Airliner , H.M.A.


 R 


101 


Registration 

G-FAAW  Oct. 1929
(His Majesty's Airship) 

 R-

100 

Registration 

G-FAAV  Dec. 1929


国際航路 旅客用、英国飛行船 


-101号


航空登録 

G-FAAW

 1929年 10月初飛行

英国飛行船 

R-100号

航空登録 

G-FAAV

 1929年 12月初飛行

the United Kingdom build

英国で建造された 旅客用飛行船


R 38 の事故 によって 英国の 飛行船建造は 停滞してしまい、軍用飛行船の使用を 断念してしまいます。 しかし、非軍事用途での 飛行船の利用は 生き残った R 33R 36 で 試験運用が 行われていました。 そして、世界最大の飛行船 2隻を新造して 英国植民地間を連絡する 航空旅客航路が 計画されます。 この 2隻は 官民で競作される事となり、民間会社が 担当する R-100 は ビッカース社 (Vickers) 傘下の 新会社 エアシップ・ギャランティ社 (Airship Guaranty) が 受注して、 R 101 は R 38 を建造した 英国飛行船工場 (Royal Airship Works) が その建造を 受け持つ事に なりました。


R 101 & R-100 , in the hangar

R 101 , G-FAAW  (builder : Royal Airship Works)  in Oct. 1929

R 101 の 船体は 15本の 主縦通材により 15角形たが、
新造時の船首先端部分は 間を補完する副縦通材が 張り出して 29角形 となっていた

the first state of  R 101 , G-FAAW

↑ずんぐりした船型は 先駆者 LZ120 ボーデンゼー号の姿を真似た 短胴楕円流線型で設計され、
LZ127 ツェッペリン伯号の 画期的な スーパー楕円流線型は 何故か採用されなかったようです↓


the first state of  R-100 , G-FAAV

R-100 , G-FAAV  (builder : Airship Guaranty , affiliated with Vickers)  in Dec. 1929

R-100 の 船体は 16本の 縦通材により 全体が 16角形となっていて、 新造時は 船尾末端が 尖っていた

先に完成して初飛行したのは R 101 で 1929年10月12日です。 担当した 英国飛行船工場は R 38 が 強度不足で事故を起こした反省から、 骨組みの広範囲に 鋼材を 採用して、強度を 高める試みをしました。 また、英国植民地間を 連絡する航路には インドのように 気候の暑い地域も含まれており、 このような高温環境で 安全に 飛行する為には 揮発性の高い ペトロール燃料 ( [UK] petrol = [US] gasoline ) は 引火性の問題から 危険であるとされ、 より安全な軽油 ( light oil ) を 燃料とする ディーゼル・エンジン ( diesel engine ) が 飛行船で 初めて 搭載される事に なりました。

R 101 , Phase:1 ( before extension )

船体延長前の R 101 、複葉機全盛の時代に ジェット機のような尾部形状が 斬新です、
おそらく… 直進安定性と引き換えに 操舵性能を 追求した、 R 38 の 思想を汲む 設計でしょう

しかし、この 鉄道用由来と言われる ビアドモア・トルネード ( Beardmore Tornado ) ディーゼル・エンジンは 非力で重く、 船体骨組みに 重い鋼材を 大量使用した事 (構造材の 6割に ステンレス鋼採用) とも相俟って、 文献の著者による表現では… R 101 は よろめきながら浮揚し、 危険なまでに重過ぎ、悲しいほど馬力不足だったそうです。 (初飛行 5時間40分)

(注意!/ 飛行船は 固定翼機などと異なり、 空荷では飛行できません、 積載能力 (Payload) の大小に関係無く 総重量を バラスト (Ballast) で 調整し、 空気の重さに対して中立にするので 「よろめきながら」は あまり適切な表現とは 思えません)

自重が軽くて 積載能力の大きい飛行船程、 バラストを 大量に積んで 重くしなければ飛べません…。
強度不足でない限り、 飛行船は 自重が 軽くても重くても 運動性能に 影響しません! 積荷が 増えるか減るかだけです。

(なお、 Height-Climber のように 強度不足な飛行船の場合は 運行規則で 機動制限されます、 そうしないと空中分解してしまいますから…)

(そして、 飛行船の運動性能を 左右するのは 浮揚ガス容積で決まる満載総重量船形で決まる空気抵抗エンジン出力 との 比例関係です…、
ですから、最初の時点で先ず重要なのは… 自重が 重過ぎて浮揚できなかった 阿呆なのか?、ちゃんと浮揚して飛べたのか?、のどちらかです…、
自重に関する観念の誤解は 航空機の専門家 (≒固定翼機などの専門家) が 飛行船の評論をする際、 往々にして生じる 錯覚と混同によります)

因みに、自重ではなく、容積で決まる総重量で比べた場合…、 新造時は R 101 よりも R-100 の方が 実は重い(大質量の) 飛行船 だったのです。
(2隻の新造時で 試算すると… R 101 の総重量は 155.7 t 、R-100 の総重量は 160.6 t になるのです)



R-100 , G-FAAV

対する ライバルの R-100 は 2ヶ月遅れで 完成して(1929年12月16日 初飛行)、軽量で 高出力の ペトロール・エンジン ( petrol engine ) ロールス・ロイス・コンドル ( Rolls Royce Condor ) IIIB 12気筒 を 6基搭載し、
時速 130km/h 台の 最高速力を 発揮していました。

R-100 , G-FAAV  (builder : Airship Guaranty , affiliated with Vickers)

R-100 , G-FAAV  ( after curtail , round tail end )

Volume : 146,000 m3 , the passengers capacity of 100 (Crew: 37)

写真は 小改装後の R-100 、 船尾後端を丸めて 船体全長が 短縮されています、
これは 船尾を縮める事により 相対的な 舵軸位置を 後方へずらす効果を生み、 操舵性能の 改善を 図ったと思われます
(同時に 多少の軽量化にもなり、搭載量も僅かに増えている筈です)
失敗作と蔑まれる R 101 に対し、成功作と謳われる R-100 ですが… 旋回性能は R 101 に 劣っていた可能性大です

但し、長距離を飛ぶ旅客用飛行船としては… R 101 のように racing car みたいに 敏感な操舵性能を 追及するより…、
乗用車の GT (grand touring car) のように緩慢な 操縦特性の味付けの方が 正解かと 思われます。
 

R-100 , Phase:1 ( before curtail , pointed tail end )

R-100 , Phase:2 ( after curtail , round tail end )

このように R 101 が ライバルの R-100 と 差を付けられた背景には、 官営工場故に 政治家や政府官僚の 無責任な 圧力により、 無茶苦茶な要求を 突き付けられて 支離滅裂な 開発環境だった事が 挙げられています。 R 101 が 建造中、この時期の英国は 労働党政権時代で、 社会主義の R 101資本主義の R-100 と 言うように 揶揄されていたそうです。

そして遂に R 101 は 要求仕様を満たせない 不足する積載能力 (Payload) を 得る軽量化に 行き詰まり、 船体を延長して 浮揚ガス容積(気嚢数)を 増やす方法で 浮力を 増大させる改造に 踏み切りました。

R 101 , the turning point Phase:X ( probably Phase:1.5 )


R 101 の 船体延長改造は 2回行われたとする資料もあり、
最初の延長改造で 必要な浮力を得たが 不都合があり 承認されず、 再度 隔室部分が 作り直しされた と されています…

この写真では 客室区画を示す窓が 1箇所しかない事が 確認できます
(現場は 重量超過の元凶となる「社交室」を廃止する改造をしたが 官僚から認可されなかった疑いがあります)

本来なら 下記 「 Phase:2 」 を 「 Phase:3 」 とし、 これを 「 Phase:2 」 とすべきですが… この状態での詳細が 殆ど不明なのです
(でも 空力的にも 未完成で、試験飛行中の1段階に過ぎない部分もあるので、 やはり 「 Phase:1.5 」 が妥当なのかな?)

(なお、この写真からだけでは 断定できませんが… 客室窓のある隔室部分が 直線的に見えるので、 この時の隔室部分は 平行だと思われます)
 

Deformed  "R 101" by an image processor , Phase:1 ( before extension )


↑画像処理による前後圧縮で 船体ラインを顕著にしても不自然な外形輪郭線は見当たりません。
(つまり、滑らかに繋がる曲線だけで構成された船体で、直線的な部分は 全く存在しない事が 解ります)

Deformed  "R 101" by an image processor , Phase:2 ( after extension )

画像処理による前後圧縮で 船体ラインを顕著にすると リメイクによる異質な外形線が見えて来る。

何故、このような改修が必要だったのか?…。
単に 直線的で平行な短い隔室を挿入しただけだと、中途半端に短過ぎる直線部が災いして、
正と負の風圧が隣接して入り乱れる箇所 (下図囲み印参照) が生じるからじゃないかな?… 。
(ここで言う 【正と負の風圧】 とは 流体力学で言う所の 「船体表面の圧力分布」の事を言っています)
(この現象は 高速域で起きる現象なので、 R 101 と R-100 の 2隻は 巡航速度域で最適化した流体設計なんだろうなぁ〜)


Hydrodynamics

↑↓これら3つの 外形ラインの違いが 果たして伝わるだろうか?…。


(比較参照リンク: L30型 "Super Zeppelin" の流れを汲む特徴、テーパード・ブレンディング楕円流線型)
(いや… そもそも 「物体表面の圧力分布」 なんて話題を持ち出して、 普通の人が コレ見て理解できるのだろうか?…
もっと他に 巧い解説方法って無いかなぁ〜)

 

Deformed "R 101" & "R-100" simplicity elliptical streamline

( R 101 と R-100 の 2隻も 補正式楕円流線型を 素直に導入していれば、 R 101 の 船体延長改造も簡単だったはずなのだが… )

( ふと気が付いたのは… Royal Airship Works と Vickers って 補正式楕円流線型の 飛行船を 完成させた経歴が皆無なのね, 
  テーパード・ブレンディング楕円流線型の飛行船を 完成させた 実績があるのは Armstrong-Whitworth と Beardmore だけ )
R 38 が 試験飛行中の 高速度試験で 昇降舵の反応が不安定だったのも 平行直線部付き単純楕円流線型で 95 km/h 台を 超えたから?


