3学期の授業録


使用教科書/『高等学校 世界史A』清水書院 (清水・世A003)
副教材/『地歴高等地図・最新版』帝国書院 (帝国・地図599)

第42回 「未完のプロジェクト」としての憲法〜アメリカ独立革命の影〜
「すべての人は平等に造られ」と高らかに宣言した独立宣言。しかし、現実のアメリカ社会はそうではなかった。例えば、アメリカ大陸にもともと住んでいた人びとは、アメリカ合衆国に土地と生活と命を奪い取られていった。また、アメリカ大陸に無理やり連れてこられた黒人奴隷も同様であった。そして、人の半数を占める女性たちも。しかし、アメリカ合衆国のすごいところは、差別されたネイティヴ・アメリカンや黒人、女性たちがその後、権利を求めて立ち上がり、長い時間をかけて、独立宣言や合衆国憲法の理念を実現させようとすることだ。どこかの国は、たった60年しか経っていない憲法を、現実にそぐわないということで、変えようとしている。

紀平英作・亀井俊介『世界の歴史23 アメリカ合衆国の膨張』(中央公論社)、猿谷要『検証アメリカ500年の物語』(平凡社ライブラリー)、浜林正夫『人権の思想史』(吉川弘文館)、清水知久『ビジュアル版世界の歴史N 近代のアメリカ大陸』(講談社)、奥平康弘『憲法の想像力』(日本評論社)

第43回 憲法の「原点」と「現点」〜フランス革命の光〜
いま日本国憲法を変えようという声が、権力者側から提案されている(「現点」)。そこにはそもそも憲法とは何かという視点があいまいにされている。今回はフランス革命を素材に、その点を考えていく。フランス革命も、これまで見てきたイギリス革命、アメリカ独立革命と同様に、権力による「暴走」があって、バスティーユ牢獄襲撃事件を発端としたフランス革命がおこる。そして、「人権宣言」を国王はしぶしぶ認めさせられ、91年憲法を国王は受け取った。つまり、国民の側から「あんたたち権力者は、これを守ってくれよ」と権力者を規制するものが、憲法なのである(「原点」)。その意味で、いま、権力側が自らの「規制緩和」のために改憲案をだすのは、あらたな「暴走」のはじまりなのかもしれない。

五十嵐武士・福井憲彦『世界の歴史21 アメリカとフランスの革命』(中央公論社)、樋口陽一『憲法』(創文社)、樋口陽一『自由と国家―いま「憲法」のもつ意味―』(岩波新書)、杉原泰雄『人権の歴史』(岩波書店)、高木八尺・末延三次・宮沢俊義編『人権宣言集』(岩波文庫)、宮沢俊義編『世界憲法集』(岩波文庫)、多木浩二『絵で見るフランス革命―イメージの政治学―』(岩波新書)、中村義孝編訳『フランス憲法史集成』(法律文化社)

第44回 裏切りの「人権宣言」〜フランス革命の影〜
フランス人権宣言では、すべての人が自由であり、平等であるということが高らかに宣言された。しかしルイ16世はそれを認めようとしない。ここでたちあがったのが、女性たちである。パリの女性たちが国王のいるヴェルサイユに押しかけ、「パンをよこせ!」「人権宣言を認めろ!」と要求。その迫力に負け、ルイ16世は人権宣言をやむなく認めた。これだけの女性たちの活躍がありながら、人権宣言がいう「すべての人」は白人の成人男性に限定され、女性たちを裏切ったのである。

五十嵐武士・福井憲彦『世界の歴史21 アメリカとフランスの革命』(中央公論社)、高木八尺・末延三次・宮沢俊義編『人権宣言集』(岩波文庫)、浜林正夫『人権の思想史』(吉川弘文館)、杉原泰雄『人権の歴史』(岩波書店)、多木浩二『絵で見るフランス革命―イメージの政治学―』(岩波新書)、オリヴィエ・ブラン(辻村みよ子訳)『女の人権宣言』(岩波書店)、二谷貞夫・笠原十九司・油井大三郎ら『世界史B新訂版』(一橋出版)、池田理代子『ベルサイユのばら』(集英社文庫)

第45回 ≪エロイカ≫の世紀〜ナポレオンの栄光と没落〜
ルイ16世らの処刑は、国内外に衝撃、混乱をもたらした。その混乱を収拾し、軍事力を背景に台頭したのがナポレオンである。ナポレオンは国民の圧倒的支持を受けて、1804年に皇帝となった。フランス革命の理念に共鳴していた、同時代の大作曲家ベートーベンは、ナポレオンの皇帝就任を冷ややかなまなざしで見抜く。ナポレオンは、フランス革命の理念を外国に「輸出」しようとするが、それは外国の人びとにとってみれば、侵略行為にすぎなく、ロシア遠征をきっかけにナポレオンの栄光の時代は終結する。

五十嵐武士・福井憲彦『世界の歴史21 アメリカとフランスの革命』(中央公論社)、樺山紘一『エロイカの世紀 近代をつくった英雄たち』(講談社現代新書)、二谷貞夫・笠原十九司・油井大三郎ら『世界史B新訂版』(一橋出版)、杉野学園衣装博物館WEB

