1学期の授業録


使用教科書/『高校日本史A』実教出版 (実教・日A002)
副教材/『地歴高等地図・最新版』帝国書院 (帝国・地図599)

全体を通してのベースとなる参考文献
江口圭一『十五年戦争小史・新版』(青木書店)
藤原彰・吉田裕・伊藤悟・功刀俊洋『天皇の昭和史』(新日本新書)
『昭和の歴史』全10巻(小学館ライブラリー)

第1回 キミは「戦争」を知っているか?〜「イラク戦争」を読む〜
2003年3月に「イラク戦争」がはじまった。1ヶ月あまりで「戦闘終結宣言」はでたものの、今でもイラクは「戦争」状態にある。それにともなってこの1年、日本国内では戦後の日本社会の仕組みを大きく変える動きが出てきた。これらの動きは日本を、日本の人びとをどこに連れて行こうとするのか?かつて日本が引き起こした戦争を分析の対象とし、考えていきたい。その他、授業の方法・評価方法について述べた。

森住卓『イラク 湾岸戦争の子どもたち 劣化ウラン弾は何をもたらしたか』(高文研)、高橋邦典『ぼくの見た戦争 2003年イラク』(ポプラ社)、広河隆一責任編集『DAYS JAPAN』創刊号

第2回 ペリーが来た!〜開国と社会の変動〜
1853年、ペリーが浦賀にやってきた。当時の人びとは好奇のまなざしで黒船を見物に出かける。そして、国交のない日本とアメリカとがお互いに発砲・交戦ではなく話し合いでもって、日米和親条約を結んだ(今年はそれから150年の記念の年!)。ペリーが来たころの世界情勢を考えれば、きわめて特殊な事例である。アジアは欧米列強の植民地となり、侵略されていたからだ。幕府も一歩対応を間違えれば、戦争となり、植民地となったかもしれない。交渉の過程を簡単に見た。今、国交のない北朝鮮と、わたしたちはどう向き合うべきだろうか?

加藤祐三『黒船異変〜ペリーの挑戦〜』(岩波新書)、加藤祐三・川北稔『世界の歴史25 アジアと欧米世界』(中央公論社)、『週刊朝日百科日本の歴史93 開国』(朝日新聞社)、児玉幸多・大石慎三郎編『日本歴史の視点3 近世』(日本書籍)

第3回 「明治」と書いて…〜明治維新と民衆〜
明治時代、「上からは明治だなどと言うけれど、おさまるめぇと下からは読む」という落首が詠まれた。明治政府による急激な近代化政策に対し、民衆は血税一揆や地租改正反対一揆をひきおこした。しかし、それらは単純に徴兵令と地租改正にのみ反対したものではない。新政そのものに反対であったのである。大久保利通は民衆の行動に危機感を覚え、軌道修正をする。果たして、この時代は「明るく治める」か、「おさまるめぇ」か?

『週刊朝日百科日本の歴史95 維新と明治の新政』(朝日新聞社)、佐々木克「開化政策と民衆」『歴史でみる日本』(NHK教育、2001年・2004年度放送)、鈴木淳『日本の歴史20 維新の構想と展開』(講談社)、安井俊夫『歴史の授業108時間(下)』(地歴社)

第4回 憲法制定をめざして!〜自由民権運動〜
今から30年ほど前、東京・あきる野市にある朽ち果てた蔵の中から「五日市憲法草案」が見つかった。これは、今から120年ほど前につくられたものであるが、現在の日本国憲法に通じるものがある。なぜ「五日市憲法草案」は蔵の中にしまわれ、すっかり忘れ去られてしまったのだろうか?国会開設を求める自由民権運動の盛り上がりによって、国会開設は決定されたものの、同時に憲法は天皇が定めるものとされた。

『週刊朝日百科日本の歴史100 自由・民権・国権』(朝日新聞社)、児玉幸多・大石嘉一郎編『日本歴史の視点4 近代・現代』(日本書籍)、歴史教育者協議会編『わかってたのしい社会科6年の授業』(大月書店)

