第 二 章 マンションの基礎知識
B 建 物
3. 設計及び施工上の注意点
   設計図書の内容から様々な事柄が検討できるが、一般の人が設計図書縦覧(閲覧)場所で短時間に総ての内容を検討する事は難しい。そこである程度問題点を絞り、重点的に検討する事が効率的である。ライフラインとりわけ受電容量とか給水方法は日常生活に密接な影響を与えるので確認が必要になる。こうした検討の積み重ねが良い住宅選びにつながる。

3.1 デザイン、機能上の注意点
   戸建てと違いマンションの場合外観に配慮する傾向は少ないかもしれないが建物の外形が不安定ではないか、外部仕上げに剥離、落下する可能性のある材料を使用していないか、接面道路からの距離、日常生活を含む動線、機能等最低限の注意が必要になる。
   室内の間取りは、「良好な住環境の確保」のために何が必要かをあらかじめ決めておかなければならない。間取りの満足度だけを追求するのではなく、将来どの程度間取り変更が可能かまでを考慮したほうが良いだろう。間取りには売主がプランを決め販売する方法と、フリープラン・コーポラティブ方式等区分」所有者がある程度の範囲で自由に設計できるタイプがある。中古マンション購入の場合、間取り変更可能性の有無については特に注意を要する。又戸建て住宅に比べマンションは窓数が少ないので景観を重視するときのガラス類のチェックも必要になる。

3.2 設計図の注意点

● 設計概要書
○ 制限と許容量
   建ぺい率、容積率、斜線制限等建築基準法等の制限による数値の許容量の検討では、制限内ぎりぎりの建築物ではなく制限数値に余裕がある建物が望ましい。理由は制限数値に余裕が無いと将来立て替え時期二希望に沿った建築が不可能になる確率が高いからである。特に住宅地では法律規制は緩和されるより、規制が厳しく改正される傾向が強い。
○ 階高
   新聞によると「階高が2.8m以上あれば(階高の)高い建物といえる」という記事が書いてあったが、「マンションは空間が売り物」と考え方にたてば少なくとも3.0m以上の階高が要求される。階高の低いマンションは必然的に直床、直天井になり易く余裕がある天井高の確保が難しく隣戸の音、振動が伝わりやすくトラブルの原因になる。
※階 高  下階の床からその上の階の床までの高さをいう。
※天井高  部屋の床から天井までの高さをいう。




● 構造図
○ 床、壁の厚み
   躯体工事(鉄筋コンクリート工事)では床、壁の厚みの検討が重要になる。最近では厚み20cm以上の床、壁が多く見られるが、古いマンションには躯体の厚みが充分確保されない物件もある。又床を囲っている梁は適度な間隔が求められ建物の面積に適合した梁・柱・基礎の設計が必要になる。
○ コンクリートの表面
   購入するマンションの工事現場を見学できる機会があればコンクリート表面のつや、空気跡、豆板状(おこし菓子状態)が無いか注意してみよう。コンクリート表面の異常な症状は施工上好ましくないばかりでなく(特に外部に面する壁面に豆板現象があると)雨漏りの原因にもなる。