"R 38" General Arrangement , builder : Royal Airship Works


Deformed "R 38" simplicity elliptical streamline


"R 80" General Arrangement , builder : Vickers

Deformed "R 80" simplicity elliptical streamline

(R.A.W. と Vickers 両社の過去の実績、 R 38 と R 80 の どちらも船体幅と一致する、 単純楕円流線型だったんだね)
(厳密に言うと R 80 の場合、先端に小球体があり その直後から 楕円近似曲線で繋いでいるけど…)

R 80 の 場合、 R 38 の ように 気流の乱れによる昇降舵の不具合は 文献類に記述されていないみたいだが…、
これは 当時の飛行機の主翼の断面形状、 つまり 前から 1/3 の 箇所に 最大の厚みが来る形状と 近似する フォルムだったため、
部分的に存在する直線部の影響が 全体的な気流の流れからは 誤差の範疇に 留まったからでは ないだろうか? と推理している。

( R 80 の 側面図から読み取れるように 本船の設計での 船体後半部では 逆圧力勾配となる部分を 長く取り
変化を緩やかにしているのが 幸いしたと思われる、 結果 摩擦抵抗が増えて 速度が 意外と出なかったようだ)

なお、R 80 の 船尾末端の処理は 同じ Vickers 絡みでなので、 後の R-100 の 船尾短縮改造に 影響したかもしれない。

 

船体延長改造後の R 101 は 外皮の一部が剥がれたり、昇降舵の反応が 不安定だったり、気嚢からのガス漏れなど 問題が 続出して、 その対策に 一年近くが 費やされました。

R 101 の 昇降舵/方向舵は その形状と 舵軸位置、及び 水平/垂直安定板の少ない横圧面積から 操舵応答性が R-100 よりも 鋭かったと思われます…、 いわゆる「じゃじゃ馬」と 呼ばれるアレですが…、独特な癖は 高性能と紙一重かも?…。

(想像できる 2隻の操縦特性の違いを 具体的に言うと…、
 R-100 は 舵を取っても 直ぐには反応せずに 遅れて回頭し始め、 舵を戻すと 素直に直進する感じで、 Under Steering ,
 R 101 は 舵を取ると直ぐに回頭し始めるが、 舵を戻しても 当て舵しないと 回頭が止まらない感じで、 Over Steering  かと思われます…)

R-100 G-FAAV , ( Cardington ~ Toronto )

直径 40m もあるのに 16角形なので 縦通材スパンが長く、 外皮に クリープ変形 (Creep) が生じて 応力弛緩が 確認できる
骨組膜構造 Frame Membrane Structure として考えた場合、 あまり良い施工状態ではない

R 101 の遅々として進まぬ 改修工事の間にも R-100 は 1930年7月29日に 英国から旅立ち、 大西洋を 横断して カナダの モントリオール (Montreal) や トロント (Toronto) を 訪問するなど、 その真価を 世界へ誇示していました。

R-100 , Phase:2 ( after curtail , round tail end )



R-100 , Phase:1 & Phase:2

R 101 , Phase:1 ( before extension )

R 101 , Phase:2 ( after extension )

R 101 , Phase:2 ( after extension )   [ before extension ~ after extension ]

Volume : 156,000 m3 , the passengers capacity of  100 (Crew: 45)
船体延長後の R 101 、船体を 中央で切断して 平行な隔室部分を 単純に挿入したのではなく、
船体中央部を 新たに作り直す方法で 船体を 延長しているので 側面輪郭に 平行な直線部分が無い

R 36 , G-FAAF (Passenger airship) First flight ; April 1921

Volume : 59,500 m3 , the passengers capacity of  50 (Crew: 28)

主船体部は Super Zeppelin 型の コピーで、 R 33 級よりも 気嚢1つ分の長さが 延長されていた

旅客用飛行船の基礎データ収集に供された R 36 , Engine-layout は R 101 と 似ているが 厳密な重量配分は 異なる

旅客設備は 鉄道の寝台車に近い作りで 厨房も備え、出来たての料理で食事できた

漸く 1930年10月1日、 R 101 は 17時間の試験飛行を 実施するが、 最高速度試験と 耐候試験は 未実施でした。そして、 無謀にも R 101 が 万全の状態ではないにも関わらず、 1930年10月4日 予定通り インドへ向かう飛行が 決行されました。

乗客は 空軍大臣を含む 賓客12人、乗員42人(記者2人?)、 フランス北部に 熱帯性低気圧( hurricane ≒ 台風)警報が 出たさなか 乗客は 贅沢な ダイニング・サロンで 優雅な晩餐を 楽しんでいたそうです。

R 101 , promenade deck & lounge


鉄道の寝台車的だった R 36 に対して、 R 101 の 旅客設備は 海の豪華客船に近い

午前2時、フランス上空を飛行中の R 101 は 強い向かい風と格闘していました。 激しく雨に打たれていた R 101 は 突然 船首を 下へ向けました。 船首部の気嚢の 何れかが 破れたと 推測されている 船首部の 浮力喪失により、 R 101 は フランス北部の丘陵地帯に墜落し、 政府要人を含む多数の犠牲者 (乗客乗員56人中、死者48人) を 出したとされています。
(船首部の浮力喪失原因としては 自動弁の誤作動説もあります)

The wreckage of  the R 101

R 101 の残骸、 右舷昇降舵の 根元に 2人の男女?が 立ってるので 大きさを 比較して欲しい
(R 101 の主船体は 主縦通材 15本の 15角形なのに、 この残骸写真に写る 船尾部分は 縦通材 16本の 16角形という 極めて変則的な構成で、 舵軸から 12角形へ切り替わり、船尾末端は 6角形という複雑さです)

この R 101 の惨事により、英国は 飛行船開発の 表舞台から 降りる事になり、 成功作と絶賛された R-100 も 解体処分されて しまいました。 後年出版された文献類では「あの悲運の R 38 を手掛けた RAW が建造した 失敗作 R 101」と 形容する解説が よく見受けられます。

& R 38 , on the right side of  a skeleton R 37 (builder : Royal Airship Works)

格納庫内の R 38 の右に並ぶ骨組みは 未完成に終わった R 37 (R 36 Class)

このように… 欠陥飛行船の R 101 は 突然 船首部が 浮力喪失して、 墜落してしまった… 信じられないような 設計ミスが 大惨事の原因とするのが 一般的な定説です。

 

しかし、私は R 101 に 深刻な設計ミスは 無かったのではないか?と 考えています。 墜落して 大惨事となってしまった 真相は R 101 の低性能に 由来するものではないと 感じています。

R 101 の解説では 必ずと言ってもよい程 筆者の感情の籠った主観による形容で R 101 の状態が 表現され、 その実態が よく判らないまま 筆者の意思に 啓蒙されてしまいます。 先ずは冷静に 数値データを 比べて 解析してみたいと思います。

Number Length Diameter Volume Gas cell Dead weight Payload Power plant Max. Speed Date
R.32. 187.5 m 19.9 m 43,976 m3 21 cells 32._ t 16.8 t 275 HP x5 104 km/h 1918.11
R 33  195.9 m 24.0 m 55,000 m3 19 cells 33._ t 26.5 t 275 HP x5 99 km/h 1919. 3
LZ120 120.8 m 18.7 m 20,000 m3 12 cells 14._ t 9.6 t 250 HP x4 130 km/h 1919. 8
LZ121 130._ m 18.7 m 22,500 m3 13 cells 16._ t 11.2 t 260 HP x3 127 km/h 1919. ?
R 80  163.1 m 21.3 m 35,700 m3 15 cells 22._ t 15.1 t 240 HP x4 113 km/h 1920. 7
R 36  205.7 m 24.0 m 59,500 m3 20 cells 48._ t 16._ t 350 HP x3
260 HP x2
105 km/h 1921. 4
R 38  212.7 m 26.1 m 77,000 m3 14 cells 33._ t 46._ t 350 HP x6 114 km/h 1921. 6
ZR-1  207.3 m 24.0 m 60,840 m3 20 cells 37._ t 24.3 t 300 HP x6 110 km/h 1923. 9
LZ126 200.0 m 27.6 m 73,680 m3 14 cells 35._ t 45.8 t 400 HP x5 126 km/h 1924. 8
LZ127 236.6 m 30.5 m 105,000 m3 17 cells 59._ t 60.0 t 550 HP x5 128 km/h 1928. 9
R 101 224.0 m 40.5 m 141,600 m3 16 cells 113._ t 35._ t 500 HP x5 100 km/h 1929.10
R-100 224.0 m 40.5 m 146,000 m3 15 cells 107.2 t 51._ t 670 HP x6 131 km/h 1929.12
R-100 219.3 m 40.5 m 146,000 m3 15 cells 106.? t 52.? t 670 HP x6 130 km/h 1930. 7
R 101 236.8 m 40.5 m 156,000 m3 17 cells 118._ t 49._ t 585 HP x5 (114)km/h 1930. 9
ZRS-4 239.3 m 40.5 m 184,000 m3 12 cells 113._ t 73._ t 560 HP x8 128 km/h 1931. 8
LZ129 245.1 m 41.2 m 200,000 m3 16 cells 119._ t 96._ t 1,200 HP x4 137 km/h 1936. 3
番号 全長 直径 容積 気嚢数 自重 搭載量 機関 速力 西暦

