2002/2/3

「マングローブ」とは?

昨今、森林破壊が地球環境問題の中でも重要な問題となっており、
その打開策として熱帯・亜熱帯地域で「マングローブの植林」が
行われているという報道を耳にしたことがあるのでは
ないかと思います。

なんとなく「マングローブ」ってどんなものか
思い浮かびませんか???

熱帯・亜熱帯地域に行かれた方なら「あの植物がそうだったかな?」と
思い浮かぶのではないでしょうか?

あなたが沖縄地方に住まわれている方なら
「あの植物のことでしょ!」ってわかりますよね!

でも「マングローブ」は植物だとわかっていても、
それほど知られていないのが実状ではないでしょうか・・・

さて「マングローブ」のことについて、Shigeyと一緒に調べてみましょう!!!

ランカウイのマングローブ(2001/03/12)

ランカウイ(2001/03/12)

−マングローブってどんな植物?−

「マングローブ」とは海水と淡水が入り交じる沿岸に生育する
植物群の総称を指します。

したがって「マングローブ」とは、特定な木の名称ではありません。

高山植物とか湿原植物などと同じ意味あいの呼称です。

では具体的にどんな植物群のことでしょう?

【目次】

1.マングローブの特色
2.マングローブの種類
3.マングローブの語源
4.マングローブの生い立ち
5.国内で見られるマングローブ
6.マングローブの役割・用途
7.マングローブからの恵み
8.マングローブの減少について
9.最後にひとこと・・・

ランカウイのマングローブ(2001/03/12)

ランカウイ(2001/03/12)

1.【マングローブの特色】

「マングローブ」の特色として以下の4点があります。

大気中に根を出す呼吸根を持つ。
胎生種子植物である。
塩水に浸かっても枯れない。
海と森の2つの生態系を持ち合わせる。

(注)「マングローブ」と言われている全ての植物が、
上記の特色全てに該当しているわけでは
ありません。

(1)マングローブの根(呼吸根とは?)

  ふつう植物の根は、水を求めて地中に広く深く伸びていきますよね。
  「マングローブ」の根は、それとは違うんです。種類によって様々な根が
 ありますが、 「マングローブ」は大気中に根を出して呼吸をしているんです。

@ タコ足のような「支柱根」をもつもの
A 筍(タケノコ)のように地面から
上に伸びる「筍根(じゅんこん)」をもつもの
B 膝が曲がったような格好をしている
「膝根(しっこん)」をもつもの
C 波形をした「板根(ばんこん)」をもつもの

大気中に出ている呼吸根(2001/03/12)

つくつく出ているのが呼吸根です。

ランカウイ(2001/03/12)


@タコ足のような「支柱根」をもつもの

   ヤエヤマヒルギ属の根は、幹を支えるようにタコ足状に四方に伸びています。
  「支柱根」は水を吸う働きがあるのは当然ですが、不安定な泥地で
自分の体を支えるという役目もあります。

   それに加え、空気中に露出している根の表面では、
葉と同じように「光合成」が営まれていることがわかっています。
  「支柱根」はその働きがあるということと、空気中に出て生活できて
いることから、呼吸などの機能を持つ気根でもあります。

   「マングローブ」の根といえばタコ足を思い浮かべる方も
多いと思いますが、タコ足(「支柱根」)自体は、「マングローブ」を
決定的に特徴づけるものではありません。
  
  #タコ足の根は、「マングローブ」以外にもタコノキの類などでも見られます。

支柱根(ランカウイ:2001/12/23)
支柱根
[ランカウイ:2001/12/23]
「光合成」とは?

