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サイエンス 1974年11月号

いましたが、ここで、私は渡辺格先生の話を思い出すのです。先生は講演の時、私たちに次のような話をして下さいました。
 「人口問題は、現在人口爆発という形でマスコミなどで騒がれているが、この問題は自然淘汰という形で解決に向かうと思います。しかしここで問題となるのは、人口制御の必要が迫られた時、身体障害者と普通の人間のいずれか一方しか生かすことができない状態では、人間はどちらを生かすだろうか。これはもう価値判断の問題であり、われわれが造ろうとする社会によって違ってくるでしょう。」
 このように言われたと思います。したがって、胎児遺伝病診断も、先生の話と同じように思うのです。ただ結果だけを見ると、生きている人間のエゴイズムのようにも思います。第一線の科学者が研究しているので、一般人は皆、正しいことだと思っているのです。しかし「ライフ・サイエンス」を唱えるサイエンティストたちが、自らの行なっている研究成果がもたらす社会的影響に目を向けなければ、母性喪失、人間不信の風潮に拍車をかけることになると思います。これからの「ライフ・サイエンス」はミクロ的視野しかもたない人間より、マクロ的視野をももつ人間によって、コントロールされると思うのです(しかし、こんな人間が現在いるのだろうか)。
 また、人口制御も現在のように、医学技術にたよるよりも、人間の理性によってコントロールされなければ、急場の一時しのぎにしかならず、解決はされないと思います。すくなくとも、医学技術にたよれれば、今後恐ろしい風潮をも生みかねないと思うのです。

 しかしながら、現在は、ME(メディカル・エレクトロニクス)の進歩や、バイオニクスの普及がなされ、この分野に携わる人が多くなったようです。私は、これこそ「ライフ・サイエンス」の真髄のように思うのです。ペースメーカーの普及、人工腎臓の小型化、岡山大式人工関節、早大式人工義手…等々。漫画に出てくるサイボーグのように、この分野の一つの成功によって、数千、数万の人々が生き延び、また、身体障害を克服していく過程を見て、心強く感じます。今まで、工業生産増大を最大目的とした「サイエンス」が人間本位の「ライフ・サイエンス」と変わりゆく現代を見て、まだサイエンスに未熟な私でも「ライフ・サイエンス」を理解し、研究していきたいという希望を持ちます。また、人間本位の「ライフ・サイエンス」ならば、他の動・植物の「ライフ・サイエンス」にもつながると思うのです。「ライフ・サイエンス」の偉大さをつくづく感じる今日この頃です。

(静岡県富士市 水野秀一)

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