● 意匠図(仕上図)  
○ 間取り
   日本のマンションはパリ、ロンドンと比較すると面積割合ではあまり差が無い反面部屋数が多いといわれる。分譲マンションの間取りが事前に変更できるか問い合わせてみるのも検討要素にある。家具についても作り付け家具の是非について同様に検討しなければならない。販売業者企画のマンションでは全てを満足するのは困難かもしれない。比較的消費者の要求に応えているのがフリープラン・コーポラテブ方式で分譲方式の新しい試みになっている。 
○ 押入れ、物入れ
   押入れ等の壁、天井がコンクリートのままの仕上げだとあまり好ましくない。理由は、新築後しばらくの間はコンクリート表面から熱と水分が発散されるからである。二重仕上げであっても新築後当分の間は換気等の湿気対策を行う必要がある。
○ 住宅設備機器・家具類
   売主、買主双方が最も注意をはらうのが住宅設備機器・家具類である。売主は豪華な商品をセールスポイントにして広告するが表面的なことよりも機器類の機能、将来のメンテナンス及び防災に対する配慮も検討したい。できるだけ他メーカーの展示場を見学し、オプションが可能ならば、希望商品を設置したほうが良いだろう。尚、住設機器類の取扱説明書は必ず保管する事が大切である。
○ キッチン
   住宅設備機器の代表格にあるものがシステムキッチンであり主婦には最重要ポイントの一つでもある。流し全体及びシンク周りの仕上、大きさ、高さ、深さとか水栓(蛇口)種類の他に機能面で浄水器類、ディスポーザ、食器洗い、乾燥機等々チェックポイントは数多くあるがまず希望優先順位を決める事が大切である。又収納棚は使い易さの他に耐震等防災面の検討も重要になる。台所換気扇は外部までの距離(ダクトの長さ)や風向きと関連があり、部屋に適した換気扇性能の検討を要する。
○ ユニットバス・洗面化粧台等
   水場の住宅設備機器類はキッチン同様予め希望優先順位を決めておくほうが良いだろう。湯沸設備の容量及び追い炊きの有無、洗面鏡の三面鏡、ユニットバスのテレビ等々・・各々の生活様式に合わせた機能選びが必要であり不要と思う機能は故障の原因にもなるので除外したほうが好ましい。
○ 室内建具類
   室内建具はガラスの種類と室内戸の開き勝手方向を調べておきたい。ガラス戸の場合、使用ガラスによってプライバシーに影響される場合があるので充分注意する必要がある。そして開き扉の開く方向によっては部屋の使用方法や便利さが変わる場合がある。
○ その他
   マンションはコンクリートとサッシに囲まれた空間の密室であり、将来外部から電線・管類を引き込む為に共用部分の躯体に穴を開けることにならざるを得ないが現実は管理規約上かなり制限があり工事が難しい。その為見え隠れ部分は予備配線(配管)スペース等の将来に備えた配慮が求められる。

