ジャンプの為のサスセットアップ

初めにマシンセットアップありき

 「弘法筆を選ばず」とはいえ、実際にはマシンの善し悪しで、テクニック自身の表現方法も変化さざるえません。ジャンプに対して、ライダーのテクニックが重要ではありますが、それよりさらに重要なのがサスのセットアップなのです。

なぜか?

 近代のモトクロッサーには、フロントサスに倒立が好まれて取り付けられています。モトクロスにおいて、速い速度でジャンプ台斜面にアプローチするとき、始めに大きな衝撃を受けとめるのが、フロントサスです。そのため、剛性を上げて腰砕けになりにくい倒立サスが採用されています。オフロードバイクのサスペンションのセットアップには、ライディングスタイルの数だけ方向性がありますが、ジャンプをより快適に安全に飛ぶための一つの考え方をここに示したいと思います。

 マクグラスが1999年度のAMAスーパークロスチャンピオンになり、そのマシンについて2雑誌でそのセットアップについて書かれていました。その中で『スーパークロスでは、フープスでの走りを重要視して、フロントダンパーのコンプレッションを締め上げるんだ。』とありました。フープスは、ホイールベースより短い斜面の集合体でまさにキッカージャンプ台の集合体でもあります。フープスで、安定であるとは、少なくともジャンプにおいても踏切から空中までノーズダイブしにくいと考えられます。(テクニックリフォーム仮説)

 ジャンプでの飛び出しの安定性を重要視したセットアップは、細かいギャップ吸収やコーナーリングのしやすさを犠牲にせざる得ないのですが、特攻隊のようにひるむことなくアクセルをワイドオープンでジャンプ台にアプローチでき、さらに空中での安定性が得られるのですから、ジャンプ中心のコースでは必要なセットアップの方向です。

 ジェレミーマクグラスとジェフエミグは、ジャンプ踏切で対象的なボディーアクションを行います。マクグラスは、フロント寄りに飛び出し、エミグはリア寄りに飛び出しています。そのボディーアクションの大きな違いは、マシンのセットアップの違いから来ています。

 もし、あなたがモトクロッサーのラジコンを持っていたとして、(そんなの無いけど)そのバイクを走らせ、バイクがジャンプのたびに前転しかけてキッカージャンプを食らいまくってたとします。多分そのバイクは、コーナーリングにおいて、オーバーステアーでターンしやすいセッティングでしょう。しかし、キッカージャンプの前転を食らってはジャンプを飛べず、ラジコンではライダーのボディーアクションも得られません。対処としては、フロントサスの反発力を高めて、オートバイ単独で、大抵のジャンプでノーズダイブしないように前後のサスのバランスを取るセットアップをするしかないでしょう。

 さらに、このラジコンモトクロッサーよりもマクグラスのマシンは、フープス攻略のために更にフロントサス自身を急激な入力に対して、反発するようにしているため、フロント寄りのボディーアクションで飛び出しても、フロントノーズダイブしません。と言うより、前乗りじゃないとまくれ上がってしまいます。対して、エミグのマシンは初めのラジコン同様、そのままでは前転してしまうセットアップで、ライダーの移動でバイクの重心を移して踏切で安定化しています。これは、ジャンプよりもコーナーリングを重要視したセットアップのためです。

私、ikqの場合

 私の場合、ジャンプをボディーアクション無しに安定して飛ぶマシンセットアップは、今まで知りませんでした。そして、私の知る限りどの本にも書かれていないと思います。しかし、実際に上で述べた私の理論を実践投入してみたところ、ジャンプに対する恐怖が著しく減少したではないですか。いままで空中でのバランスが崩れるのを恐れて、アクセルを合わせて一旦戻しで開けての離陸で飛んでいたジャンプも、気合い全開特攻隊で一旦戻し無しでもビシッと水平でピッチングモーションが無く安定しているではないですか。フロントサスのリバウンドがあるために、膝を伸ばしたジャンプも決まります。(フロント離陸時にリバウンドが感じられて、フロントが斜面から跳ね返って来て、まだ斜面に残っているリアタイヤに加重が移りリアサスをしっかり沈めることが容易になりました。)いままでのジャンプのためのライディングは、何だったんだ?と思いました。レースで速い人がクレージーな速度でジャンプ台にアプローチできたのも、マシン単体で安定にジャンプを飛べるセットアップをしていたからに違いないのです。

