こんにちは。
ぼくは「WAO(ワオ)」という名まえのイヌです。
ぼくのこと、みんなにもっと知ってほしいワン。
●WAO略歴
とある年 ある日生まれ。
おとこのこです。
生まれてスグ捨てられてしまったボクでしたが 「ワケ」あって信さんと一緒に暮らすことになりました。
今ではなぜか信さんの経営するオモチャ店の専務 として毎日を忙しく過ごしています。

信さんを厳しく指導するWAO
さて、その「ワケ」について詳しくおはなししましょう。



『信さんとWAOの、ワケ』



信さんは山が好き。山にこもってキノコを採ったり、ハチに追いかけられたり、熊を撃ったり(うそ)に夢中になっては、いつも夕暮れまで遊んでしまいます。そしてたいていはそのまま夜を迎え、帰ってこれません。おもちゃ店の店長である信さんなのですが、こんなふうに、3カ月にいっぺんほど、だいたい2カ月半ほど、いなくなってしまいます。山から出てくることができず、泣きながら迷いつづけるのですが、しかし必ず信さんは無事に帰ってくるのです。まあ、そんなところが信さんの魅力でしょうか(なんだそりゃ)。

そんな信さんもさすがに四十路を迎えては、身の危険を(やっと)感じ始めました。ウンコ騒動のようなことはもうゴメンだ、と。
考え始めてから3年ののち(長すぎ)信さんは結論を出しました。それは「僕、イヌ飼うから」というものでした。「僕は帰れないけど、イヌって帰れるでしょ。あとはついて帰ればいいだけの話じゃん?」と得意気に店員であるKさんに語りだしました。
Kさんは「それ、なんか違うんじゃないですか」そうツッコもうかと何回も思いましたが、よく考えたら信さんにかまっているヒマはないので仕事に戻りました。信さんはKさんがあまりかまってくれないので寂しくなり泣こうかと思いましたが、イヌのことを思い出して再び笑顔を取り戻すと、そのままペットショップへと走り出しました。

ペットショップは10km離れたとなりの町にありましたが、信さんにはどうでもいいことだったようです。4.5km地点にさしかかったとき、道ばたに箱のようなものがあるのを信さんは見つけました。減速し、足踏みをしながら箱をのぞくとそこにはなんと、イヌがいたのです!
「イヌだあ!」信さんは叫びました。そういえば今朝のめざましテレビでNちゃんが「おひつじ座の人はスポーツにツキがありそう!」なあんて言っていたよなあ、などと思いながらも、自分がなに座なのかは知らない信さんでした。そんな信さん、喜びを体中で表現しながら、来た道を戻り始めました。「体中で喜びを表現」しながら走る男、信さんを見た、巡回中の警察官は職務質問をしようかと思いましたが、コワイのでやめました。

店に着いた信さんは、お客さんをかきわけ、Kさんを見つけると「ほらイヌ!道にいたんだぁ。ほらあ、見てよカワイイでしょ?たぶん」と言って、信さんも初めてそのイヌの顔を見ました。イヌは4.5kmの道のりを揺られ続けたためか、それとも元々そういう顔なのか、Kさんにはわかりませんでしたが(もちろん信さんにもわかりません)顔には表情らしきものはなく、ましてやどう見ても山から帰るどころか「このイヌ自分の名前も覚えられなさそう」な印象を受けました。
「このイヌ、信さんを山からつれて帰ってくるなんて出来ないと思いますよ絶対」、はっきりそう言おうかと何度も思いましたが、やっぱりこんなことをやっている場合ではなく忙しかったので、ムシしました。

イヌは「WAO(ワオ)」と名付けられ、やっぱり信さんを山から連れ帰ることはできないイヌでしたが、今ではなぜか<専務>としてオモチャ店の経営の一角を担っているのです。


おわり