       根から吸収した水を「維管束」を通して葉に運び、葉の気孔などから
吸収した二酸化炭素と化合させ、
太陽の光や葉緑体の中のクロロフィル(酵素)の
働きを受けて炭水化物(糖類)を合成し、
同時に酸素もつくるという葉の中で
起こる化学作用のことです。
      本来、根にはない働きです。

A筍(タケノコ)のように地面から上に伸びる「筍根(じゅんこん)」をもつもの

   この根がもっとも「マングローブ」を決定づける特徴と言えるようです。
  マヤプシキ属・ヒルギダマシ属の根は、地中浅く地面と
平行に伸びる根から、さらに筍(タケノコ)のように上(空気中)に
向かって垂直に伸びる根を持ちます。

   この根の形態は本来は土の中へ潜っていく一般的な根と違い、
上に向かって伸び、呼吸をします。

   これこそが「マングローブ」を決定づける「呼吸根」です。

筍根(ランカウイ:2001/12/23) 地下茎で繋がっている呼吸根(ランカウイ:2001/12/23)
筍根(じゅんこん)
呼吸根は地下茎で繋がっている。(右)
[ランカウイ:2002/12/23]
B膝が曲がったような格好をしている「膝根(しっこん)」をもつもの

   オヒルギ属の種類は「膝根(しっこん)」を持っています。
   ちょうど膝を曲げたような形に見えることから、「膝根」と呼ばれています。

   泥土中に酸素が少なければ、「膝根」の数が多くなるという点から、この
   「膝根」も「呼吸根」の1種であると言われています。  

膝根(ランカウイ:2001/12/23)
膝根(しっこん)
[ランカウイ:2002/12/23]
C波形をした「板根(ばんこん)」をもつもの

   「ホウガンヒルギ」の根は、地面を曲がりくねって
伸びただけのものもありますが、多くは曲がりくねった根が
左右に扁平となり、板がくねくねと曲がって伸びた形となっています。
   この根は「板根」と言われています。
(人によっては「波形板根」と言っています。)

   同属の「ニリスホウガン」の根は、「ホウガンヒルギ」と同じ
「波形板根」なのに、呼吸根のように所々に棍棒(こんぼう)状の根が
立ち上がっています。
   この根は「棍棒根」とも言われています。

   これらの根は「膝根(しっこん)」の変形であると
言われています。

   但し、オヒルギ属の「膝根」とは全く違うため、
呼吸根としての役割があるのかは
  わからないそうです。   

板根(ランカウイ:2001/12/23)
板根
[ランカウイ:2002/12/23]

(2)胎生種子とは?

  種類は限られますが、「マングローブ」の大きな特徴のひとつです。
 「マングローブ」のうちヒルギ科・アエギアリティス属の種類は、花が咲いた後
 に果実はなるが、その中に種子はできません。

 さてどこに種子ができるんだろう???

 それは・・・
 受精してできた胚が、果実の外側に角を生やしたような格好を
した担根体を伸ばしていきます。この担根体が種子というわけです。
 種子とはいえ、これは根をつくるもとになる気管なんです。

  このように母樹についたまま新しい植物体ができることから、
これを胎生種子と言っています。
又は種子ではなく母樹についたまま芽を出すということから、
 胎生芽とも呼ばれています。

  成熟した胎生種子は母樹から離れ落下します。
  落ちた場所がちょうど良い状態の地であれば、そこに突き刺さり根を出し、
育っていきます。
  落下したとき満潮で水位が高かった場合は、プカプカ浮いて
ちょうど良い場所にたどり着くことができれば、
そこに根付くんです。  


オオバヒルギの胎生種子(2001/03/12)

マングローブの胎生種子が見えます。
「いんげん」みたいなものが胎生種子なんですよ!
これはランカウイで撮影した「オオバヒルギ」の胎生種子です。

この写真では大きさがわかりにくいですが、
長さは60〜80cmあるんですよ!

ランカウイ(2001/03/12)

(3)塩水に浸かっても枯れない。

  一般の植物に塩水をやり続けたら絶対に枯れますが、
「マングローブ」は枯れません。
これも「マングローブ」の大きな特徴です。

   マングローブも一般の植物と同様に「光合成」を行い、
水分調節も行っています。
  しかし一般の植物とは違い、マングローブの根には淡水ではなく
海水が常にあります。

   淡水の吸収は根の先端にある根毛細胞の浸透圧によって
行われますが、浸透圧の違う海水をどのようにして
吸収しているのでしょう???

   ヤエヤマヒルギ属の種類は根で塩分を少しだけ濾過(ろか)して
いることがわかっており、ヒルギダマシ属の種類は吸収した塩分を
葉から排出することがわかっています。
   しかし、科学的なしくみについては、十分にわかっていません。 


塩水で生きるマングローブ(2001/03/12)

どっぷりと塩水に浸かっても枯れません!