補足、LZ127 "Graf Zeppelin" の 容積に対する自重と搭載量の数値は 文献通り掲載しましたが、 水素の浮力は 1立方メートル当たり 1.1 kg なので 容積 105,000 m3 では 115.5 t となり、 自重と搭載量の合計値が これを上回るので 不自然です… 数値間違いなのか?算出基準が異なるのか?
もしくは… たぶん、空気と同じ比重の気体燃料なので搭載スペースの範囲内なら、 算出浮力以上でも 積み込めるからなのでしょう。

データ一覧を 表面的に 眺めて、最初の 印象は やっぱり R 101 の 性能が 見劣りする事です。 その原因となる因子は… ドイツ製飛行船の 圧倒的な高性能ぶりなので、 取りあえず ドイツ製飛行船を 比較対象から 除外してみます。 そうすると 見えてくるのは R 101 が 英国製飛行船では R-100 に次ぐ 二番手の高性能だという事実です。

Number Length Diameter Volume Gas cell Dead weight Payload Power plant Max. Speed Date
R.32. 187.5 m 19.9 m 43,976 m3 21 cells 32._ t 16.8 t 275 HP x5 104 km/h 1918.11
R 33  195.9 m 24.0 m 55,000 m3 19 cells 33._ t 26.5 t 275 HP x5 99 km/h 1919. 3
R 80  163.1 m 21.3 m 35,700 m3 15 cells 22._ t 15.1 t 240 HP x4 113 km/h 1920. 7
R 36  205.7 m 24.0 m 59,500 m3 20 cells 48._ t 16._ t 350 HP x3
260 HP x2
105 km/h 1921. 4
R 38  212.7 m 26.1 m 77,000 m3 14 cells 33._ t 46._ t 350 HP x6 114 km/h 1921. 6
ZR-1  207.3 m 24.0 m 60,840 m3 20 cells 37._ t 24.3 t 300 HP x6 110 km/h 1923. 9
R-100 219.3 m 40.5 m 146,000 m3 15 cells 106.? t 52.? t 670 HP x6 130 km/h 1930. 7
R 101 236.8 m 40.5 m 156,000 m3 17 cells 118._ t 49._ t 585 HP x5 (114)km/h 1930. 9
ZRS-4 239.3 m 40.5 m 184,000 m3 12 cells 113._ t 73._ t 560 HP x8 128 km/h 1931. 8
番号 全長 直径 容積 気嚢数 自重 搭載量 機関 速力 西暦

その事を 踏まえた上で 再び ドイツ製飛行船も加えて 比較すると 見えてくるのは 高性能と 思っていた R-100 が ドイツ製飛行船と比べると 明らかに重いという事実です。 ドイツ製飛行船の 自重に対する搭載量は ほぼ同等近辺なのに R-100 の 自重に対する搭載量は 半分、 R 101 の 自重に対する搭載量は 3分の1で R 36 より僅かですが上です。

因みに 軍用飛行船と 旅客用飛行船では 固定設備に 雲泥の差があり、 簡素な固定設備で済む軍用は 自重を 軽くできて当然なので、 その事も 考慮する必要があります。

 


  [ the Heavy Weight on the hull ( the suspect ) ] 

つまり、ドイツ製飛行船と比べれば R 101R-100 は 共に 自重が かなり重い Heavy Weight な飛行船なのです。
(注意/ 「自重が重い Heavy Weight = 鈍重」 では ありません、 単に 貨物や燃料などの搭載余力が 小さい事を 意味するに過ぎません)

R 101 & R-100

The post-Shenandoah-crash second airship & third airship , both Heavy Weight !
the airships carrying both passengers and Overweight accommodation

The pre-Shenandoah-crash last airship , LZ126


The post-Shenandoah-crash first airship , LZ127 "Graf Zeppelin"
the airships carrying both passengers and cargo

先に、「ドイツ製飛行船の 圧倒的な高性能ぶり」と 表現しましたが…
スペック表で ドイツ製飛行船の 数値を 際立たせる要因は 自重の軽さです。 これにより、搭載能力が大きくなって 純粋な豪華客船と言うよりは… (スペック表で秀でて見える数値特性の) 貨客船的な 万能飛行船に 仕立てているようです。

ドイツ製飛行船は 船体構造の軽量化技術で 特に優れてるから 自重が軽いのではなくて、 仕様設定が 巧いようです。



ドイツの LZ120 "Bodensee" ボーデンゼー号は 2万立方メートル級飛行船で 乗客定員 20人+α 10人、
しかし 国内隣国航路専用で 航続距離は短く設定されています。
これに対して、大西洋横断用 旅客飛行船の LZ127 "Graf Zeppelin" ツェッペリン伯号は 10万立方メートル級飛行船で 乗客定員 20人!、
ボーデンゼーと比較して 船体規模に比例した 旅客設備の重量増はせず、 貨物と燃料搭載量を 重視した設計で 貨客船と 呼べるでしょう。
(その証拠に、貨物搭載スペースの少ない 純粋な客船要素の濃い LZ120 "Bodensee" は 自重に対する搭載量が少なく、
 ドイツ製飛行船にしては 自重の重い飛行船に 仕上がっているのです)

The pre-Shenandoah-crash last airship , LZ126



The post-Shenandoah-crash first airship , LZ127 "Graf Zeppelin"

    LZ126 & LZ127 , skeleton

( conventional keel & inner keel innovation ! )

戦時型である Super Zeppelin より船体直径を拡大して スケール効果から 搭載量が 増大した LZ126 、 シェナンドア空中分解事故以後に建造された Sagging 対策型飛行船 第1弾 LZ127 ツェッペリン伯号 、違いは 船体内部を縦通する 新たな骨組みの存在です。 ドイツが講じた対策は 既存の船体構造へ 新たな骨組みを 最小限度で付加する事でした。
(私が感じた感想を 感覚的に言うと… 頑固一徹なのに 合理的で高性能な ドイツらしさが 滲み出ています)

LZ127 ツェッペリン伯号 について…
従来の解説では… 「水素ガスの気嚢と 気体燃料の気嚢で 内部が 2層に分かれたので、 上層の 水素ガス気嚢の 自動弁を 点検するために 連絡通路が 設置された…」 と されていますが、 自動弁点検のためだけなら、 下の竜骨から 垂直に 短いトンネルを 立てるだけの方が 重量節約になります。 船体強度を高めるため、新たに 内部を 縦通する骨組みを 新設したのが 主目的で、 気体燃料の採用も 自動弁点検通路も 副産物と 考えた方が 合理的です。

 

Sagging 対策型飛行船 第2弾 R 101 、英国が講じた対策は ドイツの それとは 全く異なる方法でした…。

R 101 & R 36 , skeleton & gas cell

left , The post-Shenandoah-crash second airship , H.M.A. R 101 G-FAAW / right , R 36 G-FAAF
Anti-Sagging structure , keel-less tempered frame on thick Longitudinals of  main , but heavy weight !

R 101Keel-less なので、従来なら 竜骨に 搭載していた燃料タンク (fuel tanks)Transverse Rings へ 搭載されている事に 注目!

上記骨組み写真右側 Super Zeppelin 型船体 R 36 の 縦通材は よく見ると… 交互に 微妙に太さの異なる 2種類の骨組み、 主縦通材と 副縦通材で 構成されています。 それが R 101 では 極端に 太さの異なる 主縦通材と 副縦通材で 構成されています。 これは 従来の 船体下部だけを 竜骨で 補強した船体構造が Sagging に 弱い欠点を 有するのを 克服するため、力学的に アンバランスとなる元凶の下部竜骨を 逆転の発想で廃止してしまい、 代わりに主縦通材を 太く強化して、 船体全周へ従来より丈夫な骨組みを張り巡らしたような構造としているようです。

( R 101 の 副縦通材は あまりに細過ぎて、 主縦通材との強度差から 主縦通材の線分より外側へは 張り出せません )
( このため、 主/副 合わせた 縦通材本数分の 多角形では 船体を 建造できない事になり 、角張ってしまうのです… )


R 101 が 太い主縦通材15本と 間を補完する細い副縦通材で 2種構成なのを 更に進化させたのが R-100 です。 R-100 では 細くて弱い副縦通材などは 無駄と 廃止してしまい、 簡潔明瞭に 太い縦通材16本だけで 構成しています。

あるいは… 2隻の共通原案が R-100 の 太い縦通材16本だけの革新的構成であって、
R 101 は 保守的思想で 原案の太い縦通材1本を 細い副縦通材多数と交換し、 間を補完したのかもしれません。

