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狂気への期待

後藤純一

 科学は、科学することに魂を奪われた人間の、一種の狂気の所産であろう。
 そして、私たちが科学するにも、この狂気と、その狂気を覚めた目で記録する能力が要求される。
 私が、自分の専門とは表面上全く無関係な物理部の諸君と巡り合えたのも、顧問水野先生に啓発されたのであろう。科学に魂を奪われ始め狂気寸前の君たちの姿に共感を覚えたからに他ならない。そしてそれ以来、一つの未知なるものに向かって、一歩一歩登りつめていく君たちの姿に、一種の感動を受けながら、研究の進展を待ちつづけてきた。
 私は、君たちに教えるべき何物をも持たない。ただ自分の経験から、一つの研究を完成するのに、その研究に必要なエネルギーの70%を実験準備(材料の選択と準備、実験方法の選択、開発、試作、予備実験)に注入しなければ、確かな結果は得られないと言ったことがある。うれしいことに君たちはこの言葉を生かしてくれた。
 長い時間をかけ、高い水準の研究資料を集め、自動車の中古部品を集め、私の心配を尻目に、富士高式分光分析器.なるものを完成し、興味ある結果を生みつつある水野君とそのCo-workers。
 ただ一枚の回折格子を作るために、額に汗して、何百本もの線をただひたすらに引き続けた藤田、向山の両君。昼食の弁当を半分残して、今夜は学校に泊まり込んで論文を書き上げるのだと、夜ふけの校庭で雨にぬれながら頑張り、私を泣かせた遠藤君。
 君たちは、学習と部活動の間に挟まれながらもよく耐えた。そして、狂気は燃焼し、又一つの未知なるものへの一歩をきざんだ。
 そして今、科学する若者たちは、覚めた目で、自分たちの狂気の時代を振り返り、一つの記録を残そうとしている。君たちの、今日までの長い探求の過程は、生命そのものの一表現であり、君たちの記録、そして論文こそ、その生命が定着されたものと見ることができよう。
 この貴重な論文を足がかりとして、君たちが再び狂気の世界に戻り、更に多くの青年科学者が、そして狂気集団が生まれることを私は期待している。

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