ランカウイ(2001/03/12)

(4)海と森の2つの生態系を持ち合わせる。

  「マングローブ」周辺には海の動植物・森の動植物が存在しており、海と森
 の2つの生態系を持ち合わせています。

  マングローブ林を構成する樹木類・ツル類・シダ類・着生ラン類などの植物、
 その林の中に生息するサル・鳥などの大型動物、昆虫などの小動物、また
 水中に生える海草や水中に生息する貝・カニなどの底生動物やいろいろな
 微生物などの生物と、それらを取り巻く水や土などの環境から生態系が成り
 立っています。


シオマネキと呼吸根(2001/03/12)

マングローブとともに生きる”シオマネキ”

ランカウイ(2001/03/12)


マングローブ林に棲む鳥(2001/03/12)

マングローブとともに生きる”鷹”

ランカウイ(2001/03/12)

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2.【マングローブの種類】

さて、世界には具体的に何種類の「マングローブ」が
あるのでしょうか???
Shigeyもいろいろ調べてみましたが、
よくわかりませんというのが結論です・・・(^^;

というのは人によって「マングローブ」の定義が違うのです。
Shigeyは専門家ではないので、ここでは60〜115種あると
しておきましょう。


・なぜ人によって定義が違うの???

 =>「マングローブ」の特色をもとに、この植物は「マングローブ」だと
決めているわけですが、それぞれの植物で特色が違うんです。
  「マングローブ」の特色全てが当てはまる植物であれば
問題ないでしょうけど、全てに当てはまらない植物が存在しており、
その点が学者の間でも意見が分かれるところなのかなと
Shigeyは思います。


(1)マングローブが分布する国

地域 国名
東アジア(2ヶ国) 日本、中華人民共和国(台湾・香港含む)
・東南アジア
・南西アジア(14ヶ国)
ベトナム社会主義共和国、カンボジア、タイ王国、
ミャンマー連邦、マレーシア、シンガポール共和国、
インドネシア共和国、フィリピン共和国、ブルネイ・
ダルサラーム共和国、バングラディッシュ人民共和国、
インド、パキスタン・イスラム共和国、スリランカ民主
社会主義共和国、モルジブ共和国
中近東(8ヶ国) イラン・イスラム共和国、イラク共和国、サウジアラビア
王国、バーレーン、カタール、アラブ首長国連邦、
オマーン、イエメン共和国
オセアニア(13ヶ国) パプアニューギニア、オーストラリア、ニュージーランド、
バヌアツ共和国、フィジー共和国、トンガ王国、西サモア、
ツバル、ソロモン諸島、ナウル共和国、キリバス共和国、
マーシャル諸島共和国、ミクロネシア連邦、
(非独立国:北マリアナ諸島連邦、クック諸島、パラオ)
ヨーロッパ(0ヶ国) なし
・北アメリカ
・中央アメリカ
・カリブ海(22ヶ国)
アメリカ合衆国、メキシコ合衆国、ベリーズ、グアテマラ
共和国、エルサルバドル共和国、ホンジュラス共和国、
ニカラグア共和国、コスタリカ共和国、パナマ共和国、
バハマ、キューバ共和国、ハイチ共和国、ドミニカ共和国、
ジャマイカ、セントクリストファー・ネイピス、アンチグア・
バーブーダー、ドミニカ、セントルシア、セントビンセント・
グレナディーン諸島、グレナダ、バルバドス、トリニダード・
トバゴ共和国、(非独立国:プエルトリコ)
南アメリカ(7ヶ国) コロンビア共和国、ベネズエラ共和国、ガイアナ協同
共和国、スリナム共和国、エクアドル共和国、ペルー
共和国、ブラジル連邦共和国
アフリカ(31〜34ヶ国) エジプト・アラブ共和国、スーダン共和国、エチオピア
共和国、ジブチ共和国、ソマリア民主共和国、ケニア
共和国、ザイール共和国、セネガル共和国、ガンビア
共和国、ギニア共和国、ギニアビサウ共和国、シェラレ
オネ共和国、リベリア共和国、コートジボアール共和国、
ガーナ共和国、トーゴ共和国、ベナン共和国、ナイジェ
リア連邦共和国、カメルーン共和国、赤道ギニア共和国、
サントメ・プリンシペ民主共和国、ガボン共和国、コンゴ
共和国、アンゴラ共和国、タンザニア連合共和国、モザン
ビーク共和国、南アフリカ共和国、マダガスカル民主
共和国、コモロ・イスラム連邦共和国、セイシェル共和国、
モーリシャス、(未確認国:モーリタニア・イスラム共和国、
カーボベルデ共和国、ナミビア共和国)
世界全域(合計):97〜100ヶ国