(私は こちらの方が 可能性が 高いと 考えています、 感覚的に… 画期的なのに 妙な所が保守的で偏屈な 英国らしさが 滲み出ます…
 などという非論理的な話は 横に置いといて…、 R 101 は 主船体が 主縦通材 15本の 15角形なのに
 船尾部分の骨組みは 縦通材 16本の 16角形という 極めて変則的な構成なので、 尾部が 原案の名残と推理しました)

さて、英国が どのような経緯で Keel-less という発想に至ったのか? その詳細は 解りませんが…
戦時中は 仏国に不時着した L49 を 鹵獲して その詳細を 調査し、 戦後は 戦争賠償 (War reparations) で L71 と L64 を 手に入れているので、 大衆向けの偽りの解説では無く、真実の Height-Climber の実態を 熟知していた筈です。 そして、(たぶん…) Height-Climber の実態とは 竜骨を 省略して軽量化した飛行船であり、 脆弱な構造ではあるが… 竜骨無しでも飛行船として成立するだけの 丈夫さがあった事実も 知っていた筈です。

「真実は小説より奇なり」と言うか、 Height-Climber の実態を知らずに真似て 強度不足の R 38 を 建造したと 嘘をつきながら、 真相は Height-Climber を 参考にして 強度向上型の R-100/R 101 を 建造していたのではないか? という事です。

 

   the Keel-less ! , two both sides
  S.L.20. type Height-Climber   R 101 G-FAAW
シュッテ・ランツ SL20型は 竜骨が無く、縦通材も 本数が 減らされて 船体が角張っている、
(強度の差を無視すれば) Keel-less という構造上の基本構成は R-100 や R 101 とも 同じなのです!

 

R 101 ( the 15 edges  figure ) & R-100 ( the 16 edges  figure )


15角形の R 10116角形の R-100
R 101 は 正15角形ではなく、船底の1辺が 他辺より短く狭くなっています。

R 101 の船体は 15本の主縦通材によって 15角形なのですが… 間を補完する 細い副縦通材が 外皮の表面へ 痩せた人の胸のあばら骨のように浮き彫り、 平面へ薄っすらと痩せ馬(艦船用語)が出てるので 30角形だと錯覚してしまう人も多いようです。 しかし、上の写真で判るように 実際は 意外と 角張っています。これに対して R-100 は 副縦通材が無いので誰が見ても 16角形だと 判り易く、 この 2隻は 共に 従来の飛行船よりも 角張った船体形状が 特徴 となっています。

R 101 の 副縦通材は あまりに細過ぎて、 主縦通材との強度差から 主縦通材の線分より外側へは 張り出せません。
このため、 主/副 合わせた縦通材本数分の 多角形では 船体を 建造できない事になり、 角張ってしまうのです…。
逆に言うと、 新造時には 張り出ている船首先端部の 副縦通材は 部分的に太く強化されていた可能性が 高いです。



R 101 & R-100 , in the hangar

それでは 何故に、R 101 と R-100 は 角張った船体形状を しているのか?…

漫画や アニメや 特撮物の メカ・デザインとは 異なり、現実の世界では 必然的な理由が 存在します。 従来は 船体の下部だけが 竜骨で補強されていた アンバランスを 解消するため、 この2隻は あえて竜骨を 廃止して 全周満遍なく 丈夫な骨組みで強度を保つ構造を 採用した訳ですが… 仮に、廃止した竜骨の重量分だけ 全部の縦通材へ 割り振るように 骨組みの材料を 分配したとします。 全部で 30本の縦通材ならば 個々に 強化されるのは 30分の1の太さにしかなりません。 これでは 強化したとは言えず、竜骨を 失った分だけ 強度が 低下した事に なってしまいます。

the framework of  the "R 101"

では 思い切って、30本総ての縦通材を 竜骨の強度に 匹敵するくらいまで 太くすると、 今度は あまりにも全体が 重く成り過ぎてしまいます。 このように 考えてゆくと… 多少の 重量増加は 甘んじて受け入れながら、 強化する縦通材の本数を絞って 集中的に強化する方法へ辿り着きます。 その結果の答えが この2隻の角張った姿形なのだと思います。 そして、この 縦通材補強の重量増ドイツ製飛行船と比べて、 この2隻が 共に自重が かなり重い飛行船になる理由 その1です。



 

ところで、…
従来の定説で 「船体骨組みに重い鋼材を大量使用した事が R 101 を重過ぎる飛行船にした」と 解説されていましたが… そもそも何故、飛行船に 軽合金素材を 使用するのでしょうか?… 「軽くて丈夫だから」では 正解になりません! 何故なら 軽合金素材は 鋼材より強度が劣るので 使用する重量が同じなら、軽合金素材よりも 鋼材の方が 強度的に勝るのです。

実は 航空機などに 軽合金素材を 使用する理由は 同じ体積では 鋼材よりも軽いので 面積や体積的な形で 広範囲に 大量使用する場合には 軽く作る加工が 楽になるからです。 同じ事を 鋼材で 行おうとすると… より細く より薄く 加工する必要があり、部材の取り扱いが 難しくなるのです。

逆に言えば、英国が選択した Keel-less 方式では 主に荷重を負担する縦通材の数を減らして (つまり 骨組みを減らして)、 数少ない 個々の縦通材を 強化しようとしている訳ですから、 そこへ 鋼材を 使用しても 不都合ではなくなるのです。

いや! もっと端的に言えば、 この英国流 15〜16角形船体の Keel-less 方式で 材料を 集約するからこそ、
同じ重量なら 軽合金素材よりも 丈夫な鋼材が 初めて 利用できるようになった! と 言えるのかもしれないのです。
R 101 に 鋼材を 大量使用した史実は 改めて再評価すべきかもしれません…。

 


  [ the Overweight of  the deck ( the ringleader ) ] 

それでは 次に、 R 101 と R-100 の2隻が 共に ドイツ製飛行船と比べれば 自重が かなり重い飛行船である理由 その2の説明に 入りたいと思います。 (たぶん こっちが 主犯です) 現代建築の技術解説書を読むと、超高層ビルのような 極めて軽量化された鉄骨構造では それを 構成する構造部材の内でも 最も重量の嵩む 重い部分 (heavy weight part) は 柱でも 梁でも 壁でも 屋根でも… ましてや 天井でもなく ( floor or deck ) なのだそうです。
R 38 の事故解説の項で 「 飛行船において、単独で 最も重量のある 重い部品は エンジン」と説明していますが、 旅客用飛行船では 単独に部品として分離できない超重量物が 床という事になります。
(R 38 のように 純粋な軍用飛行船には 船体内に 床と 呼べる程の物は ほとんどありません、 有っても極僅かな面積です)

航空機や 艦船などの専門書では 床は 壁と共に構造材の一部として扱われて 床を 分離して吟味する 習慣がありませんから 今まで盲点だったと思います。 飛行船のように超軽量化された構造では、骨組みや 壁や 外壁にあたる羽布張りの外皮は アメフト (American football) 選手のような巨漢が 力いっぱい タックル (tackle) したら 壊れそうな強度です。 しかし、床だけは 巨漢が 跳びはねた位で 穴が開いては 困ります。 ですから 肋材や縦通材や竜骨などと比べれば、 個々は 細く見えても 補強材が 線ではなく面で入るので 広ければ広い程、重くなる筈です。

小学生の理科レベルの予備知識として… 水、1リットルの重さは 1kg です。 水、1立方メートル (1m3) は 千リットルなので 1トン (1t) です。 つまり、水に浮く船は 1m3 あたり 1t の浮力を 得られます。 (真水より重い海水なら更に浮力は増します)

淡水換算で 全長 56 m 、全幅 8 m 、主機 2,100 HP 、16 kt (29km/h) 、 7.6 cm 高角砲 2門、機銃 6門装備、
基準排水量 330 t の 河川砲艦 なら、 吃水線下の 艦底体積 330 m3 が 艦船の浮力を 生み出している計算になります。


これに対して、水素ガス 1m3 あたりの浮力は 1.1kg 、 ヘリウム・ガスの浮力が ほぼ 1kg なので、 飛行船は 水に浮く船の 千分の1に 軽量化して建造する必要があります。

R 101/R-100 の場合…
新造時は共に 全長 224 m 、直径 40.5 m で 戦艦 長門 (基準排水量 32,720 t ) と 同じ位の大きさになります。
(英国人向けには 長門より、 1936年度計画の新戦艦 KING GEORGE V 36,727t と 同じ位の大きさだと  表現した方が 良いのでしょうね…)
R 101 の 総重量は 155.7 t 、R-100 の 総重量は 160.6 t 、 前出 河川砲艦よりも 巨大なのに 極めて軽く出来ています。
(注意 / 砲艦の基準排水量とは 満載排水量から燃料3分の1を差し引いた船の重さで、 ここでの飛行船の総重量とは 満載総重量に相当します)

(基準排水量は 何故 【燃料3分の1】 を差し引くのか?…
 満載燃料の3分の1を消費して作戦海域へ出向き、 燃料の3分の1を消費して作戦行動を継続、残った 燃料の3分の1を消費して帰還する計算から、
 作戦開始時の実質的な性能を測るため このような 「燃料3分の2」 という 中途半端な数値設定になっているのですが 、民需用途では満載が基本です)

