第 一 章 マンションとは |
6. マンションの将来像
● 仮住まい派、永住派 今までのマンションライフは戸建てまでの仮住まい「住み替え派」が多かったが、最近の調査ではマンションを永住の場所とする「永住派」の割合が増えている。マンション生活様式は段階的に結婚、子供の誕生から独立まで必要床面積にかなり差があり、生涯を同じマンションで過すには無理がある。又、 買い替えには売買代金以外に多額の費用がかさむ。同一区域外の転居は、今までの交友関係が絶たれ新たな交友関係が必要になる。生活面では異なる世代の人々の間には生活様式の考え方が異なる。こうした制度や問題を改めなければ買い替えや戸建て感覚のマンションライフは困難である。 ● 居住型、賃貸型 新聞の調査によればマンション購入動機は「(賃貸住宅で)家賃(を支払う)より(分譲住宅を購入して)ローン返済の支出にした方がよい」と答えた人が「資産の保有目的」よりもうわまわり、別の調査でもマンションを投資の対象から純粋な住居として永住割合が増加している。右肩あがりの経済成長時代には分譲マンションは投資の対象になっていたが、調査ではマンションの資産価値を考慮しない事が伺える。 今までの賃貸型共同住宅は必ずしも良いイメージとはいえなかったが、最近では高級志向、広面積の賃貸マンションがかなり普及している。又、独居高齢者向きにはグループホーム形式の賃貸マンションも増加してきている。しかし我国では住み替え、買い替えが必ずしもスムーズにいっていない。理由は税制を含めた諸費用が高額であることで、消費者にとってはかなり負担になっている筈である。その為に今後の検討課題として法律の整備が急がれる。 ● 分譲マンションの生涯費用 土地の持分約20u分譲床面積約70u販売価格4,000万円の新築マンションを住宅ローン利用の場合の購入概算費用例を25年賦(300ヶ月)で換算した場合、1ヶ月当たり約15万円〜20万円の家賃を支払うことに相当する。売却費が販売価格を超えない限り投資対象や資産価値の向上は望めないので新聞のアンケート結果は消費者の認識が時代に即応した証と云える。逆にその範囲内の家賃で面積・機能が分譲マンションを上回れば賃貸マンションの需要が多くなる可能性がある。但しこれはあくまで計算上の問題であり、税の優遇措置とか、建物の愛着心を考慮すれば賃貸マンションの条件はもっと厳しい。4,000万円のマンションを購入する事は毎月15〜20万円程度の家賃を支払って生活出来る最善の住環境なのかも知れない。 ● 終の棲家(高齢者向け住宅) 平成12年W・H・Oが平均寿命から病気や事故などで健康を損ねた年月を差し引いた健康平均寿命を発表した。日本人の部、試算では1999年生まれの健康平均寿命は74.5才(女性77.2 男性71.9才)で世界一である。これを厚生労働省(厚生省)による日本人の平均寿命80.6才(女性84.0才 男性77.1才)と比較すると約6年間が何らかの障害を持った年代(バリヤエイジ)になる。 バリヤエイジに近づくと在宅介護を希望する人と、同世代の人々との共同生活を希望する人たちと二分される傾向がある。介護付老人用住宅(シニヤハウス)はここ数年我国でもかなり普及してきた。従来の有料特別養護老人ホームの他にケアハウス、コレクティブハウス、グループホーム等の独居高齢者向け住宅があり名称によって各々特長がある。 施設は賃貸型が多く、分譲型は終身利用権を取得する会員権タイプが多い。施設の共通点は住人に対し必要な介護人の配備と、医療協定を結ぶ病院又は医師が必要な事である。独居高齢者には施設の問題より、良好な人間関係を望む声も多い。その中でボランテイア活動の中核をなすコーディネーターの役割が期待される事と同時に責任も重大になってくる。反面、コミュニティ活動及び共同生活に馴染めない人にどう対処するかがこれからの課題になる。 尚、近年、高齢者の都心回帰希望の傾向が強まってきている。高齢者、或いは将来高齢者になる人たちの要望は、病院迄の交通手段が便利であること、日常生活の買い物の利便性等を希望している場合が多い。又施設面ではバリアフリーに対する配慮の有無も当然要求対象になる。「バリアフリー即ち段差のない床」だけではなく、手摺、エレベーター等共用部分の施設面に関してのバリアフリー対策はこれからの研究課題になる。 |