危険なのはジャンプに適さないサスセットアップ

 マシンとライダーの相互作用により、マシンは安定にジャンプします。市販公道車のマシンセットアップは、ジャンプに最も不向きなサスセッティングであることを意識しなくてはなりません。曲がりやすく、ソフトで、座った状態を基準にセットアップされているからです。そのセッティングでジャンプ台斜面に速度を上げて進入した場合、簡単にフロントが破綻して、反発できずにフロント加重のまま斜面から飛び出し、追い打ちをかけてリアの反発でキッカージャンプになってしまうのです。この事を理解せずに度胸一発で勝負すると必ず、あなたのバイク人生は、危機にさらされます。

自分の場合のジャンプの為の前後サスのセッティング方法

 シングルジャンプ台で、ホイールベースより少し長い程度、もしくは場合によってはキッカージャンプになりやすい場所を探します。特に着地地点が低く落ち込んでいる方がノーズダイブが分かり易いです。レーシングスピードで(そのコースで自分の技量と相談して出来るだけ速く)通過します。その時、ボディーアクションは通常に行います。ノーマルの前後ダンパーアジャスターならフロントから落ち気味になり、これ以上速くアプローチ出来ないと感じるはずです。そこから、結論として、フロント圧側を最強から3段戻し、リア伸び側、標準から2段締め、圧側1段戻しを行いました。(KX125の場合)ノーマル標準よりフロントの入りが硬く、リアの入りが早く戻りが遅い状態です。そのセッティングで、ジャンプ台を通過すると、上に伸び上がる感じで飛び出し、感覚的に安心感が全然違うではないですか。どんなジャンプでもフロントノーズダイブになる感じがしません。進入速度も更に上がり、それに反比例して速度とジャンプの安定性に精神、肉体ともに恐れる必要がなくなりました。ただ、コーナーリングとギャップによる振動に苦労するようになりましたが。そこで、ハンドルを立てて上から押さえつけて加重してないと乗りにくくなります。まさに、アメリカンの独特のライディングスタイルは、フロントサスの強化から由来していて、それは、ジャンプを飛ぶためだったと結論するに至りました。

AMAスーパークロスにフロントのリバウンドを観る

 やはり、スーパークロスにおけるフロントフォークの入りの悪さは、マクグラスが最も顕著です。乗車時のボディーアクションは、ホンダ時代に比べて、ヤマハにスイッチしてからの方がフロント加重乗りが前にも増して強力になっています。マクグラスのマシンをよく観察していると、ジャンプ斜面で一度沈んだフロントが、離陸前にリバウンドして伸び上がって行くのが解ります。そして、「テクニックリホーム」で紹介しているキッカージャンプ攻略のマジックジャンプも、あらかじめ一度沈めてフロントが離陸する前にフロントサスが伸び上がるようにタイミングをとっているのでキッカージャンプが避けられるのです。

 スーパークロスにおけるフロントフォークは、特に硬いセットアップと言われていますが、それでもライダーによってずいぶん異なるように感じます。特に柔らかいフロントサスほど腰を大きく引いたジャンプ離陸を行っているようです。

その証拠を以下に示します。

フロント加重の最右翼マクグラスのテイクオフです。

比較的棒立ちでのテイクオフ(ライダー不明)

テイクオフ瞬間にグイと腰を引いています。

この中では、テイクオフ時のリア加重最大です。

以上のように同じ3連の飛び越しでも、マシンセットアップの違いによりライダーのライディングスタイルも大きく異なることが解ると思います。

 実は、同じ速度で同じ距離を安定して飛べているため、テイクオフ時の前後の重量配分は、マシンとライダー込みでいずれの場合も同じです。ただ、バイク自体の持つピッチングモーションの前後バランスが異なることが原因でライダーのアクションもそれを打ち消す方向で動いているだけです。

 コーナーで楽なセットアップは、ジャンプでは苦労させられるわけです。ジャンプは、コーナーよりも運動エネルギーの大きさの違いでかなり「死」に近いセクションです。モトクロスライダーは、迷わず、マクグラスのセットアップを見習うべきだと私は思います。