R-100 , the inside illustration

R-100 の 内部を 描いた挿絵
(奥行きが実物の 倍以上に誇張されていますが… 断面の骨組みは ある程度図面に忠実に 描かれているようです)
また、船体隔壁 (Bulkhead) に 接する広い内壁面は 天幕処理された、軽量化構造のようです。
(因みに、前出 330 t の 河川砲艦の大きさと R-100 の 客室空間は ほぼ同じ位のサイズになります)



R-100 , dining room & promenade deck     

Number Length Diameter Volume Gas cell Dead weight Payload Power plant Max. Speed Date
LZ126 200.0 m 27.6 m 73,680 m3 14 cells 35._ t 45.8 t 400 HP x5 126 km/h 1924. 8
LZ127 236.6 m 30.5 m 105,000 m3 17 cells 59._ t 60.0 t 550 HP x5 128 km/h 1928. 9
R 101 224.0 m 40.5 m 141,600 m3 16 cells 113._ t 35._ t 500 HP x5 100 km/h 1929.10
R-100 224.0 m 40.5 m 146,000 m3 15 cells 107.2 t 51._ t 670 HP x6 131 km/h 1929.12
R 101 236.8 m 40.5 m 156,000 m3 17 cells 118._ t 49._ t 585 HP x5 (114)km/h 1930. 9
LZ129 245.1 m 41.2 m 200,000 m3 16 cells 119._ t 96._ t 1,200 HP x4 137 km/h 1936. 3
番号 全長 直径 容積 気嚢数 自重 搭載量 機関 速力 西暦

補足、LZ127 "Graf Zeppelin" の 容積に対する自重と搭載量の数値は 文献通り掲載しましたが、 水素の浮力は 1立方メートル当たり 1.1 kg なので 容積 105,000 m3 では 115.5 t となり、 自重と搭載量の合計値が これを上回るので 不自然です… 数値間違いなのか?算出基準が異なるのか?
もしくは… たぶん、空気と同じ比重の気体燃料なので搭載スペースの範囲内なら、 算出浮力以上でも 積み込めるからなのでしょう。

These side view (General Arrangement) are the same scale.

↑同一縮尺で 5隻の側面図( General Arrangement /一般配置図 )を 並べてみた↓

( R 101 , before extension ~ R 101 , after extension )

下記断面図で 見比べると… 非武装の客船として建造された飛行船を 米海軍が使用した LZ126 や 大西洋横断用 旅客飛行船の LZ127 ツェッペリン伯号は しっかりとした作りの床が ゴンドラにしか 備わっていませんので、 その床面積も 限られたものとなり 自重が軽量に 収まる事に 一役かっている事が 解ります。 しかし、この断面図だけでは(たぶん)理解できないと思われるのが、 R 101 と R-100 の 自重差です。 R-100 の 客室は 3層構造で 圧倒的な空間を占めるので、 その重量は LZ129 ヒンデンブルク号を 上回ると 想像できますが、 R 101 と LZ129 ヒンデンブルク号は この断面図だけで 比較する限り 大差無く見えると思います。

comparison between the five sections , Overweight of  the floor (deck)

奥行きも示した 下記 透視図(厳密には不等角画法投影図なのですが…)で R 101 と R-100 と LZ129 ヒンデンブルクの3隻を 比較すると、 奥行き情報によって R 101 の 2区画ある客室空間膨大な床面積を 有する事が 伝わると思います。
そして R-100 の 3層構造は 吹き抜けを 利用して空間演出をしていると共に 最上層床面積を 小さくして 軽量化に 一役かっている事も 解ります。

inquire into the truth of  the matter

この 過大な床面による重量超過説 は 具体的な重量増加が示されていない 鋼材使用による重量超過説 よりも 視覚的に 説得力が あると 思います。
なお、鋼材使用による重量超過説 で示されてる数値は 構造材の6割に ステンレス鋼採用 ですが、 それで何トン重くなったかは 語られていません。
言い換えれば、喩え ステンレス鋼を構造材の何割使おうと トータルで船殻重量の常識内に収まれば、 それは 重くなった原因には ならないのです。

これに対して、私が提唱する 過大な床面による重量超過説 でも、 それで何トン重くなったかは 明言できません…、
しかし この3隻が建造された当時に床材軽量化の圧倒的な技術格差でもない限り、 床面積に比例した重量増が必ずあった事は 間違いありません。
(なお、LZ129 ヒンデンブルク号が 建造された 1936年代のドイツより、 1929年代の英国の方が 床材軽量化技術で秀でていたなら話は別ですが…)

また、新造時の R 101 と R-100 は 全長と直径が 同寸の筈なのに 容積が 141,600 m3 と 146,000 m3 で 4,400 m3 の 差があるのも R 101 の 客室空間が 膨大であるためです。 当然として、 この差だけ R 101 は 浮力が 不足するので 小型 blimp 1隻分に相当する搭載量も 減るわけです。
(2隻の容積差の要因としては… 他に Transverse Rings の 構造差による デッド・スペース も 影響したと考えられます)

R 101 , the bottom of  the airship

ではこの R 101 の 膨大な 客室空間は 一体 何でしょうか?…
宿泊設備は R 101 と R-100 は 同じ 100人の最大定員のようです、 食堂その他が占める旅客設備の床面積も 2隻で あまり大差は 無いようです。 しかし、 R 101 が 有して R-100 には 無いもの (勿論、LZ129 ヒンデンブルク にも無し) が ありました。

the vast Lounge

for the reception diplomacy ?

資料では lounge と記されている 社交室です。 社交ダンスとか踊れそうな 大広間が R 101 の 2区画ある客室空間の 片方の 大部分を 占めているのです。 英国政府は R 101 を 飛ばした先の植民地で 船上レセプション (reception) とか 行うつもりだったのでしょうか?…
私には これは 外交に使う 政府専用船に 見受けられます。 (R 101は 空飛ぶ迎賓館です!)

R 101 と R-100 は 容積 14万立方メートル級飛行船で、 ヒンデンブルクは 20万立方メートル級飛行船です。 固定重量となる 重い客室床面積が ヒンデンブルクの それを上回るのですから 船体の自重も 重くなって当然です。
(改造後の R 101 は 容積 15万立方メートル級飛行船に 拡大しています)

逆に言えば、ヒンデンブルクは R 101 と R-100 が 設備/定員過剰の 100人だったから、 飛行船へ負担の掛からない最適な 客室床面積を 割り出し、 20万立方メートル級飛行船で真似せず 設備を抑え、定員40人に 設定したのだと思います。
(あるいは 10万立方メートル級飛行船 ツェッペリン伯号が 定員20人なのを 倍増した 安全策とも言えます、後に 定員60人へ拡大改造されますが…)

ここで少し、旅客用飛行船の 旅客設備が 固定重量として どれ程 重いのか 考えてみます。
R 36 G-FAAF は 準6万立方メートル級飛行船で 乗客定員30人の客船、USS シェナンドアは 6万立方メートル級飛行船で 軍用船です。 この2隻は 共に 10メートルの隔室を追加した Super Zeppelin 型船体で建造されています。
(USS シェナンドアは 極限まで軽量化された Height-Climber 型船体を 真似て建造したとする説を ここでは否定しています)

R 36 , G-FAAF (Passenger airship)

USS Shenandoah (for military use)

Number Length Diameter Volume Gas cell Dead weight Payload Power plant Max. Speed Date
R 36  205.7 m 24.0 m 59,500 m3 20 cells 48._ t 16._ t 350 HP x3
260 HP x2
105 km/h 1921. 4
ZR-1  207.3 m 24.0 m 60,840 m3 20 cells 37._ t 24.3 t 300 HP x6 110 km/h 1923. 9
R 101 224.0 m 40.5 m 141,600 m3 16 cells 113._ t 35._ t 500 HP x5 100 km/h 1929.10
R-100 224.0 m 40.5 m 146,000 m3 15 cells 107.2 t 51._ t 670 HP x6 131 km/h 1929.12
R 101 236.8 m 40.5 m 156,000 m3 17 cells 118._ t 49._ t 585 HP x5 (114)km/h 1930. 9
番号 全長 直径 容積 気嚢数 自重 搭載量 機関 速力 西暦

船体を プラットフォーム (platform) として考えた場合、 この2隻は 同等の器と 想定できるので 自重差が 旅客設備の固定重量と 割り出せます。 計算では 48t - 37t = 11t と なります。 R 101 と R-100 の 自重差は 5.8 t なので 2隻の間で 社交室の大広間という膨大な床面積の差がある割には 自重差が 少なく、 R 101 は 設計ミスで 重いどころか、軽量化が かなり徹底して 行われていたと 認識させられます。 乗用車に 例えるなら… R 101 は リムジン (limousine) ですね、 スペック表で セダン (sedan) の普通乗用車よりも 車重が 重くても それを 設計ミスとは 呼ばないでしょう?… どうですか?…。

LZ127 "Graf Zeppelin" , accommodation = light weight

R 101 , luxurious accommodation = heavy weight

R-100 , dignified accommodation = heavy weight

それぞれ、10万立方メートル級、15万立方メートル級、14万立方メートル級だが、
R 101 や R-100 の客室設備は LZ127 の 1.5倍や 1.4倍に 収まっていない事に 注目!


These side view (General Arrangement) are the same scale.