● 建築設備図
○ 電気設備
△ 配管、電線、情報関連等
   室内配線に使用する電灯・コンセント用電線の種類は、IVケーブルVVFケーブルが多く、IV線は配管内配線材で直天井の場合に使用される事が多い。又、情報関連には光ファイバー等が使用される。照明器具を含め電気設備の減価償却は10〜15年であり少なくとも築後20〜30年目には配線替えを必要とするので改修工事が容易な工法が望まれる。
○受電設備
   従来のマンション戸当りの受電容量は100V−30Aが主流であったが、最近は100V、200V併用の選択が出来る他受電容量も増加している。しかし、マンションでは建物全体の受電量が決まっていて所定以上の増量は困難な場合が多く、全戸が一度に全部電力を使用しても支障のない受電容量が望まれる。又情報産業等技術の進歩は非常に早く建築設備が追いつけない例が多い。電気設備は将来の技術進歩に配慮した施設設計が要求される。
△ コンセント・スイッチ
   住戸内コンセントの検討は事前に電気製品の数と部屋のレイアウト、コンセント位置及び数を把握する必要がある。キッチン周囲のコンセントが少ないとタコアシ配線になり新居のイメージが損なわれる。スイッチでは台所換気扇スイッチの位置が壁付きになっているか、フード面なのか、設置位置によって使い易さが違ってくる。又トイレ、洗面所の換気扇は照明と同一スイッチだと消し忘れの心配が無い反面、換気に用が無くても作動してしまうのでどちらが良いか事前に決めておく必要がある。便所換気扇には、スイッチを切ってもしばらくの時間換気扇が作動する製品もある。
○ 給排水衛生設備
△ 給排水の配管
   屋内給水配管にはステンレス管、硬質塩化ビニール(VP)管、耐衝撃性VP管、ポリエチレン管等がある。継手類は管と同製品とは異なり、継手・バルブ繋ぎ目が強度的に一番弱く、腐蝕・劣化が最初に始まる。排水管は耐火二層管、塩化ビニール管が多く用いられる。室内排水の留意点は排水勾配の確保にある。マンションのように限られたスペースでは勾配の確保が難しく、充分に取れないと油分等が蓄積されそこから腐蝕が始まり漏水の原因になる。配管位置は取替えが容易に可能な位置が望ましい。排水管には通気が無いと逆流現象を起こす原因になる。又室内給水管類等には防露対策が望まれる。
○ 給水方式
   マンションの給水方式には増圧直結方式と受水タンク方式が主流である。直結方式は、水道水を増圧ポンプで供給する方式で、中高層建築物に適している。長所は受水タンクが不要の為少スペースで済む。タンクの点検、清掃が不要で省エネ効果が期待できる。短所は貯留機能がない為、断水時に飲料水の確保が必要になる。受水タンク方式は水道本管を経て受水タンクから加圧ポンプで屋上の高架水槽(タンク)へ圧送し、下階へ供給する方式で高層建築物に適している。長所はタンクに貯留能力がある事、短所は貯水設備のスペースが必要になり工事費と維持費が掛かる。タンクの清掃が必要な事と常時水を循環させなければ水質が低下する事が挙げられる。タンク方式は自然水圧なので上階は水の勢いが弱く下階は強くなる特徴がある。
△ 給湯設備
   給湯設備にはガスと電気の2種類がある。ガス湯沸器は室外に、電気給湯器は室内に設置される。どの場合も使用容量は大きい方が良いだろう。電気給湯器周りの配管継手部分はフレキシブル弁であることが耐震上重要である。又設備機器に風呂の追い炊きの有無を確認する事が重要である。
△ 便 器
   マンションでは殆ど全部が水洗洋便器である。水洗方式はサイホン式と洗落式がある。サイホン式は水を吸い込むように排出する方法であり、洗落式は水の落差で押し流す方法で構造的にはシンプルである。便器の付属品としてトイレシャワー(ウオシュレット)が設置されている例もあるが、将来増設するときの為に電源が必要となるのでコンセント有無のチェックも忘れてはいけない。
○ 冷暖房・換気設備
△ 空調設備
   通称エアコンと呼ばれ、機能等は部屋の体積及び人数に合った機種を選択する。この場合人数に着いては想定より多目の計算が必要である。同時に室外機の設置場所の検討も要する。バルコニーの場合床置き、天井吊かでバルコニーの利用価値が変わってくる。又エアコン設備がない部屋でも予備配管等の有無を確認する必要がある。
△ 床暖房等
   床暖房は電気、ガス(TES)の二種類がある。電気暖房は床下にパネルヒーターを設置しパネルを暖める方式で床表面が暖まる時間(立ち上げという)が長い。TES方式は床下にパイプで温水を通す方式で電気に比べ立ち上げが速く、暖かさが自然である。暖房設備は各々システムの特徴を理解しておく事と、どの部屋に床暖房が必要かが検討材料になる。ガス暖房のように配管が必要な暖房器具を希望する場合、配管設備が整っているかもチェックする必要がある。
△ 換気設備
   良好な住環境の維持に室内喚起は欠かせない。室内換気は吸気と排気が必要になる。外からの吸気は下方から吸収し、室内空気を排出する(排気)のは上方から行うのが一般的である。給排気に換気扇等機器類を使用する場合は吸気、排気量及び外部までの排気距離がポイントになる。排気量が多く、吸気量が少ないと扉の開閉時に思わぬ負荷が掛かり、排気量が少ないと換気に時間を要し、風向きによっては空気が逆流する例もある。尚、防火(準防火)地域ではダクト内に「防火ダンパー」設置が義務化されているので防火ダンパー使用方法を確認する必要がある。

● 共用部分の注意点
   マンションの共用部分ではオートロック等のセキュリテイ確保及び防犯対策が最重要課題であり、殆どのマンションが何らかの防犯対策を起こしている。しかし玄関がオートロックであっても非常階段等他出入口が同等機能でなければ効果が半減してしまうのでトータル的な対策が望ましい。又、必要に応じて監視カメラの設置も効果的である。防犯設備は正しく運用しなければ防犯効果が少ないので施設の面だけでなく運用面での配慮が必要になる。
   エレベータ設備は設置台数、昇降速度とスペースの大きさ(荷重)についてチェックする。又、籠内の防犯カメラ、及び防犯カメラ記録装置と防犯用窓ガラス扉の有無のチェックも併せて検討する必要がある。
   建物全体の注意点ではマンション全体の高齢化社会対応が望まれ、公共施設のように身体に不自由な人たちへの配慮が今後の課題になる。

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