 (2)主なマングローブ

ヒルギ科 オヒルギ属 シロバナヒルギ、ニセオヒルギ、オヒルギ、
ハイネッシイオヒルギ、ヒメヒルギ、ロッカクヒルギ
コヒルギ属 デカンドラコヒルギ、コヒルギ
メヒルギ属 メヒルギ
ヤエヤマヒルギ属 フタバナヒルギ/フタゴヒルギ、ハリソンヒルギ、
ラマルクヒルギ、アメリカヒルギ、オオバヒルギ、
カズザキヒルギ、サモアヒルギ、セララヒルギ、
ヤエヤマヒルギ
センダン科 ホウガンヒルギ属 ホウガンヒルギ、ニリスホウガン、ルンフィホウガン
ハマザクロ科 ハマザクロ属 マヤプシキ、ムベンハマザクロ、ベニマヤプシキ、
グリフィスハマザクロ、グルンガイハマザクロ、
ホソバハマザクロ、マルバマヤプシキ
シクンシ科 ラグンクラリア属 ラグンクラリア
ヒルギモドキ属 アカバナヒルギモドキ、ヒルギモドキ
ヤブコウジ科 ツノヤブコウジ属 ツノヤブコウジ、フロリダムツノヤブコウジ
イソマツ科 アエギアリティス属 アエギアリティス・アンヌラタ、
アエギアリティス・ロツゥンディフォリア
クマツヅラ科 ヒルギダマシ科 ウラジロヒルギダマシ、ヤナギバヒルギダマシ、
ゲルミナヒルギダマシ、ヒルギダマシ、
マルバヒルギダマシ、バラノフォラヒルギダマシ、
ビカラーヒルギダマシ、シャウエリアヒルギダマシ、
アフリカヒルギダマシ
−ヒルギ科−

 ヒルギ科はマングローブの主要構成種です。
 世界に16属・約120種といわれています。

 そのうちマングローブは「ヤエヤマヒルギ属(リゾフェラ)」、
「オヒルギ属 (ブルギエラ)」、「コヒルギ属(ケリオプス)」、
「メヒルギ属(カンデリア)」の4属です。

 いずれも胎生種子をつくるのが特徴となっています。

−センダン科−

  熱帯に分布する植物で、世界に約50属あります。
  日本にもあるセンダンは樹皮が薬用になることなどで知られています。

  マングローブとしては
「ホウガンヒルギ属」と「アモーラ属」の2属があります。

−ヤブコウジ科−

  この科に含まれる種類は世界に35属・約1000種といわれています。
  そのうちマングローブは「ツノヤブコウジ属(エーギセラス)」1属に
含まれる2種のみです。

−イソマツ科−

イソマツ科は園芸植物”アルメニア”を含む科となります。
  ただマングローブの「アエギアリティス属」とは形態的にかなり違います。 

−クマツヅラ属−

この科に属すマングローブは、「ヒルギダマシ属(アビケニア)」のみです。
「ヒルギダマシ属」はクマツヅラ科にいれられていますが、「アビケニア科
 (ヒルギダマシ科)」を新たにたてている人もあります。


オヒルギ(2001/06/10)

「オヒルギ」

自宅にて栽培中。(2001/06/10)


メヒルギ(2001/06/16)

「メヒルギ」

自宅にて栽培中。(2001/06/16)


オオバヒルギ(2001/06/16)

「オオバヒルギ」

自宅にて栽培中。(2001/06/16)