 


  [ the powerless ? ... ] 

それでは 次に 文献類で「非力で重い」とか「悲しいほど馬力不足」とか 形容されていた Beardmore Tornado ディーゼル・エンジンについて、 その実態を 現状の資料から解析してみます。

念頭に 理(ことわり)を 入れますが、 同じ技術水準で 開発した場合、 ディーゼル・エンジンは その仕組みから構造上どうしても ガソリン・エンジンよりも 重くなってしまいます。 この、圧縮率が高いので 補強すると重くなる性質は 避けられません。

重要なのは 飛行船のエンジンとして 使用するにあたって、限られた重量で 必要最低限の出力が 得られているのか如何かという事なのです。只管(ひたすら) 軽量高出力を 競うだけなら ディーゼル・エンジンを 選ぶ必然性は ありません。

随って、数値データを 読む場合には 同世代で 軽量高出力の ガソリン・エンジンに 見劣りする部分を 見るのではなく、取り敢えず 旧世代の ガソリン・エンジンと同等か それよりも 勝っていれば良し!と 妥協すべきなのです。

なお、個々の エンジン重量を示す 詳細な資料が ありませんが、 一般的な設計の通例として 同時期 同クラスの船体なら R-100 の エンジン6基と R 101 の エンジン5基が ほぼ同じくらいの重量に 設定しているだろうと 推測できます。

Number Length Diameter Volume Gas cell Dead weight Payload Power plant Max. Speed Date
R.32. 187.5 m 19.9 m 43,976 m3 21 cells 32._ t 16.8 t 275 HP x5 104 km/h 1918.11
R 33  195.9 m 24.0 m 55,000 m3 19 cells 33._ t 26.5 t 275 HP x5 99 km/h 1919. 3
LZ120 120.8 m 18.7 m 20,000 m3 12 cells 14._ t 9.6 t 250 HP x4 130 km/h 1919. 8
LZ121 130._ m 18.7 m 22,500 m3 13 cells 16._ t 11.2 t 260 HP x3 127 km/h 1919. ?
R 80  163.1 m 21.3 m 35,700 m3 15 cells 22._ t 15.1 t 240 HP x4 113 km/h 1920. 7
R 36  205.7 m 24.0 m 59,500 m3 20 cells 48._ t 16._ t 350 HP x3
260 HP x2
105 km/h 1921. 4
R 38  212.7 m 26.1 m 77,000 m3 14 cells 33._ t 46._ t 350 HP x6 114 km/h 1921. 6
ZR-1  207.3 m 24.0 m 60,840 m3 20 cells 37._ t 24.3 t 300 HP x6 110 km/h 1923. 9
LZ126 200.0 m 27.6 m 73,680 m3 14 cells 35._ t 45.8 t 400 HP x5 126 km/h 1924. 8
LZ127 236.6 m 30.5 m 105,000 m3 17 cells 59._ t 60.0 t 550 HP x5 128 km/h 1928. 9
R 101 224.0 m 40.5 m 141,600 m3 16 cells 113._ t 35._ t 500 HP x5 100 km/h 1929.10
R-100 224.0 m 40.5 m 146,000 m3 15 cells 107.2 t 51._ t 670 HP x6 131 km/h 1929.12
R-100 219.3 m 40.5 m 146,000 m3 15 cells 106.? t 52.? t 670 HP x6 130 km/h 1930. 7
R 101 236.8 m 40.5 m 156,000 m3 17 cells 118._ t 49._ t 585 HP x5 (114)km/h 1930. 9
ZRS-4 239.3 m 40.5 m 184,000 m3 12 cells 113._ t 73._ t 560 HP x8 128 km/h 1931. 8
LZ129 245.1 m 41.2 m 200,000 m3 16 cells 119._ t 96._ t 1,200 HP x4 137 km/h 1936. 3
番号 全長 直径 容積 気嚢数 自重 搭載量 機関 速力 西暦

補足、LZ127 "Graf Zeppelin" の 容積に対する自重と搭載量の数値は 文献通り掲載しましたが、 水素の浮力は 1立方メートル当たり 1.1 kg なので 容積 105,000 m3 では 115.5 t となり、 自重と搭載量の合計値が これを上回るので 不自然です… 数値間違いなのか?算出基準が異なるのか?
もしくは… たぶん、空気と同じ比重の気体燃料なので搭載スペースの範囲内なら、 算出浮力以上でも 積み込めるからなのでしょう。

このような観点から 数値データを 読み解く限り、 Beardmore Tornado は 一応 合格なのでは? ないでしょうか?…。
新造時は 旧世代の 飛行船と 同等に近い 速力ですし、 チューンナップ (tune up) 後は 旧世代 よりも パワフルです。
(流石に 登場した当時に センセーショナル ( sensational ) だった LZ120 "Bodensee" & LZ121 "Nordstern" には 総合性能で 敵いませんけれど…)
(それと…、チューンナップ後の最高速度は R 101 が 最高速度試験を 未実施なので、 取り合えず 参考値として 考えてください)

もしもまた、乗用車に 例えるなら… 新車購入を 考えて カタログを 見たら、 貴方の選んだ車種に 大排気量ガソリン・エンジンの スポーティー・タイプと 燃費の良さが売りの軽油燃料ディーゼル・エンジン車と 低価格の 小排気量エンジン廉価版 エコノミー・タイプが ラインナップ (lineup) されていたとして、 スペック表で 各車 エンジン出力に 大差があっても、 それを 貴方は 設計ミスのせいにはしないでしょう?…。 R 101 の場合も それと同じ事です。

艦船の世界では 同型船で 主機 (エンジン) を 蒸気タービンと ディーゼル機関の 2種類で建造した例も あり、 R-100 と R 101 の場合も 同様のケースだと 思われます。 (艦船の場合には これにより、速力重視か 航続力重視かに変わります)

飛行船は 分類上 航空機になるので 航空機の専門家が 評論する事になります。 しかし、航空機の専門家 (≒固定翼機などの専門家) が 必ずしも 飛行船のような LTA (Lighter-Than-Air , 空気より軽い) 航空機に 本当に詳しいとは 限らないのです。 そのため 専門家の 評論とはいえ その内容は 怪しいものとなるのです。 ヘリコプターなどの回転翼機や ジェット機などの固定翼機が 属する HTA (Heavy-Than-Air , 空気より重い) 航空機では エンジン・パワー至上主義 なのです。 何故なら、HTA 航空機は エンジンの力に頼って 空中に 浮いていると言っても 過言では ないからです。 ですから R 101 は ディーゼル・エンジンで カタログ上の出力が 見劣りするだけで 正当な評価が 困難に なるのです。
(同じ HTA でも、グライダー ( Glider ) 滑空機などの 非力な航空機の専門家なら 評価も 異なるのかもしれませんが…
 飛行船には エンジンが付いているので、 滑空機の専門家が 飛行船の評論を執筆する機会は 皆無と言える程 稀です)

 

閑話休題、エンジンに 関連して…
R 101 / R-100 2隻を 比較すると、エンジン・ゴンドラの吊り方が 異なるので 何気に 紹介しておきます。

Well, let's get back to the subject so much for digressions.

R 101 , the bottom of  the airship & the engine-car


R 101 の エンジン・ゴンドラは 太い主縦通材から 吊り索で 垂線 (鉛直線) 直下に吊り下げられ、
横揺れで船体へ接触しないように Transverse からの支柱が 突っ支え棒の役目をしています。
(右上の画像で エンジン・ゴンドラの底が 平らに見えるのは 鏡面仕上げの外板に 地上が 映り込んでいるためです)

R 101 の エンジン・ゴンドラ 1つの荷重は 吊り索で 真上に位置する 1本の太い主縦通材が 単独に負荷する構造です、
これは シングル・エンジンなので ゴンドラが あまり重くないからだと思われますが、
結果 15角形の一辺から 腕が突き出る感じになります。


the difference between R 101 & R-100 , suspended the Engine-car

R-100 の エンジン・ゴンドラ 1つの荷重は 支柱と吊り索の二股で 2本の縦通材が 供に負荷を共有する構造です、
これは ツイン・エンジンなので 1つの ゴンドラが 重いからだと思われますが、
結果 16角形の一角から 腕が突き出る感じになります。


R-100 , the stern & the engine-car

↑因みに この画像では 昇降舵が 壊れてますね…

(船内居住区から 各エンジン・ゴンドラへの 乗員の移動は
  R 101 の場合は Transverse Ring 内の空間を通路に利用し、 R-100 の場合は トラス構造の箱型の橋梁を使用します)

 

以上、 実は R 101 が 定説で 語られてるような (欠陥/失敗作) 低性能の飛行船では なかった!… (のではないか?)
という説明でした。(以後、事故原因の真相編です)

 


  [ Loss forward gas ! ] 

さて次は… もしもそれが本当ならば 設計ミスと 疑われる話です。

それまでの飛行船は "R" Class Super Zeppelin なら 船尾から 10m 間隔で 隔壁の有る Transverse Rings が 並ぶ 等間隔フレームと 呼ばれる構造でした。
それが R 101 では 不等間隔フレームが 採用された事が 特徴として挙げられてます。

従来の等間隔フレーム構造だと、 船首尾両端の気嚢は 船体前後が窄まる分だけ 中の気嚢の容積も 小さくなります。
これに対して R 101 の 不等間隔フレームは 従来の定説で 「各気嚢の体積を揃えるため」と 解説されてきました。