第5回 「ただ苦笑するのみ」〜大日本帝国憲法の制定@〜
民権派植木枝盛は、大日本帝国憲法が発布されたとき、憲法が誕生したことを喜ぶべきと言った。肯定的な評価(留保はあるが)。一方、同じ民権派の中江兆民は一読してただ苦笑しただけであった。否定的な評価。なぜ中江兆民は否定的な評価を下したのか。現在の憲法と比較しながら検討した。民権派が求めた憲法は、大日本帝国憲法ではなく、日本国憲法に近い。

吉村徳蔵・黒羽清隆・宮原武夫・梅津通郎『授業の役にたつ話 歴史のとびら』(日本書籍)、『週刊朝日百科102 伊藤博文と田中正造』(朝日新聞社)、田中彰『日本の歴史7 明治維新』(岩波ジュニア新書)、田中彰『小国主義〜日本の近代を読みなおす〜』(岩波新書)、浦部法穂・大久保史郎・森英樹『現代憲法講義1〔講義編〕』(法律文化社)、長谷川正安『憲法とはなにか』(新日本新書)

第6回 「誰もご存じないのだ」〜大日本帝国憲法の制定A〜
憲法発布のお祭り騒ぎ。ドイツ人医師のベルツは「滑稽なことに誰も憲法の内容をご存じない」と日記に記す。なぜ「誰も憲法の内容をご存じない」のか。憲法の制定過程に注目した。また、2月11日と5月3日にも注目した。意外と現在の日本の人びとも「憲法の内容をご存じない」のかもしれない。

清水勲編『続ビゴー日本素描集』(岩波文庫)、『週刊朝日百科102 伊藤博文と田中正造』(朝日新聞社)、浦部法穂・大久保史郎・森英樹『現代憲法講義1〔講義編〕』(法律文化社)、長谷川正安『憲法とはなにか』(新日本新書)

第7回 学校のなかの天皇〜天皇制と戦前の教育〜
戦前の学校教育について学ぶ。教育を通じて、天皇ってのはエライ!、神だ!、天皇のために生きよう、ということが強調された。戦前の小学生は、紀元節などの儀式も、朝礼も、さらには学校に通うのも、気の抜けないものだった。今の全校集会とはだいぶ様子が違いますね。

山中恒『子どもたちの太平洋戦争〜国民学校の時代〜』(岩波新書)、藤原彰・吉田裕・伊藤悟・功刀俊洋『天皇の昭和史』(新日本新書)、安川寿之輔『十五年戦争と教育』(新日本出版社)、安川寿之輔『大学教育の革新と実践〜変革の主体形成〜』(新評論)

第8回 ぼくは20歳だった〜天皇と軍隊〜
静岡市の竜爪山に穂積神社がある。今となってはさえないが、戦前はそれなりの神社であった。一体どんな神社なのであろうか?徴兵制というシステムができる過程を概観した。そんな中、徴兵を逃れよう、あるいは「運悪く」徴兵され、戦地に行っても敵の弾にあたらぬようと願う若者も少なくなかった。静岡市竜爪山の穂積神社は近代においては弾除け、徴兵逃れとしての信仰をあつめていた。そして、竜爪さんの弾除けのお札が、戦地の兵士にお守りとして送られていたのである。

大江志乃夫『徴兵制』(岩波新書)、大江志乃夫『昭和の歴史B 天皇の軍隊』(小学館ライブラリー)、大江志乃夫ら「静岡県内の徴兵逃れと弾除け信仰」(『静岡県近代史研究』第5号)、静岡市立登呂博物館『竜爪山の歴史と民俗〜竜が降りた山の謎解きのすすめ〜』、原田敬一『国民軍の神話〜兵士になるということ〜』(吉川弘文館)、荒川章二『軍隊と地域』(青木書店)、戸井昌造『戦争案内 ぼくは20歳だった』(晶文社)、吉田裕『日本の軍隊〜兵士たちの近代史〜』(岩波新書)

