第 三 章  マンション管理のポイント
5. 建物の維持、保全

● マンションのライフサイクルコスト
   建物の維持、保全の重要性が専門家によっていろいろ指摘されるが、それでは建物の生涯にどれだけの費用がかかるだろうか?建物の生涯コストをライフサイクルコスト(L・C・C)という。建築物を購入するときの純建築費の初期コスト(イニシャルコスト)と、その建築物が生涯を
図 3 - 2 LCC氷山モデル例
終る(解体される)までの運営コスト (ランニングコスト)との合計がL・C・C である。この手法はアメリカで開発 され我国ではまだ歴史の浅い分野で、 統計には多少バラツキが有る。 平均的試算ではイニシャルコスト は、L・C・Cの約20%程度であり、 初期コストとほぼ同額が修繕費と計算される。そして初期コストの4〜6倍が運営コストと考えられる。マンションのもう一つの価値観は、販売価格とか建物の出来栄えだけではなく運営コストが如何に安価であるかの検討をする事も失敗しないマンション選びのひとつになる。中古マンション購入には過去の修繕工 事等の記録を購入要素の一つに加える必要がある。

● 建物の保全、修繕
   建物管理には保全、修繕(又は改修、補修)の言葉が多用される。「保全」とは建物を長期に維持させる事で、予防保全と事(故)後保全とに分類される。
   予防保全とは、人の健康診断のように定期的な建物診断の管理データから特に問題となる症状(内容)を重点的に修繕、補修方法を計画し、計画に基づく工事をすることである。逆に不定期的な建物診断による保全方法では効果が期待できにくいといえる。 事後保全は、予防保全では発見出来なかった故障や事故が発生した後に処理する事で、突発的な場合が多い。別な概念では「広義、狭義」の保全の考え方があり「時間、空間的」に長期間の保全方法と、限られた部分を保全する検討方法もある。修繕、補修とは保全後にその資料を基礎にして具体的な工事をする事である。
   国土交通省(建設省)は長期修繕計画を管理組合業務とするように指導しているのは、建物を共同使用しているマンション管理組合員に建物の保全を促している事といっても過言ではない。

● 長期修繕計画
   標準管理規約では修繕積立金の義務化と長期修繕計画の作成及び見直しを管理組合の業務としている。根拠になるのが建築基準法第8条「維持保全」条項である。平成11年マンションに関する調査では80%を超える管理組合が長期修繕計画書を作成している。修繕計画の目的は 良好な住み心地の維持と資産価値の保持の為に、今後20〜30年を目安に「何時」「何処を」「どんな修繕を」「幾らで」行うか建物修繕方法を表した計画書で、この計画書に基づいて修繕積立金を設定し、建物の調査を実施し、概ね5年毎に修繕計画を見直す事が望ましいとしている。現実は分譲業者や管理会社の作成する計画書を転用しているのが殆どで、自主的な長期修繕計画作成率は少ない。

   ● 建物の点検と診断      
   修繕計画に基づき修繕工事を実施する場合、まず「建物調査」から始まる。この場合「調査」は工事直前の調査だけでなく継続して調査する方が効果的である点では人の定期健康診断に似ている。調査というと「建物診断」とか「耐震診断」等の高額な調査を想定するが、管理委託の点検記録から検討する方が有効手段を取れる場合が多く、定期点検の積み重ねの方がはるかに重要な意味をもつ場合もある。点検管理も管理会社任せにせず組合が自ら判断しなければならない。こうした努力が無駄な出費を防ぐ結果につながる。目安と現実との見極めは実際に運営している人たちの仕事になる。

図 3 - 3 修繕周期目安


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