第 二 章 マンションの基礎知識
B 建 物
2. 建築と設計図
   建物を建てる場合にはまず、建物の設計をしなければならない。設計図に基づいて工事が行われ、広告パンフレットを作るように設計図は建築物の基本になる。新築分譲マンションは設計図書縦覧(又は閲覧)場所が指定され誰でも見る事ができる。設計図書とは設計図、仕様書、見積要項書、質疑応答書、工事請負契約書等の総称である。設計図には設計概要、仕様書、意匠図(仕上図)、構造図、建築設備図、外構図、等があり建築基準法では建築確認申請時(建築許可ではない)に提出する図面、書類を定めている。

● 設計図の概要
   住宅を購入する人の中には、建築設計図を見ても「内容がよくわからない」と答える人が多く、入居後売主とトラブルになる例がある。しかし今後は戸建、マンションを問わず高価な買い物をする場合にこうした言い訳は通用し難いだろう。マンション購入の基本になる設計図にはどんな内容が記入してあるか事前に内容を理解しておく必要がある。設計図は大きく次の5項目に分けられる。
    • 設計概要書
    • 意匠図 (仕上図)
    • 構造図
    • 建築設備図(昇降機設備、電気設備、給排水衛生設備、空調換気設備等)
    • 外構図
○ 設計概要書
   土地、建築物の概略を明示してあり設計図の最も基本的な部分になる。内容は工事名称、建設地、建物用途、工事種別、工事期間、等の一般的事項、地域地区、用途地域、敷地に関する規制、建物の面積、構造、高さ等を記入する法律上の制限項目とがある。 設計概要書は、最も重要度が高いが、一般の人たちには理解し難い面が多いので詳しく調査をしたい場合には内容を専門家に検討してもらうと良いだろう。
○ 意匠図 (仕上図)
   建物の姿、形を表現し、仕上の方法を明示した図面を意匠図という。意匠図では建物周囲との取り合いを表す案内図、配地図の他に平面図、立面図、断面図等がある。部分的に拡大された図面を平面詳細図、矩計図(かなばかりず)と呼ぶ。平面詳細図は建物横断面を、矩計図は従断面をレントゲンのように見透かした図面で建物の仕組みが一目瞭然で判るので必ず見たほうが良い。
   矩計図からは建物高さの検討ができる。階高(階と階の高さ)及び天井高の寸法、躯体床、壁から仕上床、天井、壁まで空間の有無が判る。空間の有無は騒音、振動が伝導し易いかの目安になる。(後述「矩形図」参照)
○ 構造図
   建物の骨格部分だけを取り上げ構造体として必要な寸法、強度を指示する図面を構造図という。図面は柱等各部位の位置を示す伏図(ふせず)と部位の詳細を表示するリスト図がある。
○ 建築設備図
   建築設備は付帯設備ともいわれている。電気設備図には建物電気設備、情報関連設備、火災報知等防災設備が含まれる。運搬機械設備類には昇降機設備図、駐車場設備図が含まれる。
   給排水衛生設備、ガス設備図には給水給湯方式、及び系統図、衛生器具の種類について表示してある。尚地域、建物規模によって消化設備、浄化槽設備が必要な建物には各々の図面が添付される。冷暖房、空調、換気設備図には種類、機能配管経路が表示されている。
○ 外構図
   外構図は敷地内の建物以外の部分を具体化して表示している。主な例は建物から道路までのアプローチ、一階の窓先空地(専用庭)、駐車場、自転車置き場、共用庭等が該当する。

● 設計図記号、略号表
   建築図に使用される設計図記号・略号は日本工業規格(JIS)によって決められているが、必ずしも規格通り設計図に書かれない例が多い。原因は材料の基準を決めているJIS規格が現実的でないか又は、管轄するタテ割行政の弊害等が考えられる。

図 2 - 2 設計図図示記号例

表示事項

表示記号 備考 表示事項 表示記号 備考
 
分電盤
 
  給水管 数字は口径、記号は種類を表示
 
蛍光灯
 
  配水管  
 
避難誘導灯
 
  ガス管  
 
ブラケット灯
 
壁付照明器具 弁管  
 
ダウンライト灯
 
天井内臓照明 逆止弁類  
 
引掛ローゼット
 
照明器具取付用シーリング 継手類  
 
スイッチ
 
  換気ダクト  
 
三路スイッチ
 
二ヶ所対応でスイッチ 給排気口  
 
蛍スイッチ
 
スイッチに明かりが付いている 吸い込み口  
 
リモコンスイッチ
 
  吹き出し口  
 
コンセント
 
数字は差込の数 給油管  
 
防水コンセント
 
防水型スイッチ 換気扇  
接地極端子
付コンセント
  電話受け口  
 
 
 