第46回 革命の嵐は再びアメリカ大陸へ〜ラテンアメリカの独立〜
フランスの植民地ハイチに住む奴隷であったトゥサン・ルヴェルチュールは、フランス語を勉強し、「人権宣言」の限界を超えようと、独立ののろしをあげた。アメリカ独立革命・フランス革命・ハイチ革命は、それぞれに関連をもって連鎖反応のように勃発したのである。今回は、とくにアメリカ独立革命とフランス革命との関連について学習した。トマス・ペインやジェファソン、ラファイエットら革命の中心人物が大西洋を行きかって、それぞれに絡み合っているのが興味深い。

五十嵐武士・福井憲彦『世界の歴史21 アメリカとフランスの革命』(中央公論社)、加藤祐三・川北稔『世界の歴史25 アジアと欧米世界』(中央公論社)、油井大三郎「近代デモクラシーの誕生〜アメリカ独立とフランス革命〜」『NHK教育セミナー 歴史でみる世界』2001年度、浜林正夫『人権の思想史』(吉川弘文館)、浜林正夫『民主主義の世界史 「殺し合い」から「話し合い」へ』(地歴社)、落合一泰「西洋と非西洋のあいだで〜ラテンアメリカ諸国の独立〜」『NHK高校講座 世界史』2005年度

第47回 万博とパリの街〜19世紀のフランス〜
昨年、愛知県で「愛・地球博」という万博が行なわれた。日本が万博に初参加したのは、明治維新直前の1867年のパリ万博である。当時、フランスは第二帝政でナポレオン3世によるパリの大改造の真っ最中であった。上からの指導力を発揮した手法に対する批判はあるものの、ナポレオン3世は50年先、100年先を見越してパリ大改造に取り組んだのである。それは、富国強兵・殖産興業を推進し、工業化で先をゆくイギリスに対抗するためでもあった。万博は、その成果を世界に示す大きなイベントであった。ちなみに、1867年のパリ万博で銅メダルをとったのは、ルイ・ヴィトンというかばん職人であった。

福井憲彦「ビスマルクとナポレオン3世」『NHK高校講座 世界史』2005年度、福井憲彦「19世紀のパリ都市計画〜現代都市改造の原点〜」『NHK教育セミナー 歴史でみる世界』2003年、谷川稔・北原敦・鈴木健夫・村岡健次『世界の歴史22 近代ヨーロッパの情熱と苦悩』(中央公論社)、愛・地球博公式ウェブサイト

第48回 近代日本のモデルとしての日本〜19世紀のドイツ〜
1871年、岩倉使節団が出航した。それは、新しい国づくりのためにさまざまな国を調査・研究するためである。そのなかで、最終的に日本は、新しい国づくりのモデルとして、イギリスやフランスではなく、ドイツを選択する。なぜ明治維新政府は新しい国づくりのモデルとして、ドイツを選択したのか、ということを考えた。当時ドイツは、皇帝を中心とし、ビスマルク率いるドイツ帝国が成立したばかりであった。ビスマルクは、鉄血政策を推進し、短期間のうちに経済的・軍事的強国化を成し遂げた。「近代化」の遅れた日本は、同じ境遇にあったドイツこそモデルにすべきであると判断したのであった。

田中彰『明治維新 日本の歴史【7】』(岩波ジュニア新書)、中村政則『経済発展と民主主義』(岩波書店)、福井憲彦「ビスマルクとナポレオン3世〜19世紀のヨーロッパ〜」『NHK高校講座 世界史』2005年度、坂井榮八郎『ドイツ史10講』(岩波新書)

第49回 リンカンのホンネ〜19世紀のアメリカ〜
合衆国大統領の中でもっとも人気のある大統領の一人であるリンカンは、奴隷解放宣言をだした。しかし現在でも、黒人差別は未解決の問題として合衆国に存在している。リンカンの奴隷解放宣言にもかかわらず、現在まで黒人差別が残ってしまった原因を、リンカンの言動から考えた。リンカンは、奴隷の解放よりも合衆国の統一のほうに力点を置いていた。また、黒人の経済的な自立を促すような政策はほとんどなく、解放されたはずの黒人はふたたび元の主人のもとに戻っていく。そしてリンカンの暗殺ののち、黒人の問題は放っておかれてしまう。黒人問題がもう一度注目されるのは、このときから100年後のケネディの時代である。

油井大三郎「リンカーンとダグラス〜19世紀のアメリカ〜」『NHK高校講座 歴史でみる世界』2003年度、紀平英作・加盟俊介『世界の歴史23 アメリカ合衆国の膨張』(中央公論社)、本田創造『アメリカ黒人の歴史 新版』(岩波新書)、本田創造『私は黒人奴隷だった−フレデリック・ダグラスの物語』(岩波ジュニア新書)、猿谷要『物語 アメリカの歴史 超大国の行方』(中公新書)、二谷貞夫・笠原十九司・油井大三郎ら『世界史B新訂版』一橋出版

