子(年長児)は、親が急用で家をあけることになったとき、妹の世話から食事の用
意、戸締り、消灯など全部、一人でしたといいます。そういう子どもを生活力のある子どもとい
います。
・思考が柔軟
 子どもらしいいたずらが得意です。食パンをくりぬいて、トンネルごっこ。スリッパをつなげて
電車ごっこなど。反対に頭のかたい子どもは、一度、「殻」にこもると、そこから抜け出ることが
できません。たとえばある子ども(小三男児)は、自分のすわる席が決まっていて、その席でな
いとどうしてもすわろうとしませんでした。心に膜がかかったような状態になり、ハツラツとした
表情が消え、心がつかみにくくなります。
【C】子どもの知能を伸ばす最大のコツは、「アレッ」と子どもが思うような意外性をいつも大切
にするということです。マンネリ化した単調な生活は知能発達
の大敵と考えます。

【資料】
 それぞれの項目に応じて、参考にしてください。

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【冊子版】
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