ホウガンヒルギ(2001/06/02)

「ホウガンヒルギ」

自宅にて栽培中。(2001/06/02)

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3.【マングローブの語源】

マングローブの語源ですが、南米の原住民が使っていた言葉「マンガル」と英語
の「グローブ(Grove)」がミックスされた合成語だと言われています。
他にはマレー語の「タンガル」が訛ったものとか、東南アジアの一部で使われた
「マングル」が由来だとか、いろいろな説があるようです。

さて国内で実際にマングローブが生えている沖縄地方では
何と呼ばれていたのでしょう?
琉球時代の書物(琉球産物誌:1771年)では、
「ヒルギ(漂木)」という呼び方をされていたようです。

ちなみに国内で「マングローブ」という言葉を使うようになったのは、
明治末〜大正初期に当時の植物学者が「mangrove」を
カタカナにしたことからだと言われています。

中国では「紅樹林」と呼ばれています。


ランカウイのマングローブ(2001/03/12)

ランカウイ(2001/03/12)

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4.【マングローブの生い立ち】

かなり大昔から地球上に存在していたようですが、
はっきりとしたことはわかっていないようです。
これでこの話が終わりじゃ寂しいですよね・・・(^^;

ではもうちょっと調べてみましょう!!!

「マングローブ」も一般的な植物と同様に維管束植物です。


維管束植物(いかんそくしょくぶつ)

  茎の中に導管(どうかん)や篩管(しかん)と呼ばれる
水分や養分を送る管状の組織をもつ植物のこと。


維管束植物が地球上に出現したのは、
いまから3億5000年前とされているから、
それ以前に存在していないことは間違いないでしょう。

さて、出現した時期がはっきりとわからないわけですが、
この時期には存在していたということが
わかっています。
富山県の黒瀬谷層と石川県加賀市の河南層の
地層から「マングローブ」の花粉が見つかっており、
それらは推定1600万年前と言われています。
ということは、少なくとも1600万年前には
存在していたことになります。

このような地層の年代から推測するのとは別に、
地史的な経過から出現時期を推測した例もあります。
そのひとつとして、いまから約7000年前に
出現したという説があります。

「マングローブ」にはいろいろな種類があり、
それぞれ出現した時期や進化の道筋が違っています。
現在では染色体の構成や遺伝子またはDNA解析という方法で、
進化の道筋を調べることが可能となっており、近い将来
いろいろな謎が解けてくるのではないでしょうか。


ランカウイのマングローブ(2001/03/12)

ランカウイ(2001/03/12)

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5.【国内で見られるマングローブ】

国内では沖縄諸島・九州の一部の地域に自生林が見られるほか、
人為的に移植された「マングローブ」が見られる所もあります。

(1)国内で見られる自生林

沖縄諸島、九州の種子島・屋久島に自然分布しています。
さらに江戸時代、薩摩藩によって移植されたといわれる
メヒルギ林が鹿児島県喜入町(鹿児島市と指宿市の中間にある町)に
あります。喜入町のメヒルギは人為的に植樹されたとはいえ、100年
以上も生育繁殖していることから、この喜入町がメヒルギの
分布北限(北緯31度20分)と認められているようです。

国内で見ることができるマングローブは、
「メヒルギ」・「オヒルギ」・「ヤエヤマヒルギ」・
「マヤプシキ」・「ヒルギダマシ」・「ヒルギモドキ」・「ニッパヤシ」
以上の7種です。

メヒルギの北限は鹿児島県喜入町と説明しましたが、
他の種類はどこで見られるのでしょう?
 