第9回 忠魂碑はなにを語るか?〜日露戦争〜
清工のそばに秋葉神社があり、そこには「忠魂碑」がひっそりとある。また岡部町の常昌院(兵隊寺ともいわれる)には223体の木造の人形がある。これらは日露戦争後につくられたものである。これらは何のために作られたのだろうか?そもそも「忠魂」とはどんな意味か、そこから考えよう。そして県には護国神社があり、東京には靖国神社がある。

原田敬一「日本近代の戦争認識と戦没者祭祀〜国家と民衆」(『講座戦争と現代3近代日本の戦争をどう見るか』大月書店)、静岡県『静岡県史 別編3 図説静岡県史』(ぎょうせい)、荒川章二『軍隊と地域』(青木書店)、原田敬一『国民軍の神話〜兵士になるということ〜』(吉川弘文館)、大江志乃夫『靖国神社』(岩波新書)、田中伸尚・田中宏・波田永実『遺族と戦後』(岩波新書)

第10回 「日本」で一番高い山は?〜戦前日本の国際環境〜
現在ならば、「富士山」と答えるだろう。静岡県民ならばなおのことである。しかし、戦前の「日本」は違った。というのも、戦前の「日本」は海外にも植民地をもっていたからである。今回は、地図に作業をしながら、近代日本がどのような形で海外領土を獲得していったのかを、概観した。また、静岡県の人びとはこれらの戦争にどのようにかかわっていったのかも学んだ。ちなみに表題の解答は、授業で。

黒羽清隆『鉄砲足軽ひとりごと抄 黒羽清隆講演・座談集』(地歴社)、荒川章二『軍隊と地域』(青木書店)、柳田芙美夫『静岡連隊写真集』(静岡連隊写真集刊行会)

中間テスト
第11回 テスト返却・ビデオ視聴
テストを返却した。ものすごい勢いで採点したので、採点ミスも少々。後半は、予習もかねて『おしん』を30分ほどみた。わずか7歳のおしんは材木問屋に奉公に行くため、両親と別れる。
第12回 一万円札を透かしてみれば…〜アジア侵略の背景〜
日本人はどのようなアジア観をもっていたのか?福沢諭吉を中心に考える。福沢と言うと「天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず」ということばで知られるが、実はそのあとが大事。「と言えり」。福沢はアジアに対する蔑視・偏見・マイナス評価をたれ流す。さらに日清戦争に対し、福沢は明治天皇の海外出陣までも呼びかける。日本の最高額面の紙幣の肖像画は、福沢でいいのだろうか?1万円札を透かしてみれば、別の福沢の顔が見える。

安川寿之輔『福沢諭吉のアジア認識〜日本近代史像をとらえ返す〜』(高文研)、安川寿之輔『大学教育の革新と実践―変革の主体形成―』(新評論)

第13回 生糸と軍艦@〜戦前の日本経済〜
明治時代に入り、富国強兵・殖産興業・文明開化の道を突き進んできたが、さて、これらに必要なゼニはいったいどこからもってきたのだろうか?山本茂実さんの『あぁ 野麦峠』を読みながら、生糸を生産するとはどういうことかを学習した。本当は、映画を見たいのだが、見つからないのです。どなたか知りません?生糸と繭の実物を提示した。

山本茂実『あゝ野麦峠 ある製糸工女哀史』(角川文庫)、江口圭一『十五年戦争小史・新版』(青木書店)、中村政則『労働者と農民 日本近代をささえた人々』(小学館ライブラリー)、富士市立博物館『第35回企画展 夢を紡いだ時代〜旧富士郡下の蚕糸業とその周辺〜』、岡谷市教育委員会『ふるさとの歴史 製糸業・岡谷製糸業の展開〜農村から近代工業都市への道〜』

第14回 生糸と軍艦A〜戦前の日本経済〜
前回に続き、山本茂実さんの『あぁ 野麦峠』を読み、女工たちの労働について考えた。長い労働時間、貧しい食事、安い賃金など「悪条件」の下で働く女工たちは、意外なほどに「行ってよかった」という反応がある。なぜだろうか?日本の農村の貧しさがみえる。この生糸を外国に売って、ゼニを稼いでいた。そしてそれが、軍艦へと変わるのだ。しかも、日本はアメリカに対してもっとも多く輸出していた。日本は経済的にアメリカに依存し、その依存によって軍事大国として自立していた。もしアメリカと対立し、日本のモノを買ってくれないとなれば、その時日本は…。なお、『あぁ 野麦峠』の映画のパンフレット(東京の古本屋で購入)を提示。