もしも、定説通りであれば 船首尾両端の気嚢は 大きな容積を 有する事となり、何かの事故で 前後端の気嚢が 損傷して 浮揚ガスが 失われた場合、その飛行船は 船体前後の傾きを 正常に戻す作業 damage-control が 困難になりますから 不等間隔フレームは 設計ミスを 疑われる方式です。
(しかも R 101 の 場合、船首部の 気嚢の 何れかが 破れたと 推測されている、 船首部の 突然の浮力喪失により 墜落したと されています)

  "R" Class Super Zeppelin or ZR-1 or R 38 ( ZR-2 ) or LZ126 ( ZR-3 )

( Click ! Class , show up data )

下記の 側面図で 確認する限り、 R 101 の 船首尾両端の気嚢は 容積が 中央より小さく設定されているように見えます。
どうやら… 不等間隔フレームは 各気嚢の 体積を 揃える目的で 採用された という従来の定説は 嘘のようです。

R 101 , before extension & after extension

Transverse arrange at un-equal intervals

なお、上記の 側面図で 確認する限り、 R 101 が 不等間隔フレームを 採用した事自体は 間違い無さそうです。
では、 R 101 は 何のために 不等間隔フレームを 採用したのでしょうか?…。

推理できる 最も合理的な仮説は… 船体中央へ リング・フレームを 集中させて、 一番負荷の集中する中央部において、 骨組みの間隔を 短く設定する事により、挫屈防止を図るのが この飛行船の設計における 本来の主眼と 思われます。
(これは 設計ミスとは 思えません、理に適った設計のようです)

 

 

引き続き、「船首部の 突然の浮力喪失」に関連した項目です。 船首部の浮力喪失原因としては 自動弁の誤作動説もあります。 しかし この 自動弁の誤作動説 には 過去の幾多の前例と 照らし合わせた場合に 明らかな矛盾が 生じます。

自動弁からの 浮揚ガス損失を指摘されているケースでは 徐々に ガスが失われ、 その飛行船は ジリ貧で 空中に 浮いて居られなくなり、時間的余裕を持ちつつも 地上(氷上/海上)へ 降下しています。 ( N4 "ITALIA" , ZRS-5 "Macon" etc. )

これは 自動弁の原理と その船体内での 上下の装備位置から、 普段は 過大な圧力が自動弁へは及ばない為に 極めて短時間には 大量のガス損失をしないから 石ころのように落下する降下は しないのです。
しかし、 R 101 は 突然 ノーズダウン (Nose down) して落ちたと 伝えられています。

R 80 (left) , Automatic Gas Valve

自動弁の参考資料として R 80 の断面図(左)
自動弁の 大きさは およそ マンホールの蓋くらいの サイズとなる。
浮力により気嚢内に生ずる圧力分布の観念図(右)

これに対して、手動弁を 開いた場合には 装備位置の関係から 急激に ガスが 失われますが… R 101 の 手動弁に 問題があったとする 文献上の記述は 見当たりませんし、 仮に 手動弁が 故障した場合には その仕組みから来る性質により 「必要な時に 開かなかった」という 故障形態になります。

The generality of  the Rigid-Airships

硬式飛行船における ガス・バルブ(弁)の一般論

 

 

随って、船首部の 突然の浮力喪失原因としては… 諸説 最有力候補の 船首部の気嚢の 何れかが 破れたとする説 を 私も支持します。 そうなると、何が 気嚢を 破いたのか?… という事が 問題と なります。

墜落して失われる最終飛行直前に 撮影されたらしい 最終状態の R 101 の写真では 船首先端部の 縦通材が 間引かれて 撤去されている事が 確認できます。 (下記 右側の写真で 副縦通材のラインが 先端で途切れている事に 注目!)

R 101 , Phase:1 & R 101 , Phase:2

上の写真から、船首先端部の 副縦通材が 撤去されて 無くなっているのが 解るだろうか?

そして、この軽量化が 目的と思われる 船首先端部の副縦通材の撤去は 既に 船体延長改造前に 行われていた事が 次に掲げる 下記の写真から 確認できます。

R 101 , the turning point Phase:1.1 ( before extension , thin out the Longitudinals of  nose )
R 101 , Phase:2 ( after extension , thin out the Longitudinals of  nose )
[ before extension , Phase:1.0 ~  after extension , Phase:2.0 ]

軽量化のため 切羽詰ったとはいえ、何も これっぽっちの 骨組みを 削らなくてもと 感じるかも 知れませんが…

R 101 の 副縦通材は あまりに細過ぎて、 主縦通材との強度差から 主縦通材の線分より外側へは 張り出せません。
このため、主/副 合わせた縦通材本数分の 多角形では 船体を 建造できない事になり、 角張ってしまうのです…。
逆に言うと、 新造時における 船首先端部の 副縦通材は 部分的に太く強化されていて 重かった可能性が 高いです。

では、この 軽量化のためと思われる 船首先端部の副縦通材の撤去により、 船首部の 縦通材の総数が減り、 強度不足となってしまい、船首先端部に 残された主縦通材が 折れたのでしょうか?
(もしも、そうだとすれば 原設計に無い、馬鹿な 改造をした事になります)


たぶん、そうでは ないでしょう… 主縦通材が 折れたのではないと 私は 思います。 (従来よりも強化された縦通材です)

R 101 , Main Longitudinals & Sub Longitudinals

R 101 の 太い主縦通材と 細い副縦通材との 比較

ライバルの R-100 は 16本の 縦通材だけで 充分な強度を 保っています。 R 101 も予め縦通材の強度計算を充分に行い、15本の 主縦通材だけでも 大丈夫だと見込んで 船首先端部の副縦通材の撤去を 行い、当然として 事後も 残された骨組みが 破断する兆候が無いか 入念な検査を 行っていたと 考えた方が妥当です。
(英国は文献で語られてる程、馬鹿じゃない…)

でも、このようなケースで 往々にして起きる 落とし穴として…、
「残された主縦通材が 強度的に 大丈夫なのか?」主縦通材へ 注意が 集中する反面、 切断した 副縦通材の後始末が 疎かになるのも 万国共通の人間の サガ (saga) なのです。

飛行中 負圧の掛かる船尾側で、 このように 不連続な縦通材の間引き方をしている飛行船の前例ありますが…
飛行中 正圧の掛かる船首側で、 このように 不連続な縦通材の間引き方をしている飛行船の前例ありません!…。

私は この 不連続性が原因で …
中途半端に残る細くて強度的にも弱い 副縦通材が 暴風雨の中を 飛行中に 耐えられなくなって折れたと 考えています。
(これは 設計ミスではなくて、改造施工ミスですが… 試験飛行での 駄目出し不足が 根本的な元凶だと思います)

試験飛行段階での R 101 に 関し、過去の文献では 問題続出した事を 矢鱈と問題視してますが… R 101 のように 何かと 「新機軸の多いケースでは 寧ろ 駄目出し不足こそ最も危険 なのだ!」と… 何かの本で 語られていました。

(但し、勘違いしてはいけないのは… R 101 のように 極端に細くて 構造的にも端末で強度的にも重要でない副縦通材の破損では、
 R 38 の時のような 船体全体が崩壊する連鎖は起きないと思われます、 本来なら 試験飛行で発覚して修正されるような問題で終わっていた筈です)

 

話題は 次第に R 101 が 墜落した真相の核心に 近づいて来ましたが…
それでは R 101 は この 骨組み破損で 気嚢が破れた事による、船首部の突然の浮力喪失で 墜落したのでしょうか?…

私は 不慮の事故により 突然 船首部の浮力喪失が生じても即 墜落しないのが飛行船の特徴 と 考えています。
写真の残る史実として 過去の事例で 船首部の浮力喪失が生じても即 墜落しなかった飛行船 は 複数存在します。

LZ 5

R 33

ZR-1

Loss forward gas ! , but these the airships not fell into the ground ! , because turn down Engine !

これらの 生還した飛行船と、 墜落した R 101 との間で 運命の明暗を分けた要因は 何でしょうか?…
これらの 生還した飛行船は 不慮の事故で 船首部を 損傷したため、 エンジン出力 を 絞って飛びました

R 101 が 地表へ激突するまでの経緯を描いた、 下図を見ると… R 101 は 浮力を失って落ちたのではなくて…、
エンジン出力を 絞らずに 地表へ向かって 突進するように急降下して激突した事が 解ります。

R 101 , the sequence of events ( operating error ! )

the R 101 stalled and crashed ! , critical angle of  Dynamic-Lift ( unlike the airship by Static-Lift )

R 101 は 途中で up trim 3º の 挽回を してますが… これは 非常用バラストなどの投下で 姿勢を立て直したのではなく、 昇降舵 (Elevators) で 空気力学的に 動的な揚力 (Dynamic Lift) を あてにして、 航空用語で言う 失速現象 (Stall) を 起こし、 およそ飛行船らしくない落ち方で、 飛行機のように 運動エネルギーを 抱えたまま 地表へ激突したのです。
(生存者が少なく、わずか8人の生存者も 総て後部ゴンドラの乗員だった事も、 たぶん飛行機型の墜落が原因です)

(R 38 の場合は 空中分解後に 上空で出火して誘爆した事が 生存者を 少なくしていますが…、
 R 101 の場合は 地上へ激突後の誘爆以前に 乗客/乗員の多くが 死傷していたと思われる、 飛行機型の墜落です)


