(学徒出陣10)


思想の弾圧


 概略述べてきましたけれども、とにかく私も去年、伊藤先生から当時のことを歴史的に見るとどうなんだということで、日本史の講義を受けましたんですが、当時のわれわれとしてはもう子どもの時から叩き込まれている。軍国主義というか、それが身にしみている。
われわれより3期か4期前、年齢で言いますと、1920年ぐらいに生まれた人たちはまだまだ批判的なことができる学問の体系というのがありまして、マルクスの『資本論』を読んだり、日本はおかしなことをやってるなということが分かったんですが、われわれの時はとにかく特高警察というのがありまして、スパイを探すとか捕まえると同時に、思想警察ですから学生が共産主義的な本を読んでないか、そういう人たちと接してないか。今の赤軍派じゃないですけれども、とにかくそういうふうなことで、徹底的にやられました。
当時旧制静高、今の静岡大学ですが、ここはそういった共産党に入っていた学生がいたもんですから、私ども子どもの時によく警察官がダァーっと大勢できて、下宿へなだれ込んで手錠をかけて引っ張っていくということが私の子どもの時分にありました。
しかしそういうふうなことがあっても、「支那事変」の末期、「大東亜戦争」の始まる直前のあたりは徹底的に弾圧をやられましたし、小林多喜二のように、あれは小樽の人なんですが、『蟹工船』を書いたあの人なんかは拷問でもって殺されていますし、その前には大杉栄ですか、静岡にお墓がありますですけどね。憲兵に首をしめられて、その時に伊藤野江という女の人と6歳になる子どもと3人殺された。憲兵に。
そういう状態で、共産主義というのは国賊というか大逆犯人なんていうそういうふうなあれで、徹底的に弾圧したもんですから、私どもの時には、私の行った福島大学あたりも東京大学の経済学部を出た連中がみんな教授になってきているもんですから、その人たちは河合栄次郎とか矢内原とか大河内とか当時の、経済をやりますとどうしても『資本論』とかやらざるをえないんですね。ですからある程度みんな日本のやり方は少しおかしいぞと分かってくるわけなんです。そういう人たちが教授でもってきておりましたけれども、だけどもう口をふさいでしまって、うっかり口を滑らせて話をすれば、すぐ「来い」ということでもって、特高警察に引っ張られてしまう。

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