施 設 名 | 施 設 の 特 徴 |
有料老人ホーム | 民間経営、行政から補助が少ない。官公庁へ届出をしている施設。 |
同上類似施設 | 有料老人ホームとして届出をしていない施設。 |
特別養護老人ホーム | 社会福祉法人等によって運営される公的施設 |
ケアハウス | 軽費老人ホームの一種。介護が含まれない場合が殆ど。 |
コレクテイブハウス | 「共同居住型集合住宅」 プライバシー保護の独立住戸と他の入居者との団欒・炊事等の共同スペースが併設される施設。 |
グループホーム | 当初は障害者共同生活ホームの意味。現在は、10人位が介護の助けを借りながら生活する施設。公営と民間施設がある。 |
●医・食・住 の分離(高齢者向け住宅) 公営高齢者向け集合住宅には行政の影響が強く、その中でいくつか事故が発生している。食中毒、風呂場雑菌問題が良い例である。タテ割行政の中では部内で総てをまかなおうとして外部と接触を拒む性格が見受けられる。問題を未然に防止するには情報公開と危機管理体制の確立が必要であり、施設の頂点に立つ責任者は総ての知識を満遍なく把握する事と、タテ割を超えた人材の登用と権限委譲が望まれる。高齢者向け施設には行政の枠をこえた住み良い環境づくりが要求され、医・食・住の管理を完全分離し、経済性を主体にした施設運営ではなく、高齢者がアクテイブエイジの期間を少しでも長く保持していく運営方法が求められる。 ●自治体の対応 区分所有法は昭和37年制定され今日に至っている。その間いろいろと法整備が行われ国政レベルではかなり整備されてきているが、地方自治体の中には未だに旧態依然として「マンションは個人財産の集合体であり行政が介入すべき必然性あるか・・?」との概念を持つ自治体が多い。各自治体にどれだけのマンションが存在するかも調査してない例等、実態把握、調査が充分に行われていないお粗末な状態である。 補助金行政例ではマンション共用部分のバリアフリー化に対する補助金等は当然対象外になる。そもそも戸建て住宅には共用部分など無いので介護保険の補助金対策などたてようがない。マンション問題に目を向けて初めて生ずる問題なのである。こうした点を地方自治体は真剣に検討しなければならないだろう ●将来の予測 建物と建築設備の減価償却の年数に差があるように、又長期修繕計画の目安にも書いてあるように、約60年の期間中に2〜3回、建築設備機器類の取替えを必要とする。設備機器取替えに対処するには共用部分のみならず専有部分においても設備機器類や配線配管等の交換が容易なことが求められる。共用部分玄関ホールには郵便受けと宅配ボックスや応接セットだけではなく新しい分野に対応出来るスペース及管理体制が必要になる。又、高齢化に伴ってバリアフリー化も求められる。このような時代の変化に対応出来る事が資産価値のあるマンションと考える時代が来るかもしれない。 不動産的見地からは、買い増ししない限りマンション土地面積は不変でありマンション建て替えに有利な法律の改正でもなければ、法定敷地の建蔽率(けんぺいりつ)・容積率・斜線制限などに余裕がない場合には、現在と同条件での建て替えは困難になる。 運営面ではマンションの築年数が増すと「居住派」と「賃貸派」の対立が深刻化し、改修工事すら困難になる可能性が生じる。賃貸化が加速すれば賃借人の意見も取り入れなければ健全な運営は難しく、放置すればスラム化が加速される。賃貸化の究極が「マンションの証券化」に発展する可能性もある。管理組合内で特定の者が25%以上の議決権を保持するようになると、運営は区分所有者(法人を含む)の意向を無視できず、50%を超えると完全に支配されてしまう可能性が強い。マンション購入にあたってはこうした事も配慮しなくてはいけないだろう。 技術の進歩や消費者のニーズによってマンション生活は便利になる半面、少子化による人口減少でマンション業界の競争は今後激しさを増す事は充分予測できる。不動産としてのマンションだけでなく、売主の販売姿勢、建設会社の信頼性についても消費者の注意が必要になってくる。 ※ 建蔽率・建築面積(A)の土地面積(S)に対する割合(A/S×100%)
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