オヒルギ=>奄美大島が北限。
ヤエヤマヒルギ=>沖縄本島が北限。
マヤプシキ=>石垣島が北限。
ニッパヤシ=>西表島にわずかに見られる。


このほかにマングローブとしての特色は劣りますが、
「オオハマボウ」、「シマシラキ」、「サキシマハマボウ」、
「サガリバナ」、「サキシマスオウノキ」、「ミズカンピ」、「イソフジ」、
「ミミモチシダ」、「シイノキカズラ」、「ナンテンカズラ」などが
分布しています。
これらの種はマングローブとしてカウントするか
微妙な特色を持つものです。

(2)人為的な移植例

以下の場所以外に人為的な移植例がありましたら、
こちらまで教えてください。

@伊豆半島(静岡県)

人為的な移植例として成功している最北限は
伊豆半島の突端"弓が浜"の青野川の河口です。
ここは、北緯34度37分ですが胎生種子はメヒルギです。
これは1958年に当時の静岡県有用植物園園長の竹下康夫氏が
奄美大島から移植したものが生長したと言われてます。
(種子島から移植したものは失敗に終わっている。)
ただ、環境が大分変化している為に自然のものとは、
ほど遠いらしいです。

加藤様からの情報です。(2001/05/13)


こちらは喜入町より3度北にあるので、
こちらの方が北限ではありますが、あまりにも
明確な人工移植であるため、分布北限のメヒルギ林とは
みなされないとのことです。

一時期は胎生種子による繁殖も見られましたが、
河川改修により大部分が近くの別の場所 に移され、
衰えたり枯れたりするものが目立っているとの話もありますが、
実際に見に行っていないので、よくわかりません・・・
機会があれば見に行ってみようと思います。

 #2001年6月6日の静岡新聞に青野川のメヒルギ林について紹介されていました。


A浜名湖

浜名湖の浄化を目的に静岡県からの依頼により、
平成11年7月にオイスカ高等学校とオイスカ開発教育専門学校が
「マングローブ」の植林を行っています。
地元の新聞やテレビでも取り上げられていました。
ただ、越冬できずに枯れてしまったものが大半だと
聞きましたが、今はどうなっているのでしょう???

*Shigeyの観察記はこちら!

「オイスカ高等学校のホームページ」にマングローブ植林のことが掲載されています。

−マングローブの植林について−


”昨今、森林破壊が地球環境問題
の中でも重要な問題となっており、その打開策として熱帯・亜熱帯地域
で「マングローブの植林」が行われている・・・”、”マングローブは地球、
人間、そして小動物にとっても非常に大切な植物・・・”と書きましたが、
だからとやたらに植林してもいいわけではないようです。

とかく「”植えること”=”良いこと”」と思いがちですが、場所も考えずに
胎生種子を植えて、問題を引き起こしている例も
あることを知っておいた方が良さそうです。


−問題を引き起こした例−

 沖縄本島のある河川の下流に誰かがマングローブの
胎生種子を植えて、 それが生長し始めました。
 しかし、もともと土砂が堆積しやすい場所だったため、
マングローブが大きくなるにつれ河床が上がり、
洪水の原因になったということです。

そこで伐採することになったわけですが、
伐採に反対する意見が出ました。
反対する側の意見も十分にわかりますが、
この場合は植えた側に問題が
あるわけなので、伐採はやむを
得ないことと思います。

胎生種子を植えていくことは簡単なことですが、
生長して大きくなった木の移植には
手間もコストも掛かります。
勝手な植林は地元の人々に迷惑を
かけることになります。


いくらマングローブの分布地だといっても、
それがもともと生えていない区域があるということは、
その場所なりの環境によるものなのです。
したがって、そのような場所に植えれば、そこの自然を
攪乱(かくらん)・破壊することになりかねません。
ましてや本来、マングローブが自生していない
地域への植林は、自然条件や生態系の破壊に
配慮することが必要だということです。

マングローブの植林に関しては、植えた後の維持管理が
必要であり、その場所の環境も変わることになるため、
慎重に考えた方が良さそうですね。

ちなみに浜名湖での植林に関しては、目的も明確であり、
管理体制もしっかりと考えられていると思います。

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6.【マングローブの役割・用途】

私たちも身近な植物をいろいろな用途に使っているのと同様に、
「マングローブ」群生地近隣に住んでいる人達にとっては、
「マングローブ」はとても大事な資源となっています。」
用途は建造材・燃料・染料・薬用・食用・生活道具など
多岐にわたっています。