突然の船首部の浮力喪失後、先ず エンジン・パワーを絞り 時間稼ぎして、 非常用バラストを投下し、船体のバランスを立て直すのが常道でしょう。
エンジンを止めて バラスト投下しても 船体の前後バランスが 回復せず、 浮力不足で 沈下したとしても… 不時着して 乗客/乗員は 脱出できます。

The wreckage of  R 101


残骸が 船首尾線上に整然と横たわっている事 から 船体が 横に折れたり空中分解は していないと 思われます。

また 船首部の骨材破片は 少し散乱 し、 船体中央部が 括れて圧壊 しているので… 地上へ激突した衝撃で
船首から大量に漏れ出て 空気と混合した水素ガスの塊が 船首上部の空中で 大爆発して、
現場周囲の外気圧を 瞬時に上昇させ… その圧力差で 船体中央部を 押し潰したのではないかと 考えられます。

(艦首に浸水し海底へ着底した潜水艦が 艦首直上に 爆雷攻撃を受けて 水圧で圧壊したみたいな 壊れ方です)
 

英国にも 船首部の浮力喪失が生じても墜落しなかった飛行船 R 33 の 前例が ありますから、運行マニュアルの不備は 考えられません。 このように 操縦ミスと 疑われるようなケースは (特に日本の場合) 操縦者の技量不足で片付けますが… R 101政府の要人を乗せて飛ぶ任務を担っていた訳ですから 英国でも優秀な人材が抜擢されて操縦していた と 考えるべきです。 ですから 重要な問題は… それなりに 優秀な人材が何故?、運行マニュアルに 違反する行動を とってしまったか だと思います。

文献において、墜落する直前の R 101 の 操縦ゴンドラのようすを 小説のように描いた物もありますけれど、 生存者は 最後部の エンジン・ゴンドラの乗員、8人だけです。 随って 操縦ゴンドラで どのような遣り取りが あったのかは 不明です。

でも確かな事は 突然に 船首部の浮力喪失で 船体が傾いても エンジン・テレグラフ (Engine Telegraph) 伝令器の指示変更が 暫くの間は 無く…、 伝令器の指示が 「エンジンを絞れ!」 と エンジン・ゴンドラへ届いた、次の瞬間には 減速が 間に合わずに 地上に激突していた… という事なのです。

the control car of  R 101 & R-100

更に文献において、 操縦ゴンドラに 非常用バラストの 投下レバーが 無かった事を 指摘する物もあります。 しかし 非常用 バラストとは 燃料タンクや 重要度が低くて重い繋留索巻き上げ機などを 船体から切り離して落とす仕組みです。簡単に遠隔操作できると 何かの弾みで 誤作動し、 それが 市街地の上空だったら 爆弾投下と何ら変わらず危険です。 ですから この時代は 乗員を タンクや装置へ走らせて、直接 手作業で切り離すのが 普通です。
(現代だと、宇宙ロケットに使われる「爆破ボルト」で遠隔操作も可能でしょうが… 誤作動すると危険なのは 変りません)

R 101, fuel tanks (emergency ballast)

また、飛行船とは 一部の浮揚ガスを失っても、揚力を失った飛行機のようには 急激に落下しないのが 特徴なので 乗員をタンクや装置へ走らせて、 直接 手作業で 非常用バラストを 切り離す 時間的余裕は 充分ある筈なのです。
( R 101 は 時間的余裕すら無く落下したのではなくて、 エンジン・パワーで急降下しているので 誤解無きよう願います…)

 

R 101 G-FAAW  in Oct. 1929

R 101 , after extension  in Sep. 1930

では、政府要人を乗せた R 101 は
優秀な人材が抜擢されて操縦していたと 考えられるのに、 何故 より安全な不時着を 選ばずに 地上へ急降下したのか?

R 101 を 定説のように 「重過ぎて 悲しいほど馬力不足な飛行船 と 信じると… 優秀な筈の操縦者が 咄嗟にとった行動が エンジン・パワーを必要とする動的な揚力 (Dynamic Lift) に 頼った事 と 矛盾して 巧く説明できません。

(従来の定説では 重過ぎて予備浮力不足なので、 エンジン出力に頼ったような表現ですが…
 それなら尚更、 非力なエンジンが生み出す揚力に頼るよりも、エンジン出力を絞って時間稼ぎをしながら… 早期に不時着体勢へ移行するべきです)

(下は波の荒れる洋上で R 101 が 救命具を 未装備なら 降りられませんから兎も角として、
 下は 障害物も ほぼ無い 丘陵地帯です…  操縦者には 地上へ激突する直前まで 危機意識が無かった?とも 思える行動と考えられます…)


しかし真実は R 101 が 「巡航速度では 軽快でパワフルな飛行船だったとすると この行動にも肯けます。 近年の航空機事故では ボーイング 727型機が 抜群の操縦性と加速性能から、 着陸の進入角度が深くなり過ぎて墜落する事故が 多発した例もあります。 私は これに似た 「この位、何とかなる!」 という操縦者の心理状態を R 101 の事故に 感じています。

【操縦者の心理状態】
(言い換えれば、操縦者が 微妙に優秀だった為に、 R 101 の特異な運動特性に気付き、 常道に反する対処を してしまった… のでは?)

(操縦者が 凡人なら 与えられた マニュアル通りにしか 対処できなかっただろう…、 操縦者が 優秀だった為に 機転が 災いした結果と 言うべきか?)


【巡航速度では 軽快でパワフルな飛行船】
( ディーゼル・エンジンの特性から…、高速域では最高速度が伸びなくても、 中速域でトルクが太く 巡航速度では パワフルだった事も考えられます)

(なお、自重が重いのに軽快とは?… と疑われる方は 冒頭の 「 飛行船は 自重が 軽くても重くても 運動性能に 影響しません」 を読み直してください)

<2011-11/10 追記>

R 101 が 「巡航速度では 軽快でパワフルな飛行船 だったとする説は そのままに、 新たな 私の考えを 追記します。

夜間 暴風雨の中を飛行中、突然の ノーズ・ダウンから 地上激突まで 2分40秒
事故後の解析で 「突然 船首部の浮力喪失が生じた」 と 多くの専門家から提唱されていますから、 今日 我々は 突然の 「ノーズ・ダウン」 と 「船首部の浮力喪失」 とを 結び付ける事ができます。 しかしながら 暴風雨の中を飛行中の R 101 の操縦室では 船首部の気嚢が裂けたとしても 2分40秒では それを 確認できません。 試験飛行中の R 101 で 「昇降舵の反応が不安定だった」 という文献上の記述もあり、 操縦者が真っ先に思い描いたのは 「気流の乱れ」 で 「ノーズ・ダウン」 したと考えるのが 妥当 ではないだろうか?… と言う事です。「気流の乱れ」 に 対応する操船ならば 昇降舵の操作は セオリー通りです。 先の説明にもあるように、 過去の事例で 船首部の浮力喪失が生じても即 墜落しなかった飛行船 は 複数存在しますが、 それらは 船首部の損傷を 操縦室で 認識しており、当然 船首部の気嚢も裂けて 「船首部の浮力喪失」 を前提とした操船が 行われた筈です。 しかし、これが もしも 操縦室で 船首部の損傷を 認識していなかったのなら、 それ相応の操船が 行われなかったとしても不思議ではありません。 結果論として 「操縦ミス」 を疑われるケースですが、 情報不足から判断を間違えたのなら 操縦者の技量や責任を問うのも酷なのかもしれません。 このように考えると 一番悪いのは 不完全な状態の飛行船に 悪天候であるにも関わらず 予定通り飛行計画を 決行させた人物に 責任と罪があるのは 如何転んでも間違いなさそうです。

(安定した天候で試験飛行中に 「ノーズ・ダウン」 したなら 「船首部の浮力喪失」 も 疑いますが、 暴風雨の中を飛行中に 「ノーズ・ダウン」 したなら先ず 「気流の乱れ」 と判断するのが普通かと… それならば 対応する操船は 減速せずに 昇降舵の操作なので これはもう 不運としか言えません)

やっぱり、R 101 が 「欠陥飛行船」 だったと吹聴されたのは 政治的な スケープゴート (scapegoat) だったんでしょうか?…。

これは… 「あの失敗作 R 38 を手掛けた RAW が 失地挽回で建造したのに 悲運の R 101」と 形容したくなります。
(文献類の解説では 「あの悲運の R 38 を手掛けた RAW が建造した 失敗作 R 101」 と 形容してますが… それは 間違いだと 思います)

 

R-100 , G-FAAV



それにしても… R 101 の大惨事により、スクラップに されてしまった R-100 は もったいなかったですね…。 その垣間見せた性能で その後も飛び続ければ 歴史が変わっていたかもしれません…。 でも、R 101 の事故が重大であった事を鑑みると、 英国の決断も 仕方が無かったのかもしれません。
(スクラップに されてしまった R-100 ですが… R-100 に 採用された 船尾を 尖らせずに 丸める処理は 次世代の 飛行船へ 受け継がれたようです…)

R-100 , the comparison of  left and right [ before ~ after ]

R-100 , G-FAAV  in Dec. 1929

R-100 , after curtail  in Jul. 1930


Epilogue , the next Generation

Round tail end , tail-cut airships

 

USS Akron ( ZRS-4 )  in Aug. 1931

The post-Shenandoah-crash birthplace airship (Triple Keel)

LZ129 "Hindenburg"  in Mar. 1936

The Anti-Sagging structure by the dual Keel

考証 research (C)SA-ss 2010-6/5


Airships spec table »