方位
 
上方北・が一般的 建具符号 上段、整理番号下段、建具略号
 
境界石一般
 
隣地・道路の境界表示 出入口一般 扉がない出入り口
 
ベンチマーク
 
敷地の基準高さ 両開扉 入口両側に扉有り。円方向に開
 
ルーフドレイン
 
バルコニ・屋上等の排水場所 片開扉 入口が片側に扉有り。円方向に開
建築主要出
入口
玄関等主要出入口表示  
引違戸
 
 
一般階段 一般的な階段矢印が上り 両引戸  
 
 
 
 
エレベータ
 
  シャッター  
 
拭き抜け
 
床・壁が空間状態拭抜表示する 両開窓  
 
敷地境界線
 
境界線を結ぶ線 片開窓  
 
勾配・スロープ
 
囲われた部分が水平でない事を表示 引違窓  
 
郵便受け
 
郵便受けの位置 一般窓 すべり出し窓、回転窓等
 
換気扇枠
 
換気扇の位置      
 
地盤
 
詳細図・土断面の表示 木造(構造材) 詳細図・木材の仕上表示
 
砕石地業
 
詳細図・地業(基礎下に敷く)断面の表示 木材(仕上材) 詳細図・木材の仕上表示
 
コンクリート
 
詳細図・コンクリート表示 石・テラゾ仕上 詳細図・石類仕上表示
 
軽量コンクリート
 
詳細図・軽量コンクリート表示  
軽量ブロック
 
詳細図・軽量ブロック表示

図 2 - 3 建築設計図記号・略号例
略号表示事項概要略号表示事項概要
A・一般事項
G.L 基準地盤面 敷地の基準地盤高 W  
B.M ベンチマーク 建築時のポイント高 D 奥行き  
FL 基準階 1階は1FL H 高さ  
BF 地下   L 長さ  
PH 塔屋 屋上の突出部分 厚み ア(4mm)と同
B・部屋名
EV エレベータ   LDK リビングダイニングキッチン
PS パイプスペース   UB ユニットバスルーム  
MB メーターボックス        
C・構造・部材
RC 鉄筋コンクリート造   LGS 軽量鉄骨下地  
SRC 鉄骨鉄筋コンクリート造  F 基礎  
S 鉄骨造   C  
CB コンクリートブロック   G・B 梁・小梁  
ALC 軽量気泡コンクリート   S  
     W  
D・塗装材料
OP 合成樹脂調合ペイントSOP EP 合成樹脂エマルジョンペイント AEP等
VP 塩化ビニール樹脂エナメルVE FP フタル酸樹脂エナメル  
OS 油性ステン OSV CL クリヤラッカー  
E・内装材料
PB・GB石膏ボード   GF グラスウール保温板  
PF板 ポリスチレンフォーム保温板  CF クッションフロア  
F・建具・金物
SD 鋼製戸 LDは軽量戸 SS シャター  
SSD ステンレス製戸 STDも同じ WD 木製戸  
AD アルミ戸   H Fも同じ
AW アルミ窓   P 障子 Sも同じ
AG アルミガラリ   DC ドアチェック  

図 2 - 4 建築設備図記号・略号
略号表示事項概要略号表示事項概要
A・電気設備図
MCCB 配線用遮断器  KVA キロボルトアンペア  
MDF 端子盤(本配線盤)  2P 2ペア(対の意味) 対数
CV 架橋ポリエチレン絶縁ビニールシースケブル 通信 FEP 波付硬質合成樹脂管  
CVV 制御用ビニル絶縁ビニールシースケーブル 通信 3C 3芯ケーブル 芯数
B・給排水衛生設備図
SUS管 ステンレス管   給水管CIP管 排水用鋳鉄管  
VLP管 硬質塩化ビニール管   同  HP管 遠心力RC管  
VD管 水道用内外塩化ビニール ライニング管DVLP管 排水用VLP管  
HIVP管耐衝撃性塩化ビニール管 FDO管 耐火二層管  
   VP管 塩化ビニール管  
C・ガス設備図
SGP管 配管用炭素鋼管 白ガス管 PLP管 PE被覆鋼管  
PE管 ポリエチレン管        

● 矩計図(かなばかりず)
   建物の縦断面をレントゲン写真のように透視した図面を矩計図と呼ぶ。この図面によって建物の特徴が明確になる。図では最下階(1階)は二重ピット二重床になっており、冬でも冷たい地熱が直接伝わり難いようになっている。最上階(2階)は二重天井で屋上の熱を直接伝えないようにして断熱性を確保している。反面階と階の間は直床、直天井になって振動や音が直接伝わるようになっている。矩計図からはこのように見えない部分が分かるようになっているので必ず閲覧して内容を把握する必要がある。

図 2 - 5 矩計図

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