そして、生態系の保全・地形、環境の保全などの役割としても
重要な植物なんです。

(1)マングローブの役割
@直接利用 木材 建材・足場材・家具材・造船材・枕木
パルプ 紙・チップボード・レーヨン
燃料 炭・薪・魚の薫製用薪・燃料用アルコール
飼料 ラクダ・ヤギ・牛・水牛など
食料 主食でんぷん・野菜・カレー・果物・菓子
飲料 ジュース・お茶・酒
調味料 酢・砂糖
下痢止め・止血・目薬・湿布・発疹薬・
魚採り用の毒
タンニン 防腐剤・染料・皮なめし・接着剤
その他 魚の罠・雨具・タバコの紙など
A生態系の保全 海洋 魚貝類の保全・珊瑚礁、海草などの
浅海域生態系の保全
陸上 ほ乳類・鳥類・昆虫などの野生生物の保全・
シダ類、着生ランなどの着生植物の保全
B地形・環境の保全 防災 波・潮風・砂・暴風からに保護
浸食防止 海岸、河岸の保全・水路の保全
地球環境 気候緩和・二酸化炭素の吸収と酸素の増加
Cその他 風致保全 観光・保養・教育
未来的利用 遺伝子プールの利用など

(2)主なマングローブの用途
種名 建造用 燃料用 食用 薬用 その他
ヒルギダマシ属 船材、
箱材など
魚のくん煙用
     など
−−− 腫れもの、
皮膚病 他
皮を洗剤
オヒルギ属 構造材、
柱など
炭、燃料材 若い胎生種子
は食用
湿布剤、
ただれ目 他
−−−
ヤエヤマヒルギ属 構造材、
柱など
炭、燃料材 −−− −−− タンニン
ホウガンヒルギ属 くさび材 燃料材 −−− コレラ、赤痢 種子より灯油

(3)民間薬としての利用
樹種 利用部分 効能
ヒルギダマシ 種子(樹脂、軟膏) 潰瘍、腫瘍
樹皮 皮膚病、寄生虫感染、壊疽
オヒルギ 樹皮(潰す) 湿布剤
果実 目薬
コヒルギ 樹皮(煎じる) 止血
シマシラキ 樹液、木部 発疹、下剤
ヒルギモドキ 葉(煎じる) 鷲口蒼(乳幼児)
オオバヒルギ 樹皮(煎じる) 止血、下痢止、赤痢、ハンセン病
マヤプシキ 果実(果液) 痔止血
果実(果液/発酵) 止血、湿布剤
ホウガンヒルギ 樹皮(煎じる) コレラ、赤痢
サキシマスオウノキ 種子(潰す) 下痢止
ミズヒイラギ 葉(調合) リューマチ

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7.【マングローブからの恵み】

マングローブは他の植物より二酸化炭素の吸収量が多く、
人間に必要な酸素をたくさん作ってくれます。
栄養豊かな海を作り、フロンガスやダイオキシンで
汚染されている地球を守るのは
マングローブの自生林です。
マングローブは地球、人間、そして小動物に
とっても非常に大切な植物なんです。


グアム

グアム(1995/07/31)


ランカウイのマングローブ(2001/03/12)

ランカウイ(2001/03/12)

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8.【マングローブの減少について】

「マングローブからの恵み」で述べましたが、
地球・人間・動植物にやさしい「マングローブ」ですが、
ここ数十年でかなり減少しています。

東南アジアにおけるマングローブ減少の原因は、
「エビ養殖池の乱開発」、「薪炭材としての乱伐」、
「スズの採掘」、「公共事業(道路・港湾などの開発)」、
「観光開発」・・・etc.が挙げられます。

(1)「エビ養殖池の乱開発」について

マングローブが減少した原因の中でもこの20〜30年の間に
激減した最大の理由は、近年、急速に拡大した「エビ養殖池の乱開発」が
主な原因と言われています。

#飛行機からタイの海沿岸を見たことありますが、
そういえば、エビの養殖池ばかりでした・・・

元々はエビも豊富に獲れたわけですが、乱獲により
減少してしまいました。
そこで養殖池が増えたわけです。
エビの養殖池は、マングローブを根こそぎ伐採して
作られるんです。

