XCOMBの上死点(TDC)と圧力零点補正機能 [XCOMB画面へ]
−圧縮比誤差が熱発生率演算結果に与える影響−
燃焼圧解析では計測された筒内圧力とエンジン諸元から熱発生率を求めることで燃焼診断を行います. したがって圧力計測値、エンジン諸元ともに正しい値が入力されて
いないと正しい燃焼診断はできません. 一般的にエンジン諸元入力データの中で精度の高い値を得るのが難しいのは圧縮比です.
最近はエンジン部品のCADデータを元に上死点隙間容積を算出して圧縮比を算出するケースが多いようですが各部品寸法には公差があるのでエンジン実機の圧縮比には
バラツキがあります. 製品やメーカにもよりますが量産エンジンでは0.2から0.3程度のバラツキがあるものと思われます. これに対し計測するエンジンの実物部品の寸法、容積を精密に
計測して隙間容積を割り出せば精度の良い値が得られるはずですが、実際の計測にはノウハウや熟練度が必要であり場合によっては計測の度に圧縮比が異なるという事態を招くこともあります.
そこで研究開発において燃焼圧解析を『実用的かつ効率的に』使うために、圧縮比の誤差によって熱発生率計算結果にどの程度の差が生じるかを予め知っておくことが必要となります.
今回は精度良く計測された基準圧縮比を入力した場合と基準圧縮比からオフセットさせた値を入力した場合に得られる熱発生率を比較してみます.
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【解析条件】
<エンジン>
4サイクル ガソリン吸気管噴射エンジン
@基準(正しい)圧縮比 10:1
A 圧縮比ケースA 9.7:1(エラー値-0.3) B
圧縮比ケースB 10.3:1(エラー値+0.3)
<運転条件>
1000rpm スロットル部分開度 点火時期30degBTDC 空燃比14:1
<筒内圧力データ>
筒内圧のソースデータ(計測された生データ)は連続109サイクル、クランク角間隔 1deg
<筒内圧の補正と熱発生率計算>
@、A、Bとも熱発生率計算より前にTDC位置、圧力零点の自動補正機能を用いて補正を行い、補正後の圧力を元に熱発生率計算を行う
【解析結果】
1)
筒内圧補正結果
仕様 |
TDC補正量deg |
圧力零点補正(kPa) |
A圧縮比9.7(CR9.7) |
1.48 |
-25.23 |
@圧縮比10(CR10) |
1.19 |
-28.17 |
B圧縮比10.3(CR10.3) |
0.88 |
-30.85 |
注)TDC補正はクランク角間隔値の整数倍として元の圧力データにF/Bされるので実際の補正量は3仕様とも1degとなります.
圧縮比により補正量が異なることが判ります. これは圧縮期間中および燃焼終了後の熱発生量が共にゼロとなることを目標に補正が行われるためです.
2)
圧縮比入力値と熱発生率
1. 熱発生率比較
2. 熱発生量比較
グラフから読み取ると圧縮比によって熱発生量カーブに若干の差が生じます. 正しい圧縮比CR10ではATDC30deg以降は一定、つまり熱発生は殆どゼロですが
CR9.7では減少つまり発熱から吸熱に転じており 、CR10.3では発熱が続いているという結果になっています.
3)
燃焼効率、図示平均有効圧
仕様 |
燃焼効率 |
図示平均有効圧(kPa) |
A圧縮比9.7(CR9.7) |
0.837 |
507.28 |
@圧縮比10(CR10) |
0.826 |
507.28 |
B圧縮比10.3(CR10.3) |
0.819 |
507.28 |
燃焼効率*はCR9.7とCR10.3とで約2.2%の差になっています.
*燃焼効率=実発熱量(熱発生量カーブのピーク値)/燃料の低位発熱量であり燃焼効率は実発熱量に比例します.
また3仕様ともTDC補正量が1degと同じなので図示平均有効圧は同じとなります. (圧力零点補正値は圧力値を上下に並行移動させるだけであり図示平均有効圧には影響しません.)
以上、入力された圧縮比に基きTDC補正と零点補正を行った筒内圧データを用いる場合、圧縮比の入力誤差が±0.3程度あっても得られる熱発生率の差は
上図の程度であり燃焼効率の計算値も2%程度の誤差であることがわかりました. 勿論目的によってはより高精度の解析が求められるケースがありその場合は圧縮比の
正確な値が必要なのは云うまでもありません.
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