山本茂実『あゝ野麦峠』(角川文庫)、中村政則『労働者と農民 日本近代をささえた人々』(小学館ライブラリー)、岡谷市教育委員会『ふるさとの歴史 製糸業・岡谷製糸業の展開〜農村から近代工業都市への道〜』、富士市立博物館『第35回企画展 夢を紡いだ時代〜旧富士郡下の蚕糸業とその周辺〜』

第15回 興津を愛した最後の元老・西園寺公望@〜第一次世界大戦後の世界〜
先日、興津に坐漁荘が復元された。そこの主人は、アメリカ・イギリスとの協調を重視し、平和を求めた老人が暮らしていた。西園寺公望である。彼は、明治末、2度内閣総理大臣となり、元老となり、日本を動かしていた。史上初めて「総力戦」となった第一次世界大戦後、平和を求める国際世論を背景に、パリ講和会議が開かれ、西園寺も日本の全権として参加する。そして、国際連盟が設立される。1928年には、パリ不戦条約も結ばれ、西園寺の支持もあって、日本はこれを批准する。パリ不戦条約の流れは、今の日本国憲法の中に流れている。

岩井忠熊『西園寺公望〜最後の元老〜』(岩波新書)、江口圭一『大系日本の歴史14 二つの大戦』(小学館ライブラリー)、浦部法穂『全訂 憲法学教室』(日本評論社)、『朝日クロニクル 週刊20世紀 1913〜14』(朝日新聞社)、『朝日クロニクル 週刊20世紀 1915〜16』(朝日新聞社)

第16回 岡谷の女工たちの叫び〜昭和恐慌〜
日本経済は日露戦争以後、一時を除いて、ずっと不況であった。なかでも、世界恐慌の影響を受けた昭和恐慌は都市、農村でひどい状況をもたらした。岡谷の女工たちも、長い労働時間、貧しい食事、安い賃金の改善を求めて、とうとう立ち上がった。岡谷のまちを巻き込んでの、この労働争議の結末は?

山本茂実『あゝ野麦峠 ある製糸工女哀史』(角川文庫)、中村政則『労働者と農民 日本近代をささえた人々』(小学館ライブラリー)、岡谷市教育委員会『ふるさとの歴史 製糸業・岡谷製糸業の展開〜農村から近代工業都市への道〜』、『朝日クロニクル 週刊20世紀 1931-32』(朝日新聞社)

第17回 必死の代案〜恐慌脱出への道〜
資本主義諸国では世界恐慌の影響を受けた。なんとかしてこの恐慌を脱したいと各国とも必死である。恐慌震源地・アメリカ、植民地を持つイギリス・フランス、植民地のないドイツ。もちろん日本も昭和恐慌をなんとかしなくては!その中で、「満蒙問題」がクローズアップされる。「満蒙問題」について、陸軍の石原莞爾と『東洋経済新報』の石橋湛山(戦後、静岡県選出の国会議員、首相となる)の考えは真っ向から対立する。みなさんはどちらを選択するか?アメリカも、イギリス・フランスも、ドイツ・日本も、結局戦争への道を歩むことになった。そんな中、「湛山風」の生き方をした国も当時あったのだ。

中村政則「昭和の幕開け〜不況脱出・「必死の代案」〜」(『NHK教育セミナー・歴史で見る日本』1997年版)、田中彰『小国主義〜日本の近代を読みなおす〜』(岩波新書)、中村政則『明治維新と戦後改革−近現代史論』(校倉書房)、松尾尊~編『石橋湛山評論集』(岩波文庫)

第18回 夏期課題について
今年もこの季節がやってきました。夏期課題の季節。「戦争の跡」をめぐってくるという課題です。詳細は別のページで。力作を待っています!
期末テスト

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