マングローブを伐採して作られた養殖池は、
エビの餌となる有機物が豊富で何も与えなくとも
エビは育ちますが、それも数年で餌となる有機物が
なくなってしまい、人工飼料を与えることになります。
コストが掛かるのは当然ですが、これらの人工飼料は池の底に
堆積し、簡単には除去できなくなります。
それが原因で病気が発生し、養殖池のエビは全滅・・・
この養殖池は見捨てられ、またマングローブを伐採して
新たに池が作られる。
という悪循環の繰り返しとなります。

これを「略奪式エビ養殖システム」と呼んでいます。


エビ養殖とマングローブ破壊の関係


さらに養殖では病気を防ぐための薬品が使われます。
これらの薬品が混ざった池の水や泥を放流すると、
その近辺の生態系に大きな影響を及ぼすことになります。

ランカウイで「マングローブ自生林生態系遊学ツアー」に
参加した際、話があったのですが、「この川の河口にエビの
養殖池を作れば何もしなくてもエビが育つ。
楽に金儲けが出来るんですよ。
でも養殖池を作ったら大事なマングローブがなくなることになる。
この地域(タンジュンルー)は
一切禁止されているんです。」と・・・

いまや日本は世界でも有数の”エビ消費国”です。
しかし、このことが世界のマングローブ・・・
特に東南アジアのマングローブの荒廃と深く結びついて
いることを知っている人は少ない・・・

この説明では日本人がエビを食べたことによって、
マングローブが荒廃したと思われがちですが、
エビ生産国における外貨獲得のための乱獲など、複雑な
事実があることを付け加えておきます。


(2)「薪炭材としての乱伐」について

6.【マングローブの役割・用途】で説明しましたが、
「マングローブ」群生地近隣に住んでいる人達は、
マングローブを住居の材料や生活に必要な道具に
使ったり、食用や薬用にも使っています。

そのような利用法の中で古くから行われているのが、
炊事のための薪や炭としての利用です。
自給自足の生活様式での利用は主に自家用で、
あまった炭は市場へ出すという程度なので、
マングローブ林に大きな影響を与えるものではありません。

では、なぜ薪炭材として乱伐されるようになったのでしょうか?

社会情勢の変化により人口が都市に集中すると、
質の良いマングローブの薪や炭が商品として
売り出されるようになったのです。
東南アジアのマングローブは、1960年代〜1980年代に
商用の薪炭生産のため、大量に伐採されたとのことです。


  −マングローブの炭について−

   マングローブの炭は強い火力と持続力があり、煙も立てずに燃焼します。
    日本の備長炭に勝るとも劣らないとも言われており、とても質が良いのです。

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(9)【最後にひとこと・・・】

いろいろな産業が発展することにより、人々は豊かな生活を
送ることができるようになりましたが、
その代償は大きくなっています。
自然が破壊されたことにより生態系が狂い、
新種のウイルスが蔓延したり・・・
地球の温暖化現象もいい例でしょう。

ここではマングローブを取り上げましたが、他にも同じ様に
減少や絶滅の危機に直面している動植物は
いっぱいあります。

マングローブについては植林など各地で行われていますが、
そう簡単に元通り戻るわけではありません。
伐採はあっと言う間にできますが、育つまでには
何十年と掛かります。

できる限り自然は手付けずに残したいものです。
でもそれぞれの事情によって、それが難しいことで
あるのも事実だと思います。

産業の発展による産物に慣れてしまっている自分が、
自然を大事にしようと言っても説得力がないと思いますが・・・

「自然の大切さを忘れてしまわれた方は、ぜひ自然にふれてみてください!」

自然にふれてみたら、きっと何かが変わると思います・・・

ランカウイのマングローブ(2001/03/12)

ランカウイ(2001/03/12)

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改版履歴

版数 日付 内容
初版 2001/6/30 新規作成
2版 2002/2/3 ・1.【マングローブの特色】(1)マングローブの根(各写真)
・2.【マングローブの種類】(1)マングローブが分布する国
・5.【国内で見られるマングローブ】
 −マングローブの植林について−
・6.【マングローブの役割・用途】(1)マングローブの役割 、
 (3)民間薬としての利用
・8.【マングローブの減少について】(1)「エビ養殖池の乱開発」
 について(エビ養殖とマングローブ破壊の図)

以上を追加。

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