第50回 茶とアヘン〜19世紀のヨーロッパとアジア〜
お茶については、以前学習した。イギリスでは、紅茶に砂糖を入れて飲むことは貴族たちのステータスであった。のちにその習慣は庶民にまで広がったので、イギリスは大量のお茶をアジアから輸入することになった。対価としてイギリスは銀を支払ったので、大量の銀が流出していき、この赤字に頭をかかえるようになった。そこでイギリスは植民地支配しつつあったインドにアヘンを栽培させ、それを高値で中国に売りつけ、お茶を手に入れるようになった。茶とアヘンはこうして結びつく。

福井憲彦「茶とアヘン〜19世紀のヨーロッパ〜」『NHK高校講座 世界史』2005年、加藤祐三・川北稔『世界の歴史25 アジアと欧米世界』(中央公論社)、『週刊朝日百科日本の歴史99 1850年の世界』(朝日新聞社)、江口圭一『日中アヘン戦争』(岩波新書)、二谷貞夫・笠原十九司・油井大三郎ら『世界史B新訂版』(一橋出版)、『DAYS JAPAN』2005年1月号

第51回 特論≫植民地・日本の誕生?〜日本の近代化〜
インド、東南アジアは植民地化され、中国もアヘン戦争以後列強によって分割されていく。しかしこうした中で、日本は植民地化されず、近代化を成し遂げた。それはなぜだろうか?日本人は中国人や朝鮮半島の人びととは違って優秀だからだ、なんていう人もいるが、それは世界の動向を見落としている。つまり、中国でも、インドでも植民地支配に対する必死の抵抗運動があったのである。これに列強は手こずってしまう。その意味で、インドや中国の民衆のおかげで日本は植民地とならなかったのである。しかし、日本は日清・日露戦争を通じて、欧米諸国と一緒になって「殴る側」に立っていく。

田中彰『明治維新 日本の歴史【7】』(岩波ジュニア新書)、井上勝生『日本の歴史18 開国と幕末変革』(講談社)、加藤祐三・川北稔『世界の歴史25 アジアと欧米世界』(中央公論社)、児玉幸多・大石慎三郎編『日本歴史の視点3 近世』(日本書籍)

第52回 「弱肉強食」の時代〜世界を分割した帝国主義〜
さまざまな家電製品が登場し、現在のような生活が可能になったのは、19世紀の終わりから20世紀の初めのことである。しかし、こうした華やかな生活の裏側には、全く異なった別の側面も、存在した。今回は、市民革命や上からの改革によって「近代化」を成し遂げたアメリカやヨーロッパ諸国が、そうでない地域(アフリカやアジア)にいったい何をもたらしたのかを考えた。T.ローズベルトは「未開」のアフリカやアジアに「文明」を伝える使命感をもっていた。いずれにしても、自由を獲得した人びとが「自由」にもうけることによって、格差が生じ始めたというのが、19世紀後半から20世紀はじめのことである。

福井憲彦「ヨーロッパ近代文明と世界の変化〜帝国主義の時代〜」『NHK高校講座 世界史』2005年度、岡倉登志『「野蛮」の発見 西欧近代のみたアフリカ』(講談社現代新書)、宮本正興・松田素二編『新書アフリカ史』(講談社現代新書)、西川正雄・南塚信吾『≪ビジュアル版≫世界の歴史Q 帝国主義の時代』(講談社)

第53回 弱者の「叫び声」が人権を生んだ〜日本国憲法の系譜〜
この授業が最後のクラスもあったので、3学期のまとめをした。視点は人権の歴史。17〜18世紀、絶対主義のもとで抑圧されてきた人びとが、自由を求めて近代市民革命をおこし、「自由権」を確立した。しかし、自由を獲得した人びとが「自由」にもうけることによって、格差が生じ始めたというのが、19世紀後半から20世紀はじめのことである。大量の「弱者」が出始めることによって、このままではどこかおかしくなってしまうという「叫び声」のなかから、国家が「弱者」に手を差し伸べる時代(ロシア革命、ワイマール憲法、ニューディール政策、日本国憲法など)が、第一次世界大戦前後に到来したことを学んだ。

杉原泰雄『人権の歴史』(岩波書店)、二宮厚美『憲法25条+9条の新福祉国家』(かもがわ出版)

第54回 特論≫21世紀をどう歩むか?〜エピローグ〜
今の国会は「メール問題」でヘンな方向に向かいつつあるが、「耐震強度偽装」「米国産牛肉」「ライブドア」などの諸問題を扱わなければならない国会である。これらの問題は、小泉内閣が強力に推し進める、≪官から民へ≫という「構造改革」が原因の一つとなっておこったものである。閣僚のみなさんは必死に否定するが。この「構造改革」の方向と、19世紀後半から20世紀はじめの「経験」を経て生まれた日本国憲法がめざす方向は、まったく異なり、対立する。今年公布60周年を迎える日本国憲法は、このまま「弱者」の「叫び声」を切り捨てる方向へと向かっていくべきなのか、それとも「弱者」の「叫び声」をきく方向へと向かっていくべきなのか、その点を考えた。

渡辺治『憲法「改正」は何をめざすか』(岩波ブックレット)、YAMAGUCHI JIRO.COM(山口二郎さんのWEB)

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